【薬剤師監修】多汗症におすすめの漢方薬5選!原因や体質に合った選び方も解説

脇汗に悩む女性

多汗症の治療には、原因や体質に合わせて、水分代謝を良くしたり体の熱を冷ましたりする漢方薬が処方されます。

多汗症によく使用される漢方薬には、以下のようなものがあります。

・防己黄耆湯(ぼういおうぎとう):むくみや冷えがある方の多汗症に効果
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう):熱がこもり滝のように汗が出る方に効果
・加味逍遙散(かみしょうようさん):更年期の冷えのぼせで頭からポタポタ汗が出る方に効果
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):ストレスや緊張が原因で冷や汗をかく方に効果
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):高齢者・虚弱体質な方の発汗傾向や寝汗に効果

この記事では、多汗症の症状に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。

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多汗症とは

多汗症

多汗症とは、生理的な範囲を超える発汗が生じて、日常生活に支障をきたすような場合に診断されます。
ここでは、多汗症の種類や原因、漢方治療の考え方についてご説明します。

多汗症の種類

多汗症は全身の発汗が増加する全身性多汗症と、手のひらや足底、ワキの下、顔面などの体の一部のみの発汗が増加する局在性多汗症があります。

一方で多汗症は、特に原因のない原発性多汗症と、他の疾患に合併して起こる続発性多汗症があります。続発性多汗症の原因としては、感染症や糖尿病、内分泌代謝異常、神経障害などがあげられます。
(参照)日本皮膚科学会ガイドライン 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版

発汗のメカニズム

私たちが通常、汗をかく場合は①温熱性発汗②精神性発汗③味覚性発汗の3つのメカニズムがあるとされています。[1][2]

汗とエクリン汗腺の構造

温熱性発汗

気温の影響や運動により上昇した体温を脳(視床下部)が感知して、交感神経を介して汗腺(エクリン汗腺)を刺激することで生じます。
手のひらや足底を除く全身から、持続的に発汗されます。

精神性発汗

ストレスや緊張などの精神的刺激により脳(扁桃体など)に存在する精神性発汗中枢が過剰に活性化します。その結果、視床下部から交感神経を介して汗腺(エクリン汗腺・アポクリン汗腺)が刺激され、汗が生じます。
手のひらや足底、ワキの下など限られた部位で短時間に発汗するのが特徴です。

味覚性発汗

香辛料がきいた辛い食べ物を摂取した時に出る汗で、辛み成分のカプサイシンが口腔内の粘膜にある温度感受性受容体に作用することで汗が生じます。
頭部や、額や鼻などの顔面に発汗し、食べ終わると汗がひくのが特徴です。

多汗症と漢方治療の考え方

西洋医学の治療では、内服薬(抗コリン薬)や外用薬(塩化アルミニウム)、手足の汗腺細胞に微弱な電流を流すイオントフォレーシスなどがありますが、多くは対症療法です。[2]
一方で漢方治療は即効性は期待できないものの、多汗症の原因に目を向けて体質改善を促すことで症状を改善します。
漢方医学では、多汗症は主に以下のような状態で起こると考えられています。

・体内に余分な水分が停滞・貯留している状態
・体の水分と熱のバランスが崩れて体内に熱がこもっている状態
・気が上昇(気逆)して上熱下寒を有している状態
・気が不足(気虚)して汗腺の機能も低下している状態

そのため、ご自身の現在の状態(証)に合った漢方薬を服用することが大切です。
ご自身の体質や症状に合わせた漢方薬の選択に悩まれている方は、YOJO薬剤師にも相談できます。

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多汗症に効果の期待できる漢方薬5選

漢方生薬

ここでは多汗症に効果の期待できる具体的な漢方薬と、その使い分けや飲み方の注意点についてご説明します。

【むくみや冷えがある方の多汗症に】防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)

防己黄耆湯には、胃腸の消化吸収を助けて気を補いながら、体内に滞っている水分を排出し、水分代謝を改善する働きがあります。

配合生薬の「防已(ぼうい)・白朮(びゃくじゅつ)」は体内の水分循環を良くする作用があります。さらに「黄耆(おうぎ)」には、汗を抑える作用があり、白朮と合わさることでその止汗作用はさらに強まります。[3]

全身性の汗が止まらず皮膚が湿っているような場合に多く処方され、一方で精神性の発汗には効果が得られにくいことが報告されています。[4]

服用がおすすめな方
体力中等度以下で、疲れやすく汗をかきやすい方におすすめの漢方です。
また水太りによる関節の痛みやからだの重だるさがある方にも向きます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
防已、黄耆、白朮(蒼朮)、生姜、大棗、甘草

