「漢方薬に興味はあるけど、苦いのが苦手」「食前・食間いつ飲めばいいの?」など、漢方薬に対する苦手意識や疑問を持つ方もいるかもしれません。漢方薬を効果的に服用するためには、正しい飲み方や上手な服用方法、そして注意点を理解することが重要です。
この記事では、
漢方薬の飲み方・上手に飲むコツ
漢方薬の飲み方の注意点
漢方薬を飲むタイミング
漢方薬の正しい保管方法
について詳しく解説します。
Contents
漢方薬とは?漢方薬の剤形によって飲み方も違う?
漢方とは、中国から伝来した伝統医学を基に、日本で工夫や改良が重ねられ、独自に発展してきた医学のことです。広い意味では、鍼灸治療なども含まれますが、一般的には、漢方薬を用いた薬物療法のことを指します。
漢方で使用される薬は漢方薬と呼ばれ、西洋医学の薬が化学合成されたものであるのに対し、漢方薬は植物、動物、鉱物などの天然素材を加工した生薬(しょうやく)を組み合わせて作られています。漢方薬のもともとの形は、生薬そのものを煎じる煎じ薬でしたが、現在は手軽に使用できる顆粒状や粉末状の「エキス剤」が一般的になっています。また、煎じ薬やエキス剤以外にも、丸剤や散剤などの剤形があります。
漢方薬の剤形の種類と飲み方
それでは、漢方薬の剤形の種類と剤形によって飲み方の違いはあるのか解説いたします。
・煎じ薬・・・生薬をそのままお湯で煎じる(煮出す)薬です。煮出した汁を温かいうちに飲みます。煎じる時の生薬の香りがもたらす効果も薬効のうちです。そのため、漢方薬の中では煎じ薬が一番効果があるとも言われていますが、エキス剤もほぼ同等の効果が認められています。
・エキス剤・・・インスタントコーヒーと同じ製法で作られています。つまり、煎じた液を濃縮して乾燥させて顆粒状にしたものがエキス剤です。液体状のもの顆粒状のものがあります。そのため、一度お湯に溶かして煎じ薬のようにして飲むと効果が高まります。
・散剤・・・生薬を粉末にしたもので、そのままお湯や水で服用します。
・丸剤・・・生薬を粉にしたものをハチミツを煮詰めたもので丸めたもので、噛んだり舐めたりして服用します。ゆっくりと体に作用するのが特徴です。八味地黄丸(はちみじおうがん)という漢方薬は酒で飲むと胃もたれを軽減させると古典には記載があります。
漢方薬にはさまざまな剤形があり、症状や患者さんの生活タイプによっても選ばれる剤形は異なります。ご自身に合った漢方薬が知りたい方はぜひYOJOの体質チェックをお試しください。
漢方の考え方やどんな症状に効果があるのか、詳しく知りたい方はこちら▼も合わせてお読みください。
漢方薬(エキス剤)の飲み方・上手に飲むコツは?
漢方薬を服用する際、一般的には「エキス剤」が処方されたり購入されることが多いです。しかし、漢方薬の苦味や味・風味が苦手で飲みにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。以下では、エキス剤の基本的な飲み方と、飲むのが苦手な方に向けた上手な服用のコツをご紹介します。
熱湯に溶かして人肌程度に冷ましてから飲む
漢方薬のもともとの形は煎じ薬なので、温かくして飲むのが基本です。熱湯約100ccに漢方薬を溶かし、人肌程度の飲みやすい温度に冷ましてから服用しましょう。時間がない場合は、飲める温度のお湯に溶かしても構いません。ただし、熱湯ではないと顆粒が完全に溶けないことがあるので、その場合はよくかき混ぜながら飲むようにしましょう。
ただし、例外的に、吐き気や出血があるような状態で使用する場合は、冷水で漢方薬を服用することもあります。
水または白湯を先に口に含んでから飲む
漢方薬の顆粒を摂取する前に、まず口に一口の水またはお湯を含み、その上に漢方薬を置きます。これにより、漢方薬が舌に直接触れないようにし、味を感じにくくすることができます。
オブラートに包んで飲む
オブラートで漢方薬を包んで丸め、お湯の入ったコップに入れます。さらに箸で抑えて沈め、オブラートがゼリー状になったらお湯と一緒に飲みます。
服薬ゼリーに混ぜて飲む
嚥下障害がある人やむせやすい(咳き込みやすい)人は、服薬ゼリーに混ぜると飲みやすくなります。漢方薬専用の服薬ゼリーも販売されています。
子供に飲ませるコツ
漢方薬を服用する方法として、お湯で半固形状に練って、ほおの内側や上顎に貼り付けてから水を飲ませる方法があります。また、漢方薬をぬるま湯に溶かし、砂糖を加えて服用させる方法もあります。服用後には甘いものを舐めさせることも有効です。砂糖以外にも、服薬ゼリーやアイスクリーム、ヨーグルト、ハチミツ、ココアなどと混ぜて服用させることもできます。混ぜる際には、大きめのスプーンで薬と服薬ゼリーなどをしっかり混ぜ、1回で飲ませるようにしましょう。また、アイスやヨーグルトなどと混ぜた場合は、時間を置かずにすぐに摂取するようにします。
※ハチミツは1歳未満の子どもには与えないようにしましょう。ボツリヌス症を起こす可能性があります。[1]
漢方薬の飲み方の注意点は?
