つわりに効く薬とは?妊娠中の薬の服用と注意点についても解説

吐き気を催す女性

妊娠中の多くの女性が悩まされる「つわり」
つわりの症状を軽くする方法はいくつかありますが、それらを試しても改善されない場合、医療機関に相談してつわりに効く薬を処方してもらうのも一つです。

妊娠中は、その薬剤が妊婦の状態の改善のために必要で、リスク(副作用)よりも服用によるベネフィット(効果)の方が大きいと判断された場合に、薬が処方されます。
この記事では、

・つわりの時期に薬を服用する際の注意点
・つわりに効く薬やつわりを予防できる薬
・薬以外でもつわりにおすすめの対策法

について、解説します。

つわりが起こる妊娠初期(妊娠0~15週)は薬の服用に特に注意が必要な時期

つわりの薬も含め、妊娠中に薬を服用することは胎児に影響を及ぼす可能性があり、可能な範囲で避けた方が良いとされています。ここでは、妊娠週数と薬が胎児に与える影響についてご説明します。[1]

無影響期:妊娠前~4週未満

胎児に影響を与える薬物を服用しても、受精・着床しないもしくは妊娠早期に流産します。そのため、薬物の催奇形性は基本的には考慮する必要が無い時期です。

絶対過敏期:4週~7週

胎児の重要な臓器が形成される時期であり、催奇形性の危険性が最も高いです。

相対過敏期:8週~15週

胎児の重要な臓器の形成はほぼ完了していますが、生殖器の分化や口蓋の閉鎖などはこの時期にかかるため、催奇形性を起こす心配がないわけではありません。

潜在過敏期:16週以降

器官形成が終了しているため催奇形性の危険性はほぼ無くなりますが、多くの薬剤は胎盤を通過して、胎児に移行します。薬剤の種類によっては、胎児の成長に影響を与えたり、流早産を引き起こしたりすることがあるため注意が必要です。

そもそもつわり(悪阻)とは?

お腹に触れる妊婦

つわりは「悪阻(おそ)」とも呼ばれ、妊娠中の女性の50~80%が経験する症状です。妊娠5週目頃から一過性に起こる消化器症状であり、9週頃にピークを迎え、16週頃までにはほとんど消失するものをつわりといいます。 [2]
ただし、症状の程度や期間には個人差もあり、16週以降もつわりが続く場合もあります。

つわりの代表的な症状と対処法

つわりの代表的症状としては、主に以下のようなものがあげられます。

吐きつわり

吐き気や嘔吐をくり返すつわりです。気持ち悪くて食事が摂れなかったり、食べても吐いてしまったりするような症状が見られます。
さらに嘔吐をくり返すことにより、胃酸の影響でのどや口腔内の粘膜に炎症が起きたりただれたりすることもあります。重症化すると脱水状態になり、病院での点滴治療や入院が必要になる場合もあります。

[簡単な対処法]
・食べられそうな物や体調の良い時間帯を見つけて、少しずつ、食べられる分だけ食べましょう。
・こまめに少量ずつ水分補給をしましょう。

食べつわり

吐きつわりとは逆に、食べ物が常に口に入っていないと吐き気がするという症状です。空腹になると胃のむかつきや、吐き気、酸っぱいげっぷが上がってくるなどの症状があるため、常に何か食べている状態になります。そのため、急激な体重増加に気をつけることが大切です。

[簡単な対処法]
・食事を1日5~6回に分け、少量ずつ食べましょう。
・野菜スティックやクラッカーなど、カロリーの少ない食品を選んで手元に置いておきましょう。
・あめやガム、氷など、口の中に長くあるものを選んでみましょう。

においつわり

妊娠前には気にならなかったにおいに、不快感を感じるようになる症状です。ご飯の炊けるにおいや柔軟剤の香り、ヒトの体臭など特定のにおいに過敏に反応し吐き気を催します。
今まで好んで使用していた香りの化粧品やシャンプーなどが使えなくなることもあります。

[簡単な対処法]
・苦手なにおいは避けるようにしましょう。
・マスクを使用しましょう。
・こまめに換気をすることでにおいがこもらないようにしましょう。
・食べ物を冷やすことでにおいが気にならなくなる場合もあります。

よだれつわり(唾液つわり)

食事と関係なく、苦みや不快な味のするよだれが多量に出るつわりです。常に口の中に唾液がたまってしまい、ひどくなると唾を飲み込むことができず、無理に飲み込もうとすると吐き気を催します。

