更年期世代の中には、「手がこわばって動かしにくい」「指の関節が痛む」などの症状でお悩みの方も多いのではないでしょうか。これらの症状は、関節リウマチなどの疾患がない場合、女性ホルモンの減少による更年期の症状として現れている可能性があります。
この記事では、以下の内容について薬剤師が詳しく解説します。
・更年期の手のこわばりとはどのような症状か
・更年期による手のこわばりへの治療方法
・症状緩和に役立つ漢方薬
更年期の症状や手のこわばりでお悩みの方は、ぜひ一度YOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
更年期障害とは?
更年期とは日本産科婦人科学会によると以下のように定義されています。
閉経前の5年間と閉経後の5年間を併せた10年間を「更年期」といいます。
更年期に現れるさまざまな症状の中で他の病気に伴わないものを「更年期症状」といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と言います。
更年期症状は、卵巣機能の低下に伴い、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少することで起こります。この時期には、ホットフラッシュ(顔や上半身が急に熱くなる)、発汗、精神的な不調など、さまざまな症状が現れます。その中でも、手のこわばりは生活に影響を与える症状の一つとして挙げられます。
更年期の症状や原因、セルフチェック方法などについてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
更年期に現れる手のこわばりの症状とは
更年期の代表的な症状として、ホットフラッシュや動悸など、血管の拡張によるものがよく知られています。しかし、実際には更年期障害を抱える人の半数が、手のこわばりや末梢関節の痛みを訴えていることが報告されています。[1]
手のこわばりとは、指をスムーズに曲げ伸ばしできない、痛みで力が入らない、しっかり握ることができないといった症状を指します。この状態は関節リウマチや膠原病でも見られるため、まずはこれらの病気との区別(鑑別診断)が必要です。他の病気が原因でない場合、更年期が関与している可能性が考えられます。
症状を放置すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、炎症が進行して関節が腫れたり、変形したりするリスクもあります。そのため、「年齢のせい」と片付けず、早めに対応することが大切です。
更年期障害の一般的な治療法
更年期障害に対しては以下の治療法があります。手のこわばりが起こる原因も、最近ではエストロゲンの減少が関わっていることがわかってきています。[1]
そのため更年期が原因の手のこわばりだと判断された場合、以下の治療法が検討されます。
ホルモン補充療法
更年期の症状に対しては、ホルモン補充療法(HRT)がよく用いられます。ホルモン補充療法とは、年齢とともに低下した女性ホルモン(エストラジオール)を、飲み薬や貼り薬、塗り薬などで補う治療法です。この療法は、特にほてりやのぼせ、発汗、ホットフラッシュといった更年期特有の症状に効果があります。
さらに、ホルモン補充療法ガイドライン2017年版では、「ホルモン補充療法は関節痛の発症を予防する可能性がある」と記載されています。[2] 手のこわばりや痛みも関節痛の一種に含まれるため、ホルモン補充療法を行うことで、これらの症状が改善するケースもあります。
特に更年期が原因とされる関節痛に対しては、ホルモン補充療法を2ヶ月間行い、効果が見られれば早期リウマチ疾患である可能性をほぼ否定できます。[1]
ただし、以下のような条件に該当する人は、副作用のリスクが高いため、この治療を受けることができません:
- 乳がんや子宮体がんの既往がある人
- 血栓症、心筋梗塞、脳卒中の既往がある人
- 重い肝臓病を患っている人
ホルモン補充療法を始める際には、医師と十分に相談して適切な治療法を選びましょう。
エクオールのサプリメント
エクオールは、大豆イソフラボンが腸内細菌によって代謝されて作られる成分で、女性ホルモンの一種であるエストロゲンに似た作用を持っています。そのため、更年期症状の予防や緩和に効果が期待されています。また、乳がんや子宮体がんの既往があるためにホルモン補充療法が受けられない人でも、エクオールの摂取には問題ありません。
ただし、エクオールを体内で作れる人は日本人の約50%にとどまります。腸内細菌の違いによって個人差があるため、エクオールを安定的に摂取するにはサプリメントの利用がおすすめです。
さらに、手指が変形する前の段階でエクオールを摂取することで、手のこわばりや痛みの症状を防ぐ効果があると報告されています。[3]これに加え、エクオールは手のこわばりの予防だけでなく、幅広い更年期症状にも効果が期待されています。
漢方薬
漢方薬は、症状を即座に抑えるというよりも、心と体のバランスを整えることで、不調を改善していくのが特徴です。そのため、同じ症状でも人によって適した漢方薬は異なります。
更年期における手のこわばりなどの症状にも、漢方薬が使われることがあります。以下に、その詳細を解説します。
更年期障害の治療については、こちら▼の記事で詳しく解説しています。
更年期の手のこわばりに対する漢方薬の役割と効果
乳がんや子宮がんの既往がある場合、ホルモン補充療法を受けられないことがあります。そのような場合には、漢方薬を用いた治療が検討されることがあります。
漢方薬による治療は、個人の体質や症状に応じて選ばれるため、さまざまな種類があります。一例として、更年期の手のこわばり(関節痛)の症状に使われる漢方薬をご紹介します。
