逆流性食道炎に用いられる漢方薬とは?生活習慣で見直したい5つのポイントも解説

胸やけを感じる女性

逆流性食道炎は、胃酸を抑える効果のある西洋薬での治療が基本ですが、治療のサポートに漢方薬が処方される場合もあります。使用される漢方薬には、以下のようなものがあります。

・六君子湯(りっくんしとう):胃腸機能が低下して食欲不振や倦怠感のある方に
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):のどや食道付近に閉塞感があり、気持ちの落ち込みを伴う方に
・半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):胃酸の逆流感やげっぷの多い方に
・大柴胡湯(だいさいことう):ストレスで暴飲暴食してしまう方に
・防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん):過食による肥満や便秘で胃液が逆流する方に

この記事では、逆流性食道炎の症状緩和に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。

体質チェックをはじめる

逆流性食道炎ってどんな病気?

胃の構造と逆流性食道炎が起こるメカニズムの図

逆流性食道炎は、胃の内容物と共に胃液が逆流し、食道に炎症を起こす病気です。胃と食道のつなぎ目にある下部食道括約筋という筋肉が緩むことで起こります。食事の欧米化やヘリコバクター・ピロリ菌除菌者の増加により、逆流性食道炎の患者数は年々増加傾向にあり、近年の有病率は約 10~20%と推測されています。[1]

逆流性食道炎の症状

逆流性食道炎の症状としては、主に以下のようなものがあります。

・みぞおち付近が焼けるように痛くなる(胸やけ)
・喉や口の中に酸っぱいものがこみ上げてくる(呑酸:どんさん)
・胃もたれや吐き気がする
・喉がイガイガして咳が出る

逆流性食道炎の原因

逆流性食道炎は、主に以下のような原因で起こりやすくなります。

加齢による下部食道括約筋の衰え
逆流性食道炎は高齢者に多く見られることが報告されています。それは、加齢により下部食道括約筋の筋力が衰え、胃液が逆流しやすくなるからです。また高齢者では食道粘膜の知覚が低下し、重症にも関わらず自覚症状がないケースも見られるため注意が必要です。[2]
肥満
内臓肥満型の肥満の方は腹部の脂肪で腹圧が高まり、胃液が逆流しやすくなります。また、食べ過ぎや早食いの食事習慣は、胃酸の分泌量を増加させたり胃内圧を急激に上昇させたりすることにつながります。
脂っぽい食べ物
脂肪分の高い食事は消化に負担がかかり、コレシストキニンという消化酵素が分泌されて下部食道括約筋が緩むため、胃液が逆流しやすくなります。 また、高タンパク質の食事も消化に時間がかかり、胃内の滞留時間が長いために逆流が起こりやすくなります。
前かがみの姿勢
普段から猫背の方や高齢者で背骨が曲がっている方、農作業などで前かがみの姿勢で長時間作業を行う方は胃や腹部が圧迫されやすくなります。

逆流性食道炎の主な治療法

医師による内視鏡検査で食道の炎症が確認され、「逆流性食道炎」と診断を受けると症状に合わせて治療が行われます。

西洋薬での薬物治療が基本

逆流性食道炎の第一選択薬としては、胃酸の分泌を強く抑えるPPI(プロトンポンプ阻害薬)や P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカ―) の内服薬が推奨されています。 また、症状に応じて上記の薬と併用で、食道の運動機能を改善する薬や漢方薬を服用することで、症状の改善効果が得られる場合があります。 [1]

逆流性食道炎と漢方治療の考え方

逆流性食道炎や機能性ディスペプシアなどの胃腸の不調に対する漢方治療は「六君子湯(りっくんしとう)」の処方が広く知られています。しかし、漢方処方は服用する方の「証」や気の異常を考慮して決めることが大切です。

例えば消化機能が低下している方には脾虚を補う虚証向きの処方が用いられますが、肥満や暴飲暴食により症状が悪化しているような逆流性食道炎の方には、余分なものを取り除く実証向きの処方が適している場合があります。

また、逆流性食道炎や機能性ディスペプシアには抑うつ症状が合併されるケースも少なくなく、その場合は気の異常を改善する理気剤などが選択されることもあります。[3]

ご自身の体質や状態については、こちらの体質チェックも参考にすることができます。

体質チェックをはじめる

また、うつや気持ちの落ち込みに効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

うつ・気分の落ち込みに使用される漢方薬とは

逆流性食道炎に用いられる漢方薬5選

漢方生薬

ここでは、逆流性食道炎の症状に効果の期待できる漢方薬5選とその選び方や服用の注意点をご紹介します。

【胃腸機能が低下して食欲不振や倦怠感のある方に】六君子湯(りっくんしとう)

