不眠に漢方は効く?漢方薬の使い分けやおすすめ養生法も解説

不眠症とかなづち

「一度寝付いても夜中に起きてしまう」「更年期のほてりや冷えの症状がひどくて眠れない」
そんな症状に悩まれている方は実は少なくありません。
日本神経治療学会によると、現代では人口のおよそ5人に1人が何らかの睡眠障害を抱えているとされています。
一般に不眠症の治療には睡眠薬が処方されますが、漢方薬が有効な治療法の一つになることもあります。
この記事では、

・漢方からみる不眠症とは
・西洋薬と比較した漢方薬の強み
・不眠症に有効な漢方薬とその使い分け
・不眠症への養生法

について、薬剤師が解説いたします。

満足のいく睡眠が得られずに悩まれている方は、体質チェックからYOJO薬剤師にご相談ください。

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Contents

不眠症と漢方の処方とは

眠れない女性

不眠症の治療に適切な漢方薬を選択するには、ご自身の体質だけでなく、症状や眠れない原因についてきちんと確認することが大切です。
ここでは、不眠症の症状や原因、西洋薬と比較した漢方薬の強みについてお伝えします。

不眠症とは

一言で「不眠症」と言っても実はその症状はさまざまです。
日本神経治療学会によると、不眠とは入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害などの症状を指すとされています。

入眠障害 寝つきが悪い状態
中途覚醒 いったん眠りについても途中で目が覚める状態
早朝覚醒 早朝に目覚め二度寝ができない状態
熟眠障害 朝起きたときに寝た気がしない、休養が取れた感じがしない状態

また満足のいく睡眠が取れていない状態が続くと、QOL(生活の質)の低下だけでなく、うつ病や不安障害の発症リスクにもなることが分かっています。[1]
眠れない状態を放置せずに、早期に対策を行うことが非常に大切です。

不眠の原因とは

では不眠になる原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
日本臨床内科医会では、不眠の原因は以下に述べる5つの要因のどれかに分類されるとしています。[2]

生理的な要因(生活習慣・睡眠環境など)

眠れなくてスマホをする男性

生活習慣や睡眠時の環境が整っていなければ不眠の原因になります。
たとえば、夜間勤務のために昼夜逆転している・睡眠前にスマホやパソコンを長時間触るなどの生活習慣に起因するものや、寝室の明るさ・騒音・温度、寝具がからだに合っていないことなどの環境に起因するものがあげられます。

身体的な要因(ほてり・冷え・痛みなど)

足が冷えて眠れない女性

身体的な不調が原因で眠りにくくなることもあります。
たとえば更年期障害では、夜間のほてりや発汗などで眠りが妨げられることが多く、約半数の⽅が不眠を抱えているとされています。[3]
ほかにも、重度の冷え性や痛み、かゆみ、咳・息苦しさなどの不調が続いていると寝付けません。また頻尿で夜間に何度も目覚めることもあります。

心理的な要因(ストレス・悩みなど)

眠れない女性

悩み事やイライラ、不安な気持ちは不眠の原因になることもあります。
眠ろうとするときに過度なストレスがかかっていると、交感神経が優位な状態が続いてしまい、からだや脳が興奮してがリラックスした状態にうまく切り替わらないため眠りにくくなってしまうのです。

薬理学的な要因(カフェインや薬の副作用など)

カフェインで眠れない男性

飲食物の影響や薬の副作用が原因で眠りにくくなることがあります。
代表的なものとしてコーヒーや紅茶などに含まれるカフェインがあげられます。そのほか、たばこに含まれるニコチンや、アルコールが代謝されてできるアセトアルデヒドにも覚醒作用があることが知られています。
また不眠の副作用を起こす薬剤として、たとえばステロイドや気管支拡張薬、パーキンソン病の薬などがあります。

精神学的な要因(精神疾患など)

落ち込む女性

精神的な病気が原因で不眠症を引き起こすこともあります。
たとえば不安神経症やうつ病、統合失調症などがしばしば不眠の症状を伴います。

また、不眠で悩む人の数は加齢とともに増加しますが、性差もあり、女性は男性の約1.4倍多く見られることが報告されています。[1]

YOJOアンケートでは?