【体に熱がこもって滝のように汗が出る方に】白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)

白虎加人参湯は、体の熱を冷まして、口渇を改善したり皮膚のかゆみを鎮めたりする働きがあります。
配合生薬に含まれる「石膏(せっこう)」は、熱や炎症を強く鎮め、「知母(ちも)・粳米(こうべい)には渇きを潤す作用があります。特に夏季の熱中症からくる多汗症の状態に向く処方です。[2]

服用がおすすめの方
体力中等度以上で、全身が熱く発汗し口渇も強い方
におすすめの漢方薬です。湿疹や皮膚のかゆみの症状にも効果が期待できます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。

配合生薬
石膏、知母、粳米、人参、甘草

【更年期の冷えのぼせで頭からポタポタ出る汗に】加味逍遙散(かみしょうようさん)

加味逍遥散は、血の不足を補うことで、滞っていた気の巡りを良くする働きがあります。そのためイライラや不安、不眠といった精神症状からくる多汗症に効果的です。また、更年期でホルモンバランスが崩れたことによって起こるホットフラッシュや発汗異常にも効果が期待できます。

配合生薬の「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。また「当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・牡丹皮(ぼたんぴ)」には血行を促進する作用があります。

服用がおすすめな方
虚弱体質で疲れやすく、不安やいらだちなどの精神症状がある方
におすすめの漢方薬です

服用上の注意
妊娠中の方は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮(ぼたんぴ)」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

配合生薬
柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷

冷えのぼせや肩こりなど他にも更年期の不定愁訴が気になる方はこちら▼の記事もお読みください。

更年期障害におすすめの漢方薬とは?症状や体質別の選び方も解説

【ストレスや緊張が原因で冷や汗をかく方に】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

柴胡加竜骨牡蠣湯は、気の巡りを整えて心を落ち着かせたり不眠を改善させたりする働きがあります。そのため、ストレスによる交感神経の過緊張(肝鬱)から起こる発汗異常や多汗症に効果的です。[2]

配合生薬の「竜骨(りゅうこつ)・牡蛎(ぼれい)・茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)・大黄(だいおう)」には精神安定や鎮静作用があります。また、脳内の神経炎症を抑制し精神神経症状に効果の期待できる「柴胡(さいこ)」も配合されています。

服用がおすすめな人
体力中等度以上で、ストレスや不眠症がある方
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
下痢・軟便傾向のある人や妊娠中の人は注意しましょう(※)
「大黄(だいおう)」が配合されているため、下痢・軟便症状の悪化や流早産のリスクが高まる可能性があります。

重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
柴胡、竜骨、牡蛎、黄芩、半夏、人参、茯苓、桂皮、生姜、大棗、(大黄※)

※メーカーによって含まれない場合があります。

自律神経のバランスを整える漢方薬についてさらに知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

自律神経を整える漢方薬とは?体質別の選び方やおすすめケアも解説

【高齢者・虚弱な方の発汗傾向や寝汗に】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

補中益気湯は、胃腸機能の働きを高めることで、全身の気力を補う漢方薬です。
配合生薬の「人参(にんじん)・生姜(しょうきょう)」には、体を温めて代謝を促し、胃腸機能の働きを良くする作用があります。また「黄耆(おうぎ)」には機能が低下した汗腺の締まりを良くする作用があります。

服用がおすすめな人
虚弱体質で、疲れやすく元気のない方
の寝汗や発汗異常に向きます。胃腸の調子を整えて食欲を改善する効果も期待できます。

服用上の注意
複数の漢方を長期に服用する場合は注意しましょう

「甘草」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は偽アルドステロン症やミオパチーなどの副作用が起こりやすくなります。
間質性肺炎の副作用に注意しましょう
発熱、咳、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)などの症状があれば間質性肺炎の疑いがあります。服用を中止し速やかに受診しましょう。

配合生薬
人参、黄耆、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、大棗、甘草

市販で購入できる多汗症におすすめの漢方商品

漢方生薬

ここでは、まずは手軽に漢方薬を試してみたい方向けに、市販で購入できる多汗症におすすめの漢方商品をご紹介します。

ツムラ20漢方防已黄耆湯エキス顆粒

ツムラ20漢方防已黄耆湯エキス顆粒
引用元:ツムラHP

水太りして疲れやすい方の多汗症に

分類 第2類医薬品
効能効果 体力中等度以下で、疲れやすく、汗のかきやすい傾向があるものの次の諸症: 肥満に伴う関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症( 筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとり)
形状 顆粒剤
用法・用量 1日2回食前に水またはお湯で服用。
成人(15歳以上):1回1包
15歳未満7歳以上:1回2/3包
7歳未満4歳以上:1回1/2包
4歳未満2歳以上:1回1/3包
内容量 20包/40包

