花粉症・アレルギー性鼻炎に効く漢方薬とは?

花粉症の女性

花粉症やアレルギー性鼻炎に効く漢方薬は、主に水分代謝を整えたり炎症を抑えたりするような処方が用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。

・小青竜湯(しょうせいりゅうとう):水様の鼻水やくしゃみに効果
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう):冷えが強い虚弱体質な方の鼻炎に効果
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう):目・肌のかゆみや鼻づまりに効果
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)膿性の鼻水や熱感を伴う鼻づまりに効果

この記事では、花粉症やアレルギー性鼻炎に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できます。

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花粉症・アレルギー性鼻炎の原因と治療

花粉症カレンダー

アレルギー性鼻炎には、スギやヒノキ、ヨモギなどの花粉の飛散時期にのみ鼻炎症状が現れる「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」と、ダニやカビ、ホコリ、ペットなどが原因で時期を問わず鼻炎症状が認められる「通年性アレルギー性鼻炎」があります。

花粉症・アレルギー性鼻炎の症状の特徴

起こる症状としては、主にくしゃみや鼻水、鼻づまり、目鼻のかゆみなどです。特にくしゃみは発作的に連続して起こり、鼻水は無色で粘り気がなくサラサラしているという特徴があります。[1]また鼻粘膜が炎症して腫れることで鼻づまりが起こりやすくなります。

ただし、炎症が鼻の奥の副鼻腔まで達すると、副鼻腔炎や蓄膿症を発症し、ドロッとした粘性の臭いのある鼻水が出てくることもあります。

西洋薬での主な治療法

治療薬は重症度に応じて選択されますが、主に抗アレルギー薬の内服やステロイド点鼻薬などが用いられます。また、近年では、少量のアレルゲンを投与することでからだを慣らし、アレルギー症状を緩和する「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」も注目されています。[2][3]

薬剤名 特徴
抗ヒスタミン薬 即効性がある(特にくしゃみ、鼻水)。鼻づまりに効きにくい。眠気や口渇を伴うものがある。
ケミカルメディエーター遊離抑制薬 効果発現に時間がかかる(数日~2週間)。鼻づまりにもやや効果がある。眠気や口渇はない。
抗ロイコトリエン薬、抗トロンボキサン薬  鼻づまりに効果が高い。効果発現に時間がかかる(数日~4週間)。
ステロイド点鼻薬 強力で鼻づまり、くしゃみ、鼻水に有効。刺激になることがある。
アレルゲン免疫療法(皮下注・舌下錠) 治療を開始して数か月で効果が見られ始め、治療期間は3~5年かかる。治療終了後も長期間効果が持続する。

漢方で考える花粉症・アレルギー性鼻炎とは

漢方医学書と漢方生薬

漢方医学では、「肺は鼻に開竅(かいきょう)する」という言葉があり、鼻の異常は五臓の肺と関係があると考えられています。肺が弱まり皮膚や粘膜のバリア機能が低下することで、抵抗力が弱くなり鼻炎が慢性化してしまうのです。

また、漢方ではアレルギー性鼻炎の症状を大きく「寒型」「熱型」に分けて考えます。「寒型」は主にくしゃみや透明で水様の鼻水、浮腫や痰が多い(痰飲水腫)、寒がりなどの症状がある一方で、「熱型」は主に鼻づまりや黄色く粘稠性の鼻水、のどや皮膚のかゆみ、暑がりなどの症状があります。
「寒型」はからだを温める機能や水分代謝が低下することが原因で起こり、「熱型」はストレスや辛辣飲食(甘い・辛い・味の濃い飲食物)の摂取が原因で余分な熱が体内にこもりやすくなり起こると考えられています。[4]

漢方薬を治療に用いるメリット・デメリット

漢方薬は、西洋薬と比較して作用が穏やかで、症状によっては効果発現までに時間がかかる場合があります。一方で、西洋薬で起こりやすい眠気や倦怠感、集中力の低下などの副作用は起こりにくいです。特に抗ヒスタミン薬の多くは、副作用の発現から自動車運転や危険を伴う作業への注意喚起を受けるため、仕事上そのような作業が多い方にとっては漢方薬は服用しやすいでしょう。

また、漢方薬の種類によっては五臓の肺の機能を高めたり、水分代謝を改善したりする作用をもつ処方があるため、体質に合った漢方薬の服用を継続することで、症状が起こりにくい体質へと改善する効果が期待できます。

漢方薬を服用する際の注意点と効果的な飲み方

花粉症やアレルギー性鼻炎に用いられる漢方薬の多くは、からだを温める作用をもつ「麻黄(まおう)」や、抗炎症作用をもつ「甘草(かんぞう)」の生薬が配合されています。そのため、同様の生薬が配合されている漢方薬を併用することで、麻黄では不眠症や動悸、甘草では偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなるため注意しましょう。

