漢方解説 半夏厚朴湯とは

こんにちは!YOJO編集部です。

漢方薬一つ一つについて効果や効能、それに伴うエビデンスを中心に取り上げていきたいと思います。

漢方解説第7弾! 半夏厚朴湯です。

体力中程度以下の人で、顔色が優れず、神経症的傾向があり、咽喉がふさがる感じ(ヒステリー気味の際に生じるイガイガした球のような異物感(梅核気))を訴える場合に用います。

  • 気分がふさぎ、不眠、動悸、精神不安などを訴える場合
  • 呼吸困難、咳、胸痛などを伴う場合
  • 心窩部の振水音を伴う場合
証の解説

気分がふさいでいる状態の【気滞】に対して、気の巡りを改善することで症状を改善させる漢方薬です。

・気のうっ滞を除くことで、精神の緊張を緩めます。

のどの異物感も気が滞ることによって生じます。

痰が絡むような咳に対して有効です。

効能効果

体力中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:
不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、のどのつかえ感

ポイント

精神的な不安や緊張による胃腸の不調にも有用です。

つわりの症状が重いときにも用いられます。

配合生薬

半夏(ハンゲ)・茯苓(ブクリョウ)・厚朴(コウボク)・蘇葉(ソヨウ)・生姜(ショウキョウ)

生薬の解説

厚朴・蘇葉は、気分を晴れやかにし臓器の動き(蠕動)を高めます。

茯苓は、胃にたまった水を取り除き胃の運動を改善させます。

半夏・生姜は、吐き気を止め気持ちの悪さを軽減します。また、生姜は、健胃作用も持ち胃腸の不調を助けます。

名前の由来

小半夏加茯苓湯に厚朴と蘇葉が加わり、5種類の生薬から構成されています。その中の主薬である半夏と厚朴の名前をとって名づけられました。

エビデンス

つわり、吐き気

*症例報告

吐き気、嘔吐を認める妊婦に対し、漢力生業を調製して投与した。半夏厚朴湯31例、伏苓飲合半夏厚朴湯16例について、index for nausea and vomiting pregnancy(INVP)を基に作成したアンケート調査により検討した。

その結果、重症例21例では有効症例17例(81%)、著効症例4例(19%)と全例効果が認められた。中等症例19例では不変3例(16%)、有効10例(52%)、著効6例(32%)であった。

軽症例6例では不変4例(66%)。有効1例(17%)、著効1例(17%)であった。また、過去3年間の妊娠悪阻患者64例の平均入院日数は15.1日、坐薬使用症例26例では11.2日であり、有意差を認めた。(p <0.01)

・安静を目的に入院した妊娠22週以降の妊婦で、入院中に胃部不快感、胸部圧迫感(胸のつかえ感などを含む)、咽喉頭異常感、吐き気、咳、入眠障害、頭痛(頭重感)、めまいの諸症状を訴えた26例に半夏厚朴湯を投与し、全般改善度および症状別改善度で評価した。

その結果、全般改善度は著効10例(38.5%)有効10例(38.5%)、やや有効4例(15.4%)、無効2例(7.7%)で、悪化した症例はなかった。症状別では胃部不快感、胸部圧迫感、咽喉頭異常感、吐き気および嘔吐で著効例、有効例が多かった。

のどの異物感

*症例報告

咽喉頭異常感症の患者22例中、気道感染、他剤併用、服薬量が基準に満たない患者を除いた17例(男性7例、女性10例)に半夏厚朴湯を投与した。症状消失または著明改善を有効とし、東洋医学的所見として虚実および気うつのスコアを問診にて聴取した。

その結果、有効13例(76.5%)であり、虚実による効果の差はなかった。気うつと判定されたものは有効例で6例、有効例でなかった例が1例であった。

産婦人科外来を受診した患者(更年期障害、不妊症、子宮筋腫、子宮内膜症、婦人科悪性腫瘍等)で咽喉頭異常感を訴えた44例のうち、器質的異常がなかった31例に半夏厚朴湯を症状の推移に応じて2〜6週間投与した。

