膀胱炎に効く漢方薬とは?体質に合った選び方やおすすめ養生法も解説

膀胱をおさえる女性

膀胱炎に効く漢方薬は、主に水の巡りを整えて利尿作用を示したり、炎症を抑えたりするような処方が用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。

・猪苓湯(ちょれいとう):頻尿や排尿痛などの排尿トラブルに効果
五淋散(ごりんさん):体力中等度~やや低下した方の排尿時の痛みや残尿感に効果
・八味地黄丸(はちみじおうがん):冷えや疲れがある方の尿トラブルに効果
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう):下腹部に熱感がある方の尿トラブルに効果

この記事では、膀胱炎の症状に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。

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膀胱炎とは

腎臓・尿管・膀胱・尿道の構造

膀胱は、腎臓から尿管を通って流れてくる尿をためておき、ある程度の量になると排尿する役割があります。その膀胱に炎症が起こる病気を膀胱炎(ぼうこうえん)といいます。
膀胱炎の約9割は、膀胱炎に細菌が侵入することで起こる急性膀胱炎で、主に大腸菌への感染が原因で起こります。大腸菌は大腸に住み着く常在菌で、便や肛門の周囲に存在します。[1]

膀胱炎になりやすい方の特徴

膀胱炎は男性と比較して女性が圧倒的になりやすいです。とくに20~40才の女性で多く25~35%が急性膀胱炎に罹患するとされています。[2]それは、女性は男性に比べて肛門から尿道までの距離が近く、尿道自体の長さも短いために大腸菌が膀胱へと侵入しやすいからです。通常は尿とともに菌は洗い流されますが、尿意を長時間ガマンしたり免疫力が低下していたりする場合は膀胱炎になりやすくなります。またトイレのウォシュレットの使用や性行為で膀胱炎につながる場合もあります。

膀胱炎で起こりやすい症状

JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015によると、急性膀胱炎で起こりやすい症状としては、以下のようなものがあります。

・頻尿
・残尿感

・排尿痛
・尿混濁(血尿、白濁尿)

日本泌尿器科学会では、1日の排尿回数が8回以上の場合を頻尿としています。 そのほか「いつもよりトイレの回数が多いな」と感じるようであれば頻尿といえるでしょう。[3]
また細菌感染による膀胱・尿道の知覚異常が原因で残尿感が起こったり、排尿によって膀胱が刺激されて排尿痛が起こったりするのも膀胱炎の特徴です。
ときに炎症による出血で尿に血液が混ざったり(血尿)、細菌と戦った白血球が尿中に排出されて尿が白く濁ったり(白濁尿)する場合もあります。

膀胱炎の治療法

膀胱炎の治療には、ニューキノロン系やセフェム系、ペニシリン系の抗菌薬が使用されます。抗菌薬は不適切、不十分な飲み方をすると、抗菌薬が効かない菌(薬剤耐性菌)が生まれてしまうことがあるため、必ず医師の指示通りに服用しましょう。
膀胱炎は、抗菌薬を服用し5~7日程度で治る場合がほとんどです。適切に治療しないと炎症が悪化して高熱や腰痛を伴う腎盂腎炎(じんうじんえん)になる恐れがあるため注意しましょう。

膀胱炎に効く漢方薬と選び方のポイント

漢方生薬

上記のように膀胱炎の治療は抗菌薬が主に使用されますが、漢方薬でも膀胱炎の症状に効果の期待できる処方があります。

【頻尿や排尿痛などの排尿トラブルに】猪苓湯(ちょれいとう)

猪苓湯は、排尿トラブルに頻用される漢方薬で、尿量を増やして細菌や老廃物を洗い流す働きがあります。配合生薬の「猪苓(ちょれい)・茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)」にはに利尿効果があります。また「滑石(かっせき)・阿膠(あきょう)」は熱や炎症を鎮める作用があります。[4]
頻尿や排尿痛、残尿感などの排尿障害や尿路不定愁訴に処方される代表的な漢方薬です。

服用がおすすめの方
排尿異常があり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。体力に関わらず服用できます。

使用上の注意
胃部不快感や発赤・発疹などの症状が現れた場合は服用を中止し、医療機関を受診しましょう。

配合生薬
猪苓、沢瀉、茯苓、阿膠、滑石

【体力中等度~やや低下した方の排尿痛や残尿感に】五淋散(ごりんさん)

五淋散は、膀胱炎や、残尿感・排尿痛などの泌尿器の不調に用いられる漢方薬です。
利水作用のある「茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)」のほか、下腹部の痛みを抑える「芍薬(しゃくやく)」、強い消炎・抗菌作用のある「黄芩(おうごん)」など、11種類の消炎・鎮痛・解熱・利尿作用のある生薬が尿路系の炎症を鎮めます。[4]

服用がおすすめの方
体力中等度~やや低下した方で、慢性に経過した尿路炎症がある方におすすめの漢方薬です。

使用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎に注意しましょう
発熱や咳、息切れ、呼吸困難などの症状があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症、ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

