「やる気がでない」「何もしたくない」更年期のメンタル不調に効く漢方薬6選とは?

更年期症状で悩む女性

「やる気が出ない」「何もしたくない」といった更年期のメンタル不調には、気の不足を補う補気剤や血の滞りを改善する処方などが用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。

・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん):疲れやすく貧血傾向で、冷えやむくみを伴う方に
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):体力があり冷えのぼせを伴う方に
・加味逍遥散(かみしょうようさん):体力がなくて疲れやすく、精神症状の強い方に
・加味帰脾湯(かみきひとう):心身が疲れて顔色が悪く、不眠を伴う方に
・温清飲(うんせいいん):体力中等度で皮膚が乾燥し、のぼせを伴う方に
・八味地黄丸(はちみじおうがん):疲れやすさと共に冷えや尿トラブルが気になる方に

この記事では、更年期の精神的な不調に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。

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更年期と不定愁訴とは

つらそうな女性

更年期とは、女性の場合閉経の前後5年を合わせた10年間の期間を指します。厚生労働省によると、日本人の平均閉経年齢は50.5歳のため、一般に45~55歳頃が更年期と呼ばれる期間にあたります。[1]

更年期には、検査をしても異常がないにも関わらず不快な自覚症状をもつ「不定愁訴(ふていしゅうそ)」が起こりやすくなります。
YOJOでも患者さま50名にアンケートを実施したところ、疲れやすさや血行不良、ストレスを訴える方が多く見られました。

更年期症状でどのような症状に悩まれているかYOJOが取ったアンケート回答
YOJO調べ:2022年9月~2023年6月患者さま回答

こういったなかなか改善されない疲労感やストレスから、更年期に「やる気が出ない」「何もしたくない」と感じてしまう方は実は少なくありません。

更年期に無気力などのメンタル不調が起こる理由とは

更年期と女性ホルモン量の変化

女性は加齢とともに卵巣の機能が低下し、とくに更年期では女性ホルモンの分泌量が急激に低下します。女性ホルモンの分泌を司るのは脳の視床下部という部分であり、ここは自律神経の中枢でもあります。

そのため、女性ホルモンの急激な減少は自律神経の活動にも不調をきたし、情動・感情のコントロールにも影響を与えてしまうのです。

・やる気が出ない
・イライラする
・気持ちが落ち込み不安定になりやすい
・眠れない
・眠くて体がだるく何もする気が起きない

上記のような精神症状によって生活に支障をきたしている場合には、「更年期障害」と診断され、病院での治療が必要となる場合もあります。治療薬には主にホルモン補充療法(HRT)や漢方薬が処方されます。[1]

更年期障害について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。起こりうる症状や治療法の選択肢についても詳しく解説しています。

更年期の精神症状と漢方治療とは

漢方医学では女性の体は7の倍数で変化すると考えられています。
上述のように、更年期を迎えると女性ホルモンの急激な減少に体がついていけずにさまざまな不調が起こります。このような女性ホルモンの変動に伴って現れる症状を「血の道症」と漢方では呼びます。

更年期のメンタル不調には、「血」の不足や五臓の「脾」「肝」「腎」が大きく関わると考えられています。そのため、

・「血」の不足や滞りを改善させる処方
・血を貯蔵する「肝」の働きを促す処方
・胃腸を司る「脾」の働きを促し「気」「血」の不足を補う処方
・加齢とともに弱まる、エネルギーの源である「腎」の働きを補う処方

などが多く用いられます。

詳しくはこちら▼のInstagramでも解説しています。

漢方の「気血水」や「五臓」の考え方についてさらに深く知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

更年期のメンタル不調に効果の期待できる漢方薬とは

漢方生薬

では、更年期のメンタル不調に効果の期待できる漢方薬にはどのような処方があるのでしょうか。ここでは具体的な6種類の漢方薬と、体質や症状に応じた選び方、服用の注意点についてお伝えします。

