アトピー性皮膚炎の漢方治療とは?漢方薬の選び方やおすすめ養生法も解説

アトピー性皮膚炎が痒い子ども

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下し、強いかゆみをともなう湿疹が悪くなったり良くなったりを繰り返す皮膚の病気のことです。
アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用剤などの抗炎症外用剤の使用が基本ではあるものの、漢方薬が治療に用いられて効果を発揮することも少なくありません。

この記事では、

・アトピー性皮膚炎で漢方はどのようなときに使用されるのか
・漢方の視点からみたアトピー性皮膚炎の状態とは
・体質別、症状別の漢方薬の選び方
・漢方薬以外の養生法

について詳しくお伝えします。

アトピー性皮膚炎の治療で悩まれている方や漢方薬について知りたい方はYOJO薬剤師にご相談ください。

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アトピー性皮膚炎とは~漢方で整える~

アトピーがかゆい子ども

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021によると、アトピー性皮膚炎とは、悪くなったり良くなったりを繰り返す、かゆみのある湿疹をいいます。また、急性期と慢性期でも症状が多少異なります。

急性期:赤い斑状の皮疹ができ、水ぶくれやブツブツが顔、からだ、手足などに左右対側性に広がり、掻きむしると滲出液が漏出しジクジクしてきます。
慢性期:かゆみが強くなり皮膚がゴワゴワと分厚くなる苔癬化や、皮膚の乾燥が目立つようになります。

アトピー治療でどんな時に漢方薬は使われるの?

漢方生薬

アトピー性皮膚炎の治療の3本柱は「スキンケア」「悪化因子の除去」「ステロイドなど西洋薬での薬物療法」です。しかし、これらを中心に治療を行っても思うように改善しない場合、補助的薬剤として漢方薬が使用されることがあります。
漢方薬のなかには、炎症を鎮めたり、かゆみを和らげたりする働きをもつものがあります。また、アトピー性皮膚炎を悪化させやすい体質を改善してくれる効果が期待できるものもあることから、他の治療法と併用することで、西洋薬の減量や投与期間の短縮につなげられる場合があるのです。

アトピー治療での漢方とステロイドの上手な使い方

軟膏ツボ

アトピー性皮膚炎の標準治療薬はステロイド外用剤です。ステロイド外用剤を使用することで、皮膚の炎症を速やかに抑えることができます。 皮膚は炎症を起こすとヒスタミンやサブスタンスPなどのかゆみを引き起こす物質を放出します。
つまり、早期に炎症を抑えることで、かゆみの軽減だけでなく、掻き壊しによる症状の悪化を防ぐことができるのです。
ステロイドは、長期に使用することで、皮膚委縮や毛細血管の拡張、ニキビ(ステロイドざ瘡)などの局所性副作用を引き起こすことが知られています。そのため、ステロイドの使用を避けて治療を行うことを希望される方もいますが、ステロイドは処方医の指示通りに正しく使用すれば、副作用が起こることはほぼありません。

ステロイドを中心とした抗炎症外用剤を使用しながら、体質や症状に合った漢方薬を併用することで、治療の効果をより高めることができます。

アトピー性皮膚炎の治療薬やその正しい使い方について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

アトピー性皮膚炎の薬と治療法とは?近年の新薬についても解説

アトピー性皮膚炎の患者さまにYOJOでアンケート調査

適切な漢方薬を選択するためには、その人の体質や皮膚の状態、どのような時に症状が悪化するかなどをきちんと確認することが大切です。
YOJOで10~60代のアトピー性皮膚炎患者さま男女47名に行ったアンケート調査では、以下のような回答が得られました。(YOJO調べ:2022年11月~2023年8月患者さま回答)

アンケートからも、アトピー性皮膚炎の患者さまはストレスでのかゆみの悪化(1位:96%)や肌の乾燥(2位:94%)に悩まれている方が多いことがわかります。
また、湿疹やかゆみといった皮膚の症状だけでなく、疲れやすさ(5位:76%)を訴える方も多くいらっしゃいました。

アトピー性皮膚炎を漢方から考える

漢方と人体

漢方では「皮膚は内臓の鏡」とされます。そのため、体内の「気・血・水」や「五臓」のアンバランスを解消することで、皮膚の状態を改善していきます。さらに皮膚病の多くは、もともとの体質だけでなく「六淫」と呼ばれる病邪が身体の内側に入り込むことも原因の一つと考えられています。
つまり、アトピー性皮膚炎の治療では、体質を整えることと、病邪を取り除くことの両方を同時に行うことがとても大切です。