[簡単な対処法]
・空のペットボトルなどを用意して、よだれを吐き出しましょう。
・こまめにうがいをしたりマウスウォッシュを使用したりして口の中をスッキリさせましょう。
・アメ・ガムを食べたり、こまめに飲み物を飲んだりしてごまかしましょう。

つわりの原因は

つわりが起こる原因は、現在のところまだ完全には解明されていません。
ただし、ホルモンの一種であるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の濃度が高い妊婦の方ではつわりの症状が重いことが知られています。また、hCG分泌が過剰になることで甲状腺ホルモンやエストロゲンの分泌増加が起こっている妊婦の方ではつわりの症状が重い傾向にあるようです。[2]
そのほか、精神的ストレスビタミン不足が関与している可能性などが報告されています。

つわりが悪化すると「妊娠悪阻」に

「妊娠悪阻」は妊婦の約0.5~2%に発症するとされています。[3]
頻回に嘔吐をくり返すことで、高度の体重減少と脱水症状を引き起こします。また、乏尿や体温上昇、代謝性アルカローシスをきたして、さらに進行すれば肝機能障害や脳症の発現にもつながり得る危険な状態です。
また、妊娠悪阻は静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク因子にもなります。
妊娠悪阻になると、入院での治療が必要になります。

つわりが辛い場合の「吐き気止め」薬の服用について

妊婦と薬

つわりは悪化すると脱水状態や妊娠悪阻につながる場合もあり、とても危険です。
では、つわりが辛いときにはどのような薬や対処法があるのでしょうか。

まずはかかりつけの産婦人科医に相談を

つわりの症状が辛い場合は、悪化する前にかかりつけ医に相談しましょう。
つわりの薬物療法としては、「妊娠悪阻」の適用を取得しているグルタチオン製剤(タチオン®注射用)や脳症の予防としてビタミンB1の輸液投与、そのほか、半夏厚朴湯や小半夏加茯苓湯などの漢方薬メトクロプラミド(プリンペラン®)などの制吐剤が用いられます。[3][4]
また、2021年の国立成育医療研究センターの報告により、催奇形性があるとして以前は妊婦禁忌薬であったドンペリドン(ナウゼリン®)について大規模なデータベース解析を行った結果、ドンペリドンが奇形発生率を上昇させないことが示されました。[5]
さらに、産婦人科診療ガイドラインによると、ビタミンB6の経口投与がつわり症状の緩和に有効性を示したとする報告があります。アメリカ産婦人科学会では、ビタミンB6単独もしくは ビタミンB6とドキシラミン(日本では未発売の抗ヒスタミン薬)との併用が、つわりの薬物療法の第一選択とされています。

このように、つわりの症状に使用できる、妊婦に使用実績のある薬は増えてきています。無理をせずにまずは医療機関を受診し、相談しましょう。

つわりの治療に使用される漢方薬について、さらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

つわりを予防できる薬もある?

つわりの予防としてマルチビタミン(ビタミン A・B1・B2・B6・B12・C・D・E・葉酸・ミネラルなどを含有)の摂取が有効であるとの報告があります。[3]
つわりの予防効果をもたらす有効成分は未解明ですが、胎児の発育に重要な葉酸などの成分を摂取できるメリットもあります。
ただし、ビタミンAは妊娠初期に過剰摂取すると胎児の催奇形性リスクが高まることが報告されているため、注意しましょう。

薬の服用以外でつわりにおすすめの対策とは

笑顔の妊婦

つわりの治療に使用される薬についてご紹介しましたが、薬以外でもできる対策は多くあります。
ここでは、薬の服用以外でもできるおすすめの対策についてご紹介します。

こまめに水分補給をする

つわりのある妊婦の方は、特にこまめな水分補給が大切です。嘔吐することで、水分と電解質を失い、脱水状態になりやすくなります。
また、脱水状態になると体内の電解質バランスが乱れてさらに吐き気・嘔吐の症状が出ることもあります。
水分の摂取だけではからだの電解質濃度が低くなってしまうため、経口補水液やスポーツ飲料を少量ずつ飲むのがおすすめです。

