過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスなどに起因して腸が刺激に対して過敏に反応し、腹痛や便秘・下痢の症状がくり返し起こる病気です。
IBSの漢方治療でよく用いられる漢方薬としては、例えば以下のようなものがあります。
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう):つらい腹痛を伴う便秘~下痢に効
大建中湯(だいけんちゅうとう):冷えを伴う便秘に効果
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):ストレスに起因する下痢に効果
六君子湯(りっくんしとう):胃腸が弱く食欲不振を伴う下痢に効果
四逆散(しぎゃくさん):精神症状や胸脇苦満を伴う便秘・下痢の混合型に効果
この記事では、IBSに効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。なかなか改善しない便秘や下痢の症状に悩んでいる方はYOJOの薬剤師にも相談できます。
過敏性腸症候群と漢方の処方とは
過敏性腸症候群の治療に適切な漢方薬を選択するには、現在起きている症状と共に、原因やご自身の体質などについてもきちんと確認することが大切です。
ここでは、まず過敏性腸症候群の症状や原因、西洋薬と比較した漢方薬の強みについてお伝えします。
過敏性腸症候群(IBS)とは
まず過敏性腸症候群(IBS)とは、どのような病気なのでしょうか?ここでは病気の症状や発症のしやすさについて解説します。
どんな症状?
過敏性腸症候群とは、大腸に炎症や腫瘍などの器質的異常が認められないにもかかわらず、お腹の痛みや不快感がくり返し起こり、便秘や下痢などの便通異常が数か月以上続くときに考えられる病気です。
英語表記 Irritable Bowel Syndromeの頭文字を取ってIBSと略されることもあります。
機能性消化管疾患診療ガイドライン2020によるとIBSの診断基準は以下のように示されています。[1]
IBSの診断基準(ローマⅣ基準)
腹痛が
・最近3か月のなかの1週間につき少なくとも1日以上を占め
・下記の2項目以上の特徴を示す
(1)排便に関連する
(2)排便頻度の変化に関連する
(3)便形状(外観)の変化に関連する
※少なくとも6か月以上前から症状があり、最近3か月間は上記基準をみたすこと
有病率は?年齢や性差はある?
過敏性腸症候群は世界でおよそ10%の有病率とされ、決して珍しい病気ではありません。さらにこの数十年はずっと同程度の有病率で推移しており、経年的に増加しているということはありません。
患者数はおおむね女性の方が多いとされています。
また比較的、若年層に多く、日本では男女ともに40代以降に有病率が減少する傾向が報告されています。[1]
4つのタイプがある?
過敏性腸症候群は、「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つのタイプに分類されます。[1]
「便秘型」はブリストルスケールのタイプ1~2、「下痢型」はタイプ6~7の便が多く、「混合型」は両方のタイプの便が同程度の頻度であります。
「分類不能型」は便形状の異常が不十分でおおよそタイプ3~5の便が主体となります。
過敏性腸症候群の原因とは
過敏性腸症候群の原因はまだはっきりとは分かっていません。
しかし、細菌やウイルスによる感染性腸炎にかかると過敏性腸症候群が発症しやすいことが報告されています。[1]
また、ストレスや抑うつ・不安などの心理的異常が症状の発現や悪化に大きく関与することも分かっています。
ストレスなどの心理的異常は自律神経を介して腸の収縮運動を亢進したり、痛みを感じやすい知覚過敏の状態を引き起こしたりします。その結果、少しの刺激で腹痛を感じたり、便通異常を起こしたりしてしまうのです。
そのほかにも、食物(アレルギー)や遺伝、神経伝達物質(セロトニンなど)、腸内細菌、粘膜の炎症などが関与すると考えられています。