気・血・水

気血水

漢方では、「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の3つの要素がバランス良く体内を巡ることで、からだの健康が維持できると考えられています。

「気」:生命活動のエネルギー源
「血」:全身を巡る血液やその栄養
「水」:血液以外の体液

アトピー性皮膚炎の方の場合、「気」が先天的に不足している傾向にあります。
たとえば、「気」が不足すると、 防御能の低下から皮膚バリア機能が低下して外界からの刺激に反応しやすくなったり、生命活動が低下して「血」や「水」の生成不足につながったりします。
「血」が不足すると、全身に栄養が行き届かなくなるために、皮膚の乾燥やかゆみ、乾燥した皮膚がポロポロとはがれる落屑などがみられます。
「水」が不足すると、全身に潤いを与えられなくなるために、皮膚が乾燥したり肌のハリが失われてザラついたり、患部の赤みやほてりなどの熱症状がみられたりします。

五臓(肝・心・脾・肺・腎)

五臓

漢方では、自然の要素を「木・火・土・金・水」の5つの要素に分けて考えます。そしてヒトもまた自然界の一部であると考え、人体の働きを自然と同じ5つに分けたものを五臓「肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)」といいます。

「肝」:気を巡らせて、血を蓄えます。自律神経や感情のバランスを整えます。
「心」:血を巡らせて、精神をコントロールします。からだ全体を統括する役割もあります。
「脾」:西洋医学の消化器官や脾臓を指し、消化吸収を通してエネルギーを作り出す役割を担っています。
「肺」:呼吸を調節して、気・血・水を全身に行き渡らせます。皮膚や免疫機能、水分代謝などとも関わりがあります。
「腎」:水分代謝の働きを担うほか、ヒトの成長・発育・生殖などにも関わるとされます。

アトピー性皮膚炎の方の場合、特に「脾」と「肺」と「腎」の機能低下が大きく関与しているケースが目立ちます。

「脾」の働きが低下すると、食物の消化吸収がうまくできなくなり、皮膚に栄養を届ける血液や津液を生成できなくなります。
「肺」の働きが低下すると、皮膚の潤いやツヤが失われ、防御能の低下から皮膚バリア機能も低下し、外部刺激の影響を受けやすくなります。逆に水代謝が落ちることで過剰な水分が皮膚に停滞した場合は炎症を引き起こすこともあります。
「腎」は水分代謝のほか、老化や発育などにも関与しているため、働きが弱れば健康な皮膚を維持できなくなります。

また、アトピー性皮膚炎では皮膚症状そのものがストレスとなり、「肝」の働きに影響を与えるケースも多く見られます。

六淫(風・寒・暑・湿・燥・熱)

六淫

六淫(りくいん)とは、病気の原因となる6つの邪気をいい、「風邪(ふうじゃ)・暑邪(しょじゃ)・火邪(かじゃ)・湿邪(しつじゃ)・燥邪(そうじゃ)・寒邪(かんじゃ)」をさします。

「風邪」:年間を通して現われ、その季節特有の邪気を伴って人体に影響を及ぼします。激しい気温差や強いストレスで症状が悪化することも多いです。代表的な不調にカゼ(感冒)があります。

「暑邪」:夏に起こりやすく、熱でからだの潤いやエネルギーを消耗させ、気血水のバランスを乱します。代表的な不調に夏バテや熱中症などが挙げられます。

「火邪」:火邪は、暑邪と同じく気温が高い時期に暑邪の影響を長期間受けることで起こります。からだの一部が炎症や化膿を起こします。

「湿邪」:梅雨の時期に起こりやすく、湿気が五臓の「脾」に影響を与えやすくなります。代表的な不調に倦怠感や低気圧頭痛、下痢、むくみなどがあります。

「燥邪」:秋に起こりやすく、乾燥した空気が体内や皮膚の水分を奪うことで「肺」にも影響を与えます。代表的な不調に空咳や皮膚の乾燥があります。

「寒邪」:冬に起こりやすく、からだを冷やして気血水のバランスを乱します。冷えはからだの防御能や新陳代謝を低下させて、痛みや月経トラブルなども引き起こします。

アトピー性皮膚炎において、六淫は根本的な原因ではないものの、症状を誘発したり悪化させたりする一因となります。 アトピー性皮膚炎の状態が季節によって異なる場合があるのもこのためです。
例えば、「燥邪」や「風邪」は皮膚の乾燥かゆみを引き起こしやすくしたり、「湿邪」は皮膚表面に水を停滞させてジクジクした分泌液の出る状態炎症を誘発したりします。「暑邪」や「火邪」 は、熱による皮膚の赤み乾燥を引き起こすほか、化膿しやすくかゆみの強い状態を起こしやすくします。

