イライラやストレスにおすすめの漢方薬とは?

イライラ・クヨクヨする女性

「生理前にはいつもイライラしてしまう」
「最近、神経質で怒りっぽくなったと言われるけれど更年期かな…」
「イライラしたり落ち込んだり、気分の浮き沈みが激しい」

そんな症状の方に、漢方薬が有効な対処法の一つになることがあります。

この記事では、

・イライラやストレスに漢方がおすすめの理由

・イライラの原因・体質別の漢方薬の選び方

・イライラしたときに効果が期待できる養生法

について詳しく解説します。

イライラやストレスにお悩みの方は、YOJOの薬剤師にも相談することができます。YOJOでは体質チェックをもとに適切な漢方薬をご提案いたします。

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Contents

イライラやストレスの原因とは~漢方との関連性~

ストレス

私たちがイライラやストレスを感じてしまうのは、どのような時でしょうか?
まずは原因を考えてみることで、ストレスの回避につながるだけでなく、適切な漢方薬の選択にもつなげることができます。

人間関係や環境・季節などの外的要因

ストレス社会に生きる私たちは、自分以外の外的要因からイライラしてしまうことが多くあります。たとえば、職場や家庭での人間関係、仕事や受験のプレッシャー、転居や転職といった環境の変化などです。
多少のイライラやストレスは、適度にリフレッシュをすることで解消することができます。しかし、過度なストレスを受け続けると交感神経が優位な状態が続くことで、自律神経のバランスが崩れてしまうことがあるため注意が必要です。

ホルモンバランスの乱れ

女性は特に生理前になると、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの分泌量が急激に変化します。すると、脳内で気分の調整などに関与している「セロトニン」や「γアミノ酪酸」といった神経伝達物質に影響を及ぼし、イライラしやすくなると考えられています。[1]

また、同様の理由で、40代後半頃に更年期を迎えると、エストロゲンの分泌量が減少し、ホルモンバランスが乱れてイライラやストレスを感じやすくなります。

病気やケガなどの身体的要因

自身の病気やケガといった、からだの不調が原因でイライラしてしまうこともあります。たとえば、アトピー性皮膚炎の方は痒みや見た目の悪化でイライラやストレスを感じやすいです。イライラ時に皮膚を掻き壊してしまうことも少なくなく、バリア機能が悪化しさらに悪循環に陥ります。

こちら▼の記事では、アトピー性皮膚炎の治療やスキンケアのポイントについても解説しています。

アトピー性皮膚炎とは?原因と治療法やスキンケアのポイントについても解説

子どもの夜泣きや癇癪(かんしゃく)

子育て中の女性は、子どもの夜泣きや癇癪にイライラしてしまうことがあるかもしれません。漢方には古くから「母子同服」という言葉があります。子どもは親の鏡で、子どもの精神状態が親の精神状態に影響することも多いという考え方からです。たとえば子どもの夜泣きや情緒不安定によく使用される「抑肝散」という漢方薬を、母親と子どもが同時に服薬して、母子一緒に治療を行うことが有効なケースもあります。[2]

漢方でみるイライラやストレスを感じやすい状態とは

漢方生薬

では、漢方の視点から、イライラやストレスを感じやすくなるからだの状態について考えてみましょう。
漢方では、「気」や「肝」の不調が精神症状に関与すると考えられています。

イライラやストレスの原因:「気」の不調

気(き)・血(けつ)・水(すい)とは

気血水

漢方では、私たちのからだを構成する基本的な要素は「気・血・水」の3要素だと考えています。

「気」:生命活動のエネルギー源
「血」:全身を巡る血液やその栄養
「水」:血液以外の体液

この中でも、イライラは主に「気」の不調が原因です。

気滞(きたい)

気の巡りが悪く、停滞している状態を「気滞」と呼びます。
気滞の状態では精神が不安定となりやすく、イライラだけでなく不安感や気分の落ち込みなども生じます。また、余分な気が胃腸や胸へと溜まることで、のどの詰まり、げっぷ、腹部の張りや食欲不振などにつながります。

また、「気」の不調以外にも、女性は生理周期にともない子宮の血流量が変化するために「血」に異常が生じます。そこにストレスが加わることで3要素全体のバランスが大きく崩れて「気」の不調が悪化してしまうこともあります。

