うつ病の治療では主に抗うつ薬が使用されますが、特に軽症のうつ病では漢方薬が単独使用で治療に用いられることも実は少なくありません。[1]
また、漢方薬を抗うつ薬・抗不安薬などと併用することにより、治療効果を向上させたり、副作用の軽減につながったりする効果が期待できる場合もあります。
うつに用いられる漢方薬には、以下のようなものがあります。
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):体力があり睡眠障害を伴う方に
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):食欲がなく体力が落ちて元気のない方に
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):不安感やのどの詰まりがある方に
・加味逍遥散(かみしょうようさん):虚弱体質で疲れやすく、精神不安のある方に
・加味帰脾湯(かみきひとう):虚弱体質で胃腸が弱く、顔色も悪い方に
・苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):いわゆるフクロウ型体質の方に
・抑肝散(よくかんさん):神経が高ぶりやすい方に
この記事では、うつに効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
Contents
うつ病の治療と漢方薬
ここではうつ病の治療と、漢方薬の位置づけについてお伝えします。
うつ病の治療
うつ病は脳の神経細胞の働きに異常が起きることで発症するとされています。
そのため、治療には脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの分泌を促す抗うつ薬が主に使用され、症状に応じて抗不安薬や睡眠導入剤も併用されます。
うつ病は近年、より副作用が発現しにくい新しいタイプの抗うつ薬が開発されて治療の選択肢が広がる一方で、多剤併用による“薬漬け”も課題とされています。[1]
漢方薬と西洋薬の違いとは
西洋医学では組織やからだの部位ごとに異常が診断され、特定の病気や症状に対して強い薬理作用を示す「西洋薬」が処方されます。そのため効果は高いものの副作用も発現しやすい傾向にあります。
たとえば抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は脳内のセロトニン分泌量を高めうつ症状を改善しますが、同時に腸管のセロトニン受容体にも作用するため、吐き気や下痢の副作用が発現しやすくなります。また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬には依存性の懸念もあります。
一方で、漢方医学では精神症状を含むからだ全体の不調を整えることを目的として、患者さんの体質や体力などの個人差を重視して「漢方薬」が選択されるのが特徴です。
効果はマイルドであるものの、副作用が起こる頻度は抗うつ薬などと比較すると低い傾向にあり、依存性の心配はありません。患者さんの体質(証など)に合えば、少ない処方で複数の不調(不定愁訴)を改善できる場合もあります。
うつ病の症状は精神症状と身体症状の両方ある
うつ病では以下のような症状が発現しやすいとされています。[2]
症状は朝方に強く、夕方になると少し改善するのが特徴です。
精神症状 | 気分の落ち込み、やる気の低下、思考力・判断力の低下、睡眠障害 |
---|---|
身体症状 | 倦怠感、胃もたれ・食欲不振、便秘、頭痛、腰痛、動悸、息切れ |
特に軽いうつ病では精神症状よりも身体症状の方が目立つ場合も多く、他の病気と間違われるケースもあります。簡易的にうつ状態をチェックする「簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)」 という評価法もあるため、気になる方は確認してみましょう。[3]
また、うつ病と近い症状には以下のようなものがあります。
プチ鬱・プチうつ(非定型うつ)
抑うつ気分や落ち込みの感情が限定された時間・期間の一時的に出現する状態。[4]
女性は生理前や更年期などのホルモンバランスの乱れでも、PMDD(月経前不快気分障害)や抑うつ状態などの精神症状をきたしやすくなります。これらの症状に効果的な漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
フクロウ型
朝は頭がボーっとして夕方から夜にかけて最も元気になります。からだの倦怠感や疲労感、頭痛、肩こり、めまい、手足の冷えなどの不定愁訴がある状態です。
