苓桂朮甘湯の効果は?飲み方や向いている人、類似処方との違いを解説

めまいがする女性

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)は、めまいや頭痛、耳鳴り、動悸などに対してよく用いられる漢方薬です。また、精神を安定させる作用もあることから、神経質やノイローゼといった精神的な不調に対しても使用されます。

この記事では、苓桂朮甘湯の効果や向いている人の特徴、副作用などについて薬剤師が詳しく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。 

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Contents

苓桂朮甘湯とはどんな漢方薬?

漢方生薬

苓桂朮甘湯が効く仕組みや成分について解説します。

苓桂朮甘湯の効果が出る仕組み

苓桂朮甘湯は、「気逆(きぎゃく)」や「水滞(すいたい)」と呼ばれる状態を改善することで、めまいや立ちくらみなどに効果を発揮する漢方薬です。

東洋医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」がバランス良く体の中を巡ることで健康維持につながるとされています。

気血水

「気」:心や体を動かすエネルギー
「血」:血液中の栄養や血液そのもの
「水」:だ液やリンパ液、汗といった血液以外の体液

本来は体の上から下に流れている「気」が下から上に逆行したり(気逆)、「水」の巡りが滞ったりすると(水滞)、めまいや立ちくらみなどの不調を引き起こすと漢方では考えられています。

苓桂朮甘湯には、逆行した気を鎮め、体の水分バランスを整える効果があるため、気逆や水滞にともなう不調を改善する効果が期待できるのです。

苓桂朮甘湯の成分

苓桂朮甘湯の構成生薬は、「苓桂朮甘湯」の名前にも含まれる次の4種類です。[1]

・茯苓(ぶくりょう):水分を排泄させる作用がある。
・桂枝(けいし):気逆を改善する作用がある。
・蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ):水分を排泄させる作用がある。
・甘草(かんぞう):気を巡らせる作用がある。

苓桂朮甘湯に含まれる生薬は、気の流れを整える作用や体内の余分な水分を排出させる作用をもっています。

そのため苓桂朮甘湯は、「気逆」や「水滞」によるめまいや立ちくらみ、頭痛などの症状に効果を発揮します。

苓桂朮甘湯の効果

苓桂朮甘湯を服用することで得られる効果は以下のとおりです。

めまい・立ちくらみ

苓桂朮甘湯は、気が体の上部に昇ったり、余分な水が体に溜まったりすることによって生じるめまいや立ちくらみを改善します。
苓桂朮甘湯は、めまいの中でもとくに、周囲がぐるぐる回るような回転性のめまいに効果を発揮します。

めまいに効く漢方薬について詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。

頭痛

気が下から上に逆行したり、体に余分な水分が溜まったりすると、頭痛を引き起こす場合があります。

苓桂朮甘湯には、気を鎮めたり余分な水分を取り除いたりする作用があるため、頭痛の改善効果が期待できます。

苓桂朮甘湯は、体内の水分バランスが崩れやすい梅雨時期の頭痛に対しても効果的です。[2]

頭痛に効果的な漢方薬について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

耳鳴り

苓桂朮甘湯は、気の上昇や水の滞りを解消することで、めまいやふらつきにともなう耳鳴りを改善する効果も期待できます。[3]

耳鳴りに効く漢方薬や、おすすめの養生法について詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。

動悸

苓桂朮甘湯は、気の逆行や水の滞りを改善することで、お腹からみぞおちに向かって突き上げるような感覚をともなう動悸を改善します。

また、更年期障害にともなう動悸に対して用いられることもあります。[4]

ノイローゼ・神経質

苓桂朮甘湯は、気の上昇を鎮めることで、精神を安定させる作用も期待できる漢方薬です。

そのため、めまいや頭痛といった症状だけでなく、ノイローゼや神経質などの精神的な不調に対しても用いられることがあります。

ご自身の症状や体質に合った漢方薬の選び方について、お悩みの方はYOJOの薬剤師にご相談ください。

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苓桂朮甘湯の服用が向いている人

薬剤師

体力があまりなく、以下のような症状がみられる方は苓桂朮甘湯の服用が向いています。[5]

