こむら返りの治療には「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」が主に用いられます。即効性が期待でき、体力に関わらずに服用できることから、足のつりに大変有効な漢方薬です。
ただし、甘草の生薬が多く含まれていることから長期連用には注意が必要です。
この記事では、
・こむら返りに頻用される芍薬甘草湯の効果
・芍薬甘草湯の副作用や飲み方の注意点
・芍薬甘草湯以外でこむら返りに効く漢方薬
・足のつりに漢方薬以外の対策法
について薬剤師がくわしく解説します。
こむら返りと漢方薬
こむら返りの症状と原因
こむら返りは、主にふくらはぎの筋肉が異常に収縮することでけいれんを起こし、足がつってしまう状態をいいます。強い痛みが突然生じることが特徴で、運動中や睡眠中に見られる場合が多いです。
通常、筋肉は脳や脊髄からの指令が神経を通して筋肉に伝わることで伸び縮みが行われますが、何らかの原因でこの指令が正しく伝達されない場合に筋肉の過収縮が起こってしまうのです。
こむら返りの原因には、以下のようなものがあげられます。
①筋肉の疲労
②カルシウムやカリウムなどの電解質の不足
③体内の水分不足
④冷えによる血行不良
例えば激しい運動などで筋肉に長時間の負荷がかかる場合のほか、水分・電解質の不足や血行不良がある場合でも、筋肉や神経の機能が落ちて指令の伝達エラーが起こりやすくなってしまうためにこむら返りが発生しやすくなります。
こむら返りには芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
芍薬甘草湯は、筋肉の緊張を緩める作用があり、服用する方の体力に関わらずに使用できる漢方薬です。
こむら返りのような筋肉の急激なけいれんを伴う痛みに対して即効性があるとされ、およそ5分程度で効果が期待できます。[1]
構成生薬は芍薬と甘草の2種類で、芍薬に含まれるぺオニフロリンと甘草に含まれるグリチルリチンが相乗的に作用することで筋肉への過剰な神経伝達を遮断し、筋肉を弛緩させるとされています。[2]
芍薬甘草湯の副作用と飲み方の注意点
芍薬甘草湯はこむら返りに対して非常に有効性が高く、頻用される漢方薬ですが、「甘草」の配合量が多いために偽アルドステロン症の副作用には注意が必要です。
甘草は医療用漢方製剤のおよそ7割に含有される生薬で、単独で常用量を服用する場合には通常問題ありませんが、芍薬甘草湯のように甘草の1日服用量が2.5gを超える処方や複数の漢方薬を併用する場合、利尿薬と併用する場合には、偽アルドステロン症の副作用が起こりやすくなるために注意が必要とされています。[3][4]
偽アルドステロン症で起こりうる症状
・手足の力が抜けたり弱くなったりする、しびれる
・血圧が上がる
・筋肉痛やからだの倦怠感がある
・からだを動かすと息苦しくなる
そのため漫然と長期連用をすることは避けて、上記のような症状に気付いた場合はすぐに医療機関を受診するようにしましょう。
また、芍薬甘草湯は、他の併用薬との飲み合わせについても注意する必要があります。詳しくはこちら▼の記事をお読みください。
ご自身の体質や症状に合った漢方薬の選択や、漢方薬の飲み方、副作用などで気になることがある場合はYOJOの薬剤師にも相談できます。
芍薬甘草湯以外でこむら返りに使用される漢方薬
こむら返りに使用される漢方薬と言えば「芍薬甘草湯」が最も有名ですが、それ以外にもこむら返りに対する有用性が報告されている漢方薬はいくつかあります。
四物湯(しもつとう)
四物湯は、血行を改善してからだを温める作用があり、冷えや貧血様症状に多く用いられる漢方薬です。虚証タイプの方に向く処方になります。四物湯は特に実証ではない高齢者の緊急性が求められないこむら返りに対して有用性が期待されています。
・こむら返り患者26例(平均70.7±12歳)に対して、甘草を含まない漢方製剤である四物湯エキスを投与したところ、改善18例(69%)、不変18%(31%)であった。
・四物湯は、実証ではない高齢者で緊急性が求められない場合によい方剤と考えられる。
(参照)こむら返りに対する四物湯エキスの有用性,日東医誌66(3)244-245,2015
疎経活血湯(そけいかっけつとう)
疎経活血湯は、余分な水分を取り除き冷えを解消することで、血行不良や水分代謝を改善する漢方薬です。体力中等度の方の関節痛や神経痛に用いられる処方で、特に腰から足にかけた下半身の痛みに効果が期待できます。疎経活血湯は、芍薬甘草湯が無効であったこむら返りに対して有用性が期待されています。
・芍薬甘草湯が無効で、疎経活血湯が奏功したこむら返りの4例を経験した。
・血流を改善し、鎮痛効果の期待できる疎経活血湯は、芍薬甘草湯無効のこむら返りに試みられてよい方剤と考えられる。
(参照)芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏功したこむら返りの4例,日東医誌62(5)660-663,2011
八味地黄丸(はちみじおうがん)
八味地黄丸は、からだを温め、特に中高年以降の方のからだの機能低下を改善する作用のある漢方薬です。体力中等度以下で四肢の冷えや倦怠感、夜間の頻尿などがある方に向く処方です。八味地黄丸は特に、肝硬変に伴うこむら返りに対して有用性が期待されています。