漢方薬を飲む時に、いろいろな疑問点が出てくると思います。漢方薬を効果的に利用するためには、以下の注意点に留意することが重要です。
お茶や牛乳・ジュースなどで飲んでもよい?
お湯や水の代わりに緑茶、コーヒー、牛乳、果汁などで服用すると、成分変化を起こしたり、薬の効き目に影響を及ぼしたりする恐れがあるので、お湯や水以外のもので服用するのはなるべく避けましょう。
飲み忘れた分はまとめて飲んでもよい?
漢方薬を飲み忘れた場合は、気付いた時点で1回分服用します。ただし、1日2回服用の薬は6時間以上、1日3回服用の薬は4時間以上は間隔を開けるようにしましょう。
西洋薬の併用薬と一緒に飲んでもよい?
西洋薬と漢方薬は基本的に併用することが可能です。ただし、組み合わせによっては同様の作用を持つ成分が重複し、効果が強く現れたり、副作用が発生しやすくなることがあります。薬を処方してもらう際は、医師や薬剤師に自身が服用している薬の情報をすべて伝えるようにしましょう。
複数の漢方薬を併用してもよい?
治療方針によっては、複数の漢方薬を併用する場合があります。しかし、薬の効果と生薬の重複による不都合の観点から注意が必要です。複数の漢方薬を同時に服用することで、薬の効果が打ち消されたり、目的の効果が得られない場合があります。また、最初から複数の漢方薬を一度に服用すると、効果が判断しづらくなり、治療の調整も難しくなるため、控える方が良いでしょう。また、複数の漢方薬を併用することにより、生薬の重複による副作用が起こりやすくなります。以下の生薬に特に注意が必要です。
副作用の出やすい生薬 | 主な副作用 | 生薬を含む漢方薬 |
甘草(かんぞう) | 偽アルドステロン症 (むくみや低カリウム血症など) | 芍薬甘草湯、小柴胡湯、柴苓湯、抑肝散など |
麻黄(まおう) | 交感神経興奮作用(動悸、頻脈、不眠など) | 葛根湯、小青竜湯、麻黄湯、麻黄附子細辛湯など |
附子(ぶし) | 舌のしびれ、のぼせ、ほてりなど | 八味地黄丸、真武湯、ブシ末、牛車腎気丸、麻黄附子細辛湯など |
大黄(だいおう) | 下痢 | 防風通聖散、大柴胡湯、桃核承気湯など |
漢方薬の飲み合わせについて詳しく知りたい方は、こちら▼も合わせてお読みください。
飲み始めたら症状の変化に注意する
漢方薬を服用し始めたら、症状や体調の変化に注意を払いましょう。もし治療の目的とは異なる症状が消えたり、体調が改善したと感じた場合、その漢方薬が効果を発揮している可能性があります。一方で、薬が効き始める過程で、一部の人には体調が悪化することがあります。これを「瞑眩反応(めんげんはんのう)」と呼びます。一時的な腹痛、下痢、めまい、頭痛などが主な症状であり、副作用と混同されることもあります。もし症状が現れた場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
いつまで飲み続ける必要がある?
急性の症状か慢性の症状かによって、服用期間も異なります。急性疾患、例えば風邪の初期などに処方された場合には効果発現は早く、半日程で症状が改善されることもあります。足のつりなどに対して処方される芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)では、頓服で服用して効果は10〜30分程で現れます。[2]
一方、慢性疾患に対して処方されたものは、一般的に2週間程度を目安に服用して症状の改善が認められるか判断することが多いです。症状の改善には1〜3ヶ月程の服用が必要な場合があります。
妊娠中・授乳中でも漢方薬は飲める?
妊娠中のつわりや流産予防に対して漢方薬が使用されることもありますが、治療の優先度によります。一般的には、自己判断で妊娠中は安易に薬は飲まない方が良いでしょう。少なくとも、胎児の器官形成期の間は服用しないほうが安心です。
一方、授乳中でも漢方薬は服用できますが、大黄(だいおう)や麻黄(まおう)といった生薬が含まれる漢方薬には注意が必要です。
大黄は乳児の下痢の原因になることがあり、麻黄はエフェドリンを含むので乳児の興奮やほてりを起こすことがあります。母乳への移行が気になる場合は、授乳直後に漢方薬を服用するようにすると良いでしょう。[3] 詳しくは医師・薬剤師に相談しましょう。
他の人に余った漢方薬をあげてもよい?
漢方薬は、同じ病気、似た症状があっても「証(しょう)」という体質のタイプが違えば処方が異なります。自分に効いたからといって、他の人にも同様に効くとは限りません。そのため、他の人にあげたり、他の人からもらったりして飲まないようにしましょう。
漢方薬は一種のオーダーメード治療とも言えます。個人の体質に合わせた適切な漢方薬を選ぶためには、まずご自身の体質(証)を正しく把握する必要があります。自分の体質を詳しく知りたい方は、YOJOの無料の体質チェックをお試しください。
漢方薬の服用のタイミングは?時間(食前・食間・食後)の目安は?
