八味地黄丸(はちみじおうがん)は、加齢に伴う症状(尿トラブル・腰痛・冷えなど)に効果がある漢方薬です。
特に高齢者に使用されることが多いですが、若い人でも症状に応じて服用することができます。服用する際には、体質・症状に合っているかや、服用の注意点についてきちんと確認して取り入れることが大切です。
この記事では、八味地黄丸の効果や副作用、よくある質問について薬剤師が詳しく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
八味地黄丸とは
八味地黄丸は、別名「腎気丸」とも呼ばれる漢方薬で、年齢とともに低下する「腎の気」(生まれ持ったエネルギー)を補うために使われます。特に「腎虚(じんきょ)」と呼ばれる状態に対して効果が期待されます。
腎虚になると、以下のような症状が現れることがあります。
- 頻尿・夜間頻尿などの尿トラブル
- 腰・下肢の脱力感、しびれ、痛み
- 全身の冷え、特に下半身の冷え
- かすみ目・疲れ目
- 疲労・倦怠感
- 口の乾き
- 思考力低下、健忘
- 白髪、脱毛
- 聴力の低下、耳鳴りなど
八味地黄丸は、主に中年以降の老化現象によるこれらの症状を改善するために使用されますが、不妊症や無月経、更年期障害、自律神経失調症、男性の性機能障害などにも効果があるとされています。また、若い人でも運動不足や不規則な食生活が原因で腎虚になることがあり、こうした場合にも八味地黄丸が使われることがあります。
八味地黄丸の成分と作用
八味地黄丸は、末梢循環改善作用のある六味丸に桂皮と附子を加えた漢方薬です。桂皮と附子には身体を温める働きがあるため、しびれや冷えがある人に適しています。
構成生薬
地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂皮(けいひ)、附子(ぶし)
効能・効果 [1]
疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互 的に冷感と熱感のあるものの次の諸症: 腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧
漢方医学の五臓の考え方と八味地黄丸の働き
漢方医学には「五臓」という考え方があり、体の不調を五臓の働きの乱れと関連付けて考えます。その中でも「腎」は、成長、発育、生殖機能を司る重要な部分で、泌尿器や生殖器、腎臓の働きに関わります。
加齢に伴い、腎の機能が衰えると「腎虚」と呼ばれる状態になります。この状態では、内分泌系や生殖器系が弱まり、泌尿器系のトラブルや、下半身の冷えやしびれ、逆にほてりが生じることがあります。また、腎は骨や歯、髪、耳とも深い関係があり、骨がもろくなったり、歯がぐらついたり、白髪や抜け毛、かすみ目、腰痛、尿トラブルなどの症状が現れると考えられています。
八味地黄丸は、気・血・水のバランスを整えるための生薬を組み合わせた漢方薬です。この薬は体を温め、気や血の巡りを良くすることで、腎を補い、腎虚によるさまざまな症状を改善する効果が期待できます。
漢方の基本的な考え方である「気血水」や「五臓」に関してはこちら▼で解説しています。
関連記事:【漢方の基礎知識】漢方の気血水と五臓とは?