いわゆる「フクロウ型」と呼ばれる体質の方には、苓桂朮甘湯の漢方薬が著効するとされています。[1]
うつ状態の改善に漢方薬を取り入れるためには
漢方の効果をきちんと引き出すためには、患者さんの体質や病状に合った漢方薬を正しく選ぶことが大切です。
ここでは、漢方独自の考え方や漢方薬の取り入れ方についてお伝えします。
四診
漢方医学で「気・血・水」や「証」を確認するために用いる診断法を「四診」と言います。四診には視覚による望診、聴覚・嗅覚による聞診、質問による問診、触覚による切診があります。
切診の中でも特に腹診(お腹の診察)は、日本では特に重要視され、以下のような所見は、ストレスが身体化したサインとして解釈されます。[5]
・胸脇苦満(きょうきょうくまん):左右肋骨弓下の抵抗・圧痛。呼吸器から上部消化器の体性反射が過敏になっている状態。
・腹皮拘急(ふくひこうきゅう):お腹の前面にある腹直筋が過度に緊張した状態。交感神経の過緊張による。
・腹部大動脈の拍動:交感神経の過緊張による。
気血水
気血水は生体を健康に維持するための三要素であり、「気」は精神・肉体を健康に働かせるエネルギー、「血」は血液・リンパ液などの身体を循環・栄養する物質、「水」は生体内の水分バランスをさします。
漢方医学では、気分の落ち込みは以下のような状態を背景に起こると考えます。
・気虚:「気」の不足した状態 ⇒補気剤
・気うつ(気滞):「気」の循環が滞っている状態 ⇒理気剤
・気血両虚:「気」や「血」が不足している状態 ⇒駆瘀血剤
気虚には気を補う補気剤、気うつには気の循環を促す理気剤、気血両虚には気も血も補うような駆瘀血剤の漢方薬をそれぞれ用います。[6]
漢方薬の種類 | 具体的な漢方薬の例 |
---|---|
補気剤 | 補中益気湯 加味帰脾湯 六君子湯 人参栄養湯 など |
理気剤 | 半夏厚朴湯 香蘇散 など |
駆瘀血剤 (中でも気逆や気うつも改善するもの) |
加味逍遙散 女神散 芎帰調血飲 など |
五臓
漢方では、自然の要素を「木・火・土・金・水」の5つの要素に分けて考えます。そしてヒトもまた自然界の一部であると考え、人体の働きを自然と同じ5つに分けたものを五臓「肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)」といいます。
漢方医学では、抑うつや気分の落ち込みは、「肝・心・腎」が関与すると考えます。[6]
・「肝」:精神活動を安定させ新陳代謝や血の貯蔵を促す役割がある。
・「心」:精神をコントロールするほか、覚醒・睡眠リズムを調整したり血を循環させたりする役割をもつ。
・「腎」:腎は成長・発育・生殖能を司り、水分代謝を調整する以外にも思考力・判断力・集中力を維持する役割もある。
「肝」や「心」に異常があると抑うつや精神不安、イライラなどの精神症状が発現しやすくなります。また抗うつ薬を用いても倦怠感や気力低下が解消されない場合は「腎」の働きを補う漢方薬が処方される場合もあります。
からだの状態 | 具体的な漢方薬の例 |
---|---|
「肝」の異常 | 柴胡剤(柴胡加竜骨牡蛎湯・柴胡桂枝乾姜湯など) 抑肝散類 釣藤散 など |
「心」の異常 | 半夏瀉心湯 黄連解毒湯 など |
「腎」の異常 (補腎剤) |
八味地黄丸 六味丸 など |
ご自身の体質や状態については、こちらの体質チェックも参考にすることができます。
うつ・気分の落ち込みに使用される漢方薬と選び方
冒頭でも述べたように、症状が重くない場合は、漢方薬の服用でうつ状態や気分の落ち込みが改善されることもあります。
ここでは、うつや気分の落ち込みに使用される具体的な漢方薬をご紹介します。
【体力があり睡眠障害が伴う方に】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
柴胡加竜骨牡蠣湯は、気の巡りを整えて心を落ち着かせる作用があります。また緊張や不安などの脳の興奮から起こる不眠症状も改善します。
配合生薬の「竜骨(りゅうこつ)・牡蛎(ぼれい)・茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)・大黄(だいおう)」には精神安定や鎮静作用があります。また、脳内の神経炎症を抑制し精神神経症状に効果の期待できる「柴胡(さいこ)」も配合されています。
服用がおすすめな人
体力が比較的あり、不安やストレスで眠れない人、肋骨下部に張りがあり胸が苦しいといった人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
下痢・軟便傾向のある人や妊娠中の人は注意しましょう
