夏の暑さや湿気の影響で「食欲がない」「体がだるい」「疲れやすい」といった症状が見られる場合、夏バテ(暑気あたり)かもしれません。
漢方では夏バテの症状に対して、主に胃腸機能を高めて気力を養う処方や、体の水分代謝を整える処方が用いられます。具体的な漢方薬としては以下のようなものがあります。
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):手足の倦怠感があり、食欲低下や胃もたれが強い方に
・清暑益気湯(せいしょえっきとう):食欲不振や下痢などの消化器症状のほか、暑さによる動悸・脱水症状が見られる方に
・人参養栄湯(にんじんようえいとう):体力が低下して、貧血や息切れ、手足の冷えを訴える方に
・六君子湯(りっくんしとう):食欲がなく、胃もたれや吐き気もある方に
・五苓散(ごれいさん):口渇はあるが尿量が少なく、むくみや吐き気を伴う方に
この記事では、夏バテに効果の期待できる漢方薬やその選び方、おすすめの熱中症対策について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
夏バテの漢方治療とは
高温多湿で過酷な日本の夏。
以下のような症状に心当たりがあれば、夏バテしているかもしれません。
ご自身の体調を振り返って確認してみましょう。
【夏バテの症状チェックリスト☑】
□体が疲れやすく、だるい
□気力がわかない
□夜にぐっすり眠れない、朝起きた時に疲れが残っている
□頭痛がする、微熱がある
□食欲がわかない、胃がもたれる
□めまいや吐き気がする
□エアコンで体が冷えて下痢をしている
□動悸・息切れがする
そもそも夏バテとはなぜ起こる?
夏バテは、主に以下のような原因で起こるとされています。
温度差による自律神経の乱れ
私たちの体は暑くなると汗をかいて余分な熱を体外へと逃がし、体温を調整します。しかしエアコンの効いた室内と外気温との差が激しいと、体温の調整がうまくいかなくなり、自律神経のバランスが乱れて体調を崩しやすくなります。
冷たいものの取り過ぎ
自律神経の乱れは胃腸機能にも影響がおよぼす場合がありますが、冷たい食べ物や飲み物を取り過ぎることで、お腹が冷えてさらに胃腸機能が低下し、下痢や脱水、栄養不足を引き起こすことがあります。
体内の水分やミネラルの不足
炎天下で多量の汗をかくことで、体内の水分やミネラルが失われ、脱水を起こしたり、体内の電解質バランスを崩してしまったりします。
熱帯夜の睡眠不足
暑さで寝苦しい夜が続き、寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりすることで、睡眠によって体力を十分に回復することができず、疲れが体に蓄積します。
漢方医学の観点からみる夏バテ治療とは
漢方医学では、夏の過酷な暑さと湿気は「脾(=胃腸)」に影響をおよぼすと考えています。脾が弱ると消化機能の低下だけでなく、体に必要なエネルギーが十分に作られず、疲労・倦怠感や活力の低下にもつながります。
また、多湿な環境下では汗の蒸発が不十分となったり、逆に炎天下での多量の発汗から脱水状態を引き起こしたりすることで、体内で「水」の巡りが滞ったり不足したりすることにつながります。
そのため、夏バテの漢方治療では、胃腸機能を高めて気力を補う漢方薬や、水分代謝を整える漢方薬が主に用いられます。
夏バテに効果の期待できる漢方薬5選
ここでは、夏バテに効果の期待できる、具体的な5種類の漢方薬と、その選び方や服用の注意点についてお伝えします。
【手足の倦怠感があり、食欲低下や胃もたれが強い方に 】 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は、胃腸機能を高めながら全身の気力を補う漢方薬です。
夏バテの他、虚弱体質や術後など様々な原因で体力が低下した状態に広く用いられます。体力の充実した実証タイプの人が夏バテしている時にも用いられることがあります。
服用がおすすめの方
虚弱体質で元気が無く、胃腸の働きが衰えている方におすすめの漢方薬です。特に手足の倦怠感や微熱、消化器症状を中心に訴える場合に向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【 食欲不振や下痢のほか、暑さによる動悸・脱水症状が見られる方に】清暑益気湯(せいしょえっきとう)
清暑益気湯は、夏バテや熱中症に用いられる代表的な漢方薬です。
夏の暑さによる症状を抑えて、胃腸機能や気力を回復させる作用があります。
夏バテが進行し、水分代謝に強く影響が出ていたり、動悸などの循環器系症状や体重減少がみられる時に用いられます。
服用がおすすめの方
夏の暑さで体力が低下して、胃腸の働きが衰えている方におすすめの漢方薬です。特に下痢・軟便傾向がある場合や、動悸や多汗、脱水などの循環器症状が見られる場合に向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
【体力が低下して、貧血や息切れ、手足の冷えを訴える方に】人参養栄湯(にんじんようえいとう)
人参養栄湯は、衰弱した方の気血の不足を補い、体力を回復させる漢方薬です。補中益気湯の症状に、貧血症状や皮膚乾燥、手足の冷えが顕著な場合に用いられます。また、精神を安定させる作用のある生薬も配合されています。[1]
服用がおすすめの方
衰弱して顔色が悪く、疲れて息切れや手足の冷えも伴う方におすすめの漢方薬です。意欲の低下や不眠などの精神症状が合併している場合にも向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