・めまい
・ふらつき
・立ちくらみ
・息切れ
・動悸
・頭痛
・尿量減少 など 

めまいのなかでも、苓桂朮甘湯はとくに「ぐるぐる回転するようなめまい」に有効です。

また、水滞が起こりやすい梅雨時期の不調(めまいやふらつき、頭痛など)が気になる場合にもよく用いられます。[2]

苓桂朮甘湯の類似処方とその違い

漢方薬

苓桂朮甘湯と類似処方には異なる特徴があります。それぞれの相違点を理解し、自身の症状に合う薬を服用しましょう。

苓桂朮甘湯と五苓散の違い

苓桂朮甘湯と五苓散(ごれいさん)には、どちらにも体内の水分バランスを整える作用があり、主にめまいや頭痛などに対して用いられます。

五苓散は、口の渇きやむくみ、吐き気、嘔吐などの症状にも効果的で、二日酔いに用いられる漢方薬としても知られています。[5]

五苓散の効果について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事をお読みください。

苓桂朮甘湯と半夏白朮天麻湯の違い

苓桂朮甘湯と半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)は、どちらもめまいや頭痛などによく用いられる漢方薬です。

とくに胃腸が弱い方や冷えが気になる方は、半夏白朮天麻湯のほうが向いているでしょう。[5]

苓桂朮甘湯と真武湯の違い

苓桂朮甘湯と真武湯(しんぶとう)は、どちらもめまいに対してよく用いられる漢方薬ですが、対応できるめまいの種類が異なります。

苓桂朮甘湯は、自分や周囲がぐるぐる回るような回転性のめまいに有効です。その一方で真武湯は、体がふわふわと浮くような感覚のある、非回転性めまいによく用いられます。

真武湯には、体を温めたり胃腸機能を高めたりする働きもあるため、手足の冷えや、下痢や腹痛などの胃腸症状が気になる方にも向いています。[5]

苓桂朮甘湯と当帰芍薬散の違い

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、月経異常や更年期障害などの婦人科疾患によく用いられる漢方薬です。

苓桂朮甘湯と同様に、水の巡りを良くする作用もあり、めまいや頭痛、耳鳴りなどに対しても使用されることがあります。
これらの症状が気になる方で、冷え性で貧血傾向がある場合には、当帰芍薬散が向いているでしょう。[5]

当帰芍薬散について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事をお読みください。

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苓桂朮甘湯の飲み方

漢方薬を飲む女性

成人は1日7.5gを2〜3回に分け、食前(食事の20〜30分前)または食間(食事と食事の間約2時間の空腹時)に服用しましょう。[6]

飲み方を誤ると、副作用が出たり、想定した効果が得られなかったりする場合があるため、正しい用法用量で服用することが大切です。

苓桂朮甘湯の効果が出るまでの期間

苓桂朮甘湯には、他の漢方薬と比べて即効性があるともいわれていますが、効果が出るまでの期間には、個人の体質や症状などによって差があります。

用法・用量を守って服用し、1ヶ月程度服用しても症状が改善しない場合は服用を中止し、医師・薬剤師または登録販売者に相談しましょう。

苓桂朮甘湯を飲み続けるとどうなるのか

ごくまれではありますが、苓桂朮甘湯の長期服用により、むくみや手足の脱力感などが起こる可能性があります。

苓桂朮甘湯を服用する際は、体調の変化に注意しつつ医師の指示に従いましょう。[6]