【関節痛や神経痛に】桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
この処方は、関節リウマチ、神経・筋疾患、運動器疾患による痛みに用いられる代表的なものです。関節の変形がない関節痛や腫れ、筋肉痛、神経痛などに効果があります。体を温めることで、冷えや湿気が原因で起こる痛みを改善する働きがあります。
構成生薬
桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、附子(ぶし)
使用上の注意
・附子を含むため、体力があり赤ら顔の人や高熱・炎症がある人には向きません。
・附子の副作用である舌のしびれ、動悸、悪心・嘔吐などの副作用が出る可能性があります。このような症状が現れた場合はすぐに服薬を中止しましょう。
【むくみもある人に】桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
桂枝加朮附湯に茯苓が加えられた処方です。むくみがある時には桂枝加苓朮附湯のほうが適しています。市販では小林製薬の「ユービケア」として販売されています。
構成生薬
桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、附子(ぶし)、茯苓(ぶくりょう)
使用上の注意
・附子を含むため、体力があり赤ら顔の人や高熱・炎症がある人には向きません。
・附子の副作用である舌のしびれ、動悸、悪心・嘔吐などの副作用が出る可能性があります。このような症状が現れた場合はすぐに服薬を中止しましょう。
【冷えによる関節痛に】当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、冷えによる関節痛の緩和に効果が期待できます。血行を良くして冷えた体を温め、冷えによる痛みを取るはたらきがあります。しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛などにも使用されます。
構成生薬
大棗(たいそう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、木通(もくつう)、甘草(かんぞう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、細辛(さいしん)、生姜(しょうきょう)
使用上の注意
・甘草が配合されているため、他の漢方薬と併用する時には重複に注意しましょう。低カリウム血症による不整脈、血圧上昇、むくみが現れることがあります。
・当帰を含むため、胃腸の弱い人では、嘔吐、腹痛、下痢などが起こることがあります。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯の関連記事はこちら▼
関連記事:漢方解説 当帰四逆加呉茱萸生姜湯とは
関連記事:【薬剤師監修】生理痛におすすめの漢方薬6選!選び方や市販薬も解説
【冷えや血行不良による痛みに】桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
女性三大処方のひとつで、更年期症状に用いられる代表的な処方です。血の巡りを良くする処方で、血の巡りを良くし、それに伴って起こる気や水の停滞も改善します。更年期症状では冷えのぼせ、頭痛、肩こり、腰痛などがある人に適しています。[4]
配合生薬
桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)
使用上の注意
・桃仁・牡丹皮は血行を強く促すため、流早産の危険性があるので妊娠中の方は服用を控えましょう。
桂枝茯苓丸の関連記事はこちら▼
関連記事:桂枝茯苓丸の効果とは?向いている人や飲み方のポイント、副作用についても解説
関連記事:桂枝茯苓丸の飲み合わせで注意するものは?飲み方や他の漢方薬との併用も解説
【メンタルが影響する痛みに】 加味逍遙散(かみしょうようさん)
更年期世代の不調には、ストレスが大きく関与していることが多くあります。漢方医学では、ストレスによって「気」の巡りが悪くなると考えられており、この巡りの悪化は全身のエネルギーや血液の流れを滞らせ、冷えを悪化させる要因となります。その結果、手のこわばりや痛みが現れることもあります。
加味逍遙散は、「気」や血液の巡りを改善することで、更年期障害による婦人科疾患や精神神経症状を伴う不調に用いられる漢方薬です。
配合生薬
柴胡(さいこ)、芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、茯苓(ぶくりょう)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、山梔子(さんしし)、牡丹皮(ぼたんぴ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、薄荷(はっか)
使用上の注意
・当帰を含むため、胃腸の調子が悪い人は吐き気や腹痛、下痢が起こることがあります。
・山梔子を含む漢方薬を長期間服用すると、腸間膜静脈硬化症のリスクがあります。定期的に大腸カメラ検査を受けることをお勧めします。
・牡丹皮は血行を促進するため、妊娠中の方は使用を避けてください。流産のリスクがあります。
・甘草が含まれているため、他の漢方薬と併用する際は注意が必要です。過剰摂取で低カリウム血症や血圧上昇、むくみが起こることがあります。
加味逍遥散については、こちら▼の記事で詳しく解説しています。
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【冷えやむくみもある人に】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
