抑肝散(よくかんさん)は、イライラや怒りっぽい症状、子どもの夜泣きや癇癪に効果が期待できる漢方薬です。しかし、自分の体質に合っているか、服用時の注意点などをよく理解してから使用することが大切です。
この記事では、抑肝散の効果や、よく似た漢方薬「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」との違いについて、薬剤師が詳しく解説します。
イライラや怒りっぽさでお困りの方は、ぜひYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
抑肝散とはどんな漢方薬?
抑肝散の成分と効能効果
抑肝散は神経が高ぶって、怒りっぽい、イライラする、眠れない人に用いられる漢方薬です。
以下の生薬が配合されています。
配合生薬
蒼朮(白朮)、茯苓、川芎、釣藤鈎、当帰、柴胡、甘草
効能・効果
虚弱な体質で神経が高ぶる人の次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(しょうにかんしょう)
※小児疳症(しょうにかんしょう)とは・・・小児の神経症や夜泣き、痙攣を引き起こす疾患群のこと。
抑肝散が合う人はこんな人
体力があまりなく、暑がり傾向の人に向いています。さらに具体的な症状としては以下のような症状がある人に向いています。
- イライラする、すぐ興奮する、神経過敏、怒りっぽい
- まぶたがピクピク痙攣する
- 歯を食いしばる、噛み締めがある
- 緊張しやすく、寝付きにくい(不眠)
- 頭痛、目の痛みがある
など
イライラやストレス症状に対する漢方薬についてはこちら▼の記事でも詳しく解説しています。
抑肝散の歴史と背景ー母子同服とは
抑肝散は、肝の高ぶり(交感神経の興奮状態)を抑える効果がある漢方薬です。もともとは小児のひきつけを治療する処方として知られており、現在でも子どもの夜泣きや癇癪(かんしゃく)の対策に使われています。
さらに、子どもの精神状態は母親の状態と深く関連していることが多いため、抑肝散は「母子同服」として、症状の有無にかかわらず、子どもだけでなく母親にも一緒に服用させる薬として知られています。この「母子同服」の考え方は、中国の明代に書かれた小児科専門書『保嬰撮要(ほえいさつよう)』(1555年)にも記されています。
抑肝散の母子同服の症例
以下は、漢方医の渡辺賢治先生の漢方医院へ来院された患者さんの症例です。
・4歳 男児
3歳から目をパチパチする、奇声を発するなどの症状があり、近所の医院でチックと診断された。症状が改善せず来院。母親は神経質でヒステリックな印象。
母子ともに抑肝散を服薬。
2週後、母親の方が気分的に楽になってきたという。6週後、子どもが奇声を上げる回数が減ってきた。それに伴い母親がよく眠れるようになってきたという。10週後、親子とも落ち着いた雰囲気になってきた。その後じょじょに母親の精神症状、患児のチックも改善。6ヶ月後、治療を終了した。(引用:渡辺賢治 著 漢方医学)」
抑肝散と抑肝散加陳皮半夏との違い
抑肝散と似た名前の漢方薬に「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」があります。
抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に「陳皮(ちんぴ)」「半夏(はんげ)」を加えた漢方薬で、抑肝散の症状に加えて胃腸症状(悪心・嘔吐・腹部膨満感・食欲不振など)がある人に向いています。
効能効果は抑肝散と同じで、「虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:
神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症」となっています。
漢方薬は、自分の体質に合うものを服用することで効果を発揮することができます。自分に合った漢方薬が知りたい方は、YOJOの薬剤師に相談することもできます。
抑肝散の効果とは
抑肝散がどのような症状に効果があるのか、詳しく解説いたします。
神経症
抑肝散は、ノイローゼやヒステリーなどのさまざまな精神的な症状に使われます。特に、せっかちで興奮しやすく、不眠があり、まぶたや顔、手足がけいれんする人に適しています。
また、抑肝散は、向精神薬による錐体外路症状(手足の震えや動作の鈍さ)などの副作用がないため、安全性が高いことが特徴です。場合によっては、向精神薬と併用することで向精神薬の量を減らすことができる場合もあります。
不眠症
抑肝散は、気の巡りを良くして緊張をほぐし、神経の興奮を落ち着かせる効果があります。そのため、イライラや興奮で眠れない不眠症の改善に特に効果的です。
不眠症に対する漢方治療については、こちら▼の記事で詳しく解説しています。
