漢方にはどんな効果があるの?正しい飲み方や副作用についても解説

生薬tp

漢方薬の服用を検討されている方の中には、
「西洋薬と比べて漢方薬は効かないのではないか」「どのくらいで効果が実感できるのか」と考えていらっしゃる方もいるかもしれません。
漢方の診断は独自のものさしがあり、体質に合わない漢方薬を選択すると効果を正しく実感できないことがあります。

この記事では、

・漢方独自の診断法について
・漢方薬の効果
・漢方薬で注意すべき副作用
・効果的な飲み方

について詳しく解説します。

漢方とは ~効果を引き出すための独自の診断法~

漢方の生薬棚

漢方は、古来に中国から伝わり、その後日本人の体質や風土に合わせて独自に発展を遂げた日本の伝統医学です。
漢方の基本は、「人間も自然の一部である」という概念に基づいています。
そのため、天候や季節の変わり目といった環境の変化も私たちの心身に影響を与えると考えます。そして、患者さんの元々の体質や日頃の生活習慣も見直すことで、からだ全体の状態を総合的に判断し、整えていく治療を行います。
これが、漢方が病名のつかないからだの不調(不定愁訴といいます)に対してもアプローチできる理由です。

ここでは、西洋薬との具体的な違いや、漢方独自の診断について詳しく解説します。

漢方薬と西洋薬の違い

西洋医学と東洋医学の違い

漢方医学(東洋医学)は、 ピンポイントで病気の症状を治す西洋医学とは異なり、患者さん個々の体質や状態に合わせて、その人が本来持っている自然治癒力を高めることで不調を治していきます。

そのため、ご自身の体質に合った漢方薬を服用すれば、自然治癒力が高まることでからだの代謝が良くなり、体調が改善されていきます

逆に、ご自身の体質に合わない漢方薬を選択してしまうと、効果がないだけでなく、心身のバランスがさらに崩れて不調が悪化してしまう可能性もあるため注意が必要です。

漢方独自の「ものさし」

漢方薬剤師

では、漢方ではどのように患者さんを診ていくのでしょうか。
漢方では患者さん個々の体質や状態を見極めるために独自の「ものさし」を用いて診断を行います。
ここでは、その「ものさし」について詳しく解説します。

「気・血・水」

気血水

気・血・水は、心身の不調の原因を知る目安となるものさしです。
漢方ではこの3つの要素がバランス良く巡ることで健康を維持できると考えられています。

・気(き)
身体や心を動かす生命エネルギーです。
気虚(ききょ):気が不足している状態で、疲れや無気力を感じやすくなったり胃腸の機能も落ちて食欲が低下したりします。
気滞(きたい):気の巡りが悪くなっている状態で、イライラや不安感、不眠などの症状が起こります。

・血(けつ)
血液や血液の中に含まれる栄養です。からだ全体に栄養分と潤いを運びます。
血虚(けっきょ):血が不足している状態で、貧血や生理不順のほか、立ち眩みや肌の乾燥などの症状が出やすくなります。
瘀血(おけつ):血の流れが滞っている状態で、強い生理痛や血塊、頭痛、シミなどにつながります。

・水(すい)
リンパ液、汗、涙、だ液など、血液以外の体液です。からだ全体にうるおいを運んでくれる役割をもちます。
水滞(すいたい):水の巡りが悪い状態です。むくみや冷え性、めまいなどを引き起こすだけでなく、過剰な水分が溜まることで関節痛を起こす場合もあります。
陰虚(いんきょ):水が不足している状態です。からだの熱を冷ますことができずにのぼせや口渇、ニキビなどの原因になります。

「証」

虚証実証

証(しょう)は個々の体質を見極める目安となるものさしです。
大きく 「虚証」 「実証」に分けられ、“今”のからだの状態を知ることができます。そのため同じ人でも、時期や環境によって異なる場合があります。

・虚証(きょしょう)
からだに必要な気・血・水が不足している状態です
見た目は痩せ型もしくは水太り、栄養状態が悪く、皮下脂肪も少ないタイプです。
胃腸が弱くて下痢しやすく、からだの抵抗力が低下している人が多いです。疲れやすい、冷え性、気分が落ち込みやすいなどの症状の訴えがあります。

・実証(じっしょう)
余分なものを体外へと排出することができていない状態です。
見た目は筋肉質で固太り、栄養状態が良く、皮下脂肪も多いタイプです。
胃腸が強く活動的ですが、怒りっぽい、お通じが悪い、のぼせやすい、生理痛が強いなどの症状の訴えがあります。

漢方薬は「証」によって適した処方が異なります。そのため、同じ病気でも人によって異なる漢方薬が処方される場合もあれば、違う病名であっても病気の原因が共通していれば、同じ漢方薬が処方される場合もあります。

