鼻水や鼻づまりに効く漢方薬は、主にからだの水分代謝を整えたり、こもった熱の発散を促したりするような処方が用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。
・小青竜湯(しょうせいりゅうとう):サラサラした水様の鼻水やくしゃみに効果
・苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう):胃腸が弱く小青竜湯が使えない方に効果
・葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい):強い鼻づまりに効果
・辛夷清肺湯(しんいせいはいとう):膿性の鼻水や熱感を伴う鼻づまりに効果
この記事では、鼻水や鼻づまりに効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
鼻水・鼻づまりと漢方薬の選び方
一言で鼻水といっても、サラサラした透明の水っぽい鼻水もあれば、ネバネバした黄色い鼻水もあります。漢方では透明な鼻水は寒邪(かんじゃ)タイプ、ネバネバとした黄色い鼻水は熱邪(ねつじゃ)タイプの鼻水として、用いられる漢方薬が異なります。
ここでは鼻水や鼻づまりの症状と漢方薬の選び方についてお伝えします。
鼻水や鼻づまりの原因と症状
鼻水は、鼻の中にウイルスや細菌、ホコリや花粉などが侵入したときにそれを体外へと押し出そうとする時に分泌されます。
ウイルスや細菌に感染した場合、それらの病原体と戦った白血球や免疫細胞の死骸が鼻水に混ざり、黄色っぽい膿性の鼻水になります。一方で、感染の初期段階や、ホコリ・花粉などのアレルギー原因物質に反応した場合には、透明の水ばなが出ます。
また、病原体への感染やアレルギー反応によって鼻の粘膜が炎症を起こすと、粘膜の下にある毛細血管が拡張して腫れることで鼻づまりが起こります。[1]
漢方薬の効果と選び方のポイント
鼻の症状に対する漢方薬は、鼻水の色や性質、服用する方の体質も加味して処方が決定されます。
例えば、透明な水っぽい鼻水がずるずる出る、くしゃみが出て寒気がするというような「寒邪タイプ」の鼻症状には、からだが冷えている状態だとして、「麻黄(まおう)」や「乾姜(かんきょう)」のような温める作用をもつ生薬が配合された漢方薬を選びます。
一方で、鼻をかむと黄色い粘り気のある鼻水が出る、鼻がつまって頭がぼうっとするというような「熱邪タイプ」の鼻症状には、からだの中に熱がこもっている状態であるとして、「石膏(せっこう)」や「黄芩(おうごん)」のような熱を冷ます作用をもつ生薬が配合された漢方薬を選びます。
それぞれの鼻症状に合わせた漢方薬には、例えば以下のようなものがあります。
病気の例 | 処方例 | |
寒邪タイプの鼻水 | 風邪のひきはじめ、急性鼻炎、花粉症、アレルギー性鼻炎 | 小青竜湯、葛根湯加川芎辛夷、麻黄附子細辛湯など |
熱邪タイプの鼻水 | 風邪の中~後期、慢性鼻炎、副鼻腔炎など | 辛夷清肺湯、荊芥連翹湯、銀翹散など |
ただし、服用者の体質によっても選ぶ漢方薬には注意が必要です。
例えば、胃腸が弱い方や虚弱体質な方が「麻黄(まおう)」が多く配合されている漢方薬を服用すると、胃腸障害が起こりやすくなったり、発汗過多で体調を悪化させたりする可能性があります。
体質に合った漢方薬の選び方は次の章を参考にしてください。
鼻水や鼻づまりに効果の期待できる主な漢方薬
ここでは、鼻水や鼻づまりに効く主な漢方薬について、それぞれの特徴と体質や症状別の使い分け、服用時の注意点についてお伝えします。
【サラサラした水様の鼻水やくしゃみに】小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
小青竜湯は、からだを温めながら水分代謝を促す作用があるため、水っぽい鼻水や痰、くしゃみなどの症状に用いられます。配合生薬の「麻黄(まおう)・桂皮(けいひ)」には発汗作用で水を発散させる働きや、肺の機能を高めて呼吸器機能を改善する働きがあります。[2]
配合生薬
麻黄、桂皮、細辛、半夏、五味子、芍薬 、乾姜、甘草
服用がおすすめの人
体力が中等度で、体質的に水分が多く鼻水や咳、嘔気があるような人におすすめの漢方薬です。風邪のひきはじめの鼻水や鼻かぜ、花粉症やアレルギー性鼻炎などの治療に用いられます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の副作用で不眠や発汗過多、全身脱力感、動機・頻脈、精神興奮などを引き起こす可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
発熱や呼吸困難、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸などがあらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
風邪の鼻症状で漢方薬を使用する場合は、服用する方の体力や発症からの経過期間によって選ぶべき漢方薬は異なります。風邪に効く漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【胃腸が弱く小青竜湯の使用できない方に】苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
苓甘姜味辛夏仁湯は、小青竜湯と同様に、水分代謝を整えたり呼吸器機能を改善したりする作用があります。
小青竜湯の「麻黄(まおう)・桂皮(けいひ)・芍薬(しゃくやく)」に代えて、「茯苓(ぶくりょう)・杏仁(きょうにん)」が配合されています。「麻黄」が配合されていないため、胃腸が弱い方や虚弱体質の方、高齢者の方にも服用しやすい処方となっています。
配合生薬
茯苓、甘草、乾姜、五味子、細辛、半夏、杏仁
服用がおすすめの人
体力中等度からやや虚弱体質で、胃腸が弱り、冷え症で水様の鼻水や痰の多い人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