YOJOでは不眠を訴える方にどのような症状が見られるかについて、20~60代女性の方50名にアンケートを実施しました。(YOJO調べ:2022年11月~2023年9月患者さま回答)

不眠を訴える人がどのような症状に悩まれているかをYOJOの患者さま50名にアンケート調査!

YOJOのアンケート調査では、不眠を訴える女性では「気持ちが不安定になる(1位:90%)」「ストレスからイライラしやすい(2位:88%)」「不安を感じやすい(3位:84%)」といった心理的な症状が多く見られました。また、「夢を見やすい(5位:62%)」という状態は、精神的なストレスが多いときに起こりやすくなります。脳が興奮して浅い眠りである「レム睡眠」が増え、夢を見やすくなるのです。

うつや気持ちの落ち込みに効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

うつ・気分の落ち込みに使用される漢方薬とは

不眠症の治療薬と漢方の強み

不眠症の薬物治療では、主として睡眠導入剤精神安定剤といった薬が用いられます。これらは即効性があり服用したその日から眠れるようになる反面、副作用や依存性の発現が心配される薬剤です。数週間以上の長期で服用した後に自己判断で急に中止してしまうと、離脱症状が起こることがあります。

一方で漢方薬は服用してすぐに眠れるようになることはありませんが、睡眠導入剤や精神安定剤で心配されるような副作用や依存性はありません。
また、複数の生薬が総合的に効果を発揮するため、体質や症状に合った漢方薬を選ぶことで、不眠以外のからだの不調を改善したり、心身の状態を整えて自然な睡眠をサポートしたりする効果が期待できます。

不眠症に漢方薬を取り入れるためには

漢方生薬

不眠症の改善に漢方薬を取り入れるためには、体質や不眠の原因、不眠以外の心身の不調に合った漢方薬を選択することが大切です。
そのためには、患者さんの体質や状態を見極め、漢方独自の考え方についても知る必要があります。

陰陽

陰陽

「陰」と「陽」は相互に働き合いながらバランスを保つことで健康を維持します。
たとえば日中は陽気が盛んになり意識も清明になります。一方で、夜は陰気が盛んになり意識が落ち着き眠りにつきます。

しかし不眠の方では、夜なのに陽気が必要以上に盛んであったり(陽気過剰)、日中の陽気を夜間まで引きずっていたり(陰気不足)することがあります。

陽気過剰:イライラや怒り、のぼせ、興奮などが見られます。
陰気不足:疲労感や皮膚の乾燥、顔色の悪さなどが見られます。

陽気過剰や陰気不足には、たとえば以下のような漢方薬を用います。[4]

陽気過剰 黄連解毒湯、三黄瀉心湯(+便秘)など
陰気不足 酸棗仁湯、加味帰脾湯、帰脾湯、加味逍遙散など

虚実

実証・虚証

虚実は、個々の体質や病態を見極める「証」の一つです。「虚証」「実証」とその中間にあたる「中間証」があります。

虚証:からだに必要な気・血・水が不足している状態。
疲れやすい、消化器系の働きが弱い、病気がち、不安感・落ち込みやすいなどの症状が見られます。
実証:余分なものを体外へと排出することができていない状態。

のぼせ、イライラ、出血、便秘がちなどの症状が見られます。 

虚証・実証・中間証に合った漢方薬にはそれぞれ以下のようなものがあります。

実証 黄連解毒湯、三黄瀉心湯、女神散、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蠣湯など
中間証 抑肝散、抑肝散陳皮半夏、半夏厚朴湯など
虚証 酸棗仁湯、加味帰脾湯、帰脾湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯など

気血水

気血水

漢方では健康を維持するためには、気血水の三要素が重要であると考えます。

気(き):精神やからだの臓器を健康に働かせるエネルギー
血(けつ):血液・リンパ液などの全身を循環・栄養する物質
水(すい):生体内の水分バランス

漢方では、不眠は「気」「血」の異常によって起きることが多いと考えられています。
気滞(きたい)

気の巡りが滞っている状態。気滞の状態では、ささいなことが気になって寝つきが悪くなります。気の巡りを改善する生薬には、柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などがあります。

気逆(きぎゃく)

気の循環が乱れ、下降しなければならなかった気が逆流し上昇してしまう状態。
気の熱を鎮められずに寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりします。気逆を改善する生薬には、桂枝が良いとされます。

気血両虚(きけつりょうきょ)

