防風通聖散とは、肥満症の治療に効果のある漢方薬です。ダイエットに興味のある方は名前を聞いたことがあるかもしれません。
市販薬でも販売されているので気軽に服用を始めることができます。ただし、漢方薬は体質によって合う・合わないがあるため漫然と飲み続けると思わぬ副作用を招く危険性があります。
今回は、防風通聖散を飲み続けるとどんな変化があるのか、特に肥満症改善の効果や副作用について詳しく薬剤師が解説いたします。
肥満症でお悩みの方、ダイエットしたいけど自分の体質を改善する漢方がわからない方は、ぜひ一度YOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
防風通聖散とは
防風通聖散は、肥満症の治療に使われる漢方薬です。体内にたまった余分なものを排出する働きがあり、便秘やむくみの改善、高血圧に伴う症状の緩和にも効果があります。ただし、生薬が18種類も含まれているため、飲み合わせや副作用には注意が必要です。
構成生薬
滑石(かっせき)、黄芩(おうごん)、甘草(かんぞう)、桔梗(ききょう)、石膏(せっこう)、白朮(びゃくじゅつ)、大黄(だいおう)、荊芥(けいがい)、山梔子(さんしし)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)、薄荷(はっか)、防風(ぼうふう)、麻黄(まおう)、連翹(れんぎょう)、生姜(しょうきょう)、芒硝(ぼうしょう)
効能・効果
腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちな人の次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘
防風通聖散はどんな人に合う漢方薬?
体力があり、暑がりで、お腹に脂肪がたまりやすく、便秘がちな方におすすめです。特に、食べ過ぎや飲み過ぎがあり、カロリーオーバーで体に余分なものがたまり、排出がうまくいっていない肥満の方に効果があります。生活習慣病やメタボリックシンドロームの内臓脂肪型肥満の方にも適しています。
また、以下の症状がある方にも効果があります。
- 高血圧と関連した頭痛や肩こりのぼせ
- むくみ
- 便秘
他にダイエットや肥満改善の目的で用いられる漢方薬には以下のものがあります。
・防已黄耆湯(ぼういおうぎとう):疲れやすく体力がない人で、色白で筋肉が柔らかく、水太り体質で、汗をかきやすく、脚にむくみがある人に向いています。
・大柴胡湯(だいさいことう):体力があり体格が良い人で、便秘がちでストレスを多く感じ、イライラや肩こりなどの症状がある人に向いています。
漢方薬は自分の体質に合ったものを選ぶことが大切です。自分に合う漢方薬を知りたい方は、ぜひ一度YOJOの薬剤師にご相談ください。
防風通聖散を飲み続けるとー肥満症改善に対する効果
防風通聖散にはどのような効果があるのでしょうか。こちらでは、「肥満症の改善」の効果について詳しく解説いたします。
脂肪を分解・燃焼する
防風通聖散には「麻黄(まおう)」という生薬が含まれます。その有効成分であるエフェドリンには、発汗・発熱作用や脂肪分解作用があります。さらに、「荊芥(けいがい)」「甘草(かんぞう)」「連翹(れんぎょう)」にも、麻黄の脂肪分解作用をサポートして促進する働きがあります。これらの生薬の作用によって脂肪が分解され、体重が減少します。特に内臓脂肪を減らす効果も報告されています。
様々な体質(証)が混ざった肥満症患者において無作為化試験において、
防風通聖散群はプラセボ群に比べて、内臓脂肪、胴囲が減少し、インスリン抵抗性が改善されることが明らかになりました。
(参照:メタボリックシンドロームに対する防風通聖散の有効性の検討,J Pharm Health Care Sci. 34(6) 513-521)
便通を改善する
防風通聖散には「大黄(だいおう)」や「芒硝(ぼうしょう)」などの生薬が含まれています。これらは下剤のはたらきがあります。大黄は大腸を刺激して便を出しやすくし、芒硝は浸透圧によって腸に水分が移行し、便が柔らかくなり、排便がスムーズになります。
脂肪を便と一緒に排泄する
防風通聖散は、食事からの脂質の吸収を抑制し、便と一緒に脂質やコレステロールを排出する効果があることがわかっています。[1]
その他にも防風通聖散は、高血圧に伴う随伴症状(動悸、のぼせ、肩こり)、むくみ、睡眠時無呼吸症候群などにも効果があります。詳しい解説はこちら▼の記事をお読みください。
肥満症体質でお悩みの方やなかなかダイエットがうまくいかない方は、ぜひ一度YOJOの薬剤師にご相談ください。生活習慣の改善も含めアドバイスいたします。
防風通聖散を飲み続けるとどんな変化がある?
