アトピー性皮膚炎の患者数は、令和2年では全国で125万人と推定されています。[1]
患者数は年々増加傾向にあり、「アトピーがなかなか治らない」と悩まれている方も多いことでしょう。
アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイドや保湿剤などの塗り薬を使用することが基本です。加えて近年では、新しい作用機序の塗り薬や飲み薬、生物学的製剤(注射薬)が続々と登場し、治療の選択肢も増えてきました。
この記事では、
・アトピー性皮膚炎の治療の進歩と選択肢
・従来のアトピー性皮膚炎の塗り薬や飲み薬の正しい使用方法
・2018年から続々と登場しているアトピー性皮膚炎の新薬
について解説します。
アトピー性皮膚炎の薬や治療法について、気になることや悩みがある方は、YOJOで薬剤師に無料相談ができるので気軽に利用してみてくださいね。
Contents
アトピー性皮膚炎の治療とは~どんな薬や治療法があるの?~
アトピー性皮膚炎の治療は、近年大きく進歩していると言われています。
まずはアトピー性皮膚炎の治療の歩みと、現在はどのような治療の選択肢があるかについてご説明します。
アトピー性皮膚炎の治療の歩み
日本でのアトピー性皮膚炎の治療の歴史は以下のようになります。
アトピー性皮膚炎の治療の歴史
1950年代~ | ステロイド外用剤の登場 |
---|---|
1980年代 | “脱ステロイド”の誤った風潮が流れる |
1999年 | 免疫抑制剤(外用)の登場 |
2002年 | 紫外線療法(ナローバンドUVA)の登場 |
2008年 | 免疫抑制剤(経口)の登場 |
2018年 | 生物学的製剤の登場 |
2020年 | JAK阻害薬(外用)(経口)の登場 |
2022年 | PDE4阻害薬(外用)の登場 |
1950年代~のおよそ50年間は、アトピー性皮膚炎の治療の基本となる抗炎症剤は「ステロイド外用薬」のみでした。しかし、1999年にタクロリムス軟膏が開発され、その後、紫外線療法や免疫抑制剤(経口)のような、基本治療では効果不十分な方のための選択肢も増えてきました。
そして、2018年以降、生物学的製剤の登場を皮切りに、JAK阻害薬やPDE4阻害薬などの新薬が続々と開発され、アトピー性皮膚炎の治療の選択肢は大きく広がったと言えます。
現在のアトピー性皮膚炎の治療とは
では、アトピー性皮膚炎の方に対して、現在ではどのような治療が行われているのでしょうか。
外用療法
・ステロイド外用剤
皮膚の炎症を抑える塗り薬。効果の強さで5つのランクがあり、重症度や塗る場所で使い分けることがポイントです。
・免疫抑制剤
免疫反応を抑えて、ステロイド外用剤とは異なるメカニズムで抗炎症作用をもつ塗り薬です。特にステロイドで副作用が発現しやすい顔や首などの湿疹に使われます。
・JAK阻害剤
炎症性サイトカインからの刺激の伝達に関与するJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素を阻害する作用をもつ薬剤です。2021年に販売が開始されました。
・PDE4阻害剤
PDE4(ホスホジエステラーゼⅣ)は炎症を起こす免疫細胞の多くに存在し、炎症反応を増幅する酵素です。PDE4阻害剤は2022年に販売が開始された薬剤です。
・保湿剤
皮膚の乾燥を改善する作用があります。結果的に皮膚のバリア機能の回復を促し、かゆみを抑える効果があります。
全身療法
・免疫抑制剤(経口)
基本の治療で症状が改善しない、成人の重症アトピー性皮膚炎に使用される飲み薬です。
・生物学的製剤(注射)
皮膚の内部で免疫細胞が産生する物質(サイトカイン)の働きを阻害することで、炎症を抑える薬剤です。基本の治療で効果不十分な方の選択肢となりますが、薬価は高額です。
・JAK阻害剤(経口)
2023年現在では3種類の薬剤が発売されています。基本の治療で症状が改善しない方に使用される飲み薬ですが、薬価は高額です。
・紫外線療法(照射)