苓桂朮甘湯の副作用や注意点

医師

苓桂朮甘湯には、薬を飲む際に知っておくべき副作用・注意点があります。服用前に以下の内容を把握しておきましょう。

苓桂朮甘湯を服用する際に注意すべき副作用

苓桂朮甘湯を服用すると、皮膚の赤みやかゆみなどがあらわれる場合があります。また、頻度はまれですが、痙れんや手足の脱力感、むくみ、血圧上昇などの症状があらわれる「偽アルドステロン症」と呼ばれる副作用が起こる場合があります。

服用後に普段と異なる症状があらわれた場合は、医師のアドバイスに従い、適切な処置を受けましょう。[5]

苓桂朮甘湯の飲み合わせについて

苓桂朮甘湯を服用する際は、以下のような薬との併用に注意が必要です。[6]

・甘草が含まれる製剤
(例)抑肝散、芍薬甘草湯、補中益気湯など
・グリチルリチン酸を含む製剤
(例)強力ネオミノファーゲンシー、グリチロン配合錠など

上記の薬を併用すると、甘草の摂取量が増加し、むくみや血圧上昇、手足の脱力感などのリスクが高まります。

苓桂朮甘湯の服用について注意すべき人

以下に該当する方は、苓桂朮甘湯を服用する前にリスク・副作用を把握しておきましょう。

妊娠している女性

妊娠している女性の場合は、医師の診断のもと、治療の効果がリスクを上回ると判断される場合にのみ服用してください。[6]

授乳中の女性

授乳中の方は、母乳に薬の成分が移行するリスクや治療上の有益性を踏まえ、継続もしくは中止を検討しましょう。[6]

子どもや高齢者

苓桂朮甘湯を含む漢方薬を子どもが服用する場合は、症状や年齢、体重などによって服用する量が異なる場合があります。[6]
また、高齢者が服用する場合は、生理機能が下がっているため、強い効果が出ることもあります。苓桂朮甘湯を服用する場合は、添付文書や医師の指示に従いましょう。[6]

苓桂朮甘湯の市販薬

市販薬

苓桂朮甘湯を試してみたい方は、以下の市販薬の購入を検討してみてください。

ツムラ漢方苓桂朮甘湯エキス顆粒

ツムラ漢方苓桂朮甘湯エキス顆粒
引用元:ツムラHP

ふらつきやめまいがある方に

1日2回の服用で済み、比較的手間なく使用できます。2歳以上なら、子どもでも服用可能です。

分類 第2類医薬品
効能効果 体力中等度以下で、ふらつき、めまいがあり、ときに動悸やのぼせがあるものの次の諸症:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏
形状 顆粒剤
用法・用量 次の1回量を、1日2回食前に水あるいはお湯にて服用。成人(15歳以上):1包
15歳未満7歳以上:2/3包
7歳未満4歳以上:1/2包
4歳未満2歳以上:1/3包
2歳未満:服用しないこと
内容量 20包

「クラシエ」漢方苓桂朮甘湯エキス顆粒[24包]

引用元:クラシエHP

めまいや立ちくらみに

1日3回、食前に服用する製品です。2歳未満の小さい子どもでも使用できます。1歳未満の子どもの場合は、医師の診療を受けることを優先してください。

分類 第2類医薬品
効能効果 体力中等度以下で、ふらつき、めまいがあり、ときに動悸やのぼせがあるものの次の諸症:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏
形状 顆粒剤
用法・用量 次の1回量を、1日3回食前または食間(食事と食事の間約2時間の空腹時)に水あるいはお湯にて服用。
成人(15歳以上):1包
15歳未満7歳以上:2/3包
7歳未満4歳以上:1/2包
4歳未満2歳以上:1/3包
2歳未満:1/4包
内容量 24包

苓桂朮甘湯の服用でよくある質問

よくある質問

これから苓桂朮甘湯の服用を検討する方に向けて、苓桂朮甘湯に関するよくある質問・回答をご紹介します。

苓桂朮甘湯の市販薬でクラシエとツムラの効果の違いはありますか?