【他にもおすすめのドリンクは?】
〇麦茶
ノンカフェインのお茶であるため、妊娠中に飲んでも安心です。また、カリウムやカルシウムなどのミネラルも豊富に含まれています。
〇たんぽぽ茶
ノンカフェインのお茶で、妊娠中でも問題なく飲めます。たんぽぽの根にはからだを温める作用があり、ホルモンバランスを整えたり血行を促進したりする効果も期待できます。
〇炭酸水
つわりがひどいときには、炭酸水もおすすめです。炭酸水は口の中をスッキリとさせ、症状の緩和につながることがあります。ただし、炭酸水には糖分が多く含まれているものもあるため注意しましょう。

ビタミンB群(ビタミンB6・葉酸など)を摂取する

ビタミン B6は補酵素としてタンパク質の分解を助ける作用があります。タンパク質の代謝がうまくいかなくなると、つわりが悪化しやすくなると考えられています。
また、葉酸は妊娠初期に、胎児の脳や脊髄などの元となる“神経管”を作るために重要な栄養素です。つわりで十分な食事が摂れていない場合は、葉酸を豊富に含む食品やサプリメントを利用して効率的に摂取するようにしましょう。
サプリメントの場合は、単独のビタミンを取るのではなく、マルチビタミン(ビタミン A・B1・B2・B6・B12・C・D・E・葉酸・ミネラルなどを含有)として摂取しましょう。

【おすすめの食品】
〇ビタミンB6が豊富な食べ物
かつお、鮭、鶏ささみ肉、バナナ、アボカド、にんにく、ごまなどに多く含まれています。
〇葉酸が豊富な食べ物
ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜、イチゴ、納豆などに多く含まれています。葉酸は熱に弱いため、生のまま食べるもしくは蒸すのがおすすめです。

生姜を取り入れる

生姜がつわりを軽減するという報告は多く、胎児への影響も心配ないとして、欧米では「つわり症状」へのショウガ粉末が広く推奨されています。[3]
生姜の辛み成分(ショウガオール・ジンゲロール・ジンゲロン)がセロトニン受容体に作用し、消化管の働きを調整してつわりを軽減させると考えられています。[6]

【注意点】
以下の薬剤を使用されている場合は、生姜の摂取は避けましょう。
・血糖値を下げる治療薬:インスリン
・血液の凝固を防ぐ治療薬:ヘパリン、低用量アスピリン
・血圧を下げる治療薬:カルシウム拮抗薬

腹式呼吸をする

腹式呼吸はお腹を動かす呼吸法で、自律神経を調節し、副交感神経を優位にする働きがあります。そのため、胃腸機能を整えるほか、リラックス効果もあることから、つわりを軽くする効果が期待できます。

【腹式呼吸のポイント】[7]
①吸うときは鼻からゆっくり、おへその下に空気を溜めていくイメージで行う。
②吐くときは口からゆっくり、からだの中の悪いものをすべて出し切るイメージで行う。
③吸うときの倍くらいの時間をかけるつもりで吐く。
④1日10~20回を目安に、無理なく続ける。

ミント芳香を取り入れる

ペパーミントには消化管の働きを促進させる作用や、胃の鎮痙作用があり、つわりを和らげる効果も期待できます。
ただし、好みでない香りは逆につわりを悪化させる原因にもなるため、無理のない範囲で行いましょう。[8]

【取り入れ方と注意点】
高濃度での使用は避け、以下のような「芳香浴」で取り入れるようにしましょう。
・ハンカチやコットンに1滴落として就寝時の枕元に置く。
・アロマポットやディフューザーで香りを拡散させる。

つわりに良いツボ「内関」指圧を行う

東洋医学で「内関(ないかん)」とは、胃腸症状に効果の期待できるツボとされています。特に乗り物酔い、二日酔い、つわり、胃の不快感、頭痛、不眠、のぼせ動悸、不安感などの症状に効果が期待できます。[8]

【方法】
場所:手のひらを握ったときに出る2本の腱と腱の間。しわの中央から、しわと平行になるように肘に向かって指を3本分置いたところ。
押し方:気持ち良い程度の強さで、ゆっくり深呼吸しながら、親指で押す。

つわりが辛い時期は無理をせずに職場に相談する

つわりが辛い時期には無理をせずに、しっかりと休養を取ることも大切です。
しかし仕事をされている方の中には、仕事先に休みたい旨を伝えにくいという方もいるかもしれません。
妊婦の方が医師から自宅安静などの指導を受けた場合、その指導内容を事業主に伝える『母性健康管理指導事項連絡カード(以下、母健連絡カード)』というツールがあります。[9]
疲れやストレスの蓄積はつわりの悪化にもつながります。このような制度も利用しながら、つわりの辛い時期を乗り切りましょう。