・こむら返りを週に1回以上認める肝硬変31例に、八味地黄丸を1日5gまたは7.5gを4週間投与し、こむら返りの推移をみた。
・八味地黄丸投与後1週間以内に代償期33%、非代償期38%、4週間後に代償期および非代償期とも全例にこむら返りの改善ないし消失を認めた。
(参照)肝硬変に伴うこむら返りに対する八味地黄丸の有用性に関する検討,日東医誌45(1)151-157,1994
こむら返りに漢方薬以外でできる対策
ここでは、薬の服用以外でこむら返りに効果的な対策についてお伝えします。
こむら返りに効くストレッチを行う
こむら返りの症状が起こったときには、日本医師会が推奨する以下のようなストレッチを行うことで、けいれんが治まりやすくなります。[5]
・座ってできるストレッチその①
両手で片足のつま先をつかみ、すねの方にゆっくりと引いてふくらはぎを伸ばします。
・座ってできるストレッチその②
つった方の足を立膝にし、両手でつま先とかかとを持ちます。そのままゆっくりと前方に体重をかけてふくらはぎを伸ばします。
・立って行うストレッチ
壁に両手をつき、体重をかけながらつった方の足のふくらはぎを伸ばします。
また、特にこむら返りが起こりやすいとされる、運動前や睡眠前にふくらはぎの筋肉を伸ばすようなストレッチを行っておくことで、血行が改善され予防効果が期待できます。
足のつりに予防効果の期待できる食べ物を摂取する
筋肉の伸び縮みに関わる、カルシウムやカリウムなどのミネラル(電解質)を多く含んだ食品をバランス良く摂取することで、こむら返りの予防効果が期待できます。またビタミンB1やアミノ酸の一種であるタウリンも筋肉の疲労回復に効果的な栄養素です。
カルシウムを多く含む食品…牛乳、チーズ、小魚など
カリウムを多く含む食品…果実や野菜、豆類、肉類、魚介類など
ビタミンB1を多く含む食品…豚肉、大豆、カリフラワー、ほうれん草など
タウリン…牡蠣やホタテ、あさりなどの魚介類
脱水に注意して適度な水分摂取を行う
運動・睡眠中は汗をかくことで体内の水分不足が起こりやすくなります。
こまめに水分補給を行い脱水を防ぐことで、こむら返りの予防につながります。水分ばかりを取るのではなく、スポーツドリンクや経口補水液なども利用して電解質も一緒に補うようにしましょう。
下半身を温める工夫をする
下半身の冷えにより血行不良が起こるとこむら返りが起こりやすくなります。緩めの靴下やレッグウォーマーを履いて足を温めるようにしましょう。また入浴や足湯も効果的です。同じ姿勢で長時間過ごすことを避けて、適度な運動やストレッチで筋肉の緊張をほぐして血流を促すことも冷えの改善につながります。
こむら返りに効く漢方薬についてよくある質問
ここでは、こむら返りに効く漢方薬についてのよくある質問について回答します。
こむら返りに即効性が期待できる漢方薬は?
こむら返りの治療に頻用される「芍薬甘草湯」は、服用後5分程度で効果が現われる場合が多く、即効性が期待できるとされています。
芍薬甘草湯の飲むタイミングはいつがいい?
芍薬甘草湯は、成人では1日7.5gを2〜3回に分割し、食前もしくは食間に水またはぬるま湯で服用します。ただし頓用で治療に用いられる場合も多くあるため、医師や薬剤師の指示に従って服用するようにしましょう。
芍薬甘草湯は毎日服用しても大丈夫?
芍薬甘草湯は長期に連用することで、偽アルドステロン症の副作用が起こる可能性もあるため、連用は避けて筋けいれん時の頓用が望ましいとされています。
妊婦のこむら返りに服用できる漢方薬は?
妊娠中は、栄養分が一部胎児に移行することや循環血流量の増加から、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが不足しがちです。合わせて、お腹が大きくなるにしたがって足の筋肉の負担が増加すること、運動不足による血行不良になりやすいことから、妊婦はこむら返りが起こりやすいとされています。
妊娠中でも「芍薬甘草湯」が処方される場合もありますが、まずはかかりつけ医に相談することが大切です。また服用する場合も、連用は避けましょう。
こむら返りで芍薬甘草湯が効かない場合は?
芍薬甘草湯を服用しても効かない場合や症状がくり返し起こる場合は、早めに医療機関を受診して検査をするようにしましょう。
例えば、併用薬による副作用の可能性や、糖尿病や甲状腺機能低下症、肝硬変、神経や筋肉の病気など他の疾患が隠れている可能性も考えられます。
YOJOでは漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。漢方薬の選択に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]石田和之(2013), 神経内科に役立つ漢方薬:症例と頻用処方 , 臨床神経学53 巻 11 号
[2]M.Kimura,et al.(1985), Depolarizing Neuromuscular Blocking Action Induced by Electropharmacological Coupling in the Combined Effect of Paeoniflorin and Glycyrrhizin ,Jpn Pharmacology 37(4) 395-399
[3]福岡県薬剤師会 甘草を含有する薬剤による偽アルドステロン症
[4]厚生労働省 偽アルドステロン症
[5]日本医師会 こむらがえり―足がつった時の対処法―