「雨の日になると頭痛でつらい」「でも痛み止めをくり返し飲むことに抵抗がある…」そんな方は漢方薬の服用を検討するのも良いかもしれません。
体質に合った漢方薬は、からだの巡りを整え、低気圧で起こる不調を改善してくれる効果が期待できます。
この記事では、低気圧頭痛とその対策に悩む人に向けて、
・低気圧で起こる不調に漢方が効果的な理由
・低気圧頭痛に使用できる漢方薬
・体質に合った漢方薬の選び方や注意点
について詳しく解説します。
Contents
低気圧頭痛とは~漢方との関連性~
「低気圧頭痛」とは、気圧が低いときに起こる頭痛ですが、なぜこのような不調が起こるのでしょうか。漢方との関連性についても、これから順を追ってご説明します。
低気圧頭痛は天気痛のうちの一つ
気圧・気温・湿度などの天候の変化に伴って、痛みや体調不良が起こる、もしくは悪化することを、俗に「天気痛」「気象病」と呼ぶことがあります。たとえば、以下のような症状があげられます。
身体的な症状 | 頭痛、倦怠感、めまい、耳鳴り、肩こり、関節痛、傷跡の痛みなど |
---|---|
精神的な症状 | 不安感、気分の落ち込み、無気力、眠気、起床困難など |
このうち頭痛は、天候の変化によって起こる不調の中でも頻度が高く、近年では「低気圧頭痛」という言葉もメディアで多く使われるようになってきました。
低気圧頭痛が起こるのはなぜか
詳しいメカニズムはまだ明らかになっていませんが、私たちのからだは気圧の変化を耳の「内耳(ないじ)」という部分で感じ取っています。そして低気圧の頭痛に悩まれる方の多くは、この変化を察知するセンサーが普通の方よりも敏感で、少しの気圧変化で過剰に脳を刺激してしまうのです。その結果、頭痛を起こしたり悪化させたりしてしまい、さらには自律神経の乱れを引き起こし、心身にさまざまな不調が起こすと考えられています。[1]
女性に低気圧頭痛が多いのはなぜ?
女性は、生理や排卵、更年期といった周期に伴い、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌量が変化します。そしてこのエストロゲンが減少するときに、頭痛(片頭痛)が起こりやすくなることが分かっています。[2]
そこに気圧の変化が重なることで、脳が過剰に反応して痛みが増幅するため、女性は男性よりも低気圧頭痛に悩む方が多いのだと考えられます。
また、更年期の不定愁訴は、頭痛、肩こり、うつなど天気の影響を受けやすい傾向にあるのも、女性に低気圧頭痛が多い理由の一つでしょう。
低気圧頭痛に漢方は有効か?
ここからは、漢方が低気圧頭痛に対して効果が期待できる理由についてお伝えします。
漢方では、私たちのからだは「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の3要素がバランス良く体内を巡ることで、健康を保つことができると考えられています。「気」は生命活動のエネルギーの源、「血」は全身を巡る血液やその栄養、「水」は血液以外の体液を示します。
低気圧頭痛に悩まれる方は、からだに余分な湿気や水が入り込んで「水」の代謝に異常が生じている状態です。漢方では、この状態を「水滞(すいたい)」または「水毒(すいどく)」と呼びます。
水滞は、からだに余分な水分や老廃物をため込んでいる状態となるため、頭痛だけでなく、むくみ・水太り、倦怠感、頭重、めまい・立ち眩み、吐き気・嘔吐、下痢などの症状が出やすくなります。
また、3要素は相互にバランスを取っているため、「水」に異常が生じることで「気」や「血」にも影響がおよぶこともあります。
そのため、今のからだの状態や体質をきちんと確認した上で適切な漢方薬を選ぶことが大切です。
低気圧頭痛に効果が期待できる漢方薬とは
では、低気圧頭痛に使用できる漢方薬には具体的にどのようなものがあるでしょうか。ここでは4種類の漢方薬とそれぞれの特徴や選び方についてご紹介します。
五苓散(ごれいさん)
五苓散は、からだに余分な水分があるときは利尿作用、脱水状態のときは水分の排出を抑える抗利尿作用を示すことで、からだ全体の水分代謝を整えてくれる代表的な利水剤です。
五苓散には「沢瀉(たくしゃ)・猪苓(ちょれい)・茯苓(ぶくりょう)・朮(じゅつ)」といった利尿作用をもつ複数の生薬が配合されており、症状によっては即効性も期待できます。 頭痛の診療ガイドライン2021によると、定期服用が基本であるものの、低気圧頭痛に関しては頓服薬としての服用も可能としています。
また、体内のアクアポリンという水チャネルに作用することで、水分の移動を調節する働きが確認されています。[3] さらに、2021年に発表された熊本大学とロート製薬の研究では、低気圧頭痛に特有の脳血流量の増加が、五苓散(ソウジュツ配合)の服用によって抑えられたという報告もあります。[4]
服用がおすすめな人