八味地黄丸が向いている人・向いていない人
八味地黄丸は、腎の働きが衰えた人に元気をつけるための漢方薬です。特に、以下のような方に向いています。
- 高齢者
- 冷え性
- 胃腸が弱くない
- 夜中にトイレに何度も起きる
- 腰が重だるい
一方、八味地黄丸が向いていない方には以下の特徴があります。
- 暑がり、のぼせやすい
- 体力がある人
- 胃腸が弱い人
- 妊婦
- 子ども
これらの方が八味地黄丸を服用すると、副作用が強く出る可能性があるため注意が必要です。
八味地黄丸が合わない場合、次のような漢方薬が適していることがあります。
・六味丸(ろくみがん): 腎虚の症状があるが、手足の冷えが目立たない場合。子どもにも使用されます。
・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう): 精力減退や多尿などの腎虚の症状はあるが、排尿に異常がない場合。
どの漢方薬が自分に合っているか相談したい方は、YOJOの薬剤師に相談することもできます。
八味地黄丸の効果とは
ここでは、八味地黄丸が具体的にどのような症状に効果があるのかを解説いたします。
頻尿、尿もれ、残尿感などの尿トラブル
腎の機能が衰えると、頻尿や尿もれ、残尿感などの尿トラブルが起こりやすくなります。八味地黄丸は、腎の働きをサポートし、茯苓(ぶくりょう)や沢瀉(たくしゃ)といった利水作用のある生薬が泌尿器系の機能を整えます。特に、下腹部に力が入らず尿もれが生じている場合に効果が期待できます。[2]
頻尿や尿もれなどの症状に使用される漢方薬については、こちら▼の記事でご紹介しています。
腰痛やしびれ
特に高齢者に多いですが、腎虚になると代謝機能や血行が悪くなり、水分代謝が低下することで、腰痛や冷えが起こりやすくなります。八味地黄丸には体を温める生薬や、体を潤す生薬が含まれており、足腰が弱く、下半身が冷えて腰痛が生じる場合に適しています。八味地黄丸に含まれる「附子(ぶし)」は、体を温める作用と鎮痛作用があります。この鎮痛作用は、ロキソニンなどのNSAIDsとは異なり、κオピオイド受容体や一酸化窒素(NO)を介したメカニズムによるもので、しびれの軽減にも効果が期待できます。[3]
腰痛に関する以下のエビデンスが報告されています。
腰部脊柱管狭窄症と診断した患者を来院順に八味地黄丸実薬群(19例)とプロピオン酸対照群(8例)に分け、8週間同一治療を継続した。各症状の観察開始時と比べて診察終了時である8週間後の重症度の改善度は、八味地黄丸投与群ではすべての観察項目(腰痛、腰部運動痛、下肢つっぱり感、しびれ感、陰部灼熱感、冷感、腰背筋緊張、下股知覚障害)において有意の改善(冷感のみp<0.05、ほかはp<0.01)を認めているのに対して、対照群では有意の変化を示さなかった。(参照:日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポートタスクフォース 林泰史, 才藤栄一, 高橋修. 腰部脊柱管狭窄症に対する八味地黄丸の有用性. Geriatric Medicine 1994; 32: 585-91.)
かすみ目、疲れ目
高齢者に多いかすみ目、疲れ目の症状にも八味地黄丸は効果が期待できます。また、老人性白内障患者の視力に対する有効性も報告されています。[4]
高血圧
漢方薬だけで確実に血圧を下げることは難しいですが、高血圧に伴う合併症の予防や症状の緩和には役立ちます。八味地黄丸は、高齢者の高血圧に加え、腎虚の症状がある場合に選ばれることがあります。[3]
八味地黄丸の効果的な飲み方は?
決められた回数(1日2回または3回)を守り、基本的には食前または食間に服用しましょう。食前は食事の30分前、食間は食事と食事の間の2時間を指します。
ただし、八味地黄丸には胃に負担がかかる生薬が含まれているため、食前や食間に服用して胃もたれや吐き気などの胃腸症状が出た場合には、食後に服用しても構いません。
おすすめの飲み方はお湯で飲むことです。八味地黄丸は冷えを感じる人に適した漢方薬なので、温かい状態で飲むと効果的です。また、八味地黄丸の原典である『金匱要略』では、お酒での服用も勧められています。胃もたれがあるときに、お酒で服用すると良い場合もあります。服用の際は、必ず処方した医師や薬剤師の指示に従ってください。
漢方薬を飲むのが苦手な方は、こちら▼の記事も参考にしてください。
八味地黄丸の注意点
こちらでは、八味地黄丸を服用する際に注意したい副作用について解説いたします。
附子の副作用に注意
八味地黄丸には「附子(ぶし)」が含まれています。附子は体を強く温める効果や鎮痛作用がありますが、副作用に注意が必要です。
附子の副作用:舌のしびれ、のぼせ、心悸亢進(動悸)など
胃腸が弱い人は注意(地黄による副作用)
地黄(じおう)は胃腸に負担をかけることがあり、食欲不振、悪心・嘔吐、胃痛、腹痛などを引き起こすことがあります。普段から胃がもたれやすい人や胃腸が弱い人は、服用を避けるか、食後に服用するなどの対策が必要です。服用前に医師や薬剤師に相談しましょう。
妊娠中は服用を中止する
妊娠中や妊娠の可能性のある人は、八味地黄丸の服用を中止しましょう。八味地黄丸に含まれる牡丹皮(ぼたんぴ)には流早産を引き起こす可能性があり、附子(ぶし)の副作用が現れやすくなります。[1]
その他の副作用
八味地黄丸には重篤な副作用は報告されていませんが、以下の副作用が報告されています。頻度は不明ですが、もし服用中にこれらの症状が現れた場合は、服用を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
過敏症 | 発疹、発赤、かゆみなど |
肝臓 | 肝機能異常(AST、ALT、T-Bil等の上昇) |
八味地黄丸と他の漢方薬や医薬品との飲み合わせについては、こちら▼の記事で詳しく解説しています。
八味地黄丸の効果に関するよくある質問
こちらでは八味地黄丸の効果に関するよくある質問にお答えいたします。
八味地黄丸は男性に効果がありますか?