ご自身の体質や状態について相談したい方はYOJOの体質チェックをご利用ください。

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ここからは、アトピー性皮膚炎の治療で使用されることのある、具体的な漢方薬についてご紹介します。

アトピー性皮膚炎の急性期の漢方処方~赤みやジクジク肌の方~

赤くジクジクする肌

アトピー性皮膚炎の、特に急性期では赤みの強い炎症反応や、滲出液が漏出してジクジクした状態が目立ちます。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

黄連解毒湯には、 からだを冷やして余分な熱を取り、炎症を鎮める作用があります。皮膚炎に対しては、特に滲出液が多く、皮膚表面のかゆみや赤みが強いなど、湿熱症状を伴う状態に選択されます。[1] また、ストレスで悪化するような皮膚トラブルにも効果が期待できます。

黄連解毒湯は「黄連(おうれん)・黄柏(おうばく)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)」の4種類の生薬から構成されており、すべての生薬に消炎・解熱作用をもちます。さらに黄連、山梔子は鎮静作用が強く、自律神経系の興奮を抑える作用があります。

また、黄連解毒湯は炎症性サイトカインであるTh1/Th2 バランスを改善することで、アレルギー反応を抑える可能性も報告されています。[2]

服用がおすすめな人
体力は中等度以上で、のぼせ気味で顔が赤く、イライラして落ち着かない人、時に鼻血などの出血傾向がある人に向きます。イライラで悪化するような皮膚トラブルや皮膚のかゆみにおすすめの漢方薬です。

服用に注意が必要な人
冷えや疲労感のある人
虚弱体質の人

服用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

消風散(しょうふうさん)

熱や水の巡りが滞ると、炎症が悪化してさらに血の巡りも悪くなり、皮膚に必要な栄養分が届かないために症状が長引くと考えられています。消風散には、水の巡りを整えて血の巡りを良くすることで、滲出液の多い皮膚の状態を改善して炎症やかゆみを抑える作用があります。

消風散の配合生薬である「石膏(せっこう)」には炎症を鎮める作用があります。また「地黄(じおう)・当帰(とうき)」は血液を補い、皮膚に必要な栄養を運んで潤いを与え、「蒼朮(そうじゅつ)・木通(もくつう)」が炎症を起こしている過剰な水分の排出を促します。

消風散についても、炎症性サイトカインであるTh1/Th2 バランスを改善することで、アレルギー反応を抑える可能性が報告されています。[2]

服用がおすすめな人
体力は中等度以上で、かゆみが強くて分泌物が多く、熱感をもつような症状のある人に向きます。夏場や高温多湿な時期に悪化するような皮膚炎におすすめの漢方薬です。

服用に注意が必要な人
胃腸が弱く下痢しやすい人
虚弱体質の人

服用上の注意
複数の漢方を長期に服用する場合は注意しましょう

「甘草」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は偽アルドステロン症やミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
輸入漢方薬に注意しましょう
「木通」の原料となる植物は日本と中国で異なり、日本薬局方品(アケビ・ミツバアケビの茎が原植物)の場合は問題ありませんが、中国産で最も繁用される関木通には腎毒性物質を含む植物が使用されていることがあります。[3] 

他にも、赤みやほてりが強く乾燥もある場合には白虎加人参湯、赤みと湿潤が強い場合は越婢加朮湯、毛嚢炎様皮疹には十味敗毒湯などが使用されることもあります。

アトピー性皮膚炎の慢性期の漢方処方~かゆみやカサカサ肌の方~

乾燥でかゆい肌

アトピー性皮膚炎の、特に慢性期では炎症のほかに強いかゆみ皮膚がカサカサする乾燥状態が目立つようになります。

温清飲(うんせいいん)