過労や消化器の不調などによって気の不足が慢性化し、血の不足にも結びついた状態。ぐっすり眠るエネルギーが足りなくなります。
気血両虚を改善するためには、補気剤と補血剤の両方を含む漢方薬を選択すると良いとされます。

気滞、気逆、気血両虚を改善する具体的な漢方薬は以下の通りです。

気滞を改善する
漢方薬
半夏厚朴湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、香蘇散など
気逆を改善する
漢方薬
桂枝加竜骨牡蛎湯、苓桂朮甘湯、苓桂甘棗湯など
気血両虚を改善
する漢方薬
加味帰脾湯、十全大補湯、抑肝散、加味逍遙散など

不眠の症状

眠れない女性

漢方治療では「証」を重視した処方選択がされますが、不眠症の症状に合わせて漢方薬を使い分けることもできます。 [5]
症状別の漢方薬は具体的に以下のようになります。

入眠障害
(興奮が続くことによる不眠=心熱)
黄連解毒湯、半夏瀉心湯、桃核承気湯、当帰芍薬散、加味逍遙散など
熟眠障害
(不安感が強いことによる不眠=胆虚)
柴胡加竜骨牡蠣湯、大柴胡湯、四逆散、柴胡桂枝湯、抑肝散、抑肝散陳皮半夏、竹筎温胆湯など
中途覚醒
(心身疲労による不眠=虚労)
酸棗仁湯、加味帰脾湯、帰脾湯、八味地黄丸、釣藤散など
乳幼児の不眠
(夜泣き)
芍薬甘草湯、甘麦大棗湯、抑肝散、抑肝散陳皮半夏など

ご自身の体質や症状に合った漢方薬について悩まれている方は、YOJOの薬剤師にも相談することができます。

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不眠の症状に使用される漢方薬と使い分け

お茶を飲む女性

ここでは不眠症の治療によく使用される7種類の漢方薬とその使い分け、服用の注意点をお伝えします。

【心身が疲労して眠れない方に】酸棗仁湯(さんそうにんとう)

酸棗仁湯は不眠に対して用いられる代表的な漢方薬で、神経を鎮めて寝つきを良くする働きがあります。

酸棗仁湯は5種類の生薬から構成され、主薬の「酸棗仁(さんそうにん)」にはおだやかな催眠・鎮静作用があります。
効果を示す作用機序の一部として、酸棗仁湯にはGABAA受容体を介した抗不安作用やノンレム睡眠延長作用があることが報告されています。また、悪夢や寝言にも有効であることから睡眠の質を改善する可能性も報告されています。[6]

配合生薬
酸棗仁、茯苓、川芎、知母、甘草

服用がおすすめな人
体力が低下して、心身ともに疲弊して不眠を訴える人
に向きます。とくに高齢者や慢性疾患患者で夜間に目がさえて眠れない場合精神不安・神経過敏を伴う場合に多く使用されます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。

【抑うつ状態でぐっすり眠れない方に】加味帰脾湯(かみきひとう)

加味帰脾湯は、気と血の不足を補う漢方薬です。不安や落ち込みやすさを改善し、寝つきを良くしたり睡眠の満足感を高めたりする効果があります。

配合生薬の「酸棗仁(さんそうにん)・竜眼(りゅうがん)・遠志(おんじ)」が精神を安定させ不安や憂うつを和らげます。そのほか「人参(にんじん)・白朮(びゃくじゅつ)・生姜(しょうきょう)」などの胃腸機能を強くする生薬が配合され、栄養吸収を高めて貧血症状も改善します。

配合生薬
黄耆、柴胡、酸棗仁、蒼朮、人参、茯苓、遠志、山梔子、大棗、当帰、甘草、生姜、木香、竜眼肉

服用がおすすめな人
体力は中等度以下で血色の悪い人
に向きます。体力や消化機能が落ち、クヨクヨ悩んでしまって眠れない人、とくに熟眠障害を訴える人におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
腸間膜静脈硬化症の副作用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」を含む漢方薬を長期(5年以上)服用すると、起こる場合があります。腹痛・下痢・便秘・腹部膨満などの症状がくり返し現れる場合は医師に相談しましょう。

