蕁麻疹の治療には主に抗ヒスタミン薬が使用されますが、くり返し起こる蕁麻疹に対して体質改善を目的に漢方薬が処方される場合があります。
蕁麻疹に効く漢方薬には、以下のようなものがあります。
・十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう):急性期・慢性期の蕁麻疹に効果
・消風散(しょうふうさん):強いかゆみに効果
・葛根湯(かっこんとう):体力がある方の急性蕁麻疹に効果
・茵蔯五苓散(いんちんごれいさん):口渇やむくみを伴う方の慢性蕁麻疹に効果
・加味逍遙散(かみしょうようさん):ストレスや更年期が原因で起こる蕁麻疹に効果
この記事では、蕁麻疹の症状に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
蕁麻疹(じんましん)とは
まずは蕁麻疹の症状や種類、原因について詳しくお伝えします。
蕁麻疹の症状
蕁麻疹とは、皮膚の一部が急に赤く盛り上がり(膨疹)、時間が経過すると消えてしまう病気です。多くはかゆみを伴いますが、ときにチクチク・ピリピリした痛みを伴うこともあります。皮疹は数十分から数時間以内に消えることが多いですが、中には半日から1日くらい続く場合もあります。[1]
蕁麻疹の種類と原因
蕁麻疹の種類には、主に以下のようなものがあります。
急性蕁麻疹
毎日のようにくり返し症状が現われて、発症後1か月以内のものを指します。細菌やウイルス感染が原因である場合が多いです。
慢性蕁麻疹
毎日のようにくり返し症状が現われて、発症後1か月以上経過したものを指します。原因はさまざまで特定できない場合もあります。
コリン性蕁麻疹
汗をかくと現れるものを指します。例えば運動後や入浴後によく現れます。各々の膨疹(皮膚の膨らみ)の大きさは、1~4mm程度と小さいのが特徴です。
心因性蕁麻疹
身体的・精神的な疲労やストレスを抱えたときに現れるものを指します。
物理性蕁麻疹
皮膚への物理的な刺激によって引き起こるものを指します。例えば下着などによる摩擦や圧迫、寒冷・温熱刺激、日光、振動などが原因で起こります。
アレルギー性蕁麻疹
アレルギー物質が体内に入ることで起こるものを指します。例えば食べ物や食品添加物、薬品、動物や植物、昆虫などに含有するアレルゲンが原因で現れます。
蕁麻疹と漢方の考え方
漢方医学では蕁麻疹は、外邪(風邪など)や気血水のバランスが崩れることで起こると考えられています。とくに、寒冷刺激などで熱と水のバランスが崩れると、炎症が悪化してさらに血の巡りも悪くなり、皮膚に必要な栄養分が届かないために皮膚症状が長引くと考えられています。
またストレスから気血の循環が滞って栄養やエネルギーの巡りが悪くなったり、気の不足で外的刺激から守る防御機能が衰えたりした場合にも蕁麻疹が起こりやすくなります。
蕁麻疹に効果の期待できる漢方薬5選
ここでは蕁麻疹の治療に効果の期待できる漢方薬の種類と、その使い分けや飲み方の注意点についてご説明します。[2]
【急性期・慢性期の蕁麻疹に】十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)
十味敗毒湯には、 皮膚の赤みやかゆみを発散して、腫れや化膿を抑える作用があります。湿潤した患部にある余分な水や熱を排出し、肌を正常な状態へと導きます。臨床では、蕁麻疹のほかに湿疹やニキビ、水虫などの治療に用いられます。
配合生薬の「防風(ぼうふう)・荊芥(けいがい)・独活(どくかつ)」が炎症の原因となった毒素と共に湿熱を放出します。そのほか消炎作用をもつ「柴胡(さいこ)」や血行を促す「川芎(せんきゅう)」など10種類の生薬から構成されています。
服用がおすすめな方
体力は中程度で、発赤があるような皮膚疾患を持つ方におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方を服用する場合は注意しましょう
「甘草(かんぞう)」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は重複して副作用が起こりやすくなります。
配合生薬
荊芥、防風、柴胡、桔梗、川芎、茯苓、甘草、生姜、樸そく、独活
十味敗毒湯の併用薬との飲み合わせについては、こちら▼の記事で解説しています。
【皮膚のかゆみが強い方に】消風散(しょうふうさん)
消風散には、水の巡りを整えて血の巡りを良くすることで、滲出液の多い皮膚の状態を改善して炎症やかゆみを抑える作用があります。
配合生薬である「石膏(せっこう)」には炎症を鎮める作用があります。また「地黄(じおう)・当帰(とうき)」は血液を補い、皮膚に必要な栄養を運んで潤いを与え、「蒼朮(そうじゅつ)・木通(もくつう)」が炎症を起こしている過剰な水分の排出を促します。