自律神経のバランスを整える効果の期待できる漢方薬についてはこちら▼の記事に詳しく書かれています。
過敏性腸症候群の治療と漢方薬の強み
過敏性腸症候群の治療は、まずは生活習慣の見直しを行ったのちに、症状が改善されなければ薬物療法にうつります。具体的には、以下のような薬剤を使用します。
下痢型と便秘型の両方に使用される薬剤
・消化管機能調整薬:腸の運動を整える薬剤
・プロバイオティクス:ビフィズス菌や乳酸菌などの生体に有用な菌製剤
・高分子重合体:水分を吸収し便の水分バランスを整える薬剤
下痢型に使用される薬剤
・セロトニン3受容体拮抗薬(5-HT3拮抗薬):腸の運動異常を改善する薬剤
・止痢薬:下痢症状を止める薬剤
・抗コリン薬:腹痛を改善する薬剤
便秘型に使用される薬剤
・粘膜上皮機能変容薬:便を柔らかくする薬剤
・下剤:排便を促す薬剤
また、症状の程度や原因に合わせて、消化管運動賦活薬や抗アレルギー薬、抗うつ薬・抗不安薬、精神療法が組み合わされることもあります。
西洋薬は即効性が高いために薬物治療の中心になることが多いですが、過敏性腸症候群の治療では漢方薬も選択肢の一つとして推奨されています。
西洋薬と比較した漢方薬の強み
薬の作用点が1点に集中しやすい西洋薬に対し、漢方薬は複数の生薬が総合的に効果を発揮するため作用点が多岐に渡ります。
過敏性腸症候群の場合、便通異常の症状だけでなく、腹痛や胃腸機能の低下、ストレスや強い不安感などを抱えている場合が多いです。
体質や症状に合った漢方薬を選ぶことで、心身の状態が整い、このような多岐にわたる症状も改善へと導く効果が期待できます。
また抗うつ薬や抗不安薬で心配される副作用や依存性がないことも、漢方薬の大きな強みです。
抑うつや気分の落ち込みに効果の期待できる漢方薬についてはこちら▼の記事をお読みください。
過敏性腸症候群に漢方薬を取り入れるためには
では症状や体質に合った漢方薬はどのように選べば良いのでしょうか。
ここでは、過敏性腸症候群の治療に漢方薬を取り入れる際の考え方や、適切な漢方薬の選び方についてご説明します。
虚実
虚実は、個々の体質や病態を見極める「証」の一つです。「虚証」「実証」とその中間にあたる「中間証」があります。
虚証:からだに必要な気・血・水が不足している状態。
疲れやすい、消化器系の働きが弱い、病気がち、不安感・落ち込みやすいなどの症状が見られます。
実証:余分なものを体外へと排出することができていない状態。
のぼせ、イライラ、出血、便秘がちなどの症状が見られます。
虚証・実証・中間証に合った漢方薬にはそれぞれ以下のようなものがあります。
実証向き の漢方薬 |
四逆散など |
---|---|
中間証向き の漢方薬 |
半夏瀉心湯、柴胡桂枝湯、五苓散など |
虚証向き の漢方薬 |
桂枝加芍薬大黄湯、大建中湯、小建中湯、人参湯、真武湯、啓脾湯、香蘇散など |
気血水
漢方では健康を維持するためには、気血水の三要素が重要であると考えます。
気(き):精神やからだの臓器を健康に働かせるエネルギー
血(けつ):血液・リンパ液などの全身を循環・栄養する物質
水(すい):生体内の水分バランス
漢方では、便秘や下痢はストレスなどによって気の流れが停滞したり(気滞)、血の巡りが悪くなったり(瘀血)することで起こるほか、水の異常でも起こると考えられています。水が不足すると便秘に、過剰になると下痢になります。
五臓
漢方ではヒトのからだの機能を5つの臓(五臓)に分け、これらが互いにうまく働くことで生命活動を維持できると考えています。
過敏性腸症候群は主に肝・脾・腎のバランスが乱れることで起こります。
肝(かん):気を巡らせて血を貯蔵し、自律神経や情緒の調整を行います。過度のストレスなどから肝が弱ると、便通異常やイライラなどをもたらします。
脾(ひ):食物を消化吸収し、気血の材料を作ります。脾が弱ると消化機能が低下し下痢・軟便や疲労感などをもたらします。
腎(じん):気血陰陽の源です。水分代謝にも深く関わるため、腎が弱ると便通異常を引き起こします。