【緊張や不安で寝つきが悪い方に】柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

柴胡加竜骨牡蠣湯は、気の巡りを整えて心を落ち着かせる作用があります。緊張や不安などの脳の興奮から起こる不眠症状に効果的です。

配合生薬の「竜骨(りゅうこつ)・牡蛎(ぼれい)・茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)・大黄(だいおう)」には精神安定や鎮静作用があります。また、脳内の神経炎症を抑制し精神神経症状に効果の期待できる「柴胡(さいこ)」も配合されています。

配合生薬
柴胡、半夏、桂皮、茯苓、黄芩、大棗、人参、牡蛎、竜骨、生姜、(大黄)

服用がおすすめな人
体力が比較的あり、不安やストレスで眠れない人、肋骨下部に張りがあり胸が苦しいといった人
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
下痢・軟便傾向のある人や妊娠中の人は注意しましょう
製品によっては「大黄(だいおう)」が配合されています。下痢・軟便症状の悪化や流早産のリスクが高まる可能性があるため注意しましょう。

重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【情緒不安定で疲労感のある不眠症に】加味逍遙散(かみしょうようさん)

加味逍遥散は、血の不足を補うことで、滞っていた気の巡りを良くする働きがあります。そのため不眠だけでなくイライラや不安などの神経症状に効果的です。
配合生薬の「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。「当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・牡丹皮(ぼたんぴ)」といった生薬が血行を促進します。

配合生薬
柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷

服用がおすすめな人
虚弱体質で疲れやすく、不安やいらだちなどの精神症状があって眠れない人
におすすめの漢方薬ですのぼせ感、肩こり、疲労感を伴う人の不眠症や婦人更年期障害にも適しています。

服用上の注意
妊娠中の人は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

【のどの違和感や精神不安を伴う不眠の方に】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

半夏厚朴湯には、気の巡りを良くして、不安や気持ちの落ち込みを緩和する働きがあります。そのため、心理的な要因で起こる不眠症状に効果が期待できます。

配合生薬の「半夏(はんげ)・厚朴(こうぼく)」が、からだを温めて緊張を緩和します。「蘇葉(そよう)」には香りと共に気を巡らせストレスを発散させる作用があります。
また、精神的なストレスにより自律神経に不調が起こると、のどや食道の筋肉が緊張し、のどの詰まりやお腹の張りを感じることがありますが、このような症状にも半夏厚朴湯は効果的です。

配合生薬
半夏、厚朴、茯苓、蘇葉、生姜

服用がおすすめな人
体力中程度で咽喉・食道部に異物感がある人
の不眠におすすめの漢方薬です。精神不安やストレスからくる不眠症に対して効果が期待できます。

【神経が高ぶり満足のいく睡眠がとれない方に】抑肝散(よくかんさん)

抑肝散は、気の滞りを改善して自律神経のバランスを整えてくれる働きがあります。イライラや興奮といった神経の高ぶりを抑え、筋肉のつっぱりを緩めて心身の状態を整えます。

抑肝散は乳幼児の夜泣きから高齢者の不眠症まで、幅広い年齢層に使える漢方薬です。また胃腸が弱い方は、抑肝散に「陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ)」の生薬を加えた抑肝散加陳皮半夏を選択すると良いでしょう。
なお、抑肝散陳皮半夏は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に類似してGABAA受容体受容体に作用するものの、ALLO(アロプレグナノロン )を介してGABA作動性神経を活性化させるために副作用の発現頻度が低い可能性が報告されています。[7]

配合生薬
柴胡、釣藤鈎、蒼朮、茯苓、当帰、川芎、甘草

服用がおすすめな人
体力は中等度で神経が高ぶりやすい人
の不眠に向きます。眠れないことにこだわっていたり焦燥感があったりする場合にもおすすめの漢方薬です。

服用上の注意
胃腸が弱い人は注意しましょう
配合生薬の「当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)」が胃腸に負担をかけるため、副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意しましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【のぼせやイライラで寝つきが悪い方に】黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

黄連解毒湯には、 からだを冷やして余分な熱を取り、炎症や機能の亢進を鎮めたりする作用があります。そのため足やからだのほてりによる入眠障害・中途覚醒をきたしている不眠症に効果が期待できます。[5]

黄連解毒湯は4種類の消炎・解熱作用をもつ生薬で構成される漢方薬です。「黄連(おうれん)・山梔子(さんしし)」は鎮静作用が強く、自律神経系の興奮を抑える作用があります。そのため不眠症やストレスからくる肌荒れにも効果が期待できます。