皮膚に熱がこもると炎症やかゆみを生じます。また、栄養や潤いを届ける血が滞ると、皮膚の乾燥や炎症は悪化します。
温清飲は、「四物湯」と「黄連解毒湯」の合剤です。そのため、血行を改善してからだの内側を温める作用(四物湯)と、こもった熱を放出してからだの外側を冷ます作用(黄連解毒湯)の両方の働きがあります。
温清飲は、皮膚の慢性炎症や神経症に伴う皮膚の乾燥に対して、血流改善とともに皮膚に潤いを与え、炎症を鎮めていく漢方薬です。

配合生薬の「当帰(とうき)・地黄(じおう)・川芎(せんきゅう)」にホルモンバランスを整える作用があり、生理不順などで悪化する皮膚炎や皮膚トラブルに効きやすいと考えられています。

服用がおすすめな人
体力は中等度で虚弱ではないものの、皮膚がカサカサして色つやが悪く、のぼせやすい人に向きます。

服用に注意が必要な人
胃腸が弱く下痢しやすい人
食欲不振や吐き気、嘔吐や下痢などの症状を起こすことがあります。

服用上の注意
間質性肺炎の副作用に注意しましょう
発熱、咳、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)などの症状があれば間質性肺炎の疑いがあります。服用を中止し速やかに受診しましょう。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

当帰飲子(とうきいんし)

当帰飲子は、血の不足を補って、からだに栄養を巡らせる作用があります。肌は栄養が不足すると潤いが低下して乾燥します。乾燥肌になると、皮膚バリア機能が低下し外界からの刺激に敏感になり、炎症を起こしやすくなってしまいます。
当帰飲子は補血剤として皮膚の乾燥を改善し、バリア機能を高めることで、乾燥が原因で生じるかゆみにも効果が期待できます。

当帰飲子には、血虚を改善する基本処方の「四物湯」が中心です。 配合生薬の「当帰・地黄・川芎」 が血を補いからだの栄養状態を改善します。さらに「黄耆(おうぎ)・甘草(かんぞう)」が肺の機能をサポートして、皮膚の機能を高めてくれます。「防風(ぼうふう)・荊芥(けいがい)」には有効成分を皮膚の表面に向けて発散させていく作用があり、皮膚の乾燥から生じたかゆみを軽減します。

服用がおすすめな人
あまり体力のない冷え性の人に向きます。高齢者のカサカサした乾燥肌のかゆみに使われる代表的な漢方薬です。分泌物が少なく、発赤が淡くてかゆみがある湿疹にも適します。 

服用に注意が必要な人
胃腸が弱く下痢しやすい人

服用上の注意
複数の漢方を長期に服用する場合は注意しましょう

「甘草」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は偽アルドステロン症やミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
間質性肺炎の副作用に注意しましょう
発熱、咳、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)などの症状があれば間質性肺炎の疑いがあります。服用を中止し速やかに受診しましょう。

他にも、乾燥や落屑にはヨクイニンなどが使用されることもあります。

アトピー体質を改善に導く漢方処方~気虚タイプの方~

のびをする女性

アトピー性皮膚炎の方は、大人も子どもも胃腸虚弱で「気」の異常がある場合が多いとされています。[4]

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

補中益気湯は、胃腸機能(脾)を高めることで、全身の気力を補う作用のある漢方薬です。
配合生薬の「人参(にんじん)・生姜(しょうきょう)」には、からだを温めて代謝を活性化し、胃腸機能の働きを良くする作用があります。処方全体として、消化管や肺の機能を高めて身体を整える生薬が配合されています。

また、補中益気湯には、腸管免疫を高めて Th1/Th2 バランスの異常を改善し、かゆみや炎症などのアレルギー反応を抑えることが報告されています。つまり、過剰なTh2 反応を抑制してTh1反応に傾けることで、かゆみを引き起こす原因となるIgE抗体の産生やサイトカインIL-4の活性化を抑制して、アレルギー反応を抑制するとされています。[5]
漢方療法の EBM(Evidence-Based Medicine;根拠に基づく医療) については、多施設共同二重盲検ランダム化比較試験により、気虚をともなうアトピー性皮膚炎患者に補中益気湯を併用することで、外用ステロイド剤使用量を減量できたという報告があります。[5]

服用がおすすめな人
疲れやすさや倦怠感のある虚弱体質の人
に向きます。胃腸の調子を整えて不調を改善したい人におすすめです。

服用上の注意
複数の漢方を長期に服用する場合は注意しましょう

「甘草」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は偽アルドステロン症やミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
間質性肺炎の副作用に注意しましょう
発熱、咳、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)などの症状があれば間質性肺炎の疑いがあります。服用を中止し速やかに受診しましょう。

