漢方解説 補中益気湯とは

こんにちは!YOJO編集部です。

漢方薬一つ一つについて効果や効能、それに伴うエビデンスを中心に取り上げていきたいと思います。

漢方解説第5弾! 補中益気湯です。

比較的体力の低下した人が、全身倦怠感、食欲不振などを訴える場合に適しています。

  • 虚弱体質・結核症などの慢性疾患で上記症状を呈する場合
  • 術後、病後、産後などで衰弱している場合
  • 咳・微熱・寝汗・動悸などを伴う場合
証の解説

元気がなく気力もない状態【気虚】を治す漢方薬です。いろいろな原因で体力が低下した状態に広く用いられ、応用範囲の広い処方であると考えられます。

気虚による、全身倦怠感が強く表れています。

慢性的な疲労感や倦怠感を訴えるケースに効きます。特徴として、手足がだるく、仕事や運動などで健常者よりも早く疲れてしまう、仕事や運動の後に横になりたくなる、あるいは食後に眠くなるなどが当てはまります。目に力がないことが多いです。

筋の発達や働きが不良なケースに効きます。動作を見ていると俊敏さがなく、動きが鈍く、話し方にも力がない状態。腹部にも力がなく、全体を触れると柔らかいです。胃下垂など体内で消化器の落ち込みが見られ、食欲低下などの消化吸収機能の低下を伴っています。

気虚により、感染に弱く風邪をひきやすい傾向があります。風邪をひくとなかなか治らず、微熱が続くなど、炎症反応が長引きます。

効能効果

体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の症状:
虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒、夏やせ、結核症、胃下垂、子宮下垂、陰萎

ポイント

消化機能が衰えていて四肢倦怠感が顕著な虚弱な人に向いています。そのため、病院等でも術後の体力回復やガン治療時の体力低下の際に出されることの多い漢方薬です。

・現在は男性不妊にもエビデンスが出ています。

配合生薬

黄耆(オウギ)・大棗(タイソウ)・蒼朮(ソウジュツ)・陳皮(チンピ)・人参(ニンジン)・甘草(カンゾウ)・当帰(トウキ)・升麻(ショウマ)・柴胡(サイコ)・生姜(ショウキョウ)

生薬の解説

補気剤の基本ベースとなる四君子湯を元に作られていて、元気や気力を付ける作用の強い黄耆を加えることによって虚弱者にも使える漢方薬になっています。

・ほとんど補気薬(蒼朮・甘草・黄耆・人参)理気薬(陳皮・柴胡)で構成されています。

人参・黄耆・柴胡・升麻の配合は、筋緊張の低下を改善する作用を持ちます。胃下垂や子宮下垂に効果があるのも、これらの生薬の作用が関係していると考えられています。

大棗・陳皮・生姜の配合は、胃腸の機能を整えます。

当帰は、血を補う補血薬です。血虚に対する配慮に加えて、少量の補血薬を配合することで補気剤の作用を強化しています。

名前の由来

とは漢方で言う脾胃のことで、「消化吸収に関わる消化管」を指しています。はここでは食べ物・飲み物を体内に摂取することによって得られる「元気」を意味します。

補中益気とは、「中を補って気を益す」という意味で、低下した消化吸収機能を改善し元気を益す薬効があることからこの名前が名付けられました。

エビデンス

食欲不振・全身倦怠感

*臨床研究

臨床的安定期にある食欲不振、疲労倦怠等を伴うCOPD患者71例を、封筒法により補中益気湯投与群34例および対照群(従来の治療を継続)37例に無作為に振り分け、6か月間観察した。

その結果、投与群では気虚VASスコアにおいて「食欲」「身体のだるさ」「気力」「疲れやすさ」、自覚症状のスコアを有意に改善した。また、感冒(風邪症状)罹患回数、増悪回数とも投与群は対照群に比べ優位に少ない結果であった。

体重および栄養指数であるプレアルブミンは補中益気湯投与群のみ有意な増加を認めた。また、投与群で高感度CRP、TNF-α(炎症反応時に上昇するマーカー)は有意に低下した。(炎症を起こしにくい

補中益気湯投与群で、脂肪細胞から分泌され動脈硬化の進展にも関係するとされているアディポネクチンの値はBMIと負の相関があり、有意な増加を認めた。(動脈硬化を起こしにくい、BMI増加しにくい

*基礎研究

・老年マウスに経口投与したところ、低下したT細胞数、NK細胞数およびSRBC抗原に対する抗体産生(免疫に関与する細胞たち)が回復した。

・Colon26-L20腺癌誘発悪液質モデルマウスに混餌投与したところ、体重、摂餌量、飲水量、腓腹筋量および精巣周囲脂肪重量の減少ならびに中性脂肪の低下が抑制された。

消化器症状の改善

*臨床研究

・X線検査で胃下垂症と診断され、何らかの消化器症状を訴える患者22例に補中益気湯を2週間以上投与した。

その結果、自覚症状改善度は、著明改善7例(31.8%)、改善12例(54.5%)であり、19項目の自覚症状の中で、上腹部痛、食欲不振、腹部膨満感、腹部重圧感、腹部不快感、悪心、食堂下部違和感、疲労倦怠感、頭痛、肩こりの10項目で有意な改善を認めた。

他覚所見改善度は、著明改善5例(22.7%)、やや改善4例(18.2%)、不変2例(9.1%)であった。

男性不妊

*臨床研究

乏精子症(精子濃度50×106//mL未満)または精子無力症(精子運動率50%未満)のいずれかを認めた59例を無作為に投与群(補中益気湯3か月以上投与)20例と対照群(非投与)39例に振り分けた。

結果、3か月以降、投与群が対照群に対して精子運動率のみ有意に高かった。また、投与群では精子濃度と精子運動率が有意に改善された。

乏精子・精子無力症14例について、平均精子濃度、平均精子運動率、平均総精子数、平均総運動性精子数が有意に改善された。重症乏精子症9例では、平均精子濃度、平均精子運動率、平均総精子数が有意に改善された。

男性不妊症と診断された症例中、精子数10~40×106//mLの42例(うち脱落例10例)を対象とし、封筒法により補中益気湯群16例とカリジノゲナーゼ(450IU)16例に無作為に割り付け、12週間~最長36週間投与した。

その結果、精子濃度は補中益気湯、カジリノゲナーゼの両群で増加し、それぞれの有効率は56.3%、25.0%であった。運動率の有効性はそれぞれ25.0%、18.8%であった。これらと総運動精子数の有効率すべてで補中益気湯群がカジリノゲナーゼ群を上回った。両群間に有意差はなかった。

 

*基礎研究

・ハムスター精巣上体管由来細胞において、たんぱく合成を促進した。

・ヒト精子において、抗精子抗体による精子運動率の低下を抑制した。また、精子運動速度および精子直進性を改善した。

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参考文献

エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド 京都廣川出版

漢方処方と方意 南山堂

補中益気湯ツムラ 添付文書 インタビューフォーム

頻用処方解説 補中益気湯