低気圧による頭痛やめまいを起こしやすい人で、特に口や喉が渇いて尿量が少ない人、からだ全体にむくみのある人におすすめの漢方薬です。
服用に注意が必要な人
からだに冷えがある人や体力が著しく低下している人には効果があまり期待できません。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
苓桂朮甘湯には、気の循環を改善して余分な水分を取り除き、自律神経の調節障害などからくる頭痛やめまいを改善する作用があります。[5]
苓桂朮甘湯は4種の生薬から構成される漢方薬です。「茯苓(ぶくりょう)」には、水の巡りを整えるだけでなく、鎮静作用や抗不安作用があります。「朮(じゅつ)」は水分代謝を高めて不要な水分を取り除き、「桂皮(けいひ)」はからだの表面を温めて血行を改善します。「甘草(かんぞう)」にはイライラ、緊張を和らげる作用があります。
そのため、低気圧による気分の落ち込みや不安感などの精神症状にも効果が期待できます。
服用がおすすめな人
尿量減少や口渇、吐き気などの症状が顕著でない人で、冷え性傾向で体力が中程度以下の人、特に午前中の不調が強い人に効果的とされています。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
半夏白朮天麻湯は、水の巡りを改善することで水毒によるめまいや頭痛を改善する作用をもつ漢方薬です。
制吐作用のある「半夏(はんげ)」や、めまい・頭痛に効く「天麻(てんま)」を中心に12種類の生薬で構成されています。余分な水分を取り去る「茯苓・沢瀉・朮」や、健胃作用のある「人参(にんじん)・黄耆(おうぎ)・麦芽(ばくが)・生姜(しょうきょう)」などが配合されており、もともと胃腸の虚弱体質があって急な気候の変化や寒暖差によってめまいや頭痛を起こした人に適した漢方薬です。[6]
五苓散や苓桂朮甘湯と比較すると、効果を発現するまでの期間は長く、1か月程度の服用が必要な場合もあります。[7]
服用がおすすめな人
胃腸が弱く疲れやすい虚証タイプの人や、下半身の冷えがある人に向く漢方薬です。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰芍薬散には、血の不足を補い、水の巡りを良くすることで全身の代謝を整える作用があります。からだに必要な栄養分を行き渡らせ、全身を温めて冷えを改善します。血を補って血行を良くする働きをもつ「当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)」のほか、水の代謝を整える「茯苓(ぶくりょう)・白朮(びゃくじゅつ)」などが配合されている漢方薬です。
当帰芍薬散は、月経困難・不順または更年期障害が背景にあり、エストロゲンの低下に伴って悪化するような頭痛に使われる場合があります。そこに冷えや気圧の変化が加わりさらに増悪するような頭痛に効果が期待できます。[8]
また、比較的即効性のある漢方薬で、2週間程度で効果がみられる場合もあるようです。[9]
服用がおすすめな人
虚証タイプで冷えや貧血の症状のある人におすすめの漢方です。
服用に注意が必要な人
胃腸が弱い人:副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。
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低気圧頭痛に使用できる市販の漢方薬
ここでは、「まずは漢方薬を手軽に試してみたい」という方に向けて、ドラッグストアや薬局で購入できる商品をご紹介します。
和漢箋 ®キアガード
天気の変化などからくる逃げられない頭痛に
五苓散の漢方薬が配合された商品です。携帯に便利な個包装で、大人(15才以上)の1回量(4錠)が1包に入っています。
分類 | 第2類医薬品 |
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適応する人 | 体力に関わらず使用でき、のどが渇いて尿量が少ないもので、めまい、吐き気、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかの訴えがある人 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水又はお湯で服用。 成人(15歳以上):1回4錠 5歳以上15歳未満:1回2錠 |
服用対象年齢 | 5歳以上(5歳未満は服用しないこと) |
効能効果 | 水様性下痢、急性胃腸炎(しぶり腹のものには使用しないこと)、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔 ※しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことである。 |
内容量 | 24錠 |
ツムラ漢方 苓桂朮甘湯エキス顆粒