イライラやストレスの原因:「肝」の不調

五臓

五臓(ごぞう)とは

漢方では、人体の働きを自然と同じ5つの要素に分けて考え、それぞれ「肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)」といいます。

「肝」:気を巡らせて、血を蓄えます。自律神経や感情のバランスを整えます。
「心」:血を巡らせて、からだ全体をコントロールする役割があります。
「脾」:消化吸収を通してエネルギーを作り出す役割を担っています。
「肺」:呼吸を調節して、気・血・水を全身に行き渡らせます。
「腎」:水分代謝のほか、ヒトの成長・発育・生殖などにも関わるとされます。

この中でも、イライラは主に「肝」の不調が原因で起こることが多いです。

肝気欝結(かんきうっけつ)

肝の疏泄機能(気を巡らす作用)が失われて、気の流れが鬱滞(うったい)した状態を「肝気鬱結」と呼びます。感情の抑圧や怒りが原因で起きやすいです。
イライラや気分の落ち込み、胸部の張り、のどの詰まりなどの症状があります。

肝火上炎(かんかじょうえん)

主に肝気鬱結が長期化したことで現れる病態を、「肝火上炎」と呼びます。強いイライラ感や怒りだけでなく、不眠や激しい頭痛、めまいなどの症状が起こることもあります。

ご自身の体質や状態については、こちらの体質チェックからも確認することができます。

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イライラやストレスにおすすめの漢方薬とは

漢方生薬の棚

ここでは、イライラやストレスに効果の期待できる具体的な漢方薬についてご紹介します。

【怒りっぽい人に】抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

抑肝散加陳皮半夏は、気の滞りや血の巡りを改善して自律神経のバランスを整えてくれる働きがあります。
肝の高ぶりを抑える漢方薬「抑肝散」に、「陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ)」の生薬が追加された処方で、消化機能を改善する作用が強くなっています。
ストレスの影響で胃腸が弱っている方には、抑肝散加陳皮半夏がよりおすすめです。

服用がおすすめな人
体力は中等度で胃腸がやや弱く、神経の高ぶりや怒りっぽさ、イライラ
の症状がある人

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。

他にも、自律神経のバランスを整える働きのある漢方薬や選び方については、こちら▼の記事をお読みください。

自律神経を整える漢方薬とは?体質別の選び方やおすすめケアも解説

【ホルモンバランスの乱れが原因のイライラに】 加味逍遙散(かみしょうようさん)

加味逍遥散は、血を補い、滞っていた気の巡りを良くする働きがあります。
婦人科三大漢方薬の一つであり、自律神経失調症の代表処方です。そのため特に肝に異常があり、交感神経の興奮によるイライラ、不眠症などの中高年女性の方の神経症状に多く用いられます。ただし男性に使用する場合もあります。

配合生薬の「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。「当帰・芍薬・牡丹皮」といった生薬が血行を促進します。

服用がおすすめな人
体力が中等度以下の人
におすすめの漢方薬ですPMS(月経前症候群)の神経症状や更年期の症状のほか、生理不順や冷え、肩こりなどにも効果が期待できます。

服用上の注意
胃腸が弱い人は注意しましょう
副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。
妊娠中の人は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

他にも、PMS・更年期障害のイライラや不調に効果の期待できる漢方薬についてさらに知りたい方は、こちら▼の記事をお読みください。

PMS(月経前症候群)に漢方は有効?選び方や生活アドバイスも解説
更年期障害におすすめの漢方薬とは?症状や体質別の選び方も解説

【ストレスで不眠症の人に】 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

柴胡加竜骨牡蠣湯は、気の巡りを整えてからだにこもった熱を冷まし、心を落ち着かせる働きがあります。ストレスや精神不安から起こる不眠にも改善が期待できます。

配合生薬の「竜骨(りゅうこつ)・牡蛎(ぼれい)・茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)・大黄(だいおう)」に精神安定や鎮静作用があります。また、「柴胡・半夏(はんげ)・黄芩(おうごん)」はからだの中に生じた熱を冷ます働きのある生薬です。

