インフルエンザは麻黄湯で治る?飲み方の注意点や他の漢方薬も紹介

インフルエンザで寝込む女性

麻黄湯(まおうとう)はインフルエンザへの有効性が認められており、初期のインフルエンザに対して保険適応のある漢方薬です。
ただし「麻黄(まおう)」の生薬が多く含まれる処方のため、心血管疾患や胃腸障害のある方、虚弱体質の方の服用は推奨されません。
虚弱体質の方は麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、悪寒よりも熱感が強い方には銀翹散(ぎんぎょうさん)…というように、体質や症状、発症からの経過によって漢方薬を使い分けることが大切です。 

この記事では、麻黄湯の効果やその他の漢方薬の選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できます。

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インフルエンザと麻黄湯(まおうとう)

麻黄の生薬

インフルエンザの漢方治療で頻用される「麻黄湯(まおうとう)」。
インフルエンザウイルスの増殖を抑えて抗ウイルス効果を示す西洋薬とは異なり、麻黄湯は生体の免疫機能を調節する作用を中心にインフルエンザに効果を発揮するとされています。
ここでは、インフルエンザの治療と麻黄湯の効果について詳しくお伝えします。

インフルエンザの症状と西洋薬での治療法

インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発症する病気です。38℃以上の高熱や頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状が比較的速く現れるのが特徴です。併せて普通の風邪と同じように、のどの痛みや咳、鼻水などの症状も見られます。
小児の場合はまれに急性脳症、高齢者の場合は肺炎を合併して重症化するケースも報告されているため、早期の治療が大切です。[1]

インフルエンザの治療には、以下のような抗インフルエンザ薬が主に使用されています。[2]

薬剤名 特徴
タミフル®(オセルタミビル) 内服薬(カプセル・ドライシロップ)。治療は1日2回5日間服用する。生後2週間以降の乳幼児の服用も推奨されている。
リレンザ®(ザナミビル) 吸入薬。治療は専用の吸入器を用いて1日2回5日間吸入する。吸入困難な乳幼児は使用できず、小児は吸入ができると判断された場合に限る。
イナビル®(ラニナミビル) 吸入薬(粉末・懸濁用)。単回投与で治療が完結する。
ラピアクタ®(ぺラミビル) 点滴静注。単回投与で治療が完結する。内服や吸入薬の使用が困難な場合に選択される。
ゾフルーザ®(バロキサビル マルボキシル) 内服薬。単回投与で治療が完結する。新しい作用機序の薬でウイルスの消失速度が速く、周囲への感染リスクを減らす効果が期待できる。ただし、12歳未満の服用については推奨されていない。

これらの薬剤は、主に感染細胞内で新しく産生されたウイルスが細胞の外へと出ていくのを阻害してウイルスの増殖を抑制します。そのため、抗インフルエンザ薬は、ウイルスの増殖が比較的まだ少ない発症後48時間以内の使用が原則とされています。

インフルエンザ初期に麻黄湯の効果が期待できる理由

麻黄湯は、麻黄(まおう)・桂皮(けいひ)・杏仁(きょうにん)・甘草(かんぞう)の4種類の生薬から構成される漢方薬です。

・麻黄:発汗・発散作用があり、からだを温めて痛みを和らげる作用があります。また交感神経刺激薬のエフェドリンが含まれ、気管支を広げて咳を抑えます。
・桂皮:麻黄との組み合わせで発汗・発散作用の増強効果があります。
・杏仁:麻黄の働きを助けて咳や痰の症状を改善します。
・甘草:上記の生薬の調和をはかります。

麻黄湯がインフルエンザに効く作用機序についてはまだ完全には解明されていませんが、感染の初期にインフルエンザウイルスが増殖するのを抑制し、さらにサイトカインの産生を調節することで生体の免疫反応を高めることによる、二相性の反応で抗ウイルス効果を示していると考えられています。[3][4]

麻黄湯のインフルエンザ治療に対する有用性の報告は多くあり、初期のインフルエンザに麻黄湯は保険適応が認められています。

日本臨床内科医会インフルエンザ研究班の報告では、タミフル®やリレンザ®と比較したところ投与開始から解熱までの時間に有意な差は認めなかったとしています。[4]

また、順天堂大学が行ったランダム化比較試験では、麻黄湯の有用性について以下のように報告しています。[5]

麻黄湯単独群9名、タミフル単独群13名、リレンザ単独群が6名・麻黄湯+タミフル併用群が9名の4群で比較試験を行った。
・麻黄湯のインフルエンザ感染後の解熱作用は、抗インフルエンザ薬と同等だった。
・麻黄湯は、インフルエンザ感染後の頭痛、筋肉痛、咳、倦怠感の自覚症状において、抗インフルエンザ薬と同等の効果が認められた。
・関節痛に関しては、タミフル単独群よりも有意な改善効果が認められた。

結論として、麻黄湯は抗インフルエンザ薬と同等の効果を示した。
Mizue Saita.et al.,The efficacy of ma-huang-tang (maoto) against influenza,Health 3,2011;300-303