UVAやUVBを皮膚に照射することで、免疫反応や細胞増殖を抑える効果があります。近年では副作用軽減の観点から、「ナローバンドUVB」という治療法が普及しています。週1~2回の通院が必要な治療法です。
・漢方薬(経口)
アトピー性皮膚炎の体質や症状を穏やかに改善する働きがあります。他の薬剤の補完治療として使用されます。
「リアクティブ療法」から「プロアクティブ療法」へ
治療の選択肢だけでなく、治療法についても変わってきています。
以前は、「リアクティブ療法」という、症状が現れたときにステロイドの塗り薬や保湿剤などを使用する治療法が多く用いられていました。
しかし近年では、症状がいったん治まってからも、週に2回程度の頻度でステロイドやその他の抗炎症外用剤を使い続ける「プロアクティブ療法」が主流となっています。
適切なプロアクティブ療法を行うことで、皮膚の症状が落ち着いた状態を維持することが可能です。また症状の悪化を防ぐことで結果的に薬剤の使用量を抑えることにもつながります。
アトピー性皮膚炎の塗り薬 ~塗り方のポイントや副作用とは?~
上記でも述べたように、アトピー性皮膚炎の治療の基本は「塗り薬」です。ここでは従来からある薬の効果や正しい塗り方、使用時の注意点について詳しくお伝えします。
ステロイド外用剤
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の治療の最も基本となる薬剤です。
炎症を鎮める作用があり、その強さによって5つのランクに大別されています。[2]
ステロイドの強さ | 製品の例 |
---|---|
ストロンゲスト (I 群) |
デルモベート、ダイアコート |
ベリーストロング (II 群) |
アンテベート、トプシム、マイザー、テクスメテン、ネリゾナ |
ストロング (Ⅲ 群) |
メサデルム、ボアラ、リンデロンV |
ミディアム (IV 群) |
リドメックス、アルメタ、キンダベート、ロコイド、グリメサゾン |
ウィーク (V 群) |
プレドニゾロン |
ステロイドのランクは、症状の強さだけでなく、塗布する部位や期間、患者の年齢に応じて選択されます。
ステロイドの部位別の吸収率
図のように、ステロイドの吸収率は、からだの部位によって大きく異なり、吸収率の高い所と低い所では100倍以上の差があることが分かります。
塗り方のポイント
また、ステロイドの効果をきちんと出すためには、適切な量をきちんと塗ることも大切です。目安としては、1FTUを大人の手のひら2枚分の広さに塗るのが適量とされています。ステロイドの場合、1FTUは約0.5gで、軟膏・クリームタイプでは大人の人差し指の先から第一関節まで薬をのせた量、ローションタイプでは1円玉大を基準にすると良いでしょう。
塗布量の目安
年齢とからだの部位ごとの塗布量の目安は、以下のようになります。
ステロイド外用剤の使用量の目安(FTU)
小児 | 顔 首 | 片腕 | 片足 | 胴体前面 | 胴体背面 |
---|---|---|---|---|---|
3~6か月 | 1 | 1 | 1.5 | 1 | 1.5 |
1~2歳 | 1.5 | 1.5 | 2 | 2 | 3 |
3~5歳 | 1.5 | 2 | 3 | 3 | 3.5 |
6~10歳 | 2 | 2.5 | 4.5 | 3.5 | 5 |
顔 首 | 片腕腕手 | 片足大腿~足 | 胴体前面 | 胴体背面 | |
成人 | 2.5 | 3+1 | 6+2 | 7 | 7 |
引用:「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」より一部改変
副作用
ステロイド外用剤を長い間使用した場合や、吸収率の高い部位に強いステロイドを塗り続けることで、塗った部分に局所性の副作用が出ることがあります。
代表的なものとしては、以下のような副作用が報告されています。
・ニキビ(ステロイドざ瘡)
・皮膚萎縮
・毛細血管の拡張により起こる皮膚の潮紅
・酒さ様皮膚炎
・多毛
・皮膚感染症
・アレルギー性接触皮膚炎