柴胡加竜骨牡蠣湯は、メーカーによって配合されている生薬や適応症の一部が異なる場合があります。例えば、クラシエの漢方薬には緩下作用のある「大黄」が含まれていますが、ツムラの漢方薬には「大黄」が含まれていません。

服用がおすすめな人
体力中等度以上の人
に向きます。ストレスや精神不安があって、不眠や、動悸、便秘などを伴うことがある人におすすめの漢方薬です。

服用に注意が必要な人
下痢・軟便傾向のある人は注意しましょう
「大黄」が配合されていない製品を選んでも同様の効果が期待できます。
妊娠中の人は服用を避けましょう
「大黄」配合製品を妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。

服用上の注意
間質性肺炎の副作用に注意しましょう
発熱、咳、呼吸困難などの症状があらわれた場合には、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
肝機能障害の副作用に注意しましょう
無症状のまま血液検査で判明することも多いですが、発熱、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、黄疸などが出た場合には、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

【イライラで肌荒れもある人に】黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

黄連解毒湯には、 からだを冷やして余分な熱を取り、炎症を鎮める作用があります。
「黄連(おうれん)・黄柏(おうばく)・黄芩(おうごん)・山梔子(さんしし)」といった4種類の消炎・解熱作用をもつ生薬が配合され、ストレスで悪化するような肌トラブルに効果が期待できます。

また黄連、山梔子は鎮静作用が強く、自律神経系の興奮を抑える作用があります。

服用がおすすめな人
体力は中等度以上で、のぼせぎみで顔色赤く、イライラして落ち着かない人に向きます。肌トラブルのほか、不眠症、神経症、胃炎、めまい、動悸、 更年期障害などにも使用されます。

服用に注意が必要な人
冷えや疲労感のある人
虚弱体質の人

服用上の注意
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

イライラや生理周期で悪化する肌荒れに効果の期待できる漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

ニキビや肌荒れに漢方は効くの?正しい選び方やおすすめ市販薬も解説

【不安・のどの違和感がある人に】 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

半夏厚朴湯には、気の巡りを良くして、不安や気持ちの落ち込みを緩和する作用があります。
配合生薬の「半夏(はんげ)・厚朴(こうぼく)」が、からだを温めて緊張を緩和します。「蘇葉(そよう)」には香りと共に気を巡らせストレスを発散させる作用があります。

また、ストレス・疲労から自律神経に不調が起こると、喉や食道の筋肉が緊張し、のどの詰まりやお腹の張りを感じることがあります。特にのどの違和感については「咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)」または「ヒステリー球」とも呼ばれることもあります。このような症状にも半夏厚朴湯は効果的です。

服用がおすすめな人
体力が中程度の人
で咽喉・食道部に異物感がある人におすすめの漢方薬です。精神不安やストレスからくる神経性胃炎、動悸、めまいにも効果が期待できます。

また、半夏厚朴湯と他の薬やサプリメントとの飲み合わせについても知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

半夏厚朴湯の飲み合わせで禁忌のものはある?他の薬やサプリとの飲み合わせも解説

【クヨクヨする人に】加味帰脾湯(かみきひとう)

加味帰脾湯は、気と血の不足を補う漢方薬です。不安や落ち込みやすさを改善し寝つきを良くする効果があります。また、胃腸を丈夫にして栄養吸収を高め、貧血症状も改善します。

配合生薬の「酸棗仁(さんそうにん)・竜眼(りゅうがん)・遠志(おんじ)」が精神を安定させ不安や憂うつを和らげます。そのほか「人参(にんじん)・白朮(びゃくじゅつ)・生姜(しょうきょう)」などの胃腸機能を強くする生薬が配合されています。

服用がおすすめな人
体力は中等度以下で血色の悪い人
に向きます。体力や消化機能が落ち、クヨクヨ悩んでしまって眠れない人におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
腸間膜静脈硬化症の副作用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」を含む漢方薬を長期(5年以上)服用すると、起こる場合があります。腹痛・下痢・便秘・腹部膨満などの症状がくり返し現れる場合は医師に相談しましょう。

イライラやストレスに 西洋薬と比較した漢方薬のメリット・デメリット

薬を飲む女性

過度のストレスは自律神経失調症やうつ病、ストレス性障害、不眠症などの病気につながる危険性もあります。
治療には西洋薬と漢方薬が使用される場合がありますが、西洋薬と比較して漢方薬にはどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。