また、花粉症やアレルギー性鼻炎への漢方薬は、その症状や原因が「寒型」か「熱型」かで選択するべき処方が異なります。次の章を参考に、サラサラした水様の鼻水やくしゃみが出る場合はからだを温める作用のある漢方薬、鼻づまりやドロッとした鼻水の場合は熱を冷ます作用のある漢方薬を選択しましょう。

花粉症・アレルギー性鼻炎に使用される主な漢方薬と使い分け

漢方生薬

ここでは、花粉症やアレルギー性鼻炎によく用いられる6種類の漢方薬と、体質・症状別の選び方や服用の注意点について詳しくお伝えします。

【水様の鼻水・くしゃみに】小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

小青竜湯は、からだを温めながら水分代謝を整える作用があり、水っぽい鼻水や痰、くしゃみなどの「寒型」タイプの症状によく用いられます。花粉症やアレルギー性鼻炎の治療で用いられる代表的な漢方薬です。

配合生薬の「麻黄(まおう)・桂皮(けいひ)」には発汗作用で水を発散させる働きや、肺の機能を高めて呼吸器機能を改善する働き(宣肺平喘)があります。[5]

配合生薬
麻黄、桂皮、細辛、半夏、五味子、芍薬 、乾姜、甘草 

服用がおすすめの人
体力が中等度で、「寒型」の花粉症・アレルギー性鼻炎の症状がある人
におすすめの漢方薬です。体質的に水分が多く鼻水や痰、涙が出るような人の風邪のひきはじめや鼻かぜにも向きます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の副作用で不眠や発汗過多、動機・頻脈などを引き起こす可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
たとえば発熱や呼吸困難、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸などがあらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診しましょう。

【胃腸が弱く小青竜湯が服用できない方に】苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)

苓甘姜味辛夏仁湯は、小青竜湯と同様に、水分代謝を整えたり呼吸器機能を改善したりする作用があります。
小青竜湯の「麻黄(まおう)・桂皮(けいひ)・芍薬(しゃくやく)」に代えて、「茯苓(ぶくりょう)・杏仁(きょうにん)」が配合されています。「麻黄」が配合されていないため、胃腸が弱い方や虚弱体質の方、高齢者の方にも服用しやすい処方となっています。

配合生薬
茯苓、甘草、乾姜、五味子、細辛、半夏、杏仁

服用がおすすめの人
体力中等度からやや虚弱体質で、胃腸が弱い人
の「寒型」タイプの花粉症・アレルギー性鼻炎におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。

【冷えが強く虚弱体質な方の鼻炎に】麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

麻黄附子細辛湯は、からだを温める作用が強い漢方薬です。高齢者や虚弱体質な方で悪寒や冷えが強い場合や全身倦怠感や無気力を伴う場合に処方されます。

配合生薬
麻黄、附子、細辛

服用がおすすめな人
虚弱体質の方や体力のない高齢者の鼻炎におすすめの漢方薬です。

服用に注意が必要な人
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の副作用で不眠や発汗過多、動機・頻脈などを引き起こす可能性があります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【目・肌のかゆみや鼻づまりに】越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)

越婢加朮湯は、粘膜や皮膚の炎症を抑えて、鼻づまりや目・肌のかゆみを緩和する作用があります。
越婢加朮湯には、小青竜湯の倍量の「麻黄(まおう)」が配合されており、さらに「石膏(せっこう)・蒼朮(そうじゅつ)」による利水効果も強いことから、炎症性浮腫に効果が期待できます。そのため、花粉症の鼻粘膜浮腫による鼻づまりや、結膜炎による目のかゆみ・流涙にも用いられます。[6]

配合生薬
石膏、麻黄、蒼朮、大棗、甘草、生姜

服用がおすすめの人
体力中等度以上でむくみや尿量減少のある人
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の副作用で不眠や発汗過多、動機・頻脈などを引き起こす可能性があります。

花粉症やアレルギー性鼻炎の症状に伴い、アトピー性皮膚炎の症状が悪化することがあります。越婢加朮湯はアトピー性皮膚炎や湿疹の治療にも用いられる漢方薬です。その他にもアトピー性皮膚炎に効果の期待できる漢方薬について知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

アトピー性皮膚炎の漢方治療とは?漢方薬の選び方やおすすめ養生法も解説

【強い鼻づまりがある方に】葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)

漢方ではからだが冷えて余分な水分がたまると、その余った水が鼻におよんで血行が滞り、鼻の通りが悪くなると考えます。

葛根湯加川芎辛夷は、冷えによってたまった水の発散を促して、鼻づまりを改善する作用があります。からだを温める「葛根湯」の処方を基本に、鼻通りを良くする「辛夷(しんい)」や、辛夷と合わせることで鼻腔の消炎排膿の作用が強まる「川芎(せんきゅう)」が配合されています。[5]

配合生薬
葛根、麻黄、桂皮、芍薬、甘草、大棗、生姜、辛夷、川芎

服用がおすすめな人
体力が中等度以上でやや粘性のある鼻水が出る人
におすすめの漢方薬です。頑固な鼻づまりや頭重感がある場合に多く用いられ、副鼻腔炎や慢性鼻炎の治療にも使用されます。

