柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は主に、不安やイライラなどの精神症状や不眠に対して効果を発揮する漢方薬です。また、動悸やのぼせ、子どもの夜泣きなどにも効果が期待できます。
この記事では、柴胡加竜骨牡蛎湯の効果に加え、副作用や類似処方との違い、ハイリスクといわれる理由などについて、漢方薬に詳しい薬剤師が解説します。薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
柴胡加竜骨牡蛎湯とはどんな漢方薬?
「柴胡加竜骨牡蛎湯」の名前を聞いたことはあっても、どのような薬か知らない方もいるのではないでしょうか。まずは、柴胡加竜骨牡蛎湯の薬が効く仕組みや成分についてみていきましょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯の効果が出る仕組み
柴胡加竜骨牡蛎湯には、「気(き)」の巡りを整えることで心を落ち着かせる効果があります。
漢方医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスが整い、体内を巡ることで健康維持につながるとされています。
「気」「血」「水」それぞれの役割は以下のとおりです。
「気」:生命活動に必要なエネルギー
「血」:全身に行き渡る栄養や血液
「水」:血液を除く体液
気の巡りが悪化し、停滞している状態を「気滞(きたい)」と呼びます。気滞になると、精神が不安定になりやすく、不安やイライラ、気分の落ち込みなどが起こります。
柴胡加竜骨牡蛎湯は気の巡りを整えることで、精神不安やストレスに加え、精神症状からくる不眠にも効果を発揮します。
柴胡加竜骨牡蛎湯の成分
柴胡加竜骨牡蛎湯に含まれる成分は、以下のとおりです。[1]
柴胡(さいこ):熱を冷ます作用がある。
黄芩(おうごん):血圧降下作用や熱を冷ます作用がある。
竜骨(りゅうこつ):鎮静作用がある。
牡蛎(ぼれい):鎮静作用がある。
茯苓(ぶくりょう):利尿作用や精神を安定させる作用がある。
半夏(はんげ):吐き気を抑える作用がある。
生姜(しょうきょう):胃を温めて吐き気を抑える作用がある。
桂枝(けいし):鎮静作用がある。
人参(にんじん):血圧降下作用や心身を元気にする作用がある。
大棗(たいそう):精神を安定させる作用がある。
大黄(だいおう):便通を良くする作用がある。※
※銘柄により大黄が含まれない製剤もあります。
柴胡加竜骨牡蛎湯は「気」の逆上を鎮めたり、体の熱を冷ましたりすることで、主に精神を安定させる効果を発揮します。
柴胡加竜骨牡蛎湯の効果
柴胡加竜骨牡蛎湯を服用することで期待できる効果は、以下のとおりです。
ヒステリー・神経症
柴胡加竜骨牡蛎湯は気の巡りを整え、体にこもった熱を冷ますため、精神を鎮める効果があります。そのため、ヒステリーを含む神経症の症状を抑える効果が期待できます。
柴胡加竜骨牡蛎湯以外にも、イライラやストレスに効く薬が知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
不眠症
柴胡加竜骨牡蛎湯には心を落ち着かせる効果があるため、不安やイライラなどの精神症状にともなう不眠にも効果が期待できます。
柴胡加竜骨牡蛎以外に不眠症に効く漢方薬が知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
子どもの夜泣き
柴胡加竜骨牡蛎湯には大人だけでなく、子どもの不安やイライラなどの症状を抑える効果も期待できるため、子どもの夜泣きに対して用いられるケースもあります。
動悸
柴胡加竜骨牡蛎湯には、精神面に関わる動悸を改善する効果も期待できます。[1]
動悸とは、普段よりも心臓の鼓動を早く感じたり、強く感じたりする状態です。柴胡加竜骨牡蛎湯を服用すると、気持ちが安らぐことで心臓の動きが落ち着きやすくなります。
高血圧症
柴胡加竜骨牡蛎湯には、血圧降下作用のある「黄芩」や「人参」といった生薬が含まれており、高血圧症の治療の選択肢の一つとして用いられる場合があります。[1]
便秘
柴胡加竜骨牡蛎湯は、精神を安定させて便通を促す効果が期待できます。
また配合生薬の「大黄」には、大腸を刺激する成分であるアントラキノン類が含まれています。
便秘に効く漢方薬にどのようなものがあるか知りたい方は、以下の記事をお読みください。
漢方薬の選び方についてお悩みの方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
柴胡加竜骨牡蛎湯の飲み方