麻黄湯は、特に関節痛やふしぶしの痛みといったインフルエンザの全身症状が気になる方に効果が期待できます。

麻黄湯を飲む際の注意点

麻黄湯の主薬である麻黄にはエフェドリンが含まれており、交感神経を興奮させる作用があります。そのため、血圧を上昇させて心臓に負担をかけたり、不眠や精神興奮の副作用が起こる場合があります。特に高血圧や心臓病、脳卒中の既往など、心血管系に疾患をもつ方は慎重に服用するようにしましょう。高齢者や虚弱体質の方についても、麻黄湯の効能効果が強く出る可能性があるため、避けることが望ましいです。

また、麻黄湯はからだを温めて発汗を促す処方であるため、インフルエンザの急性期で「熱はあるものの発汗がなく、体力が充実して水分の摂取が可能な状態」に選択される漢方薬です。逆に食欲不振で水分摂取ができない状態の方が服用すると脱水や胃腸障害の悪化を引き起こす恐れがあるため服用は避けましょう。熱を下げる解熱鎮痛剤との併用も控えることがポイントです。

麻黄湯が証(体質)に合わない方は、無理に服用せずに次の章を参考に自身に合った漢方薬を選択するようにしましょう。

麻黄湯以外でインフルエンザに効果の期待できる漢方薬とその選び方

漢方生薬

インフルエンザに効く漢方薬としては「麻黄湯」が有名ですが、他にも効果の期待できる漢方薬は多くあり、体質や症状によって選択すべき処方は異なります。
ここでは麻黄湯以外の漢方薬について、それぞれの特徴と使い分け、服用時の注意点についてお伝えします。

【インフルエンザ感染初期で肩や首筋のこりがある方に】葛根湯(かっこんとう)

葛根湯は、からだを温めて発汗を促すだけでなく、肩や首筋のこりをほぐしてくれる作用があります。麻黄湯と同じく、熱はあるが汗はかいていない、悪寒がする、頭が痛いといった感染初期の症状に多く用いられます。

葛根湯は、感染早期にIL-12やIFN-γの産生を増強して細胞性免疫を活性化し、ウイルス増殖を抑制すると考えられています。一方でIL-1の過剰産生を抑制して解熱効果を示すため、全身性の炎症反応を抑制して肺炎への進行や重症化を防ぐ作用があります。[6][7]

配合生薬
葛根、大棗、麻黄、甘草、桂皮、芍薬、生姜

服用がおすすめな人
体力が中等度以上で、首筋や肩のこりや筋肉痛、頭痛の症状がある人
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
高血圧、心臓病、腎臓病、甲状腺機能障害のある方は服用前に相談しましょう
配合生薬の「麻黄」が心臓や血管に負担をかける可能性があります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
全身倦怠感や吐き気、黄疸、浮腫などがあらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【高熱があり口が渇いてのどが痛む方に】銀翹散(ぎんぎょうさん)

銀翹散は、熱を冷まし、炎症を抑えてのどの痛みを和らげる働きがあります。抗炎症作用をもつ「桔梗(ききょう・甘草(かんぞう)」のほかに、「金銀花(きんぎんか)・薄荷(はっか)・牛房子(ごぼうし)」といった熱を冷ます生薬が配合されています。悪寒よりも熱感を強く訴える方のインフルエンザ初期に効果的です。

配合生薬
連翹、金銀花、桔梗、薄荷、淡竹葉、甘草、荊芥、淡豆豉、牛蒡子

服用がおすすめな人
高熱や強いほてりがあると共に、のどが渇いて痛みがつらい人におすすめの漢方薬です。咳や頭痛などの症状にも効果が期待できます。

服用上の注意
虚弱体質の人や高齢者は慎重に服用しましょう
症状が悪化する可能性があります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。

【虚弱体質で悪寒やふしぶしの痛みがある方に】麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

麻黄附子細辛湯は、からだを温めて発汗を促したり、痛みを和らげたりする作用があります。「麻黄(まおう)」と共に、からだを温めて痛みを取る「附子(ぶし)・細辛(さいしん)」の生薬が配合されています。からだの弱い方のインフルエンザ初期で、悪寒がありふしぶしの痛みが強い症状に効果が期待できます。

配合生薬
麻黄、附子、細辛

服用がおすすめな人
麻黄湯が服用できない、体力のない高齢者や虚弱体質の人におすすめの漢方薬です。熱感は少なく冷えの訴えが強い、全身倦怠感や無気力を伴う人に向きます。

服用に注意が必要な人
高血圧、心臓病、腎臓病、甲状腺機能障害のある方は服用前に相談しましょう
配合生薬の「麻黄」が心臓や血管に負担をかける可能性があります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
全身倦怠感や吐き気、黄疸、浮腫などがあらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【食欲不振がありのどが痛む方に】小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)