【母健連絡カードの利用方法】

妊娠中または出産後の女性労働者が健康診査等を受診します。
主治医等が、健康診断等の結果、通勤緩和や勤務時間短縮等の措置が必要であると判断した場合、「母健連絡カード」に必要な事項を記載して女性労働者に渡します。
女性労働者は、「母健連絡カード」を事業主に提出して、措置を申し出ます。事業主は、「母健連絡カード」の記載事項に従い、通勤緩和や勤務時間短縮等の措置を講じます。

妊娠中の薬の服用についてよくある質問

FAQ(よくある質問)

ここでは、妊娠中の薬についてよくある質問とその回答をご紹介します。

病院で処方される薬の中で、妊娠中に特に注意が必要な薬はあるの?

病院で処方される医療用医薬品の中で、妊婦に禁忌(₌使用してはならない)とされている薬には、以下のようなものが例としてあげられます。[10]

〇抗凝固薬:ワルファリン
〇HMG-CoA 還元酵素阻害剤:プラバスタチン、シンバスタチンなど
〇C型肝炎治療薬:リバビリン
〇片頭痛治療薬:エルゴタミン
〇糖尿病薬:SU剤、ビグアナイド系、速効型インスリン分泌促進薬
〇ホルモン剤:男性ホルモン剤、卵胞ホルモン・黄体ホルモン合剤など
〇抗がん剤:アルキル化剤、タキサン系、白金製剤
〇ビタミンA関連製剤:エトレチナート            など

これらの薬剤は、赤ちゃんへの催奇形性が報告されており、妊婦に処方されることはありません。
病院を受診して薬を処方してもらう際には、妊娠中であること、もしくは妊娠の可能性があることを必ず伝えるようにしましょう。

妊娠に気付かず、薬を服用してしまった場合はどうすればいい?

まずは、服用した薬品名や服用した時期、その量について、かかりつけ医に伝えましょう。
妊娠に気付かずに薬を服用してしまった場合でも、多くの場合は赤ちゃんへの影響はほとんど心配ありません。また、妊婦に禁忌の薬の場合であっても、その禁忌の「理由」を確認し、かかりつけ医とよく相談しましょう。

通常の場合であっても、2~5%の確率で生まれつきの異常をもった赤ちゃんは出生します。そのため、もし赤ちゃんに異常があったとして必ずしもその薬剤の影響であるかどうかは言い切れないのです。[11]

つわりに市販の吐き気止めを使用してもいい?

吐き気を抑える市販薬には、食べ過ぎや二日酔いなどに使用する「吐き気止め」、乗り物酔いを防ぐ「酔い止め」などがあります。しかし、これらを妊娠中の「つわり」の症状に使用することは避けましょう。
市販薬には製品の特性上、複数の種類の薬品成分が含まれている場合も多く、すべての成分の安全性を確認することは難しいです。
妊婦に使用実績のある医療用医薬品を、かかりつけ医から処方してもらうようにしましょう。

妊娠中の薬の服用について不安がある…

妊娠中の薬の服用について不安に感じることは多いと思います。
「この薬なら大丈夫そう」「体調は悪いが、妊娠中に薬は飲めない」など自分ひとりで判断せずに、かかりつけ医や薬剤師に相談することが大切です。

【参考文献】
[1]丹羽公一郎(2019)妊娠中の薬物療法,383-388
[2]丸尾猛ら(1998)妊娠悪阻にまるわる諸問題,日本産科婦人科学会雑誌No50(6)
[3]公益社団法人 日本産科婦人科学会,産婦人科診療ガイドライン―産科編2020
[4]厚生労働省 日本産科婦人科学会 未承認薬・適応外薬の要望
[5]国立成育医療研究センター プレスリリース2021
[6] Jin Z, et al. (2014) Ginger and its pungent constituents non-competitively inhibit serotonin currents on visceral afferent neurons,Korean J Physiol Pharmacol.18(2):149-153
[7] 日本医師会 腹式呼吸のやり方
[8] 岩國亜紀子(2017)妊婦が自らに合ったつわり軽減方法を見出す セルフケア行動の向上を目指した看護援助プログラム によるセルフケア能力及びつわりへの効果検証, 日本看護科学会誌 Vol. 37, 353–363
[9]厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト
[10]日本医師会  妊娠または妊娠している可能性のある婦人に禁忌の主な医薬品リスト
[11] 日本産婦人科医会先天異常委員会  妊婦の薬物服用