胃腸の弱い方は注意ましょう
「地黄(じおう)・当帰(とうき)」が配合されているため胃腸に負担をかけて胃もたれや胸やけなどの副作用が起こる場合があります。
人参養栄湯の関連記事はこちら▼
人参養栄湯の効果とは?向いている人や類似処方との違い、副作用も解説
【食欲がなく、胃もたれや吐き気もある方に 】六君子湯(りっくんしとう)
六君子湯は、胃腸の働きを高める作用のある漢方薬です。
摂食促進ホルモンであるグレリンの分泌に関与して、食欲を回復させる作用が報告されています。[2][3]
服用がおすすめな方
比較的体力が低下し、みぞおちがつかえて食欲不振や吐き気があり、手足が冷えやすい方におすすめの漢方薬です。味が甘く、漢方独特の風味が苦手な方でも比較的飲みやすい処方です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
肝機能障害の副作用に注意しましょう
無症状のまま血液検査で判明することも多いですが、発熱、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、黄疸などが出た場合には、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【 口渇はあるが尿量が少なく、むくみや吐き気を伴う方に 】五苓散(ごれいさん)
五苓散は、体内の水分代謝を正常に整えてくれる漢方薬です。
体に余分な水分があるときは利尿作用、脱水状態のときは水分の排出を抑える抗利尿作用を示す、代表的な利水剤です。体力にかかわらず用いられます。
服用がおすすめな方
脱水を起こして口やのどが渇いて尿量が少ない方におすすめの漢方薬です。また、水分の巡りが悪く、吐き気やめまい、頭痛、全身のむくみを伴う場合にも向きます。
服用上の注意
シナモンアレルギーのある方は服用を避けましょう。
配合生薬に「桂皮(けいひ)」が含まれるため、アレルギー症状を引き起こす可能性があります。
夏バテ予防におすすめの養生法とは
夏バテを予防するためには、まずは日頃の食事や生活習慣を見直すことがとても大切です。以下の点を心がけ、日本の猛暑を乗り切りましょう。
こまめに水分を補給する
私たちの体からは、安静にしていても1日に約2.5Lの水分が尿や皮膚から失われていきます。夏場は汗をかく分、さらに意識して水分摂取をする必要があります。特に起床時や入浴後、就寝前、スポーツをする時は、水分が不足しやすい状態なので注意しましょう。
水分は、食事から摂取する水分以外に、1~1.5 Lを目安に、コップ1杯分(200ml)を6~7 回に分けるなどしてこまめに摂取することが大切です。
なお、お酒好きの方の中には飲酒で水分を補給しようとする方もいるかもしれませんが、アルコールには利尿作用があり、飲んだ量の1.1~1.5倍排泄するため、水分補給にはならないので注意しましょう。
エアコンの使い方を工夫する
暑いからといってエアコンで体を冷やし過ぎると、体調を崩す原因となります。
エアコンの風が直接あたらないように風向きを調整し、寒さを感じたら、上着やひざ掛けなどで調整しましょう。
室内外の温度差が大きくなると自律神経が乱れやすくなるため、冷房の温度は27~28℃を目安とし、冷やし過ぎないことが大切です。
体を冷やす食べ物ばかり食べない
暑くて食欲が出ないからといって、冷たいアイスクリームや麺類ばかり食べていては、十分な栄養が摂取できず、疲れも回復しません。胃腸機能をさらに低下させる原因にもなるため、食べ過ぎは避けましょう。
夏場は体力が消耗しやすいため、栄養バランスの整った食事を3食きちんと取ることが大切です。
特に夏バテ予防には、以下のような食事を意識して摂取すると良いでしょう。
・ビタミンB1を多く含む食べ物:疲労回復効果があります。豚肉やうなぎ、大豆、玄米、ほうれん草などに多く含まれます。
・クエン酸を多く含む食べ物:疲労の原因となる乳酸を排出する効果があります。梅干しやレモン、オレンジ、グレープフルーツなど酸味の強い食品に多く含まれます。
・カリウムの多い夏野菜:利尿作用があり、体の余分な熱をとってくれます。キュウリやトマト、ナス、スイカなどがあります。
・温かい飲み物や食べ物:体を内側から温めて疲れた胃腸を回復させます。味噌汁や生姜がおすすめです。
睡眠時間をしっかりとる
睡眠は1日の疲れをとるために大切です。夜更かしせず、睡眠時間を十分にとって、疲れを翌日に持ち越さないようにしましょう。
また、夏は「暑いから」とシャワーですませる方も多いですが、快適な睡眠には湯船に浸かって深部体温を上げることも大切です。寝る1~2 時間前に40℃以下のぬるめのお風呂でリラックスすると寝つきが良くなります。
寝苦しい夜には、頭部を氷枕で冷やしたり、ひんやりする寝具を使うなどすると良いでしょう。エアコンを一晩中使う場合は27~28℃程度を目安に、風が直接当たらないよう、扇風機で冷風を巡らせるなどの工夫を行いましょう。
YOJOでは、体質に合った漢方薬の選び方や生活習慣を改善するためのアドバイスなども薬剤師から受けることができます。なかなか改善されない不調に悩んでいる方は、YOJOの薬剤師に相談するのも良いでしょう。
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【参考文献】
[1]室賀一宏,人参養栄湯(2018),Phil漢方No.69
[2]朝日公一ら(2023)機能性ディスペプシアに対する漢方治療-六君子湯を中心に他の方剤との使い分け,日病総診誌19(5)361-366
[3]漢方スクエア 六君子湯 グレリンに対する作用