ここでは、防風通聖散を継続して服用すると体にどのような変化が起こるか、効果と副作用に焦点を当ててお伝えします。
肥満症の改善
防風通聖散は飲み始めて体重減少などの効果を感じるまでには、数ヶ月かかることがあります。早ければ1週間ほどで便通の改善が見られることもありますが、肥満症の改善を目的とする場合は、最低でも1ヶ月は服用を続ける必要があります。[2]
肥満症の治療には食事療法と運動療法に取り組むことが大切です。防風通聖散を併用することで肥満症改善の効果が高まります。副作用に注意しながら数ヶ月継続して服用することが重要です。
また、体重が減少することで、血圧が下がったり、睡眠時無呼吸症候群が改善されたりすることもあります。
以下のようなエビデンスもあります。
防風通聖散 7.5g/日の投与が食事・運動療法単独群より 6 ヵ月で3.4kgの減量と内臓脂肪量及びウエスト周囲長を減少させることが報告されています。
(参照:日本東洋医学会EBM委員会 診療ガイドライン・タスクフォース 吉田俊秀, 日置智津子. 肥満治療としての漢方薬の作用機序. 医学のあゆみ 202: 1005-9.)
肥満症の漢方治療についてはこちら▼
[関連記事]肥満に漢方薬は効果的?体質別の選び方や正しい使用方法を解説
防風通聖散の効果を高める生活習慣のポイントや市販薬についてはこちら▼
[関連記事]防風通聖散を1か月飲んで痩せる?効果や副作用、服用が合わない人についても解説
飲み続けることによる副作用に注意
5年以上飲み続けると腸間膜静脈硬化症のリスク
山梔子(さんしし)を含む漢方薬を長期間服用(多くは5年以上)することで、大腸の色調異常や潰瘍を生じ、腸間膜静脈硬化症を発症することがあります。[3]
山梔子(さんしし)に含まれるゲニポシドという成分が腸内細菌により加水分解されたのちに吸収され、青色色素を作り、静脈血管壁を固くし、血流の悪化や腸管を狭めるなどの症状を引き起こします。
以下の症状が現れた時には、漢方薬の服用を中止し医療機関を受診しましょう。場合によってはCTや大腸内視鏡の検査を行うことが推奨されます
腹痛、下痢、便秘、腹部膨満、悪心・嘔吐で、中には無症状(便潜血陽性を含む)のこともあります
また、山梔子を含む漢方薬には以下のものがあるので、併用する際には注意が必要です。
茵蔯蒿湯、温清飲、黄連解毒湯、加味帰脾湯、加味逍遙散、荊芥連翹湯、五淋散、柴胡清肝湯、梔子柏皮湯、辛夷清肺湯、清上防風湯、清肺湯、防風通聖散、竜胆瀉肝湯
大黄による下痢
防風通聖散に含まれる「大黄(だいおう)」には、センノシドという成分が含まれており、大腸を刺激して便を出やすくする働きがあります。そのため、お腹が弱い人が服用すると下痢を引き起こすことがあります。
また、長期間服用すると腸の粘膜が黒くなる「黒皮症」という症状が現れることがあります。腸が黒くなることでさらには腸の動きが悪くなり、便秘改善効果が弱まることが問題です。[4]
そのため、防風通聖散を長期に飲み続けることはおすすめできません。医師や薬剤師に相談しながら適切な期間服用しましょう。
甘草による偽アルドステロン症
甘草は約7割の漢方薬に含まれており、これを含む漢方薬を服用すると偽アルドステロン症などの副作用が発生するリスクが高まります。使用開始後10日以内に発症する場合もあれば、数年以上の使用後に発症する場合もあり、使用期間と発症の間に一定の傾向はありません。[5] しかし、1日に2.5g以上の甘草を摂取すると、偽アルドステロン症の症状である低カリウム血症が起こりやすいと報告されています。[6]
他の漢方薬を併用する際には、甘草が含まれているかどうかを確認し、その量にも注意する必要があります。
防風通聖散の副作用
ここでは、防風通聖散に報告されている副作用をご紹介します。いつもと違った症状が現れた場合には服用をすぐに中止し、医療機関を受診しましょう。