頭痛やめまいが気になる方に
苓桂朮甘湯の漢方薬が配合された商品です。
分類 | 第2類医薬品 |
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適応する人 | 体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸の訴えがある人 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水又はお湯で服用。 成人(15歳以上):1回1包 7歳以上15歳未満:1回2/3包 4歳以上7歳未満:1回1/2包 2歳以上4歳未満:1回1/3包 |
服用対象年齢 | 2歳以上(2歳未満は服用しないこと) |
効能効果 | 立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏 |
内容量 | 20包 |
半夏白朮天麻湯エキス顆粒「クラシエ」
胃腸が弱く冷えが気になる方の頭痛に
半夏白朮天麻の漢方薬が配合された商品です。
分類 | 第2類医薬品 |
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適応する人 | 体力中等度以下で、胃腸が弱く下肢が冷える訴えがある人 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水又はお湯で服用。 成人(15歳以上):1回1包 7歳以上15歳未満:1回2/3包 4歳以上7歳未満:1回1/2包 2歳以上4歳未満:1回1/3包 |
服用対象年齢 | 2歳以上(2歳未満は服用しないこと) |
効能効果 | 頭痛、頭重、立ちくらみ、めまい、蓄膿症(副鼻腔炎) |
内容量 | 90包 |
ルビーナめぐり®
冷え症や疲れやすい方のが頭重に
当帰芍薬散に、胃腸を元気にしてからだを温める「人参」が配合されている商品です。
分類 | 第2類医薬品 |
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適応する人 | 体力虚弱で胃腸が弱く、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに 下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などの訴えがある人 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に服用 成人(15歳以上):1回3錠 15歳未満7歳以上:1回2錠 |
服用対象年齢 | 7歳以上(7歳未満は服用しないこと) |
効能効果 | むくみ、月経痛、頭重、足腰の冷え症、月経不順、月経異常、産前産後 あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、更年期障害、 めまい・立ちくらみ、肩こり、腰痛、しみ、耳鳴り、しもやけ |
内容量 | 60錠/120錠 |
漢方薬の選択で不安な場合はYOJOの薬剤師に相談してみよう
ご自身に合った漢方薬の選択が不安な人や頭痛の薬について気になることがある人は、一度YOJOの薬剤師に相談してみましょう。
体質に合った漢方薬の提案だけでなく、薬の正しい服用方法や注意点、生活習慣についてのアドバイスも受けられますよ。
低気圧頭痛と薬以外の対策について、さらに知りたい方はこちら▼の記事も読んでみてください。
また頭痛全般に効果のできる漢方薬についてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
【参考文献】
[1]佐藤純(2020)〈健康PLUS〉気象の崩れが影響!?天気痛を改善
[2]一般社団法人日本頭痛協会(2013)「女性のための頭痛講座」
[3]礒濱 洋一郎(2011),五苓散のアクアポリンを介した 水分代謝調節メカニズム ,Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.35 No.2(93)189
[4]熊本大学HP 五苓散(ソウジュツ配合)の天気頭痛への効果を発見
[5]嶺井聡ら(2019)苓桂朮甘湯が適応となる新たな病態に関する考察, 日本東洋医学雑誌.70(2)141-145
[6]川嶋 浩一郎(2015)天麻末の併用で新たに認識できた半夏白朮天麻湯の向精神作用と認知機能改善の可能性,Phil漢方No.53
[7]五島 史行(2020)耳鼻咽喉科診療で知っておくと役立つ漢方治療,日本耳鼻咽喉科学会123,1353-1357
[8]木村容子ら(2011)当帰芍薬散が有効な頭痛の症例について,日本東洋医学雑誌.62(5)627-633
[9]坪田雅仁(2021) ,めまいの漢方診療 総論, Equilibrium Res Vol. 80(4) 292~295