メリット

ストレスや気分の落ち込み、不眠などの治療は、西洋薬では主に抗不安剤や睡眠導入剤などが用いられます。これらの薬剤は即効性が期待できる分、眠気やふらつきなどの副作用も現れやすい薬剤です。また薬剤の種類によっては依存性が認められるものもあります。
一方で漢方薬は、強い眠気やふらつき、依存性などの副作用を起こす心配はほぼありません。

デメリット

漢方薬は、継続的に服用することで体質改善を促し、ストレスに影響を受けにくいような状態へと導く薬剤です。そのため、西洋薬に比べて即効性には欠けるでしょう。個人差や漢方薬の種類などによる差はありますが、1か月程度は継続して服用することが必要です。
また、漢方薬の種類によっては、苦みや飲みにくさを感じる場合もあります。

ただし、漢方薬は飲み方を工夫することで、飲みやすくすることもできます。漢方薬の飲み方についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

漢方薬の正しい飲み方は?上手に飲むコツや飲むときの注意点も解説

病院で処方される漢方薬と市販薬との違いについて

ドラッグストアで薬を選ぶ女性

漢方薬に含まれる生薬成分については、「処方薬(医療用漢方製剤)」と「市販薬(一般用漢方製剤)」とで変わりはなく、期待できる効能効果は同じです。処方薬が医師の診断に基づいて選択されるのに対して、ドラッグストアなどで購入できる市販薬は、服用者自身が選択し購入することができます。なお、市販薬は不特定多数の方が購入するため、安全性を考慮して、1日の服用量中の成分配合量が少ない場合もあります。[3]

漢方のほかにイライラにおすすめの養生法

笑顔な女性

心の健康を保つためには、早めの対策が大切です。ここでは、漢方のほかにも日常のケアでできる、おすすめの養生法や対策をご紹介します。

リラックスできるツボ「合谷(ごうこく) 」

東洋医学では、「心身一如(しんしんいちにょ)」といって心とからだは一体であると考えます。万能ツボの1つとして知られている「合谷」は、心をリラックスさせる効果が期待できるツボです。

場所:親指と人差し指の骨が交わる付近の人差し指側
押し方:
①「合谷」を反対の親指で人差し指方向に、5秒ほどかけて押す
②ツボを押してツンとする感じが出たら、10秒待って離す。
③これを「気持ちがいい」程度で3~5回繰り返す。    

適度な運動をする

適度な運動は、ストレスホルモンの分泌を減少させて心をリラックスさせる効果があります。
また、深呼吸や腹式呼吸を取り入れた瞑想やヨガもおすすめです。これらの呼吸法は交感神経を抑制して副交感神経を刺激するため、自律神経を整える作用があります。

太陽の光を浴びる

朝起きて太陽の光を浴びると気分が明るくなることはありませんか?
日光を浴びると、脳内で「セロトニン」という神経伝達物質の分泌が高まります。セロトニンは自律神経のバランスを整え、精神を安定させてイライラやストレスを軽減させる作用があります。
またセロトニンは、ウォーキングやジョギング、サイクリングなど一定の動きを繰り返す運動によっても促されます。そのため「太陽の光を浴びながらウォーキング」はストレス解消にとてもおすすめです。

香りを利用する

「嗅覚」は、五感の中で唯一「情動」(喜怒哀楽などの一時的で急激な感情の動き)に伝わるといわれています。
オレンジやレモンなどの柑橘系の香りはイライラを落ち着かせて気の巡りを良くする効果があります。また、コーヒーの香りやラベンダー、ヒノキなどの香りにもストレスへの効果が期待できます。 [4]

YOJOでは漢方薬のご提案だけでなく、生活上のアドバイスも受けることができます。コントロールできないイライラや気分の浮き沈みにお悩みの方は、体質チェックの結果をもとにYOJOの薬剤師にも相談することができますよ。

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【参考文献】
[1]大塚製薬 PMSラボ
[2]峯尚志,障害児医療における漢方治療の役割,Phil漢方No.16
[3]クラシエの漢方 漢方薬みんなの疑問
[4] 東邦大学  匂いと脳のストレス応答