配合生薬
黄芩、茯苓、沢瀉、車前子、芍薬、甘草、地黄、当帰、木通、山梔子、滑石

【冷えや疲れがある方の尿トラブルに】八味地黄丸(はちみじおうがん)

八味地黄丸は、腎虚の代表的処方であり、高齢者の夜間頻尿や尿漏れ、残尿感などの排尿障害に多く用いられる漢方薬です。
主薬の「地黄(じおう)」が補血・強壮作用で体を温め、「山茱萸(さんしゅゆ)・山薬(さんやく)」がその働きを助けます。利尿作用のある「茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)」、痛みを取る「附子(ぶし)」などの8種類の生薬が配合されています。[4]

服用がおすすめの方
体力中等度以下で、四肢の冷えや疲れやすさ、尿量減少または多尿があり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。

使用上の注意
附子の副作用に注意しましょう
配合生薬の「附子」は、過剰に摂取すると中毒症状(ほてり・熱感・悪心嘔吐・しびれ・不整脈・めまい)を起こす可能性があるため、注意が必要です。
妊娠した場合は服用を中止しましょう
配合生薬の「牡丹皮(ぼたんぴ)」が流早産のリスクを高めたり、「附子」による副作用が起こりやすくなったりする可能性があります。[5]

配合生薬
地黄、山茱萸、山薬、茯苓、沢瀉、牡丹皮、桂皮、附子

【下腹部に熱感がある方の尿トラブルに】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)

竜胆瀉肝湯は、尿路や生殖器の炎症を抑えて尿トラブルを改善する作用があります。
「竜胆(りゅうたん)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)」には、熱や炎症を冷ます作用があります。また、「沢瀉(たくしゃ)・木通(もくつう)・車前子(しゃぜんし)」が水の巡りを整え利尿トラブルを改善します。さらに、血の巡りを良くする「地黄(じおう)・当帰(とうき)」、生薬を調和する「甘草(かんぞう)」の9種類の生薬が配合されて効果を発揮します。[4]

服用がおすすめの方
体力が中等度以上で下腹部に熱感や痛みのある方の排尿痛や残尿感、尿の濁りなどを伴う膀胱炎におすすめの漢方薬です。

使用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
胃腸の弱い方は注意ましょう
「地黄・当帰」が配合されているため胃腸に負担をかけて胃もたれや胸やけなどの副作用が起こる場合があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

配合生薬
竜胆、黄芩、山梔子、木通、車前子、沢瀉、当帰、地黄、甘草

ご自身の体質や症状に合った漢方薬の選択で悩まれている方は、YOJO薬剤師にも相談できます。

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漢方以外で膀胱炎に効く養生法

トイレ

ここでは、膀胱炎にならない・再発させないために、日常生活でできるポイントをお伝えします。

陰部を清潔に保つ

急性膀胱炎を防ぐためには、陰部を清潔にして細菌感染を防ぐことが大切です。
女性はとくに月経前後や性行為で感染リスクが高まります。
生理用ナプキンやおりものシートを長時間替えないままでいると内部で蒸れて菌が繁殖しやすくなるため、こまめに取り替えるようにしましょう。
また、不衛生な状態での性交渉は避けること、性交渉の後に排尿する習慣をつけることも膀胱炎の予防につながります。

トイレでの拭き方に注意する

排便後に、後ろから前に向かって拭くクセがある方は、便や肛門付近の大腸菌が尿道に付着して、菌が侵入しやすくなります。前から後ろに向かって拭く習慣をつけましょう。

水分をこまめに摂取する

尿が生成されないと膀胱内で細菌が残留しやすくなることから、水分をこまめに摂取して排尿を促すことも膀胱炎を防ぐためには効果的です。
また、便秘が続くと大腸で悪玉菌が増えて膀胱炎を引き起こす原因になります。水分を十分に摂ることで、腸内で停滞していた便を水分で柔らかくして、便通を改善する効果も期待できます。

睡眠不足や疲労、冷えに注意する

体の免疫力が低下して防御機能が落ちてしまうと膀胱炎にかかりやすくなります。とくに以下のような状態は注意が必要です。

・睡眠不足
・過度のストレスや疲労
・栄養不足や栄養バランスの乱れ
・冷え

くり返す膀胱炎に悩まれている方は、ご自身の生活習慣や体の状態についても一度見直してみることが大切です。
例えば、私たちの体は、体温が1℃下がると免疫力が約30%下がると言われており、体を温めて冷えを改善することで免疫力アップにつながります。体を温める「温活」について知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

YOJOでは膀胱炎の症状に効果的な漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

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【参考文献】
[1]NHK 膀胱炎の原因と症状、治療法
[2]抗菌薬使用の手引き 日本感染症学会・日本化学療法学会編集
[3]日本泌尿器科学会
[4]高山宏世,漢方常用処方解説(東洋学術出版)
[5]妊婦への投与に注意が必要な漢方薬