「四診」

望診・聞診・問診・切診

「気・血・水」や「証」の“ものさし”を使うために用いる診断法が「四診」です。
四診には、以下の4つの方法があります。

・望診(ぼうしん)
視覚による診察法です。顔色や表情、体型、姿勢、動作などを診ます。
また舌診(ぜっしん)という、舌の色や形、舌苔(ぜったい)の状態を診ることもあります。 

・聞診(ぶんしん)
聴覚や嗅覚
による診察法です。声や咳・痰の状態、呼吸音、腸の蠕動音、口臭・体臭などを診ます。

・問診(もんしん)
患者さん自身から自覚症状や経過を聴取
する診察法です。そのほか既往歴、生活習慣、食事、生理周期などについても聞き取りをします。

・切診(せっしん)
触覚
による診察法です。脈の強さや幅、腹部の張りなどの状態を診ます。

ご自身の体質をチェックされたい方は、YOJOでも体質チェックを行っていますのでお気軽にお試しください。

漢方の科学的根拠

EVIDENCE

従来の漢方医学では、長年にわたり蓄積されてきた処方経験に基づいて、患者さん一人ひとりの体質や症状に合わせて治療が行われてきました。
しかし近年では科学的根拠を求める声も強くなり、それに呼応して漢方薬の研究報告も増えてきています。
日本東洋医学会の 「漢方治療エビデンスレポート」(EKAT) では、国内で行われた漢方製剤のランダム化比較試験について情報提供されています。[1]

漢方の効果とは~症状別おすすめ漢方薬~

漢方生薬

では漢方薬はどのような症状に対して効果が期待できるのでしょうか。
ここでは漢方薬が処方されることのある症状や疾患をご紹介します。

風邪

風邪の症状には、局所症状としては咳や痰、のどの痛み、鼻水、鼻づまり、全身症状としては発熱、寒気、頭痛、倦怠感などがあります。
「風邪には葛根湯」と思われている方も多くいますが、実は「虚証または実証」、「悪寒があるかないか」などの症状によっても漢方薬の選択が変わってきます。

麻黄湯 実証タイプの方で、寒気があり発熱、頭痛、咳があるの方の風邪、鼻かぜなど
葛根湯 体力中等度以上で発汗はない方の発熱、頭痛、寒気、鼻かぜなど
小青竜湯 体力中等度又はやや虚弱で、水様の鼻水が出る方の風邪、鼻炎など
香蘇散 虚証タイプの方の風邪の初期など

ストレス・不眠

強いストレスがかかったり、生活習慣が乱れたりすると、自律神経のバランスが崩れて心身に様々な不調が出てきます。
体質に合った漢方薬で「気」や「血」の不足や滞りを改善することで、不調の緩和が期待できます。

半夏厚朴湯 体力中等度の方の不安や気持ちの落ち込み、ストレスによるのどの詰まりなど
柴胡加竜骨牡蛎湯 体力がある方の不眠や緊張など
抑肝散 体力中等度の方のイライラや神経の高ぶりなど
加味帰脾湯 虚証タイプの方の不眠症や精神不安など

自律神経を整える漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

ニキビ・肌荒れ

漢方では「皮膚は内臓の鏡」と考えられています。
漢方医学の観点からみると、ニキビは、からだの内側に溜まった「気」が“熱”となった結果、皮膚に炎症を起こしている状態です。
そのため、こもっている熱を取り除き、さらに余分な熱が発生しないように漢方薬でからだのバランスを整えることで改善が期待できます。

荊芥連翹湯 体力中等度以上で皮膚の色が浅黒く、ときに手足の裏に脂汗をかきやすい方のニキビ初期から炎症性ニキビまで
清上防風湯 体力中等度以上で、赤ら顔でときにのぼせがある方の炎症性ニキビ
十味敗毒湯 体力中等度で、ときに化膿する方の炎症性ニキビや湿疹
黄連解毒湯 体力中等度以上で、イライラしがちな方のニキビや肌のかゆみ

ニキビや肌荒れに効果的な漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

冷え性・むくみ(浮腫)

からだの「水」や「血」の巡りが悪いと、冷え性やむくみの原因となります。
漢方薬でからだ全体を温めて巡りを良くすることで、冷えやむくみやすい体質の改善を促すことができます。

防己黄耆湯 虚証タイプの方のむくみや水太り
五苓散 からだ全身にあるむくみ、低気圧による不調など
当帰芍薬散 虚証タイプの方の冷えやむくみ、生理不順など
柴苓湯 体力が中程度の方の疾患を伴うむくみ、食欲不振など