その結果、24例(77.4%)に咽喉頭異常感の改善を認めた。

抗不安作用

*症例報告

・各種神経症患者22例に半夏厚朴湯を3週間投与し、臨床効果を検討した。

その結果、著明改善2例、中等度改善6例、軽度改善9例であり、軽度改善以上は78%であった。症状別改善度では、易疲労、不眠、不安、焦燥感、意欲減退、妄想。運動系症状、心血管系症状、呼吸器系症状に特に有効であった。

*基礎研究

・マウスに経口投与したところ、高架式十字迷路実験において抗不安様作用を示した。

嚥下障害、誤嚥性肺炎

*臨床研究

・脳血管障害を有し、1回以上の肺炎歴をもつ患者32例を半夏厚朴湯群20例と対照群(乳糖)12例に分け、4週間経口投与した。

その結果、購下反射時間が半夏厚朴湯群では11.6±2.97秒から2.6±0.38秒と有意に改善したが、対照群では11.0±3,97秒から10.8±3.58秒と有意な変化はなかった。また、気道分泌液中のサブスタンスPは半夏厚朴湯群で有意に増加したが、対照群では有意な変化はなかった。

・多施設二重盲検臨床比較試験により、認知症、脳血管障害、アルツハイマー症およびパーキンソン病の高齢患者95例を無作為に、半夏厚朴湯(体重50 kg以上:1日量、分3.体重50 kg未満:2/3量、分2)群47例とプラセボ(乳糖、体重50 kg以上:3.0 g。分3、体重50 kg未満:2.0g、分2)群48例の2群に分けた。試験は12か月行い、肺炎の発症頻度、肺炎による死亡率および自力での摂食量を評価した。

その結果、累積肺炎発症数はプラセボ群14例に対し、半夏厚朴湯群4例と有意に減少した(p = D 0.008)。また、肺炎に間連する死亡者数もプラセボ群6例に対し、半夏厚朴湯群1例と減少傾向であった(p = 0.05)。さらに、半夏厚朴湯群では摂食量も有意に改善された(p = 0.006)。

コホート研究として算出された相対危険度においても、半夏厚朴湯は肺炎の発症を0.51(95%信頼区間:0.27〜0.84、p = 0.008)、関連死は0.41(95%信頼区間:0.10〜1.03、p = 0.06)と減少させた。

*基礎研究

・SD系ラットに半夏厚朴湯を0.8%含有した固形飼料を2週間投与したところ、視床下部前核および線条体の2部位において、モノアミン代謝を抑制した。

この結果から、半夏厚朴湯は大脳基底核におけるドパミン分泌を促進し、末梢サブスタンスP神経を賦活化させることより、嚥下反射、咳反射を改善し、誤張性肺炎を予防する可能性が示唆されている。

耳鳴り

*臨床研究

・3か月以上続く耳鳴り・難聴で受診し、tinnitus handicap inventory(THI)が18点以上の成人患者のうち、試験参加に同意の得られた76例を半夏厚朴湯投与群38例とプラセポ投与群38例に無作為に割り付けた。THI、visual analog scale(VAS)、hospital anxiety and depression scale(HADS)、short-form 36-1item health survey(SF-36)について、投与前後の変化量を評価した。

その結果、THIは両群で有意差を認めなかった(p = 0.73)。また、VAS、HADS、SF-36に関しても両群で有意差を認めなかった。めまいを伴っている群では、THIにおいて半夏厚朴湯群がプラセボ群より改善している傾向があった(p = 0.006)。さらに、明らかな不安抑うつがない患者、半夏厚朴湯証がある患者の検討では、THIにおいて両群で差は認めなかった。

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参考文献

エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド 京都廣川出版

漢方処方と方意 南山堂

漢方頻度処方解説 半夏厚朴湯

ツムラ漢方半夏厚朴湯エキス顆粒 添付文書

コタロー半夏厚朴湯エキス顆粒添付文書