六君子湯は、気を補い巡りを良くすることで、胃腸の働きを高める作用のある漢方薬です。
補気剤の基本処方とされる「四君子湯(しくんしとう)」には、消化吸収を回復させて気力を補う働きがあります。これに鎮吐作用をもつ「半夏(はんげ)」と消化機能改善作用をもつ「陳皮(ちんぴ)」を追加した処方が六君子湯です。
陳皮の主成分であるヘプタメトキシフラボンには、食欲亢進や消化管運動に関わるホルモンである「グレリン」の分泌を間接的に増強することで、食欲不振を改善する働きが報告されています。[4]

六君子湯では以下のような臨床報告があります。

胃食道逆流症(逆流性食道炎+非びらん性胃食道逆流症)の患者56名を、オメプラゾール(PPI)単独群(27名)とオメプラゾール+六君子湯エキス製剤投与群(29名)の2群に無作為に分けて8週間の治療を実施した。
その結果、PPI単独群は8週間後に全消化管症状、逆流症状、腹痛の3項目で有意な改善が認められたのに対し、六君子湯併用群はこれら3項目に加え消化器不良症状を含めた4項目で有意な改善が認められた。
(参照)胃食道逆流症(GERD)に対する六君子湯の有用性

服用がおすすめな方
虚証タイプの胃腸機能が低下している方で、食欲不振やみぞおちのつかえがあり、貧血傾向で疲れやすく、手足が冷えやすい方
におすすめの漢方薬です。胃炎や胃痛、消化不良、食欲不振、嘔吐などの症状に効果が期待できます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
肝機能障害の副作用に注意しましょう
無症状のまま血液検査で判明することも多いですが、発熱、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、黄疸などが出た場合には、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
半夏、人参、白朮または蒼朮、茯苓、陳皮、大棗、甘草、生姜

【のどや食道付近に閉塞感があり、気持ちの落ち込みを伴う方に】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

半夏厚朴湯には、の巡りを良くして、不安や気持ちの落ち込みを緩和する作用があります。
配合生薬の「半夏(はんげ)・厚朴(こうぼく)」には吐き気やのどの閉塞感を鎮めて、緊張を緩和する働きがあります。さらに香りと共に気を巡らせストレスを発散させる「蘇葉(そよう)」など、5種類の生薬から構成されています。
また、ストレスや疲労から自律神経が乱れると、のどや食道の筋肉が緊張し、息ぐるしさやお腹の張りを感じることがあります。半夏厚朴湯はこのような症状にも効果が期待できます。

服用がおすすめな方
体力が中程度で、気分がふさいでのどや食道付近に閉塞感がある方におすすめの漢方薬です。[3]吐気に伴う不安神経症や神経性胃炎、咳などの症状に効果が期待できます。

配合生薬
半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜

【胃酸の逆流感やげっぷの多い方に 】半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

半夏瀉心湯は、気の巡りを良くして胃腸の働きを助けることで、消化不良や胃もたれ、吐き気・嘔吐、下痢などの症状を緩和する作用があります。瀉心とは、みぞおちのつかえを取るという意味をもちます。
吐き気を抑える作用のある「半夏(はんげ)」を中心に、口のねばりや胃痛などの熱・炎症を抑える「黄芩(おうごん)・黄連(おうれん)」など、胃腸の働きを助ける7種類の生薬で構成されています。

服用がおすすめな方
体力が中程度みぞおちがつかえ、ときに吐き気や嘔吐、食欲不振でお腹が鳴って下痢傾向のある方におすすめの漢方薬です。消化不良や胃弱、げっぷ、胸やけなどの症状に効果が期待できます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(例えば発熱や呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(例えば発熱や全身倦怠感、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
半夏、黄芩、乾姜、甘草、大棗、人参、黄連

【ストレスで暴飲暴食してしまう方に】大柴胡湯(だいさいことう)

漢方医学には「五臓」という特有の概念があり、そのうち「肝」は自律神経を調整する役割があります。ストレスなどで肝に不調が生じると過食や便秘を引き起こす原因になります。
大柴胡湯は、肝の働きを正常化して、過食や過食に伴う便秘、悪心嘔吐、胃酸過多などを改善する働きがあります。

配合生薬の「半夏(はんげ)・枳実(きじつ)」は、気持ちを落ち着け、胃腸の働きを良くして胃もたれや吐き気を抑える作用があります。そのほか、お通じを良くする「大黄(だいおう)」など8種類の生薬が配合されています。

服用がおすすめな方
体力が充実し、みそおちがつかえて便秘がちな方におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
妊娠・授乳中の方は服用を避けましょう
「大黄(だいおう)」に子宮収縮作用があり、流早産を起こす可能性があります。また母乳中に移行して、乳児の下痢を引き起こす可能性もあります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(例えば発熱や呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(例えば発熱や全身倦怠感、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
柴胡、黄芩、半夏、枳実、大黄、芍薬、生姜、大棗