冷え性やむくみに効果的な漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

更年期障害

更年期障害とは、 閉経前後10年間の“更年期”に起きる心身の様々な不調のことです。たとえばホットフラッシュや冷え、肩こり・腰痛、めまい、イライラ、不眠など多岐に渡ります。
漢方では、これらの症状は「気」や「血」のバランスが崩れているために起きると考え、それらを補ったり巡りを良くしたりする漢方薬で不調を改善します。

桂枝茯苓丸 比較的体力がある方のホットフラッシュ、肩こり、冷え、めまいなど
当帰芍薬散 虚証タイプの方の腹部の冷え、めまいなど
加味逍遥散 虚弱体質な方のイライラや不眠、不安感、冷えなど
補中益気湯 虚弱体質の方の倦怠感や食欲不振など

更年期障害に使用される漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

ダイエット

漢方薬は“やせ薬”ではありませんが、 からだ全体の巡り(消化・吸収・代謝・排泄)が整えられるために、冷えやむくみ、便秘などの症状が改善し、結果的に痩せやすくなったりリバウンドしにくい体質へと改善できたりする場合もあります。

防風通聖散 実証タイプの方の脂肪太りや便秘など
防己黄耆湯 虚証タイプの方の下半身太りやむくみ・水太りなど
大柴胡湯 実証タイプの方の便秘やストレスによる過食など
桃核承気湯 実証タイプの方の慢性的な便秘や、ホルモンバランスの乱れからくる冷えなど

ダイエット効果の期待できる漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

ご自身の体質や症状に適した漢方薬について知りたい方は、YOJOの薬剤師にご相談ください。

漢方の効果を引き出す正しい飲み方について

漢方薬と水

ここでは、漢方薬の効果をきちんと引き出すための正しい飲み方についてお伝えします。

服用するタイミングは「食前」または「食間」

一般的に漢方薬は「食前」または「食間」の服用が推奨されます。
「食前」は食事30分前、「食間」は食事と食事の間で食後2時間後が目安です。
理由としては主に以下の2点があげられます。

①漢方薬の効果を高めるため
たとえば「甘草」にはグリチルリチン、「大黄」にはセンノシドといった有効成分が含まれますが、これらは天然では“配糖体”という形で存在しています。配糖体はそのままの形では腸から吸収されず、腸内細菌に代謝を受けて糖が外れることで吸収され、薬効を発揮します。
そのため、
空腹時は胃内に食物がない分、速やかに腸管に到達し、腸内細菌に代謝されることから効果を発揮しやすくなります。

②副作用を軽減するため
漢方薬に含まれる成分の一つである“アルカロイド”は、“配糖体”とは異なりそのままの形で吸収されるため、効果の発現が速いとされています。しかしアルカロイドの中でも「麻黄」に含まれるエフェドリンや「附子」に含まれるアコニチンは急激に吸収されると動悸や悪心などの中毒症状が出ることが知られています。
一般にアルカロイドは塩基性であり、胃酸の影響で胃内の酸性度が高い空腹時ではイオン化して吸収が悪くなるため安全性が高まるとされています。[2]

ただし、胃腸が弱い場合飲み忘れることが多い場合には、服用しないよりかは食後でも服用を継続できた方が効果的であるため、食後服用で指示が出ることもあります。

効果が出るまでの期間

漢方薬は風邪やこむら返りなどの急性期に使う場合もありますが、多くは体質改善を目的として処方されることが多いです。
そのため、漢方薬を服用してから効果を実感するまでの期間は、症状の程度や生活習慣、漢方薬の種類などによっても個人差が出てきます。
一般的には、効果を実感するまでには少なくとも1か月以上の継続が必要です。さらに3か月~半年ほど継続することで、体質が改善され症状が安定するようになります。
逆に1か月以上服用しても効果が認められない場合は一旦服用を中止し、医師・薬剤師に相談するようにしましょう。

味が苦手なときの飲み方

漢方薬の中には苦みが強かったり、風味が独特で飲みにくかったりするものもあります。味が苦手な漢方薬を飲みやすくするためには以下のような工夫をすると良いでしょう。[3]

~飲み方の工夫~
・あらかじめ水または白湯を口に含んで服用する

漢方薬を口に入れる前に、まず、水または白湯を口に含みます。その水の上に漢方薬を落とすような形で、水と漢方薬を一緒に飲みます。
・オブラートを利用する
漢方薬をオブラートに包んだ後、少量の水の入ったコップに入れて溶かします。数分後オブラートが徐々に溶け始めるのが見え始めたくらいで水と一緒に飲み込むと、ツルっとのどを通ります。