【疲れやすく貧血傾向で、冷えやむくみを伴う方に】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

当帰芍薬散は、「血」の不足を補い、血行不良を改善して全身に必要な栄養素を巡らせる働きがあります。同時に「水」の巡りを良くして、冷えやむくみを改善するだけでなく、余分な水分が体から抜けることで疲労倦怠感の改善にも効果が期待できます。
また、当帰芍薬散にはホルモンバランスを整えて自律神経の不調を改善する作用もあり、桂枝茯苓丸・加味逍遙散とともに「女性の三大漢方薬」と呼ばれる漢方薬の一つです。

服用がおすすめな方
体力虚弱で、疲れやすく貧血傾向や冷え症のある方
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
胃腸が弱い方は注意しましょう
副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。

配合生薬
当帰、川芎、芍薬、蒼朮または白朮、沢瀉、茯苓

当帰芍薬散の他の薬との飲み合わせや効果について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

【体力があり冷えのぼせを伴う方に】桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

桂枝茯苓丸は、「血」の巡りを整えて血行不良の状態を改善することで、下半身の冷えや上半身ののぼせを緩和してくれる作用があります。
当帰芍薬散と同じく、桂枝茯苓丸には血液を全身に巡らせることで、ホルモンバランスを整え、更年期症状を改善する効果も期待できます。

服用がおすすめな方
比較的体力があり、冷えのぼせや血行不良が原因で起こる肩こり、頭痛などを伴う方
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
胃腸が弱い方は注意しましょう
副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
発熱や全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸などの症状があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
桂皮、芍薬、茯苓、桃仁、牡丹皮

桂枝茯苓丸と他の薬との飲み合わせや効果について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

【体力がなくて疲れやすく、精神症状の強い方に】加味逍遥散(かみしょうようさん)

加味逍遥散は、「血」の不足を補うことで、滞っていた「気」の巡りを良くする働きがあります。とくに「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼ばれる、「肝」の不調により気の巡りが悪くなって起こる中高年の精神症状に効果が期待できます。

服用がおすすめな方
体力が中等度以下で、のぼせ感や肩こりがあり、疲れやすく不安やイライラなどの精神症状のある方
におすすめの漢方薬です

服用上の注意
胃腸が弱い方は注意しましょう
副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、肝機能障害に注意しましょう
発熱や全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸などの症状があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

配合生薬
柴胡、芍薬、蒼朮、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷

加味逍遥散と他の薬との飲み合わせや効果について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

【心身が疲れて顔色が悪く、不眠を伴う方に】加味帰脾湯(かみきひとう)

加味帰脾湯は、「気」と「血」の不足を補う漢方薬です。憂うつな気持ちや不眠を改善する効果があります。また、胃腸を丈夫にして栄養吸収を高める効果もあります。
精神を安定させ憂うつやイライラ感を和らげる生薬のほか、胃腸機能を強くする生薬など14種類の生薬から構成されています。
また加味帰脾湯には、幸せホルモンの一つともされる「オキシトシン」の分泌を高める可能性があることが報告されています。[2]

服用がおすすめな方
体力中等度以下で、心身が疲れて顔色の悪い方、眠くて体がだるい方
におすすめの漢方薬です。
体力や消化機能が落ち、精神不安や不眠症、貧血に悩んでいる方に向きます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
腸間膜静脈硬化症の副作用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」を含む漢方薬を長期(5年以上)服用すると、起こる場合があります。腹痛・下痢・便秘・腹部膨満などの症状がくり返し現れる場合は医師に相談しましょう。

配合生薬
人参、蒼朮または白朮、茯苓、甘草、生姜、大棗、酸棗仁、竜眼、遠志、当帰、黄耆、木香、柴胡、山梔子

【体力中等度で皮膚が乾燥し、のぼせを伴う方に】温清飲(うんせいいん)

温清飲は、「血」巡りを良くしてホルモンバランスを整える作用があります。
血行を良くする「四物湯(しもつとう)」と熱を冷ます作用のある「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」を合わせた処方です。
温清飲は熱感や掻痒感の強い皮膚症状によく用いられますが、更年期の不安や不眠、のぼせなどの精神症状にも効果が期待できます。[3]