【過食による肥満や便秘で胃液が逆流する方に】防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

防風通聖散には、からだを温めることで発汗を促し、腸の熱を下げながら体内の不要物を排出しやすくする働きがあります。
配合生薬の「麻黄(まおう)」による交感神経の活性化作用や「甘草(かんぞう)・荊芥(けいがい)・連翹(れんぎょう)」による脂肪分解や褐色脂肪組織の熱産生持続効果から、防風通聖散にはダイエット効果があることが報告されています[5]
腹部の脂肪や便秘で腹圧が高まり、逆流性食道炎の症状が生じている場合に効果が期待できます。

服用がおすすめな方
体力が充実した実証タイプで、腹部の脂肪が多く便秘がちの方
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
妊娠・授乳中の方は服用を避けましょう
「大黄(だいおう)・芒硝(ぼうしょう)」に子宮収縮作用があり流早産を起こす可能性があります。また大黄は母乳中に移行して、乳児の下痢を引き起こすこともあります。
病気の治療で食塩制限をしている方は注意しましょう
配合生薬の「芒硝」は含水硫酸ナトリウムの一種であり、食塩と同じナトリウムが含まれています。
不眠、発汗、動悸などの副作用が起こる可能性があります
「麻黄(まおう)」が含まれているため不眠や発汗過多、全身脱力感、動機・頻脈、精神興奮などを引き起こす可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

配合生薬
滑石、黄芩、甘草、桔梗、石膏、白朮、大黄、荊芥、山梔子、芍薬、川芎、当帰、薄荷、防風、麻黄、連翹、芒硝、生姜

防風通聖散はYOJOショップ▼でも購入できます。

YOJOショップの防風通聖散

また、ダイエットに効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

漢方はダイエットに効果的?おすすめ漢方薬や体質別の選び方を解説

逆流性食道炎の治療には生活習慣の改善も大切!

食事を摂る女性

逆流性食道炎の治療には、薬の服用だけでなく生活習慣も合わせて改善していくことが大切です。ここでは、逆流性食道炎を悪化させないための5つのポイントについてご説明します。

暴飲暴食や早食いなどの食事習慣に注意する

食事の量は腹八分目を心がけ、ゆっくり噛んで食べる習慣をつけましょう。また、胃液の逆流を防ぐために食べた直後は横にならないようにします。就寝する2~3時間前には夕食を済ませておくようにしましょう。

胸やけを起こしやすい飲食物の摂取は避ける

フライや天ぷら、油炒めのような脂っぽい食事は控えましょう。またコーヒー・紅茶・チョコレートなどの カフェインを含む 飲食物や、アルコール、炭酸飲料などは下部食道筋を緩める働きがあるため摂り過ぎないように注意しましょう。 [6]

前かがみの姿勢や腹圧のかかる動作に注意する

スマートフォンを見る時や家事をする時など、うつむいたり前かがみの姿勢になったりしていませんか?日頃から意識して背すじを伸ばして過ごすようにしましょう。また重い物を持ち上げるなどの腹圧のかかる動作も控えた方が良いでしょう。

お腹を締め付け過ぎない衣服を着用する

ベルトやコルセット、和服の帯などでお腹をきつく締め付けたり、サイズの小さな衣類を無理に着用したりすると腹圧が上がって胃液が逆流しやすくなります。
特にお腹周りはサイズ感のゆったりとした衣服を選ぶようにしましょう。

睡眠時の体勢を工夫する

逆流性食道炎は就寝中に起こりやすいため、寝る時の姿勢はなるべく上半身を高くするのがおすすめです。具体的にはベットの頭側の脚を高くしたり、敷布団の下にタオルなどを置いたりして、上半身に10~15度くらいの傾斜をつけると良いでしょう。 [7]
また、横になるときの向きは、体の左側を下にして眠るようにしましょう。
右側を下にすると下部食道括約筋の圧が低下し、胃液がより逆流しやすくなります。 [6]

YOJOでは漢方薬の相談だけでなく、症状を改善するための生活習慣上のアドバイスも受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

体質チェックをはじめる

【参考文献】
[1]春田明子(2022) 胃食道逆流症診療ガイドライン 2021 の概説, 日大医誌 81 (4): 179–185
[2]公益社団法人 鳥取県医師会 逆流性食道炎
[3]前田修司(2008)半夏厚朴湯を柱とした胃食道逆流症の治療,Phil漢方24
[4]間宮敬子ら(2020), がんの緩和ケアと漢方,ファルマシア Vol. 56 No. 3
[5]眞部紀明ら(2019)慢性便秘の治療-漢方薬の種類とその使い方-
[6]NHK 胃食道逆流症(逆流性食道炎)の激しい痛みの原因と対処法(2022)
[7]木暮貴政(2013)ベットの背を上げて眠ることによる睡眠への影響,臨床神経生理学41(6),505-510