配合生薬
黄連、黄芩、黄柏、山梔子

服用がおすすめな人
体力は中等度以上で、のぼせぎみで顔色赤く、イライラして落ち着かない人に向きます。ガッチリ型の人で高血圧・頭痛・のぼせ・肩こり・便秘を伴う不眠症におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

不眠症やストレスからくる肌荒れに効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

ニキビや肌荒れに漢方は効くの?正しい選び方やおすすめ市販薬も解説

臨床で睡眠薬と併用されることもある漢方薬の例

漢方生薬

臨床では睡眠薬と併用して漢方薬が処方されることもときにはあります。
理由としては
・睡眠薬の減量による患者のQOL向上を期待する場合
・併用による相乗効果が期待される場合
・漢方薬だけもしくは処方量の睡眠薬だけでは効果が不十分な場合
などが考えられます。

日本東洋心身医学研究会EBM作業チーム報告によると、臨床で睡眠薬と併用されることのある漢方薬には、具体例に以下のような例があげられます。

睡眠薬と併用される漢方薬の一例

患者さんの症状 具体的な漢方薬の例
不眠症 酸棗仁湯
加味帰脾湯
抑肝散
柴胡加竜骨牡蠣湯
抑肝散加陳皮半夏
不安障害 加味帰脾湯
半夏厚朴湯
加味逍遥散

ただし漢方薬を構成する生薬の中には、薬剤の代表的な代謝酵素であるCYP3A4やCYP2D6を阻害する作用をもつものもあり、漢方薬との併用で薬剤の血中濃度が上昇する可能性も否定できません。[8]
「漢方薬は大丈夫」と自己判断はせずに、併用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談した上で行うようにしましょう。

不眠の症状に効果の期待できる市販薬とは

ドラッグストアで薬を選ぶ女性

ここでは、まずは手軽に漢方薬を試してみたいという方向けにドラックストアや薬局で購入できる市販薬をご紹介します。

漢方ナイトミン

漢方ナイトミン
引用元:小林製薬HP

心身のストレスで不眠が続く方に

酸棗仁湯エキスを有効成分とする商品です。5種の配合生薬が心身のバランスを整えて不眠症を改善する効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度以下で、心身が疲れ、精神不安、不眠などがある人
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前または食間に服用
成人(15歳以上):1回4錠
服用対象年齢 15歳以上(15歳未満は服用しないこと)
効能効果 不眠症、神経症
内容量 72錠

JPS加味帰脾湯エキス錠

JPS加味帰脾湯エキス錠
引用元:ジェーピーエス製薬株式会社

貧血や疲れている方の不眠症に

加味帰脾湯エキスを有効成分とする商品です。気や血の不足を補って寝つきを良くする効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うことがある人
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前または食間に服用
成人(15歳以上):1回5錠
7歳以上15歳未満:4錠
5歳以上7歳未満:3錠
服用対象年齢 5歳以上(5歳未満は服用しないこと)
効能効果 貧血、不眠症、精神不安、神経症
内容量 260錠

柴胡加竜骨牡蛎湯エキス錠クラシエ

柴胡加竜骨牡蛎湯エキス錠クラシエ
引用元:クラシエHP

ストレスなどでイライラする不眠症の方に

柴胡加竜骨牡蠣湯エキスを有効成分とする商品です。気の巡りを整えて不眠を改善する効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴うことがある人
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前または食間に服用
成人(15歳以上):1回3錠
5歳以上15歳未満:2錠
服用対象年齢 5歳以上(5歳未満は服用しないこと)
効能効果 高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜泣き、便秘
内容量 180錠

ツムラ漢方24加味逍遙散エキス顆粒

ツムラ漢方24加味逍遙散
引用元:ツムラHP

イライラしがちな方の不眠症に

加味逍遙散エキスを有効成分とする商品です。精神不安やいらだちなどの精神神経症状がある方の不眠症、更年期障害に効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある人
形状 顆粒剤
用法・用量 1日2回食前に水又はお湯にて服用してください。
成人(15歳以上):1回1包
7歳以上15歳未満:1回2/3包
4歳以上7歳未満:1回1/2包
2歳以上4歳未満:1回1/3包
服用対象年齢 2歳以上(2歳未満は服用しないこと)
効能効果 冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症
内容量 20包/48包

