頻尿や尿漏れには、水分代謝を整えたり腎の機能を補ったりするような処方がよく用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。
・猪苓湯(ちょれいとう):頻尿や排尿痛などの排尿トラブルに効果
・八味地黄丸(はちみじおうがん):高齢者や冷え・疲れがある方の尿トラブルに効果
・牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):夜間頻尿や強い浮腫に悩んでいる方に効果
・清心蓮子飲(せいしんれんしいん):尿が出渋りイライラする方に効果
・小建中湯(しょうけんちゅうとう):小児夜尿症や体力虚弱な方の頻尿に効果
この記事では、頻尿や尿漏れに効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
頻尿や尿漏れが起こる原因
頻尿とは
頻尿は尿の回数が多い症状です。日本泌尿器科学会では以下のような状態が頻尿にあたるとしています。[1]
一般的には、朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿といいます。しかし、1日の排尿回数は人によって様々ですので、一概に1日に何回以上の排尿回数が異常とはいえず、8回以下の排尿回数でも自分自身で排尿回数が多いと感じる場合には頻尿といえます。
(参照)日本泌尿器科学会 頻尿とは
そのため、トイレの回数に負担を感じている場合やトイレに行きたくなるかもしれないという不安感がある場合には頻尿といえるでしょう。
頻尿の原因
頻尿が起こる原因としては、主に以下のようなケースが考えられます。[2]
・残尿量が増加している(前立腺肥大症など)
とくに50代以上の男性は前立腺肥大症で残尿量が増える可能性があります。前立腺肥大症は、加齢とともに前立腺が肥大して尿道を圧迫し様々な排尿障害を引き起こす男性特有の疾患です。
・膀胱が小さい(過活動膀胱)
過活動膀胱では急にトイレに行きたくなり頻尿や尿失禁を起こす症状が現れます。これは膀胱の加齢性変化や骨盤底筋の筋力低下、そのほか糖尿病や高脂血症などが起こす動脈硬化病変が原因で起こります。
・トイレのことが気になってくり返し行く(心因性頻尿)
緊張やストレスが続いている状態では、膀胱が過度に収縮して頻尿になることもあります。心因性頻尿は、睡眠中は排尿のことを気にすることはないので、通常夜間の頻尿はない場合が多いです。
・残尿感がある(膀胱炎)
膀胱炎の炎症による刺激で、膀胱の知覚神経が過敏になり頻尿が起こることがあります。
膀胱炎に効く漢方薬について詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
尿漏れとは
尿漏れ(尿失禁)は、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことです。40歳以上の女性の4割以上が経験しており、実際に悩んでおられる方は大変多い症状です。
尿漏れの原因
尿漏れが起こる原因としては、主に以下のようなケースが考えられます。[2]
・腹圧性尿失禁
とくに女性は出産や加齢を契機に、骨盤底の筋肉が弱ることで起こりやすくなります。重い荷物を持ったりくしゃみをしたりする時にお腹に力が入ることで漏れるため、医学用語で腹圧性尿失禁と呼びます。腟と肛門を一緒に締めたり緩めたりして骨盤底筋を鍛える体操を行うことで改善されることも多いです。
・排尿後尿滴下
トイレを済ませた後に、尿道に残っていた尿が少しだけ漏れてしまう症状です。
とくに男性に多く、医学用語で排尿後尿滴下と呼びます。加齢や肥満が原因で腹筋や骨盤底筋の筋力が弱まることで起こり、下半身の筋トレで改善が期待できます。
・病気による症状(過活動膀胱や前立腺肥大症など)
過活動膀胱によって排尿直前にガマンできずに漏れてしまったり、前立腺肥大症による排尿障害で尿を自力で出せずにあふれて漏れてしまったりすることもあります。病気の治療を行うことで改善されます。
頻尿や尿漏れに効果の期待できる漢方薬5選
頻尿や尿漏れには、水分代謝を整えたり腎の機能を補ったりする作用のある処方が選択されます。ここでは、頻尿や尿漏れに効果が期待できる漢方薬をご紹介します。
【頻尿や残尿感などの排尿トラブルに】猪苓湯(ちょれいとう)
猪苓湯は、排尿トラブルに頻用される漢方薬で、水分代謝を整えたり炎症をやわらげたりすることで、排尿障害や尿路不定愁訴を改善する働きがあります。
猪苓湯を下部尿路不定愁訴に投与したケースで以下のような報告があります。[3]
下部尿路不定愁訴を有する患者364例において猪苓湯群150例、猪苓湯合四物湯群152例、プラセボ61例に分けて4週間投与し、残尿感、排尿後不快感、夜間頻尿、排尿痛などをスコア化して評価した。その結果、猪苓湯群・猪苓湯合四物湯群はプラセボ群に比べて、下部尿路不定愁訴に有意な有効性が認められた。また猪苓湯群と猪苓湯合四物湯群の2群間には有意差は認められなかった。
(参照)第23回日本医学会総会サテライトシンポジウム日本東洋医学会臨床漢方研究会講演内容集1992,22-39
猪苓湯に含有される生薬の「猪苓(ちょれい)・茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)」には利水作用があり水分代謝を高めます。また「滑石(かっせき)・阿膠(あきょう)」は熱や炎症を鎮める作用があります。[4]