服用に注意が必要な人
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の副作用で不眠や発汗過多、動機・頻脈などを引き起こす可能性があります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【膿性の鼻水や熱感を伴う鼻づまりに】辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

辛夷清肺湯は、こもった熱を発散させる作用や呼吸器を潤す作用があります。炎症による熱感があり、膿性の鼻水や鼻づまりといった「熱型」タイプの症状に多く用いられます。

熱を冷ます作用のある「石膏(せっこう)・知母(ちも)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)」などの生薬のほか、粘膜を潤して鼻水や痰の排せつを促す「麦門冬(ばくもんどう)・百合(びゃくごう)」、鼻の通りを良くする「辛夷(しんい)」といった9種類の生薬が配合されています。

配合生薬
辛夷、枇杷葉、升麻、知母、麦門冬、百合、石膏、黄芩、山梔子

服用がおすすめの人
体力中等度以上で、熱感を伴うようなドロッとした黄色い鼻水が出る人
鼻づまりがつらい人におすすめの漢方薬です。慢性鼻炎や副鼻腔炎の鼻づまりにも用いられます。

服用上の注意
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

黄色いドロッとした鼻水が1か月以上続き、鼻づまりや嗅覚障害を起こしている場合は、副鼻腔炎の可能性があります。悪化する前に早めに耳鼻科を受診するようにしましょう。

副鼻腔炎に用いられる漢方薬ついてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

副鼻腔炎(蓄膿症)に効くおすすめの漢方薬とは?

花粉症・アレルギー性鼻炎の漢方薬でよくある質問

Q&A

小青竜湯と抗アレルギー薬を併用しても問題ない?

小青竜湯は、西洋薬の抗アレルギー薬と併用しても問題ありません。
また併用することで相乗効果や副作用の軽減が期待できる場合もあります。[7]

特に抗ヒスタミン薬では眠気や集中力の低下などの副作用が報告されていますが、交感神経刺激作用をもつ「麻黄(まおう)」を主剤とする漢方薬と併用することでそれらの副作用が軽減できる可能性があります。

また、他の薬と小青竜湯との飲み合わせについてさらに知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

小青竜湯の飲み合わせで禁忌のものは?他の漢方薬や風邪薬との併用も解説

妊娠・授乳中に花粉症で漢方薬を服用しても問題ない?

妊娠・授乳中に漢方薬を服用する場合は、まずは医師や薬剤師に相談しましょう。漢方薬に配合される生薬によっては、妊娠に影響が起こる可能性や乳汁への移行が報告されているものもあります。
例えば、花粉症・アレルギー性鼻炎の症状に使用される漢方薬には「麻黄(まおう)」が含まれている処方が多いです。麻黄は、エフェドリンの作用から末梢循環が悪くなり胎盤への血流が悪くなる恐れがあるため、妊娠中は原則避けることとされています。[8

花粉症で起こるのどの違和感や咳に効く漢方薬は?

花粉症を含むアレルギー性鼻炎では、鼻の症状だけではなく、のどの違和感や咳の症状が問題となる場合もあります。アレルギー性鼻炎は、他のアレルギー疾患、特に気管支喘息との関係が深いことが報告されています。[2]
漢方では、アレルギー性鼻炎も気管支喘息も同じアレルギー疾患であることから、アレルギー性鼻炎に軽い咳を伴う場合は小青竜湯、強い咳や喘息には麻杏甘石湯や五虎湯が用いられます。[7]

花粉症に小青竜湯が効かない場合は?

小青竜湯は花粉症に対して多く用いられる漢方薬ですが、体質や症状によっては合わない可能性があります。例えば目や鼻の粘膜の炎症が悪化している場合は清熱作用の乏しい小青竜湯では対処できません。また体質に合わない人が漫然と服用することで、「麻黄」の副作用で胃腸障害や不眠などの症状が発現する可能性があります。
効かない場合は服用を中止し、医師や薬剤師に相談しましょう。

YOJOでは、体質に合った漢方薬や飲み合わせについての相談、生活習慣上のアドバイスも受けることができます。花粉症やアレルギー性鼻炎の症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

体質チェックをはじめる

【参考文献】
[1] 一般社団法人日本アレルギー学会 アレルギーポータル
[2] 一般社団法人日本アレルギー学会 アレルギー疾患の手引き
[3] 鳥居薬品株式会社 アレルゲン免疫療法を知ろう
[4] 中田薫(2022),アレルギー性鼻炎本治 (鼻炎の症状を軽減する治療を一切行わない)26例,Phil漢方No.87
[5]高山宏世,東洋学術出版社
[6]今中政支(2009),スギ花粉症に対する漢方薬併用療法の臨床効果, 日本東洋医学雑誌, Vol.60(6)611-616
[7]金子達ら(2010)アレルギー性鼻炎、とくに花粉症の漢方併用療法について, Phil漢方No.29
[8] 福岡県薬剤師会,妊婦への投与に注意が必要な漢方薬