ツムラ漢方16半夏厚朴湯エキス顆粒

ツムラ漢方16半夏厚朴湯エキス顆粒
引用元:ツムラHP

のどのつかえ感もある不眠の方に

半夏厚朴湯を有効成分とした商品です。ストレスや疲労倦怠感からくる不眠症やのどの違和感にも効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などの訴えがある人
形状 顆粒剤
用法・用量 1日2回食前または食間に服用
成人(15歳以上):1回1包
7歳以上15歳未満:1回2/3包
4歳以上7歳未満 :1回1/2包
2歳以上4歳未満 :1回1/3包
服用対象年齢 2歳以上(2歳未満は服用しないこと)
効能効果 不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、喉のつかえ感
内容量 20包/48包

ツムラ漢方54抑肝散エキス顆粒

ツムラ漢方54抑肝散エキス顆粒
引用元:ツムラ

ストレスなどで気がたかぶって眠れない方に

抑肝散エキスを有効成分とする商品です。ストレスで気が高ぶっている方の不眠症、イライラに効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどの訴えがある人
形状 顆粒剤
用法・用量 1日2回食前または食間に服用
成人(15歳以上):1回1包
7歳以上15歳未満:2/3包
4歳以上7歳未満:1/2包
2歳以上4歳未満:1/3包
2歳未満:1/4包
服用対象年齢 なし。※ただし、小児夜泣きに服用する場合には1週間程度服用しても症状が良くならない場合は服用を中止し、医師に相談してください。
効能効果 神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症
内容量 20包/48包

JPS黄連解毒湯エキス錠

JPS黄連解毒湯エキス錠
引用元:ジェーピーエス製薬株式会社

イライラする人の不眠や肌荒れに

黄連解毒湯エキスを有効成分とした商品です。ほてり感を伴う入眠障害・中途覚醒に効果が期待できます。

分類 第2類医薬品
適応する人 体力中等度以上で、のぼせぎみで顔色赤く、いらいらして落ち着かない傾向のある人
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前又は食間に水又はお湯にて服用してください。
成人(15歳以上):1回3錠
7歳以上15歳未満:1回2錠
5歳以上7歳未満:1回1錠
服用対象年齢 5歳以上(5歳未満は服用しないこと)
効能効果 鼻出血、不眠症、神経症、胃炎、二日酔、血の道症、めまい、動悸、 更年期障害、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ、口内炎
内容量 200錠

漢方薬の服用以外で不眠におすすめの養生法とは

笑顔で飲み物を飲む女性

不眠症を改善するためには、漢方薬の服用だけでなく生活習慣や寝室の環境を見直すことも非常に大切です。
ここでは不眠症に対しておすすめの養生法をお伝えします。

室内の照明や温度・湿度を調整する

電気を消す女性

眠りを促すホルモンである「メラトニン」は、照度が高い光をたくさん浴びるほど分泌が抑制されてしまいます。そのため寝室の照明は、赤みを帯びたやわらかい光で、照度の目安は30ルクス以下がスムーズな入眠を促すためおすすめです。

また睡眠中の布団の中の環境は、温度は33℃前後、湿度は50%前後であると快適な眠りが得られるとされています。[9]
季節によって温度や湿度は大きく変わるため、時期ごとに過ごしやすいパジャマや寝具を選択するようにしましょう。

騒音対策をする

眠る男の子

睡眠中は40dBA以下の環境が望ましく、50dBA以上になると半数の人は睡眠が阻害されるとされています。[9]
騒音が気になる環境であれば、耳栓や防音冊子を利用してみるのも良いでしょう。

睡眠前のカフェインは控える

カフェインレスコーヒー

カフェインは覚醒作用だけでなく利尿作用もあるため、寝る前のカフェイン摂取は寝つきを悪くしたり、トイレで夜間目覚めてしまったりすることにもつながります。
眠りにつく4時間前からは、コーヒーや紅茶、緑茶、栄養ドリンク剤などカフェインが多量に含まれる飲料水を取ることは控えましょう。