用法用量や一部の構成生薬に違いはあるものの、クラシエとツムラの市販薬における効果に違いはありません。

苓桂朮甘湯はふわふわとしためまいに効きますか?

苓桂朮甘湯はぐるぐる回転するようなめまいに適しています。ふわふわとした、浮くようなめまいには真武湯や当帰芍薬散などが多く用いられます。

苓桂朮甘湯は自律神経失調症に効果がありますか?

苓桂朮甘湯には、自律神経の乱れを整える作用があることが報告されています。[7]

そのため、自律神経失調症に対する適応はないものの、自律神経のバランスを整える目的で自律神経失調症の治療に用いられる場合があります。[5]

苓桂朮甘湯はセロトニンの分泌に関与しますか?

苓桂朮甘湯は、心身をリラックスさせるホルモンである「セロトニン」の分泌には関与しません。

しかし、苓桂朮甘湯には気逆を改善して精神を落ち着かせる作用があるため、ノイローゼや神経質といった精神面の不調に効果を発揮します。

セロトニンの増加が期待できる漢方薬としては、例えば抑肝散(よくかんさん)が挙げられます。[8]
抑肝散の効果について、詳しく知りたい方はこちら▼の記事をお読みください。

苓桂朮甘湯に即効性は期待できますか?

漢方薬の効果実感までには時間がかかる傾向にありますが、苓桂朮甘湯においては服用1日目から効果を感じられる場合もあり、漢方薬のなかでも比較的即効性が期待できる薬です。[9]

苓桂朮甘湯は不安障害に効きますか?

苓桂朮甘湯は、不安障害の一種であるパニック障害の治療に用いられる場合があります。[5]
苓桂朮甘湯は、パニック障害のなかでも、動悸やめまい、ふらつきといった症状が目立つ場合によく処方されます。

苓桂朮甘湯は更年期に効きますか?

苓桂朮甘湯には更年期の症状に対する適応はありません。しかし、更年期障害で生じるめまいや動悸などの症状に対して用いられる場合があります。[4]

苓桂朮甘湯はメニエール病に効きますか?

苓桂朮甘湯にメニエール病(耳鳴りや難聴をともなう病気)の適応はありません。しかし、メニエール病にともなう耳鳴りやめまい、ふらつきなどに対して処方される場合があります。[4]

苓桂朮甘湯はめまいやふらつきに効く漢方薬

漢方生薬

苓桂朮甘湯は、逆行した気を鎮めたり体の水分バランスを整えたりすることで、主にめまいやふらつき、頭痛などの症状に効果を発揮する漢方薬です。

苓桂朮甘湯を服用する際は、医師や薬剤師の指示のもと、副作用や注意事項を踏まえ、用法用量に従って服用しましょう。

YOJOでは、体質に合った漢方薬の選び方や、生活習慣を改善するためのアドバイスなどを薬剤師から受けられます。なかなか改善しないめまいなどの不調に悩んでいる方は、YOJOの薬剤師にお気軽にご相談ください。

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【参考文献】

[1]高山宏世 編著 腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]
[2]名城大学 第58回 漢方処方解説(24)苓桂朮甘湯
[3]福岡県薬剤師会 質疑応答 耳鳴りに使用される漢方薬は何があるか?(一般)
[4]phil漢方 No.30 2010 苓桂朮甘湯
[5]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版
[6]KEGG MEDICUS 医薬品情報 医療用医薬品:苓桂朮甘湯
[7]嶺井ら(2019)苓桂朮甘湯が適応となる新たな病態に関する考察 日東医誌 Vol.70 No.2 141-145
[8]抑肝散の認知症症状に対する薬理学的検証 認知症モデルに対する抑肝散の治療効果の薬理学的検証
[9]五島 史行(2020)「第121回日本耳鼻咽喉科学会総会ランチョンセミナー」耳鼻咽喉科診療で知っておくと役立つ漢方治療-パフォーマンス漢方-日耳鼻123:1353-1357