漢方の上手な飲み方についてさらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

注意したい漢方薬の副作用とは

医師からの注意

漢方薬も薬であるため、複数の漢方薬を服用した場合や体質に合わない場合に副作用が起こる場合があります。

気をつけたい生薬

特に以下の生薬が配合されている場合には副作用が起こりやすくなるために注意が必要です。

甘草 手足のだるさ、むくみ、血圧上昇など
麻黄 食欲不振、多汗、不眠、動悸など
附子 動悸、頻脈、不眠など
大黄・芒硝 腹痛、下痢、流早産のリスクなど

漢方薬で起こりうる重大な副作用

頻度は低いですが、漢方薬で報告されている重大な副作用もあります。

・肝機能障害
無症状のまま血液検査で判明することが多いですが、発熱、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、黄疸などが出ることもあります。悪化すると肝炎を引き起こし命に関わります。 黄芩を含む生薬で多く報告されていますが、 甘草、柴胡、半夏、沢瀉、人参、生姜 などでも注意が必要です。[4]
(例)防風通聖散、防己黄耆湯、芍薬甘草湯、抑肝散、柴苓湯など

・偽アルドステロン症
偽アルドステロン症は、甘草を多量に長期服用することで起こります。 甘草は医療用漢方薬のおよそ7割に含まれるため、特に漢方薬を複数服用する場合に注意が必要です。
手足のだるさやしびれ、こわばりの他、高血圧、動悸、吐き気・嘔吐などの症状が出ます。
(例)芍薬甘草湯、防風通聖散、荊芥連翹湯、清上防風湯、柴苓湯など

・薬剤性肺炎、間質性肺炎
息切れや咳、呼吸困難、発熱といった症状が起こります。
諸説ありますが、黄芩を含有する漢方で症状が出る傾向にあると考えられています。
(例)防風通聖散、大柴胡湯、荊芥連翹湯、温清飲など

・腸間膜静脈硬化症
腹痛、下痢、便秘、悪心・嘔吐といった症状が起こり、中には無症状(便潜血陽性を含む)の場合もあります。
多くは山梔子を含む漢方薬を長期間服用(多くは5年以上)することで起こります。[5]
(例)荊芥連翹湯、 清上防風湯、黄連解毒湯、温清飲など

危険な漢方薬と西洋薬の飲み合わせ

漢方薬と西洋薬の飲み合わせで危険な組み合わせの代表として、「小柴胡湯」と「インターフェロン」の併用があります。これらは同時に併用すると間質性肺炎の副作用が起こる可能性があるため、併用は禁忌です。
他にも生薬の「甘草」を含む漢方薬の場合、利尿剤との併用に注意したり、むくみや血圧上昇などの副作用にも気をつける必要があります。

多くのケースで問題はないですが、漢方薬を服用する場合は、西洋薬も含めて、現在使用している薬を医師・薬剤師に伝え、問題ないか確認するようにしましょう。

よくある質問

FAQ

ここでは漢方や漢方の効果についてよくある質問をまとめました。

漢方薬の入手方法は?

漢方薬は、医療機関を受診して処方される「医療用漢方薬」、薬局・ドラッグストアで購入できる「一般用漢方薬」、また専門の漢方薬局で購入できる「医療用漢方薬」があります。
医師から処方を受ける「医療用漢方薬」は保険が適用されて1~3割負担で購入ができます。一方で、薬局・ドラッグストアや漢方専門薬局で購入する場合は、保険の適用外です。

医療用漢方薬と一般用漢方薬の効果の違いは?

医療用漢方薬と一般用漢方薬に配合されている生薬は基本的に変わりはないため、効果は同じです。
しかし、多くの一般用漢方薬には、医療用漢方薬の50%〜80%ほどの成分しか含有されていません。不特定多数の方が飲んでも副作用を起こりにくくするためですが、その分、効果が落ちてしまうこともあります。
ただし、「満量処方」と記載がある一般用漢方薬については、日本薬局方で定められた処方通りの分量(処方の1日最大配合量)で作られているため、より高い効果が期待できます。

YOJOでは漢方薬についてのご相談だけでなく、生活上のアドバイスや食事の工夫などについても相談が可能です。

【参考文献】
[1]日本東洋医学会 EBM 委員会 エビデンスレポート・タスクフォース (2022)漢方治療エビデンスレポート (EKAT) Appendix 2021
[2] 濱口卓也, 渡辺賢治(2015)服用タイミングと飲み合わせによる漢方薬の有効性の違い,日本医事新報社
[3]ツムラ ホームページ 漢方薬を飲みやすくする工夫
[4]五野由佳理ら(2010)漢方薬による薬物性肝障害の症例検討. 日東医誌 Kampo Med Vol.61 No.6 828-833
[5]日本漢方生薬製剤協会 漢方薬による腸間膜静脈硬化症