しかし、ステロイド外用剤を正しく使用すれば、これらの局所性副作用が発現することは、ほぼありません。さらに、多くの副作用はステロイド外用薬の中止または適切な処置により回復します。
ニキビへの対策やスキンケア、治療薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
プロトピック軟膏(タクロリムス)
プロトピック軟膏は、カルシニューリン阻害薬とも呼ばれる免疫抑制剤です。
年齢に応じて使用する濃度が選択されます。
製品 | 対象患者 |
---|---|
プロトピック軟膏0.1% | 16歳以上の成人のアトピー性皮膚炎患者 |
プロトピック軟膏0.03% | 2~15歳の小児のアトピー性皮膚炎患者 |
ステロイドと同様に炎症を抑える作用がありますが、その強さは 0.1%軟膏でストロングクラス(Ⅲ群)、 0.03%軟膏でストロング (Ⅲ群) ~ミディアム(Ⅳ群)クラスと同程度とされています。[3]
ステロイド外用薬の長期使用で起こるとされる皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用がないのが特長です。
塗り方のポイント
プロトピック軟膏の場合、1FTUは約0.25gです。そのため、1FTUを成人の手のひら1枚分の面積に塗布するのが適量とされています。
また、ステロイドと異なり、年齢(体重)別に 1回に塗る量の上限が定められているため、注意しましょう。医師の指示に従い1日1~2回塗布します。[4]
年齢(体重)区分 | 1回の上限量 | FTU換算 |
---|---|---|
2歳~5歳 (20kg未満) |
1g | 4FTU |
6歳~12歳 (20kg以上50kg未満) |
2g~4g | 8~16FTU |
13歳以上 (50kg以上) |
5g | 20FTU |
16歳以上 | 5g | 20FTU |
塗る時の注意点
プロトピック軟膏を塗る時は以下のような点に注意しましょう。
・塗布できない部分があることに注意する
プロトピック軟膏は以下のような部分には使用するのを避けます。
(1)皮膚がジュクジュクしている部分
(2)おできやにきび
(3) 皮膚以外の部分(口や鼻の中の粘膜)や外陰部
・授乳中の使用は避ける
母乳中に移行する可能性があるとして、授乳中の使用は避けることが望ましいです。妊娠中は治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ使用が推奨されています。
・塗布した部分の日焼けは避ける
プロトピック軟膏を塗った部分を長時間、日光に当てないように注意しましょう。
副作用
プロトピック軟膏を塗った直後からしばらくの間、肌への刺激感を感じる場合があります。多くは1週間程度でおさまることが多いです。
代表的なものとしては以下のような副作用が報告されています。
・熱感(灼熱感、ほてり感など)
・疼痛(ヒリヒリ、しみるなど)
・かゆみ
また、プロトピック軟膏の副作用でリンパ腫が起こりやすくなるのではと心配される方もおられます。マウスの実験で、高い血中濃度が続くとリンパ腫が起こりやすくなることが報告されているためだと考えられますが、ヒトの場合は正しく使用すれば高い血中濃度が続く可能性はほぼありません。
リンパ腫や皮膚がんの発症については、プロトピック軟膏を使用しても一般の人の発症率と変わらないとされています。[3]
保湿剤
効果 | 製品例 |
---|---|
吸水性があり「保湿」効果のあるもの | ヘパリン類似物質 含有製剤、尿素製剤 |
油性成分で、「水分蒸散を防ぐ」効果のあるもの | 白色ワセリン、亜鉛華軟膏、アズノール軟膏 |
塗り方のポイント
アトピー性皮膚炎の方の肌は非常に乾燥しやすいため、保湿剤は1日2~3回、こまめに塗ることが大切です。特に、入浴後は乾燥しやすいため、できるだけ早めに塗布するようにしましょう。
アトピー性皮膚炎のスキンケアについて、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