子どもの夜泣き
抑肝散は、もともと子どものひきつけや夜泣きに使われていた薬なので、子どもでも服用できます。落ち着きがなく、興奮して寝つきが悪い子どもに向いています。自己判断で服用させるのが不安な場合は、小児科医や薬剤師に相談してください。
抑肝散は「少し甘くて渋い味」が特徴です。[1] 子どもに飲ませる際は、はちみつ(※1歳未満には与えないでください)やココアに混ぜると飲みやすくなります。お薬用の服薬ゼリーも便利です。どうしても飲んでくれない場合は、お湯に溶かしてホットケーキの生地に混ぜる方法も試してみてください。
漢方薬の飲み方については、こちら▼の記事で詳しく解説しています。
認知症の周辺症状(興奮、怒りっぽい、徘徊など)
認知症の症状には、記憶障害や見当識障害といった認知機能の低下だけでなく、興奮、幻覚、妄想、抑うつ、攻撃的な行動や徘徊などの周辺症状(BPSD)もよく見られます。これらの周辺症状は、介護者や家族に大きな負担をかけることがありますが、抑肝散はこれらの症状に対して幅広い効果があることが報告されています。
アルツハイマー病、脳血管障害、レビー小体病による認知症患者52例を抑肝散投与群27例と非投与群25例をランダムに分け、4週間の観察者盲検比較対照試験を実施したところ、抑肝散投与群では、幻覚、不安、興奮などで開始時に比較し有意な改善を認めたと報告されています。[2]
抑肝散の飲み方と注意点
こちらでは、抑肝散の飲み方と副作用や妊娠中・授乳中の服用に関する注意点を解説しています。
適切な服用量とタイミング
成人の服用量は、1日7.5gを2~3回に分けて、食前または食間に服用してください。[1] ただし、年齢や体重、症状によって適量が変わる場合があるため、詳しくは医師や薬剤師に相談してください。
また、食前に服用して胃もたれが起こる場合は、食後に服用すると症状が軽減することがあります。
エキス剤(顆粒剤)や散剤は、お湯に溶かし、人肌程度に冷ましてから飲むのがおすすめです。子どもの場合は、お湯に溶かして冷ましたものを、薄めてお風呂上がりや食事中にお茶代わりに飲ませても構いません。また、ジュースに混ぜるなどして、飲みやすくする工夫も良いでしょう。重要なのは、しっかり服用させることです。
抑肝散と他の薬との飲み合わせ
抑肝散と飲み合わせが悪い(禁忌)医薬品はありません。しかし、抑肝散には「甘草」が含まれているため、他の漢方薬と併用する場合は「甘草」の量が増えないように重複に注意しましょう。
また、以下の医薬品との飲み合わせには注意する必要があるので、もし併用する際には医師や薬剤師に相談しましょう。
- カンゾウ含有製剤(芍薬甘草湯、補中益気湯、六君子湯など)
- グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤(グリチルリチン酸一アンモニウム・グリシン・L-システイン、グリチルリチン酸一アンモニウム・グリシン・DL-メチオニン配合錠 など)
抑肝散の副作用
抑肝散の使用により、以下の副作用が報告されています。これらは頻度が不明のため発生は稀ですが、何か異常を感じた場合は、服用を一旦中止し、医療機関を受診してください。
重大な副作用
・間質性肺炎: 咳、呼吸困難、発熱、肺の異常な音などが見られたら、服用を中止し、医師に相談してください。
・偽アルドステロン症: むくみ、血圧上昇、手足のだるさやしびれ、筋肉のつっぱり感やこわばりが現れた場合は、服用を中止しましょう。力が抜ける感じやこむら返り、筋肉痛がひどくなる場合も、早めに医師や薬剤師に相談してください。
・心不全: むくみや急激な体重増加、息切れ、呼吸困難、疲労感、だるさなどの心不全の兆候が見られた場合は、すぐに服用を中止し、医療機関を受診してください。
・ミオパチー、横紋筋融解症: 脱力感、筋力低下、筋肉痛、手足の痙攣・麻痺、赤褐色の尿が見られた場合は、服用を中止し、医師に相談しましょう。
・肝機能障害、黄疸: 皮膚が黄色くなる、血液検査で異常な数値が出る場合も、服用を中止して医師に相談してください。
その他の副作用
種類 | 症状 |
過敏症 | 発疹、皮膚の赤み、皮膚のかゆみ、など |
消化器症状 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢、など |
精神神経系症状 | 常に眠気を感じる |
その他 | 倦怠感 |
妊娠中や授乳中の服用について
妊娠中の漢方薬の服用は、基本的に医師が「治療のメリットがリスクを上回る」と判断した場合に限りましょう。催奇形性(赤ちゃんに奇形を引き起こすリスク)についてはまだわからないことが多いため、できる限り器官形成期(妊娠4~5週末)は服薬を避けるのが無難です。