肝鬱気滞(かんうつきたい)
精神的なストレスなどが原因で肝気の流れが悪くなっている状態。自律神経のバランスが乱れ、少しの刺激にも過敏に反応して、下痢や便秘、腹痛、イライラなどを引き起こします。
脾胃気虚(ひいききょ)
もともと胃腸が悪く、消化不良を起こしやすい状態。消化に悪い食物を摂取すると便通異常を起こしやすく、また体内の気が不足しているために倦怠感や疲れやすさ、食欲不振などの症状もあります。
脾腎陽虚(ひじんようきょ)
胃腸虚弱や過労、不摂生、加齢などが原因で、からだを温める力が弱った状態。冷えや疲労で便通が悪化しやすく、また下半身の冷えやむくみ、頻尿や倦怠感などの症状もあります。
それぞれの状態に合った漢方薬には、以下のようなものがあります。
肝鬱気滞 | 逍遙散、加味逍遙散、四逆散など |
---|---|
脾胃気虚 | 六君子湯、啓脾湯、補中益気湯など |
脾腎陽虚 | 真武湯、八味地黄丸など |
過敏性腸症候群の症状
漢方治療では、体質(証)を重視した処方選択がされますが、過敏性腸症候群の症状に合わせて漢方薬を使い分けることもできます。
症状別の漢方薬は具体的に以下のようになります。[2]
下痢型 | 半夏瀉心湯、六君子湯、真武湯、人参湯、附子理中湯、啓脾湯、桂枝加芍薬湯など |
---|---|
混合型 | 桂枝加芍薬湯、四逆散、小建中湯、柴胡桂枝湯、人参湯など |
便秘型 | 桂枝加芍薬大黄湯、大建中湯、加味逍遙散、桂枝加芍薬湯、小建中湯、四逆散、柴胡桂枝湯など |
ご自身の体質や症状に合った漢方薬について悩まれている方は、YOJOの薬剤師にも相談することができます。
過敏性腸症候群に使用される漢方薬と使い分け
ここでは、過敏性腸症候群の症状に使用される漢方について、7種類の具体的な漢方薬とその使い分けや注意点をご紹介します。
【便秘型~下痢型:つらい腹痛を伴う方に】 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
桂枝加芍薬湯は、からだを温めて緊張をほぐし、気血のバランスを整えて正常な便通へと導く作用があります。
そのため、過敏性腸症候群の腹痛を伴う便通異常の治療に頻用される漢方薬です。作用機序は十分に解明されていないものの、機能性消化管疾患診療ガイドラインでは桂枝加芍薬湯が消化管運動調整作用や鎮痙作用を介して腹痛や下痢を改善する可能性が報告されています。[1]
桂枝加芍薬湯は「桂枝湯」を基本に、痛みをやわらげたり腸管のけいれんを抑えたりする作用のある「芍薬(しゃくやく)」の量を増やした処方です。ほかにもからだを温める「生姜(しょうきょう)」、緩和作用のある「甘草(かんぞう)」などが配合されています。
便秘やお腹の張りが強い場合は、桂枝加芍薬湯に緩下作用のある「大黄(だいおう)」を追加した「桂枝加芍薬大黄湯」が処方されることもあります。
配合生薬
芍薬、桂皮、大棗、甘草、生姜
服用がおすすめな人
体力中等度以下で腹痛やしぶり腹がある人におすすめの漢方薬です。高齢者や妊娠中の女性にも使いやすい処方です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
【便秘型:冷えを伴う腹痛やお腹の張りのある方に】大建中湯(だいけんちゅうとう)
大建中湯は、からだを温めて胃腸の調子を良くし、腹痛や腹部の冷え、腸のぜん動を改善する作用があります。
そのため、過敏性腸症候群の「便秘型」に特に有効です。機能性消化管疾患診療ガイドラインによると、大建中湯はTRPV1受容体やアセチルコリン受容体、セロトニン受容体に作用することで大腸収縮運動を亢進させることが分かっています。[1]
大建中湯には胃腸の調子を整える「膠飴(こうい)」のほかに腸の運動を活発にして腹部の冷えや痛みをやわらげる「山椒(さんしょう)・乾姜(かんきょう)」、滋養・強壮作用のある「人参(にんじん)」が配合されています。
配合生薬
膠飴、乾姜、人参、山椒
服用がおすすめな人