八味地黄丸は、男性にも効果がある漢方薬です。男性・女性を問わず服用でき、適応症状がある方で、胃腸が弱くなければ服用可能です。特に男性では、前立腺肥大症に伴う排尿トラブルや性機能障害の改善に選ばれることがあります。
また、中年以降の男性更年期の症状に使用される場合もあります。男性更年期については、こちら▼の記事で解説しています。
八味地黄丸は女性にも効果がありますか?
八味地黄丸は、女性にも効果がある漢方薬です。泌尿器系のトラブルに悩む女性、特に過活動膀胱の症状である尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、尿もれなどに適しています。これらの症状の原因の一つに「冷え」があり、八味地黄丸に含まれる桂皮や附子といった身体を温める生薬が、冷えを改善し、泌尿器系の機能を整えることで症状の改善に役立ちます。
八味地黄丸は効果が出るまでどのくらいかかりますか?
1ヶ月服用して様子をみて、症状の改善が見られない場合は服用を中止し、医師や薬剤師又は登録販売者に相談しましょう。[5]
八味地黄丸の効果を高めるための生活上のアドバイス
八味地黄丸を服用する際により効果を高めるために、心掛けたい生活習慣をご紹介します。
体を冷やさないように心掛ける
冷えは「腎」の働きを弱めるため、普段から体を冷やさないように心掛けましょう。温かい食べ物や飲み物を摂るようにし、ウォーキングや筋トレなどの軽い運動を取り入れるとさらに効果的です。また、シャワーだけでなく湯船に浸かることで体を温め、八味地黄丸の効果をより引き出すことができます。
基礎代謝を高める食材を摂る
八味地黄丸は、基礎代謝が低下しがちな方に特に効果があります。下半身の冷えや腰痛、排尿トラブルが気になる方は、基礎代謝を高める食材を積極的に摂ることをおすすめします。
基礎代謝を高める食材
玉ねぎ、ニラ、エビ、鶏肉、羊肉、シナモン、クローブ、ワインなど
体全体の潤いを保つ食材を摂る
八味地黄丸を服用する方は、体の潤いが不足しがちです。これにより、めまい、耳鳴り、微熱、便秘、髪の乾燥、舌の乾燥などの症状が現れやすくなります。これらの症状を改善するために、体の潤いを保つ食材を積極的に摂るようにしましょう。
体の潤いを保つ食材
ごま、クコの実、くるみ、ぶどう、豚肉、鴨肉など
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【参考文献】
[1]ツムラ八味地黄丸エキス顆粒(医療用)添付文書
[2]高山宏世編著 漢方常用処方解説
[3]渡辺賢治著 マトリックスでわかる!漢方薬使い分けの極意
[4]日本 東洋医学雑誌 第48巻 第4号 437-443, 1998 高齢者の手足腰の痛み・脱力感・しびれ・冷えに対する八味地黄丸の効果
[5]日本漢方生薬製剤協会 八味地黄丸の確認票