こんにちは!YOJO編集部です。
漢方薬一つ一つについて効果や効能、それに伴うエビデンスを中心に取り上げていきたいと思います。
漢方解説第6弾! 抑肝散加陳皮半夏です。
証
体力が低下し胃腸虚弱の人向けの処方です。神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、いらいらする、眠れないなどの精神神経症状、血の道症(女性ホルモンの変動に伴って現れる体と心の症状)などに用いられます。
- 落ち着かない、ひきつけ、夜泣きなどがある小児
- 瞼のけいれんや手足のふるえなどを伴う場合
- 腹直筋の緊張している場合
・イライラなどの【気逆】による熱症状を抑える漢方薬です。イライラや興奮状態は、虚のために出現したと考えられています。
・【虚】の状態のため、自律神経系の機能と考えられている「肝」を正常の機能に戻すことが処方の役割です。
・慢性化している場合は、みぞおちあたりから腹部にかけて左側を中心として筋肉の引きつれや動悸、つかえなどが特徴的に見られます。抑肝散に陳皮と半夏を加えることによって、慢性症状に対応しています。
効能効果
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症: 神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
子供の夜泣きなどと共に、育児中のお母さんも一緒に使うことの出来る漢方薬です。「母子ともに服す」と江戸時代では指南されていました。
近年では、認知症の周辺症状を改善させるという論文が数多く報告されています。
配合生薬
当帰(トウキ)・釣藤鈎(チョウトウコウ)・川芎(センキュウ)・蒼朮(ソウジュツ)・茯苓(ブクリョウ)・柴胡(サイコ)・甘草(カンゾウ)・陳皮(チンピ)・半夏(ハンゲ)
・抑肝散という処方に、陳皮と半夏を加えることにより悪心・嘔吐、腹部膨満感などを伴う胃弱の方でも気軽に服用できる処方です。慢性化した場合により効果的です。
・甘草・蒼朮・茯苓は、胃腸機能を促進するための配合で、食事がとれるようにすることで元気を取り戻すように処方されています。
・当帰・川芎は、貧血や顔色不良などの栄養状態を改善させる補血薬です。血液循環の悪化を改善させ、血を補う効果があります。
・柴胡は、うつうつとした気分の気滞を改善させる作用を持ちます。
・釣藤鈎は、ふらつき、めまい、頭痛、しびれ、筋痙攣を緩和させます。
・陳皮・半夏は、胃腸を整えることで、より精神を安定させる働きがあります。
名前の由来
抑肝散に陳皮と半夏の二種の生薬を加えたことを意味しています。
経絡の一種である「肝経」の機能失調により起こるとされた発熱、興奮、ひきつけなどを「抑制」するという効果に基づいて名づけられました。
エビデンス
認知症治療薬として、使用実績が非常に多い漢方処方です。
*臨床研究
・認知症の周辺症状を持つ患者に対して、抑肝散と通常治療とを用いた4つのランダム化比較試験を236例、平均試験期間6週間行った。それに対して、メタ解析を行った。
その結果、抑肝散投与により認知症の周辺症状と日常生活動作で有意な改善が認められ、NPIサブスコアでは、興奮/攻撃性、妄想、幻覚で改善がみられた。
*症例報告
アルツハイマー病患者に事前にスルビリド(50 mg /日)を2週間継続投与し、MMSEが6以上23以下でNPIが6以上の15例を、抑肝散投与(スルビリド50 mg /日+抑肝散)群10例と非投与(スルピリド50 mg /日のみ)群5例に無作為に分け、12週間の比較試験を実施した。
スルビリド50 mg /日は4週毎の評価中にNPIの各サブスコアの1つ以上が8以上の場合は増量し、すべて4未満の場合は減量した。
その結果、抑肝散投与群ではNPIが開始時に比べ8週後、12週後に有意に改善した。(P <0.001)非投与群では変化を認めなかった。
12週後のスルビリドの投与量において、抑肝散投与群は非投与群に比べて少なかったが、有意差はなかった。
(スルピリド:脳内の神経伝達物質(ドパミン)の受容体を遮断することにより、抑うつ気分、強い不安感・緊張感、意欲の低下などの症状を改善する薬。通常、統合失調症、うつ病・うつ状態の治療に用いられる。)
*基礎研究
・正常マウスに経口投与したところ、高架式十字路迷子実験において抗不安様作用を示した。
・脳虚血マウスに経口投与したところ、高架式十字路迷子実験において抗不安様作用を示した。
・老齢マウスに経口投与したところ、高架式十字路迷子実験において抗不安様作用を示した。
・亜鉛欠乏マウスに飲水投与したところ、攻撃性が抑制された。
・アミロイド前駆体蛋白過剰発現あるいはアミロイドβ蛋白脳室内注入マウスに経口投与したところ、攻撃性が抑制された。
*臨床研究
認知症患者5例に、抑肝散を4週間投与した。
結果、投与前と比べてNPI総スコアが34.0±6.5から12.8±6.6に改善し、サブスコアでは妄想、幻覚、興奮性/攻撃性、不安、焦燥感/易刺激性が改善し、MMSEは変化がなかった。また、総睡眠時間、睡眠効率、ステージIIの睡眠時間、途中覚醒、周期性四肢運動などが改善した。
*症例報告
・クロナゼパムまたはプラミペキソールで改善しなかったレストレスレッグス症候群患者3例に抑肝散(2/3日量、夕食後および眠前)を上乗せ投与したところ、この睡眠障害などが改善した。
・レム睡眠行動障害患者3例に抑肝散(1/3〜1日量)を投与したところ、睡眠時の行動障害が改善した。
・6例の精神生理性不眠症患者を対象としたオープンラベル試験において、抑肝散の投与により睡眠構道に影響することなく睡眠の質を改善した。
*基礎研究
・隔離ストレスマウスに経口投与したところ、ペントバルビタール誘発睡眠時間の短縮が抑制された。
*臨床研究
・夜尿症小児患者(6〜15歳)32例にデスモプレシンを8週間投与し、無効であった18例に抑肝散(1/3日眠前)を追加投与した。
結果として、12例に効果が見られた。著効を示した10例では、sleep disturbance scale for children(睡眠状能と環境のスコア)が平均53.0から72.1に有意に上昇するなど、高いスコアがみられた。
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参考文献
エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド 京都廣川出版
漢方処方と方意 南山堂
漢方頻度処方解説 抑肝散加陳皮半夏
エビデンスとしての臨床・基礎研究報告