服用がおすすめな方
体力中等度で、皮膚の乾燥やのぼせがある方
におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
腸間膜静脈硬化症の副作用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」を含む漢方薬を長期(5年以上)服用すると、起こる場合があります。腹痛・下痢・便秘・腹部膨満などの症状がくり返し現れる場合は医師に相談しましょう。

配合生薬
当帰、川芎、芍薬、地黄、黄芩、黄柏、黄連、山梔子

【疲れやすさと共に冷えや尿トラブルが気になる方に】八味地黄丸(はちみじおうがん)

八味地黄丸は、加齢と共に衰えた「腎」の働きを補う代表的処方です。
補血・強壮作用や利尿作用のある生薬など8種類の生薬から構成されています。
中年以降になると「腎」の働きが低下して冷えに由来した症状が起こりやすくなります。また、体内の「気」「血」も不足し貧血や無気力、疲労倦怠感も起こります。
八味地黄丸はこのような症状へのファーストチョイスとなる漢方処方です。

服用がおすすめの方
体力中等度以下で、下肢の冷えや疲れやすさ、尿量減少または頻尿があり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。

服用上の注意
附子の副作用に注意しましょう
配合生薬の「附子(ぶし)」は、過剰に摂取すると中毒症状(ほてり・熱感・悪心嘔吐・しびれ・不整脈・めまい)を起こす可能性があるため、注意が必要です。
胃腸症状に注意しましょう
配合生薬の「地黄(じおう)」が食欲不振を現しやすいため、胃腸虚弱な方は注意しましょう。

配合生薬
地黄、山茱萸、山薬、茯苓、沢瀉、牡丹皮、桂皮、附子

八味地黄丸と他の薬との飲み合わせや効果について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

ご自身に合った漢方薬の選び方について悩まれている方は、YOJOの薬剤師にも相談することができます▼

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更年期でやる気が出ない…そんな時におすすめの生活養生法とは

最後に、更年期のメンタル不調に対して、薬の服用以外にできるおすすめ養生法についてお伝えします。

睡眠時間を確保ししっかりと休養をとる

体の疲れがきちんと取れないと、無気力ややる気が出ない原因につながります。とくに日本人女性は世界の他の国の女性と比較しても睡眠時間が短い傾向にあります。[4]
毎日規則正しく就寝し、朝すっきりと目覚められる十分な就寝時間を確保しましょう。

外出をして陽の光を浴びる

私たちの体内では、日光を浴びることにより「セロトニン」と呼ばれる脳内伝達物質が増えるといわれています。セロトニンはストレスや不安を軽減し、精神を安定させる働きがあります。近年では更年期障害とセロトニンの低下には関わりがあることが報告されています。[5]
ガラス越しの日光浴では十分な効果を得られないため、可能であれば午前中に外出し1日15~30分を目安に日光浴をするようにしましょう。

「肝」や「腎」を補うような食材を取り入れる

更年期のメンタル不調に関わる「肝」や「腎」の働きを補うような食材を取り入れるのも良いでしょう。
「腎」には黒豆や黒ゴマ、黒きくらげ、黒米といった黒いものや、昆布やひじき、牡蠣、タラなどの海の幸を取り入れると良いとされています。
また、「肝」の機能を良くするためには、クコの実や、あさり・しじみなどの貝類、セロリ、ニラ、豚肉、イチゴ、レモンなどの食材がおすすめです。
いろいろな食べ物をバランス良く摂取するように心がけましょう。

YOJOでは症状や体質に合った漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。

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【参考文献】
[1]厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト 更年期
[2]塚田愛ら(2021) ストレスに対する漢方薬の有用性 ~基礎研究からの検討,Equilibrium Research 80 (4), 296-302
[3]漢方薬のストロング・エビデンス(株式会社じほう)
[4]厚生労働省 睡眠と生活習慣病との深い関係
[5]厚生労働省 セロトニン