体力虚弱で、お腹が冷えて痛む人や腹部膨満感のある人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
便秘に効果的な漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【下痢型:ストレスや心理異常のある方に】半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
半夏瀉心湯は、「気」の巡りを良くして胃腸の働きを助けることで、ストレスなどに起因する下痢症状や消化不良・胃もたれを緩和する作用があります。
そのため、過敏性腸症候群の「下痢型」に特に有効です。機能性消化管疾患診療ガイドラインによると、半夏瀉心湯は大腸粘膜内のプロスタグランジンE2を減少させて大腸内の水分吸収を促進させる作用をもつことが分かっています。[1]
「半夏(はんげ)」を中心に、脾胃に働きかける「黄連(おうれん)・黄芩(おうごん)」、健胃作用のある「人参(にんじん)・大棗(たいそう)・甘草(かんぞう)」など、胃腸に良い7種類の生薬で構成されています。
配合生薬
半夏、黄芩、乾姜、甘草、大棗、人参、黄連
服用がおすすめな人
体力が中程度でみぞおちがつかえた感じがある人に向きます。腹鳴をともなって下痢する場合や軟便や粘液便を排出する場合におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【下痢型:胃腸が弱く食欲不振のある方に】六君子湯(りっくんしとう)
六君子湯は、「気」を補って巡りを良くすることで胃腸の働きを高める漢方薬です。
漢方では、もともと胃腸が弱いと、本来胃腸で生み出される「気」が少なくなっている状態(気虚)であると考えます。
漢方で気虚の基本処方とされる「四君子湯」には、消化吸収を回復させて精神を安定させたり新陳代謝を活性化させたりする作用があります。これに鎮吐作用をもつ「半夏(はんげ)」と消化機能改善作用をもつ「陳皮(ちんぴ)」を追加した処方が「六君子湯」です。
そのため、消化機能の低下や軽い抑うつ・不安がある場合に用いられ、消化器系を温めて全身の冷えを軽減させる作用もあります。
配合生薬
半夏、人参、白朮または蒼朮、茯苓、陳皮、大棗、甘草、生姜
服用がおすすめな人
体力が中等度以下で胃腸が弱く食欲がない人や疲れやすく手足が冷えやすい人におすすめの漢方薬です。胃もたれや胃痛などの症状が起こる機能性ディスペプシアの治療にも頻用されます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
肝機能障害の副作用に注意しましょう
無症状のまま血液検査で判明することも多いですが、発熱、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、黄疸などが出た場合には、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【下痢型:冷えやすく胃腸が弱い方に】人参湯(にんじんとう)
人参湯は、胃腸機能を高めることで食欲不振・胃もたれや下痢症状などを改善する働きのある漢方薬です。
主薬の「人参(にんじん)」は滋養強壮作用があり胃腸機能を高めて体力と気力の回復を助けます。「朮(じゅつ)」には胃を乾かし食欲を増加させて消化を促進する働きや、消化器系に停滞した余分な水分を取り除き下痢を止める働もあります。
配合生薬
人参、乾姜、白朮または蒼朮、甘草
服用がおすすめな人
体質虚弱で手足などが冷えやすく尿量が多い人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
下痢に効果的な漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【混合型:精神症状や胸脇苦満がある方に 】 四逆散(しぎゃくさん)
四逆散は、肝の気滞を改善する作用のある代表的な漢方薬です。