消風散は、炎症性サイトカインであるTh1/Th2 バランスを改善することで、アレルギー反応を抑える可能性が報告されています。[3]
服用がおすすめな方
体力は中等度以上で、かゆみが強くて分泌物が多い皮膚疾患を持つ方におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方を長期に服用する場合は注意しましょう
「甘草(かんぞう)」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は偽アルドステロン症やミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
配合生薬
荊芥、防風、蒼朮、木通、石膏、知母、苦參、地黄、当帰、牛蒡子、胡麻、蝉退、甘草
【体力がある方の急性蕁麻疹に】葛根湯(かっこんとう)
葛根湯は、急性熱性疾患の初期に用いられる処方です。
風邪や肩こりでの服用が広く知られますが、患部が発赤して膨張し強い掻痒感が伴う蕁麻疹の治療にも用いられます。[4]臨床では以下のような症例報告があります。
蕁麻疹53例(葛根湯群10例、葛根湯+オキサトミド群22例、オキサトミド群21例)を対象に比較検討した。改善率は葛根湯群(31.6%)、葛根湯+オキサトミド群(68.2%)、オキサトミド群(68.8%)であった。副作用の眠気はオキサトミド群(10%)にみられた。
(参照)薬理と治療,1991,19,5029-5031 ※オキサトミド:抗ヒスタミン薬
服用がおすすめな方
比較的体力があり、皮膚が発赤・膨張し強い掻痒感がある方、局所の痛みを訴える方におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
高血圧や心臓病、腎臓病、甲状腺機能障害のある方は服用前に相談しましょう
配合生薬の「麻黄(まおう)」が心臓や血管に負担をかける可能性があります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
全身倦怠感や吐き気、黄疸、浮腫などがあらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
配合生薬
葛根、大棗、麻黄、甘草、桂皮、芍薬、生姜
【口渇やむくみを伴う方の慢性蕁麻疹に】茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)
茵蔯五苓散は、全身の水分代謝を促し水の巡りを整える作用があります。
利水効果でむくみや下痢などを改善する漢方薬「五苓散(ごれいさん)」に、熱(炎症)を冷ます働きのある生薬「茵蔯蒿(いんちんこう)」を追加した処方です。
服用がおすすめな方
体力中等度で、口渇や尿量減少、むくみがある方の慢性蕁麻疹におすすめの漢方薬です。
配合生薬
茵蔯蒿、沢瀉、猪苓、蒼朮、茯苓、桂皮
【ストレスや更年期で起こる蕁麻疹に】加味逍遙散(かみしょうようさん)
加味逍遥散は、血の不足を補うことで、滞っていた気の巡りを良くする作用があります。そのためイライラや不安、不眠といった精神症状からくる蕁麻疹のほか、更年期でホルモンバランスが乱れたことで起こる蕁麻疹にも効果が期待できます。
配合生薬の「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。また「当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・牡丹皮(ぼたんぴ)」には血行を促進する作用があります。
服用がおすすめな方
虚弱体質で疲れやすく、不安やいらだちなどの精神症状がある方におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
妊娠中の方は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮(ぼたんぴ)」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。
配合生薬
柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷
ほかにも更年期の症状が気になる方はこちら▼の記事もお読みください。
体質や症状に合った漢方薬の選び方に悩まれている方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。
市販で購入できる蕁麻疹におすすめの漢方商品5選