決まった時間に起きて日光を浴びる

日光を浴びる女性

ヒトは「寝る時間」になるから眠くなるのではありません。起床後14~16時間が経つと睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が始まり、自然と眠気を催すようになるのです。また起床後は日光を浴びることで光が脳に伝わり、メラトニンの分泌が抑えられることで眠気が解消されます。
つまり、「○時に眠る」「〇時間睡眠を取る」ことにこだわり過ぎるのではなく、眠れなくても起きる時間を一定にして陽の光を浴びることが大切です。

適度な運動をする

運動をする女性

国内外の疫学研究で、運動習慣がある人には不眠が少ないことがわかっています。[10]習慣的に運動を続けることで、寝つきが良くなったり深い睡眠が得られたりする効果が期待できます。
激しい運動は逆に睡眠を妨げてしまうため、負担が少なく長続きするような、軽いランニングやヨガなどの有酸素運動を行うと良いでしょう。

とくに夕方から夜(就寝の3時間くらい前)の運動がおすすめです。就寝の数時間前に運動をして脳の温度を一過性に上げると、運動をしない場合と比較して、寝床に入る時の脳の温度の低下量が大きくなります。
睡眠は脳の温度が低下するときに出現しやすくなるので、結果として快眠が得られやすくなるのです。

入浴をしてからだを温める

入浴をする女性

運動と同様に、入浴で体温を一時的に上げることも快適な睡眠には効果的です。
ただしタイミングが大切で、午前や午後の早い時間の入浴では効果がなく、就寝2~3時間前の、夕方から夜の入浴が効果的です。

入浴時間の目安としては、38度のぬるめのお湯で25~30分42度の熱めのお湯なら5分程度が良いでしょう。また半身浴で約40度のお湯で30分ほど汗をかく程度に入浴する場合でも寝つきを良くする効果があるとされています。[10]

不眠症の薬についてよくある質問

医師と?

ここでは、不眠症の薬や漢方薬についてよくある質問をまとめました。

市販薬と病院で処方される漢方薬の違いは?

漢方薬に含まれる生薬成分については、「市販薬(一般用漢方製剤)」と「処方薬(医療用漢方製剤)」で変わりはなく、期待できる効能効果は同じです。
ただし、市販薬は不特定多数の方が購入するため、安全性を考慮して、1日の服用量中の成分配合量が少ない場合もあります。

睡眠薬と漢方薬の飲み方の違いは?

西洋薬である睡眠薬(睡眠導入剤)は、即効性が高いことから通常は眠前に服用します。しかし不眠に対して用いられる漢方薬の場合は、眠前に1回服用することは少なく、1日2~3回食前に服用する場合などが多いです。

漢方薬の効果が弱くなることはあるの?

ベンゾジアゼピン系睡眠薬などで見られるような、くり返し飲んでいるうちに効果が減弱する「耐性」は、漢方薬では見られません。
漢方薬を飲んでも効かなくなった場合は、自身の「証」が変化した可能性などが考えられます。

漢方薬が効かない場合は?

漢方薬を1か月ほど継続して服用しても不眠症が改善されない場合は、体質や症状に合っていない可能性があります。漫然と使用すると、効果が出ないだけでなく副作用などを引き起こす場合もあるため注意しましょう。
基本的には、1か月程度服用しても効果が見られなければ、服用を中止して医療機関や薬局で相談するようにしましょう。

YOJOでは不眠症に効果的な漢方薬の相談だけでなく、不眠を改善するための生活習慣上のアドバイスも受けることができます。なかなか改善しない不眠の症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

体質チェックをはじめる

【参考文献】
[1]日本神経治療学会 標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム障害
[2]一般社団法人 日本臨床内科医会 不眠症
[3]厚⽣労働科学研究・障害者対策総合研究事業 「 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン 」
[4]不眠症における漢方薬の使い分け
[5]八重樫弘信(2011)不眠症に対する黄連解毒湯の有用性,Phil漢方 No.34
[6]漢方トゥデイ 頻用処方解説 酸棗仁湯
[7]村田健太ら(2020) 抑肝散加陳皮半夏の不眠症に 対する作用機序と副作用について, phil漢方 No.81,32-33
[8]岡孝和ら(2007)向精神薬と漢方薬の併用療法の現状に関するアンケート調査報告‐日本東洋心身医学研究会EBM作業チーム報告-,日本東洋心身医学研究第22巻97-102
[9]公益財団法人長寿科学振興財団 快眠のための環境作り
[10]厚生労働省 快眠と生活習慣