【強い鼻づまりがある方に】葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)
漢方ではからだが冷えて余分な水分がたまると、その余った水が鼻におよんで血行が滞り、鼻の通りが悪くなると考えます。
葛根湯加川芎辛夷は、冷えによってたまった水の発散を促して鼻通りを良くする効果が期待できる漢方薬です。からだを温める「葛根湯」の処方を基本に、鼻づまりに有効な「辛夷(しんい)」や頭痛を抑える効果をもつ「川芎(せんきゅう)」が配合されています。[3]
配合生薬
葛根、麻黄、桂皮、芍薬、甘草、大棗、生姜、辛夷、川芎
服用がおすすめな人
体力が中等度以上で、鼻腔や咽喉の炎症症状があるような人におすすめの漢方薬です。強い鼻づまりのほか、副鼻腔炎や蓄膿症、慢性鼻炎の治療にも用いられます。
服用に注意が必要な人
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の副作用で不眠や発汗過多、全身脱力感、動機・頻脈、精神興奮などを引き起こす可能性があります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【膿性の鼻水や熱感を伴う鼻づまりに】辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
辛夷清肺湯は、こもった熱を発散させる作用や呼吸器を潤す作用をもつ漢方薬です。炎症による熱感があり、咳や咽痛の症状がある場合に多く用いられます。
熱を冷ます作用のある「石膏(せっこう)・知母(ちも)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)」などの生薬のほか、粘膜を潤して鼻水や痰の排せつを促す「麦門冬(ばくもんどう)・百合(びゃくごう)」、鼻の通りを良くする「辛夷(しんい)」といった9種類の生薬が配合されています。
配合生薬
辛夷、枇杷葉、升麻、知母、麦門冬、百合、石膏、黄芩、山梔子
服用がおすすめの人
体力中等度以上で、熱がこもって黄色い膿性の鼻水・鼻づまりがあるほか、頭痛や口渇、粘っこい痰が絡むような症状がある人におすすめの漢方薬です。慢性鼻炎や慢性副鼻腔炎、蓄膿症の治療にも用いられます。
服用上の注意
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。
黄色いドロッとした鼻水が1か月以上続き、鼻づまりや嗅覚障害を起こしている場合は、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の可能性が考えられます。悪化する前に早めに耳鼻科を受診するようにしましょう。
副鼻腔炎に用いられる漢方薬ついてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
ご自身の体質や症状に合った漢方薬について悩まれている方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。
鼻水・鼻づまりに漢方医学を取り入れたおすすめ養生法
漢方医学では、透明の鼻水がずるずる出るような鼻炎をくり返す人や、鼻の症状が長引く人は、水分代謝を担う肺や脾胃が冷えて弱っていると考えます。
そのため、からだを温めたり冷たい物の飲食を控えると良いでしょう。
また、牛乳・豆腐・豚肉・みかん・れんこん・山芋・ねぎなどの食材は肺を養う作用があり、イワシ・オクラ・かぼちゃ・黒豆・小松菜・さつまいもなどの食材は消化吸収を助けて脾を健康にする作用があることから、積極的に摂取することがおすすめです。[4]
一方で、炎症や熱がこもって頭がぼうっとするような症状がある人は、あさり・キウイフルーツ・きゅうり・ゴーヤ・スイカ・セロリなどの熱を取るような食材を取ると良いでしょう。
鼻水・鼻づまりの漢方薬についてよくある質問
妊娠・授乳中の鼻水や鼻づまりの症状に漢方薬を服用しても問題ない?
妊娠・授乳中に漢方薬を服用する場合は、まずは医師や薬剤師に相談しましょう。漢方薬に配合される生薬によっては、妊娠に影響が起こる可能性や乳汁への移行が報告されているものもあります。
例えば、「麻黄(まおう)」含まれている漢方薬は、エフェドリンの作用から末梢循環が悪くなり胎盤への血流が悪くなる恐れがあるため、妊娠中は原則避けることとされています。[5]
鼻水や鼻づまりに葛根湯は効くの?
「葛根湯(かっこんとう)」はからだを温めて発汗を促す作用があることから、体力が中等度以上の人の風邪の初期症状に多く用いられる漢方薬です。そのため風邪のひきはじめの鼻水や鼻かぜに効果が期待できます。より鼻づまりへの効果を期待する場合は「葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」が良いでしょう。
小青竜湯と葛根湯を一緒に飲んでも良い?
葛根湯には「麻黄(まおう)」と「甘草(かんぞう)」という生薬が含まれており、小青竜湯と成分が重複しています。したがって、小青竜湯と葛根湯を同時に服用すると副作用が起こる恐れがあるため注意が必要です。
両方の漢方薬が鼻の症状に対してに効果があるため、どちらか一方を選んで服用することをおすすめします。
小青竜湯の飲み合わせについてさらに知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
YOJOでは、体質に合った漢方薬や飲み合わせについての相談、生活習慣上のアドバイスも受けることができます。くり返すの鼻症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]日本医師会ホームページ
[2]高山宏世、東洋学術出版社
[3]宇野芳史(2021) 遷延する鼻副鼻腔炎症状に対して 葛根湯加川芎辛夷が有効性を示した3症例, phil漢方 No.85
[4]農林水産省 旬の食材を利用した予防医学(薬膳)の 観点からのメニュー開発
[5]福岡県薬剤師会,妊婦への投与に注意が必要な漢方薬