脾を高めて気を補う処方には他にも十全大補湯や、脾を補い、発汗のコントロールもする黄耆建中湯桂枝加黄耆湯などが用いられることもあります。

ストレスで悪化するアトピー症状への漢方処方

イライラする女性

長期間のストレスは、免疫系の機能の低下を招きます。 また、過度のストレスは自律神経系のバランスを乱して、皮膚の乾燥やかゆみを引き起こすことがあります。 イライラ時の皮膚の掻き壊しも、肌バリア機能を低下させ症状を悪化させる原因です。

加味逍遙散(かみしょうようさん)

加味逍遥散は、血の不足を補うことで、滞っていた気の巡りを良くする働きがあります。そのためイライラや不安、不眠といった神経症状に効果的です。
配合生薬の「当帰・芍薬・牡丹皮」といった生薬が血行を促進します。「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。

服用がおすすめな人
虚弱体質で体力が中等度以下の人
におすすめの漢方薬です肩こりや冷え、疲労感などがある場合にも効果が期待できます。

服用に注意が必要な人
胃腸が弱く下痢しやすい人
食欲不振や吐き気、嘔吐や下痢などの症状を起こすことがあります。

服用上の注意
妊娠中の人は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

ストレスが原因で悪化するアトピー性皮膚炎には、他にも柴胡加竜骨牡蛎湯抑肝散、四逆散などが使用されることもあります。
また、自律神経を整える漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

自律神経を整える漢方薬とは?体質別の選び方やおすすめケアも解説

皮膚の黒ずみや生理前に悪化するアトピー症状への漢方処方~瘀血タイプの方~

皮膚の黒ずみが気になる女性

アトピー性皮膚炎が長期化すると血の流れが悪くなることがあります。その結果、皮膚が黒ずんだり、表皮が肥厚してザラザラと硬くなったりします。また、生理前にアトピー症状が悪化する場合や、生理不順や生理痛などのPMS(月経前症候群)が強いといった場合も、血の巡りを整えることで改善することがあります。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

桂枝茯苓丸は、血の巡りを整えて全身に栄養を行き渡らせる作用がある代表的な駆瘀血剤です。血行不良から起こる湿疹・皮膚炎、しみ、PMS症状に効果が期待できます。
配合生薬の「桂皮(けいひ)」がからだを温め、さらに「桃仁(とうにん)・牡丹皮(ぼたんぴ)」といった生薬が血の巡りを改善します。

服用がおすすめな人
比較的体力があ
る人におすすめの漢方薬です。

服用に注意が必要な人
虚証タイプの人
胃腸が弱い人、疲れやすい人、からだの抵抗力が弱っている人は効果が強くでて合わない場合があります。

服用上の注意
妊娠中の人は服用を避けましょう
「桃仁・牡丹皮」が血行を強く促進するため、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。

皮膚の黒ずみには他にも荊芥連翹湯や、駆瘀血剤として体質に合わせて桃核承気湯当帰芍薬散などの漢方薬が選択される場合もあります。また、PMSに効果が期待できる漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

PMS(月経前症候群)に漢方は有効?選び方や生活アドバイスも解説

このように、アトピー性皮膚炎の方への漢方処方は、ともとの体質だけでなく、現在の肌状態や他に気になる症状はあるか、どのような時に症状が悪化するかなどによっても変わってきます。
ご自身に合った漢方薬が分からない方や相談したい方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。まずは無料の体質チェックから始めてみましょう。

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アトピー性皮膚炎の漢方以外でできる養生法

ポイント

アトピー性皮膚炎の状態をコントロールして悪化させないためには、漢方薬だけでなくスキンケアや悪化因子の除去、食事なども意識することが大切です。

アトピー性皮膚炎の肌の特徴

健常な肌とアトピー性皮膚炎の肌

アトピー性皮膚炎の方は、肌のバリア機能が健康な人よりも非常に弱く、アレルゲンや細菌、外界からの刺激などの影響を受けやすくなっています。さらに、肌の水分を保持する力も弱く、乾燥しやすい状態です。

スキンケアのポイント

シャワーする男性

・入浴時の湯船やシャワーの温度は38~40℃にする
お湯の温度は、皮膚バリア機能に影響を与えない「38~40℃」にしましょう。42℃以上の高温では熱刺激でかゆみが出たり、皮脂などが溶け出してさらに乾燥しやすくなったりします。入浴剤が刺激になることもあるので注意が必要です。