女性三大処方のひとつで、血の不足を補い、巡りを良くして体を温める処方です。また、水の巡りも整えるため、むくみや冷え、めまいなどにも効果があります。冷えやむくみによる手のこわばりや関節痛にも効果が期待できます。
配合生薬
芍薬(しゃくやく)、沢瀉(たくしゃ)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)
使用上の注意
・当帰を含むため、胃腸の調子が悪い人は吐き気や腹痛、下痢が起こることがあります。
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手のこわばりに効果的なツムラの漢方薬
医療用の漢方薬としては「ツムラ桂枝加朮附湯エキス顆粒」があり、市販でも同じ名前の製品が販売されています。ただし、市販薬に含まれる有効成分の量は、1日の服用量として医療用医薬品の1/2量となります。
まずは手軽に試してみたいという方には、ドラッグストアなどで購入できる市販薬がおすすめです。
ツムラ漢方桂枝加朮附湯エキス顆粒
1日2回服用の顆粒タイプ
桂枝加朮附湯を有効成分として含む商品です。温めると関節痛が和らぐ人に適しています。2歳以上から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力虚弱で、汗が出、手足が冷えてこわばり、ときに尿量が少ないものの次の諸症:関節痛、神経痛 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 20包 |
ツムラの漢方薬以外に市販で購入できる漢方薬
手のこわばり症状に対しては、ツムラの漢方薬以外にも市販で購入できる製品があります。
ユービケア(桂枝加苓朮附湯)
1日3回服用の顆粒タイプ
桂枝加苓朮附湯を有効成分とした商品です。むくみの症状がある人に適しています。ユービケアには「血流促進」「鎮痛」「抗炎症」の3つの作用があります。
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力虚弱で、手足が冷えてこわばり、尿量が少なく、ときに動悸、めまい、筋肉のびくつきがあるものの次の諸症:関節痛、神経痛 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 18包 |
「クラシエ」漢方桂枝加苓朮附湯エキス顆粒
1日3包服用の顆粒タイプ
ツムラの市販薬は「桂枝加朮附湯」ですが、クラシエの市販薬は茯苓が加えられた「桂枝加苓朮附湯」になります。関節痛や神経痛の症状に加え、むくみの症状も気になる人に得におすすめです。4歳以上から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力虚弱で、手足が冷えてこわばり、尿量が少なく、ときに動悸、めまい、筋肉のぴくつきがあるものの次の諸症:関節痛、神経痛 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 |
内容量 | 45包 |
更年期症状の緩和のためにできるライフスタイルと食生活の改善
更年期障害の症状を予防・緩和するためには、日々の生活習慣も整えることが大切です。意識したい3つのことをご紹介します。
更年期に適した食生活
バランスの良い食生活を心がけましょう。特に和食を心がけ、1日に1〜2回は魚を取り入れるようにしましょう。[5] 魚には血行を良くする働きがある良質な脂質が含まれています。また、女性ホルモンに似た作用を持つ大豆イソフラボンを摂取するために、大豆製品を積極的に取り入れましょう。例えば、豆腐、煮豆、豆乳、納豆などが手軽で効果的です。
さらに、女性ホルモン様作用を持つ「エクオール」のサプリメントも、必要に応じて活用するとよいでしょう。
ストレス管理と心のケア
更年期世代は、子どもの受験や独立、親の介護、仕事での責任など、さまざまなストレスを抱えやすい時期です。このストレスは、自律神経の乱れを引き起こし、血行不良やホルモンバランスの崩れにつながることがあります。
そのため、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。毎日少しの時間でもいいので、リラックスできる時間を意識的に作るようにしましょう。
適度な運動の重要性
運動は、筋肉の低下を防ぎ、血流を良くするためにとても重要です。特に、ストレッチやウォーキングといった軽い運動は、気分をリフレッシュさせ、ストレス解消にも効果的です。
更年期の手のこわばりにも漢方薬の選択肢を
更年期世代の手のこわばりや関節痛は、これまで年齢や使いすぎが原因と考えられてきましたが、最近では女性ホルモンの低下が関与していることが明らかになっています。まずは、関節リウマチなど他の病気が原因ではないか確認することが重要です。その上で、更年期が原因とわかった場合には、ホルモン補充療法や漢方薬を治療の選択肢として検討できます。
症状をそのままにせず、早めに病院で診断を受けることが大切です。
また、YOJOでは、体質に合った漢方薬の選び方や生活習慣の改善方法について、薬剤師からアドバイスを受けることができます。体の不調に悩んでいる方は、ぜひYOJOの薬剤師にお気軽にご相談ください。
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【参考文献】
[1]日本内科学会雑誌第108巻第10号 更年期障害としてのリウマチ症状
[2]ホルモン補充療法ガイドライン2017 年度版
[3]更年期ラボ 手指の痛みやしびれ……エクオールに期待される役割とは?
[4]高山宏世 編著 腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]
[5]更年期ラボ 食生活でケア