アトピー性皮膚炎の飲み薬とは~どんな時に飲むの?~
では次に、従来からあるアトピー性皮膚炎の「飲み薬」についてご説明します。ここでは、どのような場合に飲み薬を用いるかや、薬の種類についてもお伝えします。
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、アトピー性皮膚炎のつらいかゆみを速く抑えたいときに選択される薬剤です。もともと抗ヒスタミン薬には眠気やだるさの副作用が出るものもありましたが、近年開発された第二世代抗ヒスタミン薬は、比較的、副作用が起こりにくいとされています。たとえば以下のような薬剤があります。
商品名 (一般名) |
剤形 | 成人用法・用量 | 小児適用 |
---|---|---|---|
アレグラ (フェキソフェナジン) |
錠 OD DS |
1回60㎎ 1日2回 |
6か月以上 |
アレロック (オロパタジン) |
錠 OD 顆粒 |
1回5㎎ 1日2回朝食後・就寝前 |
2歳以上 |
ザイザル (レボセチリジン) |
錠 シロップ |
1回5㎎ 1日1回就寝前 |
6か月以上 |
アレジオン (エピナスチン) |
錠 DS |
1回20㎎ 1日1回 |
3歳以上 |
ビラノア (ビラスチン) |
錠 | 1回20㎎ 1日1回空腹時 |
なし |
デザレックス (デスロラタジン) |
錠 | 1回5㎎ 1日1回 |
12歳以上 |
ルパフィン (ルパタジン) |
錠 | 1回10㎎ 1日1回 |
12歳以上 |
引用:「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」より一部抜粋
※錠:錠剤、OD:口腔内崩壊錠、DS:ドライシロップ
ネオーラル(シクロスポリン)
免疫反応を抑制して抗炎症効果をもつ薬剤です。
16歳以上の患者で、標準的な治療法では効果が不十分な、最も重症な方に対して使用されます。基本的には1日2回食後に服用する薬です。
腎障害や高血圧、感染症の副作用に注意して服用し、定期的に血液検査が必要になります。症状が良くなれば抗炎症外用剤に切り替え、長期間は服用しません。
漢方薬
アトピー性皮膚炎を漢方薬のみで治療することはほぼありません。
ただし、スキンケア・悪化因子の除去・ステロイドなど西洋薬での薬物療法を中心に行っても思うように改善しない場合、それらの補助的薬剤として漢方薬が使用されることは少なくありません。
漢方薬のなかには、炎症を鎮めたり、かゆみを和らげる働きをもつものもあり、西洋薬の投与の減量や投与期間の短縮が可能となる例もあります。[5]
アトピー性皮膚炎の治療に使用される漢方薬としては、例えば以下のようなものがあります。
症状 | 漢方薬の例 |
---|---|
皮膚に赤みやかゆみがある | 黄連解毒湯、白虎加人参湯 |
肌が乾燥して薄黒い | 温清飲、当帰飲子 |
肌がジュクジュクしている | 十味敗毒湯、消風散 |
疲れやすく、夜間に寝汗をかく | 補中益気湯 |
アトピー性皮膚炎に効果の期待できる漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
漢方の効果をきちんと引き出すためには、体質に合った漢方薬の選択が大切です。ご自身に合った漢方薬が分からない場合はYOJOの薬剤師に聞いてみましょう。
2018年から続々と登場したアトピー性皮膚炎の新薬をまとめて紹介
ここでは、2018年から販売されているアトピー性皮膚炎の新薬についてまとめて解説します。
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)
コレクチム軟膏は、アトピー性皮膚炎を適応とした世界で初めての外用JAK阻害剤になります。コレクチム軟膏0.5%は2020年、0.25%は2021年に国内での販売が開始されました。
JAKファミリーと呼ばれる4種類のJAK1・JAK2・JAK3・Tyk2を阻害することで、過剰な免疫反応を抑えて皮膚の炎症を抑えます。