漢方薬を服用する際には、「食前または食間」という指示がよく見られますが、「食間」とは具体的にいつのことを指すのか気になる方もいらっしゃるかと思います。以下に、漢方薬を服用する最適なタイミングについてご説明いたします。
漢方薬は空腹時に飲んだほうが効果的
漢方薬の服用には基本的に、食前または食間が勧められています。具体的には、以下のような時間帯を指します。
食前: 食事の約30分以上前
食間: 食事と食事の間の空腹時であり、食後2時間以降の時間帯
食後: 食事の約30分後くらい
漢方薬が食前または食間に服用される理由には、いくつかの要因があります。
まず、配糖体成分の代謝には腸内細菌の助けが必要です。漢方薬にはセンノシド(大黄に含まれる成分)やグリチルリチン(甘草に含まれる成分)などの配糖体が含まれています。配糖体は糖が結合した構造を持つ化合物であり、これらの糖は腸内細菌の栄養源となります。したがって、腸内細菌が配糖体を分解することにより、有効成分の吸収が高まります。そのため、食後に漢方薬を服用すると、腸内細菌の栄養源が多くなってしまい、漢方薬の分解が遅れて吸収が妨げられる可能性があります。
次に、漢方薬の吸収には胃内のpHが関与しています。麻黄に含まれるエフェドリンや附子に含まれるアコニチンなどの成分は、胃酸によって胃内のpHが酸性になると吸収が抑えられることが知られています。そのため、食後に漢方薬を服用すると、胃酸によるpHの変化が吸収を促進し、副作用の発現頻度が増える可能性があります。そのため、食前の服用が勧められるのです。
[4]
漢方薬の服用方法やタイミングに関しては、個々人の状態や漢方薬の種類によって異なる場合があります。医師や薬剤師の指示に従い、最適な服用スケジュールを確認することが重要です。
胃が弱い人は食後に飲むことも
基本的には、食前または食間の空腹時に漢方薬を服用することが勧められていますが、一部の状況では食後の服用が好ましい場合もあります。特に胃腸が弱く、食欲不振や下痢などの副作用が起こりやすい人は、食後に漢方薬を服用することで副作用を軽減できます。
さらに、胃腸が弱い人は、漢方薬をお湯で溶かして温かい状態で服用することもおすすめです。これにより、胃腸への負担を軽減できます。
風邪などの急性の病気では急いで飲むのがコツ
漢方薬の服用は原則として空腹時が望ましいですが、風邪などの状況では何かおかしいと感じたら、食後であっても迷わずすぐに服用することが重要です。特に葛根湯は風邪の初期に効果を発揮する薬であり、体が不調を感じ始めたら即座に服用することが大切です。このタイミングで薬を摂取すると、体が温まり、ウイルスとの闘いにおいて自然治癒力を高めてくれます。
漢方薬の保管方法
漢方薬を正しく保管することは、その品質と効果を維持するために非常に重要です。漢方薬の保管方法について説明します。
湿気の少ない涼しい場所で保管する
漢方薬は湿気を吸いやすい医薬品なので、湿気の少ない涼しい場所で保管することが重要です。光の影響も受けやすいので、直射日光も避けましょう。
もし顆粒が固まっていたり、変色していた場合は、含有成分が変化している可能性や、カビやバクテリアの汚染の危険性があるため、服用せずに廃棄するようにしましょう。[5]
使用期限はどれくらい?
一般的には、漢方薬の未開封の使用期限は3〜5年程度が定められていますが、開封後は湿気などの影響を受ける可能性があるため、なるべく早めに服用するようにしましょう。また、以前に服用していた漢方薬が残っていても、現在の症状に適合するかどうかはわかりません。そのため、必ず医師や薬剤師に相談し、その都度適切な指示を受けるようにしましょう。
漢方薬の正しい飲み方を知って効果を上げよう
漢方薬は、天然の生薬を組み合わせて作られる薬であり、その服用方法や注意点は西洋薬とは異なります。また、独特な香りや味も効果の一部であり、できればお湯に溶かして味わうことで効果も高まります。
しかし、漢方薬の効果を得るためには継続的な服用が必要です。苦手な方も、工夫をして上手に服用することで効果を得ることができます。自身に合った飲み方や漢方薬を活用し、体調管理に役立ててくださいね。
YOJOでは、個別の相談や体質チェックなどを無料で承っております。ぜひ、ご自身に合った漢方薬や飲み方について相談してみてください。
【参考文献】
[1]消費者庁 ハチミツによる乳児のボツリヌス症
[2]漢方スクエア 腎機能低下時や透析時の漢方
[3]漢方スクエア 妊娠中、授乳中の漢方療法と留意点
[4]薬事新報「漢方薬の医薬品情報と服薬指導」
[5]漢方スクエア 漢方服薬指導Q&A