漢方解説 当帰四逆加呉茱萸生姜湯とは

こんにちは!YOJO編集部です。

漢方薬一つ一つについて効果や効能、それに伴うエビデンスを中心に取り上げていきたいと思います。

漢方解説第4弾! 当帰四逆加呉茱萸生姜湯です。

常日頃から冷え症で体質虚弱な人が、寒さのため手足が冷えて痛み、下腹部痛や腰痛などを訴える場合に適しています。

  • 頭痛、悪心、嘔吐などを伴う場合
  • 下腹部や腰部に外科的手術の既往があって上記の症状を呈する場合
証の解説

慢性的な冷えが原因で月経が乱れていたり、こない場合に昔から使われている漢方です。

・江戸時代の書物「校正方興輗」には、「女性で、身体内部に慢性的な冷えがあり、腰や腹部の冷えや痛みが陰部にまで到達し、脈が細く沈んでいるものに必ずと言っていいほどよく効く」と述べられています。

体の内部からくる冷え【裏寒】を治す漢方薬です。

・傷寒論という原典には、内服方法として酒を半分加えた水で煎じ、温めたものを5回に分けて飲むという方法も紹介されています。そのため、お酒とは相性が良い漢方薬であると言えます。

効能効果

体力中等度以下で、手足の冷えを感じ、下肢の冷えが強く、下肢又は下腹部が痛くなりやすいものの次の症状:冷え症、しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛、下痢、月経痛

ポイント

身体を温め、冷え全般によく効きます。しもやけにも適応がある漢方薬です。

配合生薬

当帰(トウキ)・桂皮(ケイヒ)・芍薬(シャクヤク)・木通(モクツウ)・甘草(カンゾウ)・呉茱萸(ゴシュユ)・細辛(サイシン)・生姜(ショウキョウ)・大棗(タイソウ)

生薬の解説

ほとんどの生薬が身体を温める作用を持ちます。生薬構成から、循環血流量を増加させ、うっ血を改善させる(しもやけや、全身に血が回らず下腹部が冷えやすい症状などに効く)薬であると言えます。

当帰・芍薬は、血の巡りを良くし、補血・調経、鎮痛・鎮座作用があります。体を温め、月経痛などを改善します。

芍薬・甘草は、筋けいれんを抑制します。引きつり、痛むお腹にも良い生薬です。

細辛は、お腹を内側から温め鎮痛作用があります。

呉茱萸は、のぼせなどの気が頭に昇った状態【気逆】を元に戻す作用があります。血行を良くして手足の冷えをとり、体全体を温めます。それに加えて鎮痛・制吐作用もあります。

木通は、消炎利尿作用が強く、血液循環を良くする作用があります。

大棗・生姜・甘草は、胃腸機能を高めます。また、精神を安定させ、鎮痛効果も見られます。

名前の由来

当帰四逆湯に呉茱萸と生姜の二種の生薬を加えたことを意味しています。

当帰四逆湯の当帰は主薬となる生薬の名前です。四逆とは四肢の末端から逆に肘膝以上まで冷えることであり、それを治すことを表現しています。

エビデンス

疼痛

*臨床研究

・反射性交感神経性萎縮症(RSD)と診断された14例、帯状疱疹後神経痛(PHN)と診断された25例を対象に、これらの疾患の末梢神経損傷後遺症である痛みやしびれ等の愁訴に対し、1日5~7.5gを4週間投与した。

結果、こわばり・しめつけ感は、著効6例、有効15例、やや有効8例

表面のピリピリした痛みは、著効3例、有効3例、やや有効4例

ズキンズキンとした痛みは、著効1例、有効2例、やや有効2例

であった。

下腹部痛を愁訴とする患者(女性)44例に1日7.5gを投与した。

結果は、著効7例、有効24例、やや有効8例であり、全体の88%と高いものであった。

頭痛を有する女性42例に1日7.5gを投与した。この時月経に関連する頭痛25例と関連しない頭痛17例に区別して調べた。

結果、月経に関連しない頭痛として、著効8例、有効5例

月経に関連する頭痛として、著効12例、有効9例

月経に関連する頭痛に対し有効であることが認められた。

冷え性

*臨床研究

・10人の健常ボランティアを対象に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯エキス剤2.5g内服後の深部体温を検討した。

結果、内服20分後より深部体温の上昇が認められ、90分まで直線的増加を示し、6時間まで継続した。平均上昇温度は2.5℃であり、カテコールアミン系の合成、代謝の亢進も伴っていた。

*症例報告

末梢循環障害30例を対象として、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を投与した。

結果、効果発現までの平均期間は、手足のしびれは2.5週、手足の冷えは1.5週であった。全般改善率は57%で、有効率は53%であった。

小児のしもやけに対する予防として酢酸トコフェロール投与群、当帰四逆加呉茱萸生姜湯投与群合わせて61例を対象として変化を追った。

結果として、酢酸トコフェロール投与群は有効率54.2%であり、当帰四逆加呉茱萸生姜湯投与群は94.2%の有効率と非常に高い効果を発揮した。また、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は重症例においても改善率が高かった。

冷えを伴う腰下肢痛患者19例で,現行の治療に加え当帰四逆加呉茱萸生姜湯7.5g 分3を投与されていた患者の内服前と1ヵ月後の痛み(VAS : Visual Analogue Scale で評価),腋窩温,両足背皮膚温,足関節—上腕血圧比,脈波伝播速度,満足度を検討した。

結果、VAS,腋窩温,両足背皮膚温において有意な改善が見られ,患者満足度も上がった。

自覚的に冷えが改善したのは7症例(36.8%)であったが,全例で皮膚温の有意な上昇を認めた。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は,客観的に皮膚温を高め鎮痛効果を示すことで満足度の向上に寄与することが示唆された。

手術既往がある冷え

*症例報告

高齢男性の寒疝2症例を報告した。

症例1は74歳男性の両側坐骨神経痛で,交通事故による右下肢切断の既往があった。症例2は80歳男性の疼痛を伴う下半身の冷えで,胆管がん切除術の既往があった。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効な女性例は脈・腹候とも虚証であるのに対し,自験2症例は漢方医学的にはむしろ実証傾向で,高齢・手術や外傷の既往が共通であった。

男性は女性に比べ冷え症は少ないが,高齢化及び手術や外傷は,男性においても寒疝をきたす一因となりうると考えた。今後の高齢化社会に於いては,自験例の様な当帰四逆加呉茱萸生姜湯の有効な男性症例は増加する可能性がある。

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参考文献

エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド 京都廣川出版

漢方処方と方意 南山堂

漢方頻度処方解説 当帰四逆加呉茱萸生姜湯

冷えを伴う腰下肢痛患者における当帰四逆加呉茱萸生姜湯の有用性の検討 高橋 良佳, 光畑 裕正, 神山 洋一郎

当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効であった2症例‐高齢男性の寒疝— 磯村 知子, 木村 容子, 伊藤 隆, 佐藤 弘