服用がおすすめの方
頻尿や残尿感などの排尿障害があり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。体力に関わらず服用できます。
使用上の注意
胃部不快感や発赤・発疹などの症状が現れた場合は服用を中止し、医療機関を受診しましょう。
配合生薬
猪苓、沢瀉、茯苓、阿膠、滑石
【高齢者や冷え・疲れがある方の尿トラブルに】八味地黄丸(はちみじおうがん)
八味地黄丸は、腎虚の代表的処方であり、高齢者の夜間頻尿や尿漏れ、残尿感などの排尿障害に多く用いられる漢方薬です。
主薬の「地黄(じおう)」が補血・強壮作用で体を温め、「山茱萸(さんしゅゆ)・山薬(さんやく)」がその働きを助けます。利尿作用のある「茯苓(ぶくりょう)・沢瀉(たくしゃ)」、痛みを取る「附子(ぶし)」などの8種類の生薬が配合されています。[4]
服用がおすすめの方
体力中等度以下で、四肢の冷えや疲れやすさ、尿量減少または多尿があり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。
使用上の注意
附子の副作用に注意しましょう
配合生薬の「附子」は、過剰に摂取すると中毒症状(ほてり・熱感・悪心嘔吐・しびれ・不整脈・めまい)を起こす可能性があるため、注意が必要です。
妊娠した場合は服用を中止しましょう
配合生薬の「牡丹皮(ぼたんぴ)」が流早産のリスクを高めたり、「附子」による副作用が起こりやすくなったりする可能性があります。[5]
配合生薬
地黄、山茱萸、山薬、茯苓、沢瀉、牡丹皮、桂皮、附子
【夜間頻尿や強いむくみに悩んでいる方に】牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
牛車腎気丸は、八味地黄丸に腎を補う「牛膝(ごしつ)」と利水作用のある「車前子(しゃぜんし)」を加えた処方です。
そのため、腎虚と呼ばれる老化に伴う症状(夜間頻尿など)の改善に用いられるほか、よりむくみが強い場合に選択されます。
服用がおすすめの方
体力中等度以下で、腰痛や脚弱などの下半身の機能低下・冷え・尿量減少・むくみがあり、ときに口渇がある人の尿トラブルにおすすめの漢方薬です。
使用上の注意
附子の副作用に注意しましょう
配合生薬の「附子」は、過剰に摂取すると中毒症状(ほてり・熱感・悪心嘔吐・しびれ・不整脈・めまい)を起こす可能性があるため、注意が必要です。
妊娠した場合は服用を中止しましょう
配合生薬の「牡丹皮(ぼたんぴ)」が流早産のリスクを高めたり、「附子」による副作用が起こりやすくなったりする可能性があります。
配合生薬
地黄、山茱萸、山薬、牛膝、車前子、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子
【尿が出渋りイライラする方に】清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
清心蓮子飲は、尿路の炎症や腫れを抑えて痛みやわらげ、尿の出を良くする働きがあります。
熱を冷ます作用のある「黄芩(おうごん)・麦門冬(ばくもんどうとう)」や、尿の出を良くする「茯苓(ぶくりょう)・車前子(しゃぜんし)」、気分を落ち着かせる作用のある「蓮肉(れんにく)」、滋養強壮・健胃作用のある「人参(にんじん)」など9種類の生薬が配合されています。
服用がおすすめの方
体力中等度以下で、胃腸が弱く全身倦怠感があり、イライラして眠れない、口が乾いて尿が出しぶる方におすすめの漢方薬です。残尿感や頻尿、排尿痛、尿のにごり、排尿困難、おりものなどの泌尿器系の不調に効果が期待できます。
使用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
配合生薬
黄芩、麦門冬、茯苓、車前子、人參、黄耆、甘草、蓮肉、地骨皮
【 小児夜尿症や体力虚弱な方の頻尿に】小建中湯(しょうけんちゅうとう)
小建中湯は、虚弱体質を改善したり、腹痛をやわらげ胃腸の調子を良くしたりする作用があります。子どもに処方されることの多い漢方薬です。
小建中湯は腹痛や過敏性腸症候群によく用いられる桂枝加芍薬湯に、「膠飴(こうい)」を加えた処方です。膠飴は強壮や健胃、鎮痛、緩和作用をもち、急性の症状に用いられる生薬です。
服用がおすすめの方
体力虚弱で疲労しやすく、神経過敏で血色の悪い方におすすめの漢方薬です。腹痛や冷え、手足のほてり、頻尿・多尿などのいずれかの症状を伴う場合に向きます。虚弱体質や神経質、過敏性腸症候群、小児夜尿症などの改善を目的に処方されます。
使用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
配合生薬
芍薬、 桂皮、 大棗、 甘草、 生姜、膠飴
ご自身の体質や症状に合った漢方薬の選択で悩まれている方は、YOJO薬剤師にも相談できます。
市販で購入できる頻尿・尿漏れにおすすめの漢方商品5選
ここでは、病院を受診する時間が取れない方や、まずは手軽に漢方薬を試してみたい方向けに、市販で購入できる漢方薬を5種類紹介します。
ツムラ漢方40猪苓湯エキス顆粒A
排尿時のお悩みがある方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能 効果 |