小柴胡湯加桔梗石膏は、のどの腫れや痛みに多く用いられる漢方薬です。
からだの免疫機能を調整して炎症を抑えたり、胃腸機能を高めて病気の回復を助けたりする効果のある「小柴胡湯(しょうさいことう)」の処方に、消炎解熱作用のある「石膏(せっこう)」と去痰・排膿作用でのどの痛みに効く「桔梗(ききょう)」が配合されています。インフルエンザ感染の亜急性期~慢性期に向く処方になります。

配合生薬
柴胡、黄芩、石膏、桔梗、半夏、人参、甘草、生姜、大棗

服用がおすすめの人
体力中等度でのどの腫れや痛みがある人
におすすめの漢方薬です。発熱はあるが悪寒は無く、肋骨下部の張りがあるような人に向きます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
たとえば発熱や呼吸困難、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸などがあらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診しましょう。

食欲不振に効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

【薬剤師監修】食欲不振に効果の期待できる漢方薬5選!おすすめの養生法も解説

インフルエンザの漢方治療でよくある質問

Q&A

麻黄湯は小児でも服用できる?

麻黄湯は、小児でも服用できる漢方薬です。小児のインフルエンザに麻黄湯は抗インフルエンザ薬と同等の有効性が報告されています。[7]また乳児の鼻づまりに対しても、麻黄湯は高い効果が期待できます。 [8]
ただし、麻黄に含まれるエフェドリンの作用で、不眠や精神興奮の副作用が起こる可能性があります。小児が服用する場合は必ず保護者の指導監督のもと、用法用量を守って医師・薬剤師の指示どおりに服用させるようにしましょう。

麻黄湯は妊娠・授乳中でも服用できる?

麻黄湯を妊娠中に服用することは避けましょう。麻黄に含まれるエフェドリンの作用から、末梢循環が悪くなり胎盤への血流が悪くなる恐れがあります。[9]
授乳中に関しては、通常の用法用量をきちんと守り、乳児の睡眠状態を確認しながら服用すれば安全に使用できるとされています。[10]
ただし自己判断で服用することは避け、まずはかかりつけ医や薬剤師に相談することが大切です。

インフルエンザで葛根湯を飲んでも大丈夫?

上述のように、インフルエンザに葛根湯を服用しても問題ありません。葛根湯には、麻黄湯と同様に麻黄・桂皮の生薬が配合されており、抗インフルエンザ効果が期待できます。さらに葛根湯はIL-12とIFN-γの産生を亢進することで、ウイルス増殖を抑制する作用をもつことも報告されています。[11]

また、タミフル®やリレンザ®などの抗インフルエンザ薬と、葛根湯を併用しても問題ありません。
ただし、葛根湯を解熱鎮痛剤や他の漢方薬と併用する場合は、葛根湯の効果が減弱したり副作用の発現につながったりする可能性があるため注意が必要です。
葛根湯の飲み合わせについてさらにくわしく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

葛根湯と他の薬との飲み合わせを解説/ロキソニン・アレグラなどとの併用はOK?

麻黄湯にインフルエンザの予防効果はある?

麻黄湯のインフルエンザの予防効果については報告がありません。
インフルエンザの予防は、ワクチン接種やマスク着用・手洗いでの対策が基本です。
漢方薬では「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」がインフルエンザの予防に有効性を示すとの報告があり、特に高齢者を中心とした体力や食欲が低下している方のインフルエンザ予防に用いられる場合があります。[12]

インフルエンザの咳に効く漢方薬はある?

インフルエンザの咳症状にも麻黄湯は効果が期待できます。配合生薬の麻黄には、交感神経を興奮させ、気管支を広げることで咳を鎮めてくれる作用があります。
またインフルエンザの後に咳だけが長く残ることがあります。そのような咳には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」が効果的です。
ただし、漢方薬は体質や症状によっても選ぶべき処方が異なるので、咳に効く漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

咳に効く漢方薬とは?麦門冬湯以外の漢方薬や使い分けも解説

YOJOでは、体質に合った漢方薬や飲み合わせについての相談、生活習慣上のアドバイスも受けることができます。漢方薬の選択に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

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【参考文献】

[1]厚生労働省
[2]日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
[3]加藤士郎(2020),感冒の漢方治療,ファルマシア Vol. 56 No. 3
[4]インフルエンザ治療における麻黄湯の役割
[5] Mizue Saita.et al.,The efficacy of ma-huang-tang (maoto) against influenza,Health 3,2011;300-303
[6]菊池章子,各疾患と漢方薬のエビデンス 感冒・インフルエンザ
[7]池野一秀(2012),漢方と診療Vol.3 (4) 259-261
[8]福岡県薬剤師会
[9]福岡県薬剤師会,妊婦への投与に注意が必要な漢方薬
[10] 大分県『母乳と薬剤』研究会,母乳とくすりハンドブック
[11]西勝久(2009)インフルエンザに対する オセルタミビルと葛根湯の相乗効果,Phil漢方No.29
[12]秋葉哲生(2011)高齢者のインフルエンザ予防,漢方スクエア Vol.8(4)