・洗う時や入浴後にからだを拭く時には肌を擦らないようにする
ナイロン製のタオルやスポンジは、洗浄時に肌への刺激になるため避けた方が良いでしょう。洗う時は素手や刺激のない柔らかい素材のものを使ってやさしく洗います。また、からだをゴシゴシと擦って拭かないように注意します。

・入浴後はできるだけ早く保湿剤を塗って、皮膚の乾燥を防ぐ
保湿剤を1日数回は塗って、肌に水分を補給することが大切です。
特に入浴後は乾燥しやすい状態のため、からだを拭いた後は10分以内を目安に塗るようにしましょう。

・汗をかく時期にはこまめに肌を拭く
アトピー性皮膚炎の方は、一般に汗をかきづらい傾向にあることが分かっています。汗が減ってしまうと皮膚温の上昇や肌の乾燥を招く原因になります。一方で、汗をかいてそのままにしておくと、汗自体が刺激になったり、雑菌が増殖して症状が悪化したりする場合もあるので注意が必要です。

悪化因子の除去

掃除する女性

・部屋の掃除はこまめに行う
皮膚を掻いたあとのフケやホコリがたまるとダニが繁殖しやすくなるため、できれば1日1回掃除機をかけるようにしましょう。

・部屋の換気をする
部屋の換気をこまめに行うことで、空気中のアレルゲンを除去することができます。できれば1日数回、きれいな空気が入ってくる窓を10分以上開けるようにしましょう。

食事のポイント

バランス良く食事を取る女性

・肌に良い栄養成分をバランス良く摂取する
アトピー性皮膚炎の方でも、特定の食物アレルギーがあると検査で判明されない限り、特別な食事制限は必要ありません。毎日の食事から、「主食」「主菜」「副菜」をバランス良く摂取しましょう。

・かゆみを悪化させる食物は避ける
アルコールや香辛料などの刺激物は、かゆみを誘発させるため、過剰な摂取は避けた方が無難です。また、チョコレートやコーヒー、もち米、砂糖、脂っこいもの、味が濃いものはかゆみを悪化させる原因となることがあります。個人差があるため、思い当たる場合は注意しましょう。漢方の考え方では、これらの食べ物は「湿熱」をため込みやすく、炎症の原因となったり胃腸に負担をかけたりするため控えた方が良いとされています。

服装のポイント

洗濯もの

・衣服も清潔に保つ
スキンケアだけでなく着用する衣類もきれいに洗濯をして、汗をかいたり汚れたりしたら、着替えるようにしましょう。また洗濯時には、洗剤が残らないようにしっかりとすすぎ洗いをします。粉末よりも液体洗剤の方が溶け残りがないためおすすめです。

・締め付けのないゆったりとした衣服を着用する
ゴムなどによる締め付けがかゆみを引き起こす原因になることもあります。直接肌に触れるような肌着や靴下などは、肌触りが良く、締め付けの少ないものを選びましょう。

皮膚を刺激する素材は避ける
冬の時期のウール素材やチクチクする素材洗濯を繰り返して肌触りが悪くなった衣服は刺激になるため避けます。また、厚労省の報告によると、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸で染色した繊維(フタロシアニン下着)には、かゆみを軽減する効果があることが分かっています。この繊維には、多くのアトピー性皮膚炎の方が過敏性を示す汗の成分を除去する作用もあることが分かっています。[6]

アトピー性皮膚炎の原因や対策についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もお読みください。

アトピー性皮膚炎とは?原因と治療法やスキンケアのポイントについても解説

【参考文献】
[1]桜井 みち代ら (2009) 漢方薬が奏功した脂漏性皮膚炎の5症例,日本東洋医学雑誌, 60 (2),155-159.
[2] 稲垣直樹ら (2008) ,天然薬物の免疫調節作用, 日薬理誌,131,240-243
[3]厚生労働省 医薬品・医療用具等安全性情報 No.200
[4]二宮文乃ら (2009) アトピー性皮膚炎の漢方治療を巡って, 日本東洋医学雑誌, 60 (3),219-252.
[5]アトピー性皮膚炎と漢方薬~補中益気湯を中心に~
[6] 厚生労働省科学研究費研究班(平成17~19年度)「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」作成