体力に関わらず使用でき、排尿異常があり、ときに口が渇くものの次の諸症:排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみ |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前に服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 20包 |
「クラシエ」漢方八味地黄丸料エキス錠
排尿時のお悩みがある方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能 効果 |
体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿で、ときに 口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、 排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、 頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 |
内容量 | 540錠 |
「クラシエ」漢方牛車腎気丸料エキス錠
加齢からくるしびれや痛みに
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少し、むくみがあり、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り) |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 7歳未満5歳以上:1回2錠 |
内容量 | 96錠 |
ユリナール🄬
夜間頻尿などの悩みに
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感があり、口や舌が乾き、尿が出しぶるものの次の諸症:頻尿、残尿感、排尿痛、排尿困難、尿のにごり、こしけ(おりもの) |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水またはお湯で服用。 成人(15歳以上):1回5錠 |
内容量 | 60錠/120錠 |
ツムラ漢方99小建中湯エキス顆粒
体力虚弱な小児の頻尿や多尿を伴う症状に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能 効果 |
体力虚弱で、疲労しやすく腹痛があり、血色がすぐれず、ときに動悸、手足のほてり、冷え、ねあせ、鼻血、頻尿および多尿などを伴うものの次の諸症: 小児虚弱体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、腹痛、神経質、小児夜尿症、夜泣き |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前に服用。 15歳未満7歳以上:1回1包 7歳未満4歳以上:1回2/3包 4歳未満2歳以上:1回1/2包 2歳未満:1回1/3 ※1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させてください。 |
内容量 | 20包 |
薬の服用以外でできる頻尿や尿漏れにおすすめの対策法
ここでは頻尿や尿漏れに効果の期待できる対策法・予防法をご紹介します。
利尿作用のある飲み物の摂取を控える
カフェインやカリウムが含まれる飲み物や、アルコール飲料には利尿作用があります。 これらを多く含む飲み物を飲みすぎないようにすることも効果的な対策の一つです。 特に就寝前に利尿作用のある飲み物を控えることで、夜間頻尿を予防できます。
・カフェインを多く含む飲み物
コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、コーラなど
・カリウムを多く含むみ物
牛乳、野菜・果物ジュース、豆乳、ビール、赤ワインなど
体を冷やさないようにする
冷えによる刺激が膀胱の筋肉を収縮させて頻尿を起こすことがあります。そのため、軽い運動やストレッチ、ゆっくりと入浴するなどして体を温めるような「温活」を取り入れるのもおすすめです。温活はストレスや緊張をほぐしてくれる効果も期待できます。
温活について詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
骨盤底筋を鍛えるストレッチを行う
骨盤底筋を鍛えるストレッチを行うことで尿道を締める力が強くなるため、頻尿や尿漏れを防ぐ効果が期待できます。[5]
①あおむけに寝て、足を肩幅に開いて両ひざを立てる。
②おならを我慢するイメージで肛門を締める。
③そのまま女性は膣と尿道、男性は陰茎のつけ根を、頭の方に引き上げるような感じで10秒締める。
④力を抜き、リラックスする。
これを1分間のサイクルで10回(10分間程度)くり返し行うと良いでしょう。
YOJOでは頻尿や尿漏れの症状に効果的な漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]日本泌尿器科学会 ホームページ
[2]奈良県医師会 ホームページ
[3]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版
[4]高山宏世,漢方常用処方解説(東洋学術出版)
[5]NHK 男性と女性の尿もれ予防トレーニング 症状の違いについても解説