「大黄(だいおう)」が配合されているため、下痢・軟便症状の悪化や流早産のリスクが高まる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【食欲がなく体力が落ちて元気のない方に】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は、気の不足を改善してくれる代表的な補気剤です。胃腸機能を高めて全身の気力を補う働きがあります。
配合生薬の「人参(にんじん)・生姜(しょうきょう)」がからだを温めて全身の新陳代謝を活性化し、胃腸機能の働きを助けます。さらに「柴胡(さいこ)」がストレスを改善して自律神経の働きを整えます。
服用がおすすめな人
食欲不振や疲労倦怠感のある虚弱体質の人に向きます。
からだの新陳代謝が低下して元気がなく、体力も落ちている人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
【不安感やのどの詰まりがある方に】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
半夏厚朴湯には、気の巡りを良くして、不安や気持ちの落ち込みを緩和する作用があります。
配合生薬の「半夏(はんげ)・厚朴(こうぼく)」が、からだを温めて緊張を緩和します。「蘇葉(そよう)」には香りと共に気を巡らせストレスを発散させる作用があります。
また、精神的なストレスにより自律神経に不調が起こると、のどや食道の筋肉が緊張し、のどの詰まりやお腹の張りを感じることがありますが、このような症状にも半夏厚朴湯は効果的です。
服用がおすすめな人
体力中程度で咽喉・食道部に異物感がある人におすすめの漢方薬です。精神不安やストレスからくる神経性胃炎、動悸、めまいにも効果が期待できます。
【虚弱体質で疲れやすく、精神不安のある方に】加味逍遙散(かみしょうようさん)
加味逍遥散は、血の不足を補うことで、滞っていた気の巡りを良くする働きがあります。そのためイライラや不安、不眠といった更年期の神経症状に効果的です。
配合生薬の「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。「当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・牡丹皮(ぼたんぴ)」といった生薬が血行を促進します。
服用がおすすめな人
虚弱体質で疲れやすく、精神不安などの精神神経症状やときに便秘傾向のある人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
妊娠中の人は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。
【虚弱体質で胃腸が弱く、顔色も悪い方に】加味帰脾湯(かみきひとう)
加味帰脾湯は、気と血の不足を補う漢方薬です。不安や落ち込みやすさを改善し寝つきを良くする効果があります。また、胃腸を丈夫にして栄養吸収を高める効果もあります。
配合生薬の「酸棗仁(さんそうにん)・竜眼(りゅうがん)・遠志(おんじ)」が精神を安定させ不安や憂うつを和らげます。そのほか「人参(にんじん)・白朮(びゃくじゅつ)・生姜(しょうきょう)」などの胃腸機能を強くする生薬が配合されています。
また加味帰脾湯は、後述の抑肝散と共に、幸せホルモンの一つともされる「オキシトシン」の分泌を高める可能性があることが報告されています。[7]
服用がおすすめな人
虚弱体質で顔色の悪い人に向きます。体力や消化機能が落ち、精神不安や不眠症に悩んでいる人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
腸間膜静脈硬化症の副作用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」を含む漢方薬を長期(5年以上)服用すると、起こる場合があります。腹痛・下痢・便秘・腹部膨満などの症状がくり返し現れる場合は医師に相談しましょう。
【いわゆるフクロウ型体質の方に】苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
苓桂朮甘湯には、気の循環を改善して余分な水分を取り除き、起立性調節障害などの自律神経の調節障害(特に副交感神経から交感神経優位な状態への調節がうまくいかない場合)を改善する作用があります。[6]
苓桂朮甘湯は4つの生薬から構成される漢方薬です。「茯苓(ぶくりょう)」には、水の巡りを整えるだけでなく、鎮静作用や抗不安作用があります。「白朮(びゃくじゅつ)」は水分代謝を高めて不要な水分を取り除き、「桂皮(けいひ)」は体表面を温めて血行を改善します。「甘草(かんぞう)」にはイライラ、緊張を和らげる作用があります。