重大な副作用
以下のような副作用が報告されています。いずれも頻度不明のため起こることは稀です。
(1)間質性肺炎:息切れ(呼吸困難)、空咳(痰のない咳)、発熱などが現れることがあります。
(2)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、むくみ、体重増加などの症状が現れることがあるので、定期的に血清カリウム値の測定などを十分に行いましょう。
(3)ミオパチー:低カリウム血症の結果として、横紋筋融解症や筋肉の病気が現れることがあります。脱力感、筋力低下、筋肉痛、四肢痙攣・麻痺などの症状が特徴的です。
(4)肝機能障害、黄疸:AST、ALT、Al-P、γーGTPの上昇を伴う肝機能障害、黄疸が現れることがあります。
(5)腸間膜静脈硬化症:主な症状は、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満、悪心・嘔吐で、中には無症状(便潜血陽性を含む)のこともあります。
その他の副作用
その他の副作用として以下のような副作用が報告されています。いずれも頻度不明のため起こることは稀です。
過敏症 | 発疹、皮膚のかゆみ |
自律神経系 | 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興 奮等 |
消化器 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、軟便、 下痢等 |
泌尿器 | 排尿障害等 |
防風通聖散を飲み続けることに関するよくある質問
こちらでは防風通聖散を飲み続けることに関してよくある質問についてお答えいたします。
防風通聖散は肝臓に悪いですか?
防風通聖散の副作用には、肝機能障害が報告されています。頻度不明のため発症は稀ですが、発熱、皮膚のかゆみ、発疹、血液検査にて肝機能の数値の異常、黄疸、などの症状が現れた場合には速やかに服用を中止し、医療機関を受診しましょう。[7]
防風通聖散は何ヶ月続ければよいですか?
便秘の改善であれば1週間、肥満症の改善の目的であれば、少なくとも1ヶ月は続ける必要があります。1週間もしくは1ヶ月続けてみて、効果を感じない場合はご自身の体質に合っていない可能性も考えられるので、医師や薬剤師または登録販売者に相談しましょう。[2]
防風通聖散を飲み続けると腸が黒くなるって本当?
防風通聖散に含まれる「大黄(だいおう)」という生薬を長期服用すると、腸の粘膜が黒っぽくなる「黒皮症」が起こることがあります。進行すると腸の蠕動運動が低下し、便秘症状が悪化することがあるため注意が必要です。
防風通聖散だけでなくアントラキノン系の刺激性下剤(センナ、大黄)が含まれる漢方薬や医薬品も同様に、長期服用は避けることが望ましいです。[8]
漢方薬について詳しく知りたい方や、自分に合った漢方薬を知りたい方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
【参考文献】
[1]小林製薬 ニュースリリース お腹の脂肪を落とす漢方薬“防風通聖散”に余分な脂質を便と一緒に押し出す効果を新発見
[2]国立医薬品食品衛生研究所「一般用漢方製剤の安全性確保に関する研究 安全に使うための防風通聖散の確認票」
[3]日本漢方生薬製剤協会 漢方薬による腸間膜静脈硬化症
[4]公益社団法人 福岡県薬剤師会 質疑応答
[5]厚生労働省 重篤副作用疾患別対策マニュアル 偽アルドステロン症
[6]日本漢方生薬製剤協会 カンゾウ(甘草)含有医療用漢方製剤による低カリウム血症の防止と治療法
[7]日本漢方生薬製剤協会『医療用漢方製剤「防風通聖散」を肥満症に投与するときの留意点』
[8]日本内科学会雑誌第108巻第1号 慢性便秘の治療―大腸刺激性下剤の種類とその使い方―