「クラシエ」漢方白虎加人参湯エキス顆粒

「クラシエ」漢方白虎加人参湯エキス顆粒
引用元:クラシエHP

熱感が強い方の多汗や皮膚のかゆみの症状に

分類 第2類医薬品
効能効果 体力中等度以上で、熱感と口渇が強いものの次の諸症:のどの渇き、ほてり、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ
形状 顆粒剤
用法・用量 1日3回食前に水またはお湯で服用。
成人(15歳以上):1回1包
15歳未満7歳以上:1回2/3包
7歳未満4歳以上:1回1/2包
4歳未満2歳以上:1回1/3包
2歳未満:1回1/4包
内容量 90包

「クラシエ」漢方加味逍遙散料エキス錠

「クラシエ」漢方加味逍遙散料エキス錠
引用元:クラシエHP

ホルモンバランスが乱れて汗がポタポタ出る方に

分類 第2類医薬品
効能効果 体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。。
成人(15歳以上):1回4錠
15歳未満7歳以上:1回3錠
7歳未満5歳以上:1回2錠
内容量 96錠/240錠

柴胡加竜骨牡蛎湯エキス錠クラシエ

柴胡加竜骨牡蛎湯エキス錠クラシエ
引用元:クラシエHP

ストレスや不眠が原因の多汗に

分類 第2類医薬品
効能効果 体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴う次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜泣き、便秘
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。。
成人(15歳以上):1回3錠
15歳未満5歳以上:1回2錠
5歳未満2歳以上:1回1錠
内容量 180錠

JPS補中益気湯エキス錠N

JPS補中益気湯エキス錠N
引用元: ジェーピーエス製薬 HP

体力や元気がない方の寝汗に

分類 第2類医薬品
効能効果 体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症: 虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
形状 錠剤
用法・用量 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。。
成人(15歳以上):1回4錠
15歳未満7歳以上:1回3錠
7歳未満5歳以上:1回2錠
内容量 260錠

生活の中でできる多汗症の予防法・対策法とは

汗をかく女性

ここでは、多汗症を予防したり症状を抑えたりするために、薬の服用以外でできる生活上のアドバイスをお伝えします。

食事の工夫をする

まずは栄養バランスの整った食事を3食きちんと摂ることが大切です。
ただし発汗が気になる時は、交感神経の働きを高めて発汗を促すような食べ物や飲み物を摂取することはなるべく避けましょう。特に辛いものや刺激の強いもの、カフェインの含有する食べ物・飲み物を摂ることで、汗が出やすい状態になってしまいます。
カフェインは、コーヒーや紅茶だけでなく、エナジードリンクやチョコレートなどにも含まれるために摂りすぎには注意しましょう。

リンパ節を冷やす

体に熱がこもっている時は、リンパ節や太い血管がある部分を冷やすと良いでしょう。保冷剤・冷えたペットボトルなどを利用して、首の後ろ・脇の下・ひざの裏・太ももの付け根を意識して冷やすと効果的です。
ただし体の冷やし過ぎには注意しましょう。

生活習慣を整えストレスをためない

自律神経のバランスを整えることで、異常な発汗を防ぐことができます。
適切な時間に十分な睡眠をとり、ウォーキングやヨガなどの適度な有酸素運動を生活の中に取り入れてみましょう。またストレスをなるべくためないように、上手にリフレッシュしてストレスを解消することも、自律神経のバランスが整い多汗症の予防につながります。

症状が改善しない場合は早めに医療機関に相談する

多汗症は、更年期障害や甲状腺機能亢進症、感染症、低血糖などの病気が原因で起こる場合もあります。
症状が改善しない場合はがまんせずに、早めに医療機関で検査を受けることが大切です。また、多汗のほかに動悸や息切れ、咳などの症状が見られる場合は、自己判断で市販薬を服用せずに、すぐに病院を受診しましょう。

YOJOでは多汗症の症状に効果の期待できる漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

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【参考文献】
[1] 日本皮膚科学会ガイドライン 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版
[2]玉野雅裕(2023)ストレスに起因する多汗症に漢方薬が奏効した1例, 脳神経外科と漢方,8,33‒38
[3]高山宏世, 腹証図解 漢方常用処方解説(東洋学術出版社)
[4]室賀 一宏ら(2009), 防己黄耆湯 (金匱要略) ,Phil漢方26