適応年齢
製品 | 対象患者 |
---|---|
コレクチム軟膏0.5% | 16歳以上の成人のアトピー性皮膚炎患者 |
コレクチム軟膏0.25% | 6か月以上の小児のアトピー性皮膚炎患者 |
コレクチム軟膏は、以前は2歳以上の小児にしか使用できませんでしたが、2023年1月に適応が拡大され、生後6か月以上~2歳の患者も使用できるようになりました。これにより、従来はステロイドしか外用治療剤の選択肢がなかった6か月~2歳までの患者にとって、治療薬の選択肢が広がったと言えます。
塗り方のポイント
コレクチム軟膏は、1回に塗る量の上限があります。
成人の場合は、0.5%を1日2回、1回5g(チューブ1本分)まで
小児の場合は、0.25%を1日2回、1回5gまで(体格によって減量)
となっています。
人差し指の先端から第一関節まで出した1FTUの量は約0.5gで、手のひら2枚分の面積を目安に塗布します。
副作用
コレクチム軟膏は、ステロイド外用薬で起こりやすい皮膚萎縮や毛細血管拡張、プロトピック軟膏で起こりやすい使用時のほてり感、ヒリヒリ感といったような、副作用は起こりにくいとされています。
モイゼルト軟膏(ジファミラスト)
モイゼルト軟膏は、2022年6月に発売が開始された、日本で初めての外用PDE4阻害剤です。
適応年齢
製品 | 対象患者 |
---|---|
モイゼルト軟膏1% | 16歳以上の成人のアトピー性皮膚炎患者 |
モイゼルト軟膏0.3% | 2歳以上の小児のアトピー性皮膚炎患者 |
塗り方のポイント
モイゼルト軟膏の1回あたりの塗る量は0.1㎡あたり1gが目安とされています。
モイゼルト軟膏を人差し指の先端から第一関節まで出した1FTUの量は、約0.35gです。 以下が、大塚製薬HPに掲載されている年齢・部位別のFTUとなるため、塗布量の目安にすると良いでしょう。 [6]
モイゼルト軟膏の使用量の目安(FTU)
顔 首 | 片腕 | 片足 | 胴体前面 | 胴体背面 | |
成人 | 2.5 | 4 | 8 | 7 | 7 |
6~10歳 | 2 | 2.5 | 4.5 | 3.5 | 5 |
3~5歳 | 1.5 | 2 | 3 | 3 | 3.5 |
2歳 | 1.5 | 1.5 | 2 | 2 | 3 |
成人の場合は、1%を1日2回
小児の場合は、0.3%を1日2回、症状によって1%を1日2回
となっています。
副作用
モイゼルト軟膏は、ステロイド外用剤やプロトピック軟膏で起こるような、副作用は起こりにくいとされています。主な副作用は毛包炎、色素沈着、ニキビです。
オルミエント錠(バリシチニブ)
オルミエント錠は、もともと関節リウマチの治療薬として使用されていたJAK1/JAK2阻害剤で、2020年にアトピー性皮膚炎の適応が追加されました。
服用を開始して早い時期から、湿疹やかゆみの症状を改善する効果が期待できます。
服用時間に制限のない薬剤で、成人では1日1回、1回4mg(状態に応じて2mgに減量)を内服します。
適応年齢
ステロイド外用剤やプロトピック軟膏などの抗炎症外用剤を使用しても十分な効果が得られなかった、15歳以上のアトピー性皮膚炎の方が服用できます。
副作用
オルミエント錠の服用中は、特に帯状疱疹の発現や上気道感染、間質性肺炎などに注意が必要です。痛みやしびれを伴う発疹や、発熱、咳、のどの痛みなどの症状が現れた場合は医師に相談しましょう。コレステロール値や白血球数などの血液検査値に異常が出やすいため、定期的な血液検査が必要です。[7]
リンヴォック錠(ウパダシチニブ)
リンヴォック錠は、もともと関節リウマチや関節症性乾癬の治療薬で、2021年にアトピー性皮膚炎の適応が追加されました。
JAK1選択性が高いことから、安全性や高い効果が期待できます。さらに12歳から使用可能であるため、小児にも適応のある治療薬としても注目されています。
適応年齢