ただし、抑肝散には妊娠中に注意が必要な生薬は含まれていないため、医師の判断のもとで服用が可能です。自己判断せず、必ず主治医に相談してから服用するようにしましょう。一方、抑肝散加陳皮半夏には「半夏(はんげ)」という生薬が含まれており、妊娠中は慎重に使用すべき生薬ですので、こちらも自己判断ではなく必ず医師に相談が必要です。[3]
授乳中の服用についても、問題となる成分は含まれていないため、服用は可能です。ただし、赤ちゃんの様子を観察しながら服用することが大切です。母乳への影響が心配な場合は、授乳直後に服用するなどの工夫をしてみましょう。
抑肝散と抑肝散加陳皮半夏のおすすめの市販薬
抑肝散と抑肝散加陳皮半夏は市販で購入できる漢方薬です。まずは市販で試してみたい方のために、それぞれの市販薬をご紹介します。
ツムラ漢方抑肝散エキス顆粒
1日2回服用の顆粒タイプ
抑肝散エキスを有効成分とした顆粒剤タイプの漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の1/2量の抑肝散エキスを配合しています。3ヶ月以上のお子さまから服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症(※) (※)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 2歳未満:1回1/4包 |
内容量 | 20包/48包 |
抑肝散加陳皮半夏エキス錠クラシエ240錠
1日3回服用の錠剤タイプ
抑肝散加陳皮半夏エキスを有効成分とした顆粒剤タイプの漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の1/2量の抑肝散加陳皮半夏エキスを配合しています。5歳以上のお子さまから服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度をめやすとして、やや消化器が弱く、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、更年期障害、血の道症、歯ぎしり (注)「血の道症」とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状を指します。 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回4錠 7歳未満5歳以上:1回3錠 |
内容量 | 240錠 |
抑肝散に関するよくある質問
ここでは、抑肝散に関するよくある質問にお答えいたします。
抑肝散の効果を感じるまでの期間はどのくらい?
症状や個人差もありますが、抑肝散を服用し始めてから効果を感じるまでにはだいたい2週間が目安とされています。[4]
また、抑肝散は即効性もありますが、持続的に服用することで不安感が徐々に消失していくことが知られています。[5]
抑肝散の効果を高めるためのおすすめの食材は?
血流を整え、ストレスを緩和する食材がおすすめです。薬膳では、気や血の巡りを整えるためには香りの良い食材を摂ると良いとされています。
薄荷(ミント)・・・気の巡りを良くしてくれる上、解毒・解熱作用もあるので、熱がある時や頭や顔のほてりが気になる時、体に熱がこもって暑苦しく感じる時にも適しています。ミントティーなどがおすすめです。
その他にも・・・カモミールティー、ジャスミンティー、ローズヒップティーなどもおすすめです。
イライラや子どもの夜泣きに悩んでいる人は抑肝散も選択肢に
子育て世代は、更年期や親の介護と重なる時期でもあり、イライラや怒りっぽさに悩む方が多いかもしれません。抑肝散や抑肝散加陳皮半夏は、子どもの夜泣きだけでなく、更年期のイライラや認知症の方の興奮や攻撃的な症状の緩和にも効果が期待できます。一人で悩まず、ぜひ一度YOJOの薬剤師にご相談ください。
YOJOでは、体質に合った漢方薬の選び方や生活習慣を改善するためのアドバイスなども薬剤師から受けることができます。なかなか改善されない不調に悩んでいる方は、YOJOの薬剤師に相談するのも良いでしょう。
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【参考文献】
[1]ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)添付文書
[2]日本東洋医学会 EBM 委員会エビデンスレポートタスクフォース Iwasaki, K. et al.,J Clin.Psychiatry.2005,66,248-252 認知症患者の行動障害と日常生活動作に対する抑肝散の有効性および安全性評価
[3]公益社団法人福岡県薬剤師会 妊婦への投与に注意が必要な漢方薬
[4]伝統医学 Vol.11 No.1(2008.3) -臨床医からみた抑肝散の使い方
[5]渡辺賢治著 マトリックスでわかる!漢方薬使い分けの極意