成人は1日7.5gを2〜3回に分け、食前(食事の20〜30分前)または食間(食事と食事の間約2時間の空腹時)に服用してください。[3]
柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する際、誤った飲み方をすると期待する効果が得られなかったり、副作用が出たりする場合があります。
用法用量を正しく理解し、適切なタイミングで服用しましょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯の服用が向いている人
柴胡加竜骨牡蛎湯は、比較的体力があり、主に不安やイライラなどの精神症状や不眠にお悩みの方に向いています。また、みぞおちの張りや苦しさ(胸脇苦満:きょうきょうくまん)、便秘、肩こり、頭痛などが気になる方にも適しています。[2]
柴胡加竜骨牡蛎湯の類似処方とその違い
柴胡加竜骨牡蛎湯と類似処方には異なる特徴があります。それぞれの相違点を理解し、自身の症状や体質に合う薬を服用しましょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯と加味逍遥散の違い
柴胡加竜骨牡蛎湯と加味逍遥散(かみしょうようさん)は、どちらも不安やイライラ、不眠症などの症状がある場合に用いられます。
柴胡加竜骨牡蛎湯は比較的体力がある方に向いていますが、加味逍遥散の場合は体力が低下し、疲れやすい方が適しています。
加味逍遙散は産婦人科の三大漢方薬のひとつであり、更年期障害や月経不順などにともなう精神症状の改善が期待できる薬です。[2]
加味逍遥散の効果や副作用について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯の違い
柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)は、どちらも不眠や動悸などの症状がある場合に用いられます。
柴胡加竜骨牡蛎湯は比較的体力がある方に用いますが、桂枝加竜骨牡蛎湯の場合は体力が衰えている方に適しています。
また、桂枝加竜骨牡蛎湯は子どものおもらしや、男性不妊といった性的機能障害などにも適応しているのが特徴です。[1]
柴胡加竜骨牡蛎湯と抑肝散の違い
柴胡加竜骨牡蛎湯と抑肝散(よくかんさん)は、どちらもイライラや不眠症、子どもの夜泣きなどの症状がある場合に用いられる漢方薬です。
抑肝散は、落ち着きがない方や、まぶたの痙れん・手足のふるえなどがある方にも用いられます。[2]
抑肝散の効果や副作用について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
柴胡加竜骨牡蛎湯と半夏厚朴湯の違い
柴胡加竜骨牡蛎湯と半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、どちらも不安や不眠症などの症状がある場合に用いられる漢方薬です。
半夏厚朴湯は主に、喉が詰まったような感覚がある方や、精神的な緊張による咳や痰などにお悩みの方に適しています。[2]
半夏厚朴湯の効果や副作用について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
柴胡加竜骨牡蛎湯と大柴胡湯の違い
柴胡加竜骨牡蛎湯は主に、不安やイライラなどの精神症状がある場合に用いられます。一方で、大柴胡湯(だいさいことう)はとくに便秘やお腹の張り、肩こりなどが気になる場合に効果的な漢方薬です。[2]
また、大柴胡湯にはストレスが原因の過食を抑える働きがあるため、肥満症の治療に用いられることもあります。
大柴胡湯の効果について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
柴胡加竜骨牡蛎湯の副作用や注意点
柴胡加竜骨牡蛎湯には、服用する際に知っておくべき副作用・注意点があります。薬を飲む前に以下の内容を把握しておきましょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する際に注意すべき副作用
柴胡加竜骨牡蛎湯を服用すると、皮膚のかゆみや赤み、発疹や胃の不快感などがみられる場合があります。
また、大黄が含まれる製剤の場合は、下痢や軟便が悪化する場合もあります。
頻度不明で起こりにくいとされていますが、柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する際は、以下の内容についても把握しておくことが大切です。
服用後に普段と違った症状が出た場合は、医師のアドバイスに従い、適切な処置を受けましょう。[2]