ステロイド外用剤やプロトピック軟膏などの抗炎症外用剤を使用しても十分な効果が得られなかった、12歳以上のアトピー性皮膚炎の方が服用できます。
成人 | 1日1回、1回15mg (状態に応じて30mgに増量) |
---|---|
12歳以上かつ体重30kg以上の小児 | 1日1回、1回15mg |
副作用
オルミエント錠と同じく、特に帯状疱疹の発現や、上気道感染、間質性肺炎などに注意が必要です。血液検査値に異常が出やすいため、定期的に血液検査をしましょう。
サイバインコ錠(アブロシチニブ)
サイバインコ錠は、2021年から発売されたアトピー性皮膚炎の経口薬です。リンヴォック錠と同様に、JAK1を選択的に阻害します。また、12歳以上への投与も可能で、毎回100mg(状態に応じて200mgまで増量)を1日1回、経口投与します。
デュピクセント皮下注(デュピルマブ)
デュピクセント皮下注は、2018年に発売された、世界初のヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(生物学的製剤)です。 炎症やかゆみ、バリア機能の低下を抑えることで、今までの治療では効果不十分であった、中等症以上のアトピー性皮膚炎に効果が期待できます。
15歳以上に投与可能で、成人では初回に600mg、その後は1回300mgを2週間に1回の頻度で皮下投与します。
副作用
デュピクセントを注射した部位に、赤みや腫れ、かゆみなどの注射部位反応が現れることがあります。[8]
ミチーガ皮下注用(ネモリズマブ)
2022年8月に発売されたミチーガ皮下注用は、、かゆみの発現に関与するインターロイキン31(IL31)を標的にした抗体製剤です。
今までの治療では効果不十分であった、 13歳以上の小児および成人に投与可能です。 1回60㎎を4週間に1回の頻度で皮下投与します。
副作用
主な副作用は、感染症(ヘルペス感染症、蜂巣炎、膿痂疹、上気道炎)、皮膚炎の悪化、過敏症、注射部位の症状(内出血、赤み、腫れ)があります。[9]
アトピー性皮膚炎の薬物治療のゴールとは
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021によると、アトピー性皮膚炎の治療の最終目標は、①または②のような状態になることです。[2]
①症状が無いもしくは軽微で、日常生活に支障がなくて薬物療法もあまり必要としない状態。
②軽い症状はあるものの、日常生活に支障をきたすような急激な悪化は起こらない状態。
まずは基本の治療から始めて、効果が不十分であれば補助的な薬剤やより効果の強い薬を主治医と相談しながら検討していきます。
さまざまな選択肢の中から自分に合った治療法が見つかれば、皮膚を「より良い状態」にコントロールしやすくなるでしょう。
状態が維持できれば、「かゆみで起きることなく、夜はぐっすり眠れる」「ゆっくり温泉に入れる」「学業や仕事に集中できる」「着てみたかった服が着れる」と、ストレスなく生活できるようになります。
そのためにも、目標に向かって、根気よく治療を継続していきましょう。
YOJOでは漢方薬のご提案だけでなく、治療薬に関する疑問やスキンケアのアドバイスも受けることができます。
まずはお気軽に無料の体質チェックから始めてみてください。
【参考文献】
[1]厚生労働省 令和2年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)
[2]日本皮膚科学会ガイドライン アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021
[3]九州大学医学部皮膚科学教室 アトピー性皮膚炎ホームページ
[4]マルホ株式会社 アトピーのみかたホームページ
[5] 九州大学医学部皮膚科学教室 アトピー性皮膚炎 漢方療法
[6]大塚製薬 モイゼルト軟膏ホームページ
[7]日本イーライリリー株式会社 オルミエントホームページ
[8]サノフィ デュピクセント皮下注ホームページ
[9] マルホ株式会社 ミチーガ皮下注用ホームページ