肝は情緒や緊張をコントロールする作用があるため、肝の気滞が生じると抑うつや精神的な過敏が生じます。さらに悪化すると四肢に気が巡らなくなることで手足の冷えなども引き起こします。[3]
そのため過敏性腸症候群の精神症状や胃腸症状などにも効果が期待できます。
四逆散は肝の気滞をとり除く「柴胡(さいこ)・枳実(きじつ)」や痛みをやわらげ営気を巡らせる「芍薬(しゃくやく)」、健胃作用のある「甘草(かんぞう)」の4種類の生薬が配合されています。
配合生薬
甘草、枳実、芍薬、柴胡
服用がおすすめな人
体力中等度以上で脇腹からみぞおちにかけての苦満感(胸脇苦満)のある人におすすめの漢方薬です。また抑うつ性の精神症状や手足の冷感がある人にも向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
著しい虚証タイプの人は注意しましょう
体がひどく弱っている場合は慎重に用いる必要があります。
【混合型:腹痛や食欲不振がある方に】柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
柴胡桂枝湯は、からだの熱や炎症を鎮めたり痛みをやわらげたりする作用があります。さまざまな疾患に広く使用される漢方薬です。
柴胡桂枝湯は「桂枝湯」と「小柴胡湯」を合わせた処方です。小柴胡湯の中心的生薬である「柴胡(さいこ)」にはサポニンが含まれており、これに消炎・鎮痛・鎮静作用があります。
四逆散と同じく胸脇苦満がある人に向きますが、柴胡桂枝湯はより虚証タイプ向きです。
配合生薬
柴胡、半夏、黄芩、甘草、桂皮、芍薬、大棗、人参、生姜
服用がおすすめな人
体力中等度またはやや虚弱で脇腹からみぞおちにかけての苦満感(胸脇苦満)のある人に向きます。また腹痛を伴う胃腸症状がある人にもおすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
漢方の服用以外に過敏性腸症候群におすすめの養生法
最後に、過敏性腸症候群(IBS)の治療には生活習慣の改善が最も重要です。ここではIBSの方に向けたおすすめの養生法をご紹介します。
規則正しい食生活を心がける
まずは規則的な食事を取ること、十分な水分摂取を取ることはとても大切です。
ただし、脂質、カフェイン類、香辛料を多く含む食品・飲料水はIBS症状を誘発しやすいとされているため注意しましょう。
一方でヨーグルトなどの発酵食品は、IBS症状の軽減に有効であることから推奨されています。便秘型の方では食物繊維を多く含む食品を摂取すると効果的です。
適度な運動を取り入れよう
適度な運動を行うとIBS症状が有意に改善されることが報告されています。[1]たとえば、ヨガやウォーキング、エアロビクスなどの運動がおすすめです。
ほかに隠れている病気がないか注意しよう
IBSの患者さんは健康な人と比較して、うつ病やパニック障害などの心理的症状のほか、胃痛や胃もたれの症状が見られる機能性ディスペプシア、胸やけや呑酸の症状が見られる胃食道逆流症なども合併する確率が高いことが分かっています。
さらに、IBSから潰瘍性大腸炎やクローン病を発症する確率も高いことが報告されています。[4]
便通異常や腹痛などの症状だけでなく、便に血が混じっていないかや体重減少が見られないかなどにも注意し、気になる症状があればすぐに医療機関に相談するようにしましょう。
YOJOでは便秘や下痢の症状に効果的な漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスも受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]日本消化器学会,機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 過敏性腸症候群(IBS)
[2]稲生優海ら(2014)IBSと漢方薬治療,医学と薬学第71巻5号
[3]漢方スクエア No.36 四逆散
[4]日本消化器病学会ガイドライン 過敏性腸症候群(IBS)