間質性肺炎
発熱や咳、肺音の異常や息苦しさをともなう呼吸困難などがあらわれる場合があります。[2]
肝機能障害、黄疸
血液検査でAST(GOT)・ALT(GPT)・AI-P・γ-GTPなどの項目の数値上昇が起こる「肝機能障害」や、皮膚や目の白い部分が黄色くなる「黄疸」があらわれる場合があります。[2]
柴胡加竜骨牡蛎湯の服用について注意すべき人
以下に該当する方は、柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する前にリスクや副作用を把握しておきましょう。
妊娠している女性
「大黄」が含まれる柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する場合、大黄による子宮収縮作用や骨盤内の臓器を充血させる作用により、流産や早産を引き起こすリスクがあります。[3]
医師の診断のもと、治療効果がリスクを上回ると判断される場合にのみ服用してください。
授乳中の女性
「大黄」を含む柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する場合、大黄に含まれる「アントラキノン誘導体」と呼ばれる化合物が母乳中に移行することで、乳児の下痢を起こす場合があります。
授乳中の方は、治療上の有益性や母乳に薬の成分が移行するリスクを踏まえ、医師と相談しながら継続または中止を検討しましょう。[3]
子どもや高齢者
柴胡加竜骨牡蛎湯を含む漢方薬を子どもが服用する場合は、年齢や体重、症状などによって服用量が変わる場合があります。
高齢者が服用する場合は、生理機能が低下しているため、効果が強めに出てしまうこともあるでしょう。柴胡加竜骨牡蛎湯を服用する場合は、添付文書や医師の指示に従ってください。[3]
柴胡加竜骨牡蛎湯の服用についてお悩みの方は、YOJOの薬剤師にご相談ください。
柴胡加竜骨牡蛎湯の市販薬
漢方薬を服用したことがなく、柴胡加竜骨牡蛎湯を手軽に試したい方は、以下の市販薬の購入を検討してみてください。
ツムラ漢方柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒
ストレスや不安で眠れない方に
スティック包装になっているため、持ち運びしやすく、外出先でも服用しやすいのが特徴です。
ツムラの柴胡加竜骨牡蛎湯には、便通を良くする作用をもつ「大黄」が含まれないため、下痢や軟便が気になる方に向いています。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度以上で、精神不安があり、不眠、動悸、便秘などをともなう次の諸症:高血圧にともなう(不安、動悸、不眠)、更年期神経症、神経症、小児夜泣き、便秘 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 次の1回量を、1日2回食前に水あるいはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1包 15歳未満7歳以上:2/3包 7歳未満4歳以上:1/2包 4歳未満2歳以上:1/3包 2歳未満:1/4包 |
内容量 | 20包/48包 |
柴胡加竜骨牡蛎湯エキス錠クラシエ
イライラで寝つきが悪い方に
錠剤タイプの製品であるため、顆粒剤の味が苦手な方に向いています。
クラシエの柴胡加竜骨牡蛎湯には、便を出しやすくする作用のある「大黄」が含まれています。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度以上で、精神不安があり、不眠、動悸、便秘などをともなう次の諸症:高血圧にともなう症状(不眠、不安、動悸)、小児夜泣き、便秘、神経症、更年期神経症 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 次の1回量を、1日3回食前または食事と食事の間2時間程度の空腹時に水もしくは白湯にて服用。 成人(15歳以上):3錠 15歳未満5歳以上:2錠 5歳未満:服用しないこと |
内容量 | 63錠 |
柴胡加竜骨牡蛎湯の服用でよくある質問
これから柴胡加竜骨牡蛎湯の服用を検討する方に向けて、柴胡加竜骨牡蛎湯に関するよくある質問・回答をご紹介します。
柴胡加竜骨牡蛎湯の効果が出るまでどのくらいの期間がかかりますか?
漢方薬の効果が出るまでの期間は、体質や症状によって異なります。用法・用量を守って服用し、1ヶ月程度服用しても症状が改善しない場合は服用を中止し、医師・薬剤師または登録販売者に相談してください。
柴胡加竜骨牡蛎湯には即効性がありますか?