ここでは、まずは手軽に漢方薬を試してみたい方向けに、市販で購入できる漢方薬を5種類紹介します。
十味敗毒湯エキス錠クラシエ
急性期・慢性期の蕁麻疹に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度なものの皮膚疾患で、発赤があり、ときに化膿するものの次の諸症:化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、湿疹・皮膚炎、水虫 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前又は食間に水又はお湯にて服用してください。 成人(15歳以上):1回4錠 7歳以上15歳未満:1回3錠 5歳以上7歳未満:1回2錠 |
内容量 | 180錠 |
ツムラ漢方22消風散エキス顆粒
皮膚のかゆみが強い方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以上の人の皮膚疾患で、かゆみが強くて分泌物が多く、ときに局所の熱感があるものの次の諸症:湿疹・皮膚炎、じんましん、水虫、あせも |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前に水またはお湯で服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 20包 |
ツムラ漢方葛根湯エキス顆粒A
体力中等度以上の方の急性蕁麻疹に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以上のものの次の諸症:感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前に服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 8包/16包 |
茵蔯五苓散エキス細粒G「コタロー」
蕁麻疹やむくみが気になる方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度をめやすとして、のどが渇いて、尿量が少ないものの次の諸症:じんましん、二日酔、むくみ、嘔吐 |
形状 | 細粒剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 2歳未満:1回1/4包 |
内容量 | 12包 |
「クラシエ」漢方加味逍遙散料エキス錠
ストレスやホルモンバランスの乱れで起こる蕁麻疹に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 7歳未満5歳以上:1回2錠 |
内容量 | 96錠/240錠 |
漢方薬以外で蕁麻疹におすすめの養生法
ここでは、蕁麻疹をくり返さないために、薬の服用以外でできる生活上のアドバイスをお伝えします。
ストレスをためない
精神的なストレスは蕁麻疹を発症させたり悪化させたりする原因になります。適度にリフレッシュをして休息を取ることが大切です。
睡眠や生活習慣を改善する
質の良い睡眠を取ることで心身の疲労が回復し、体の防御機能が高まり蕁麻疹を予防することにつながります。また暴飲暴食や間食も控え、栄養バランスの整った食事を規則正しく摂るように心がけましょう。
サイズや質感の合わない衣類の着用は避ける
衣類による摩擦や圧迫は蕁麻疹を起こす原因になります。とくに肌に直接触れる下着や靴下などはサイズや質感の合ったものを選びましょう。
かゆみが強いときには入浴を避ける
蕁麻疹の種類や原因にもよりますが、かゆみが強いときに体を温めると血流が良くなり症状がさらに悪化する可能性があります。かゆみが増すと皮膚を掻き壊してしまう原因にもなるため注意しましょう。
こんな時は早めに医療機関を受診しよう!
生活習慣を改善しても蕁麻疹をくり返す場合は、早めに医療機関に相談することが大切です。
また蕁麻疹と共に以下のような症状がある場合は、命にかかわる危険な状態の可能性があるため、すぐに病院を受診しましょう。
・呼吸が苦しい
・唇やまぶたが腫れる
・下痢や吐き気などの消化器症状がある
・激しい痛みがある
・症状がどんどん進行する
YOJOでは蕁麻疹の症状に効果の期待できる漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]公益社団法人 日本皮膚科学会 蕁麻疹
[2]Phil漢方 蕁麻疹
[3]稲垣直樹ら (2008) ,天然薬物の免疫調節作用, 日薬理誌,131,240-243
[4]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版