漢方薬の効果が出るまでの期間は体質や症状によって異なるため、一概に即効性があるとはいえません。一般的には1ヶ月程度で効果が出てくるとされています。
柴胡加竜骨牡蛎湯を服用して痩せた人はいますか?
柴胡加竜骨牡蛎湯に痩せる効果は報告されていません。柴胡加竜骨牡蛎湯は主に、不安やイライラ、気分の落ち込みなどがある方に適した漢方薬です。
柴胡加竜骨牡蛎湯はうつに効果がありますか?
柴胡加竜骨牡蛎湯にうつ病の適応はありませんが、精神を安定させる作用があります。そのため、不安やイライラ、不眠などのうつ症状に対して処方されるケースがあります。
他にうつの症状に対して効果の期待できる漢方薬について知りたい方はこちら▼の記事をお読みください。
柴胡加竜骨牡蛎湯の効果として抗ストレス作用はありますか?
柴胡加竜骨牡蛎湯には、気の巡りを整えて心を落ち着かせる効果があるため、ストレスによる不調にも効果的です。
柴胡加竜骨牡蛎湯はパニック障害に効果がありますか?
柴胡加竜骨牡蛎湯は、動悸や呼吸困難などが突然起こる「パニック障害」に対する適応はありません。しかし、動悸や、眠りが浅いといった交感神経症状を抑える目的でパニック障害の治療に用いられるケースはあります。[4]
柴胡加竜骨牡蛎湯はセロトニンの分泌に関与しますか?
「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンには精神安定作用があり、心身をリラックスさせる効果があります。
ラットに柴胡加竜骨牡蛎湯を投与した研究によると、セロトニンの低下を防ぐ作用がみられたことが報告されています。[5]
柴胡加竜骨牡蛎湯がハイリスクといわれる理由はなんですか?
柴胡加竜骨牡蛎湯が「ハイリスク」といわれる理由には、間質性肺炎や肝機能障害、黄疸などの副作用リスクがあることが考えられます。ただし、これらの副作用が生じる頻度はまれであり、柴胡加竜骨牡蛎湯に限って起こるものでもありません。[3]
また、柴胡加竜骨牡蛎湯が「ハイリスク薬」の対象となることも関係していると考えられます。ハイリスク薬とは、使い方を間違えると大きな健康被害を引き起こす可能性のある薬であり、抗がん剤や免疫抑制剤、抗てんかん薬などが対象です。
医療用製剤のツムラやコタローの柴胡加竜骨牡蛎湯には、ハイリスク薬の対象となる「てんかん」の適応があります。そのため、柴胡加竜骨牡蛎湯が「ハイリスク」といわれるケースがあると考えられます。
ただし柴胡加竜骨牡蛎湯は、用法用量を守って使用すればとくに危険な薬ではないため、過度な心配は必要ありません。
柴胡加竜骨牡蛎湯は不安やイライラに効く漢方薬
柴胡加竜骨牡蛎湯は、体力があり、不安やイライラ、ヒステリーなどの精神症状がある方に向いている漢方薬です。加えて、精神症状にともなう不眠や子どもの夜泣き、動悸、便秘などの改善効果も期待できます。
柴胡加竜骨牡蛎湯を飲む場合は、医師や薬剤師のアドバイスに従い、副作用や注意事項を踏まえて正しく服用しましょう。
また柴胡加竜骨牡蛎湯はハイリスクといわれるケースもありますが、用法用量を守って服用すればとくに危険な薬ではありません。
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【参考文献】
[1]高山宏世 編著 腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]
[2]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版
[3]KEGG MEDICUS 医薬品情報 医療用医薬品:柴胡加竜骨牡蛎湯
[4] 柴胡加竜骨牡蛎湯 パニック障害 漢方・鍼灸だよりNo.22 東海大学医学部付属病院東洋学科(2023)
[5]Mizoguchi K, et al. (2003)Saiko-ka-ryukotsu-borei-to, a herbal medicine, ameliorates chronic stress-induced depressive state in rotarod performance. Pharmacol Biochem Behav.75(2).419-425