そのため、パニック障害や不安神経症、神経過敏などの精神症状のほか、動悸・息切れにも効果が期待できます。
服用がおすすめな人
体力が中程度以下の人で、めまいやふらつきがある人におすすめの漢方薬です。
特に朝が弱く夜に強い、いわゆる「フクロウ型」体質の人に効果的とされています。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
【神経が高ぶりやすい方に】抑肝散(よくかんさん)
抑肝散は、気の滞りを改善して自律神経のバランスを整えてくれる働きがあります。イライラや興奮といった神経の高ぶりを抑えたり、筋肉のつっぱりを緩めて心身の状態を整えます。
からだへの負担が少ないために、乳幼児の夜泣き・けいれんから、高齢者の認知症の周辺症状まで、幅広い年齢層に使える漢方薬です。
服用がおすすめな人
体力は中等度の人で神経が高ぶりやすい人に向きます。神経症のほか、生理前や更年期などホルモンバランスの乱れで起こる身体・精神不調にも使用できます。
服用上の注意
胃腸が弱い人は注意しましょう
配合生薬の「当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)」が胃腸に負担をかけるため、副作用で食欲不振、吐き気などの消化器症状が起こる場合があります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意しましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
臨床でもよくある抗うつ薬と漢方薬の組み合わせとは
日本うつ病学会治療ガイドラインによると、加味逍遥散の抗うつ効果に関するメタ解析(Qin, 2011)において、加味逍遥散単独での治療がプラセボに勝り、さらに、加味逍遥散を抗うつ薬と組み合わせると、抗うつ薬単独よりも有効であったことが報告されています。[8]
その他にも、臨床で報告されている抗うつ薬やその他の向精神薬と、漢方薬の組み合わせには、たとえば以下のようなものがあります。[9]
西洋薬の種類 | 症状 | 併用される漢方薬の種類 |
---|---|---|
SSRI | うつ病、うつ状態 | 加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴朴湯、桂枝加竜骨牡蛎湯 |
SSRI | パニック障害、不安障害 | 加味逍遙散、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴朴湯、桂枝加竜骨牡蛎湯 |
SNRI | うつ病、うつ状態 | 柴胡加竜骨牡蠣湯、補中益気湯、加味逍遙散、加味帰脾湯、半夏厚朴湯 |
三環系・四環系抗うつ薬 | うつ病、うつ状態 | 補中益気湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、加味帰脾湯 |
抗不安薬 | 更年期障害、月経随伴症候群 | 加味逍遙散、当帰芍薬散など |
睡眠薬 | 不眠症 | 酸棗仁湯、加味帰脾湯、抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯 |
抗うつ薬の副作用に対して使用される漢方薬とは
抗うつ薬の副作用に対しても、漢方薬が使用される場合があります。
ここでは抗うつ薬で実際に発現しやすい副作用や、そのようなケースに使用されることのある漢方薬をお伝えします。
抗うつ薬で発現しやすい具体的な副作用
抗うつ薬には、
・SSRI:選択式セロトニン再取り込み阻害薬
・SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
・NaSSA:特異的セロトニン作動性抗うつ薬
・三環系・四環系抗うつ薬
などの種類があり、それぞれの薬剤でたとえば以下のような副作用が発現しやすくなります。[10]
抗うつ薬の種類 | 副作用の例 |
---|---|
SSRI | 吐き気、食欲不振、下痢 |
SNRI | 吐き気、頭痛、尿が出にくい |
NaSSA | 眠気、体重増加 |
三環系抗うつ薬 | 口渇、便秘、立ち眩み |
四環系抗うつ薬 | 眠気、めまい |
上記以外でも、脳内で過剰にセロトニンが増えると深い睡眠が妨げられて睡眠が浅くなったり、ノルアドレナリンは交感神経に働いて覚醒作用があったりすることから、不眠の副作用を訴える場合もあります。
ただし、抗うつ薬の副作用は多くの場合は、1~2週間でからだが慣れて改善するため、生活に支障がなければ様子をみながら服用を継続します。[10]
抗うつ薬を継続するためのサポートとして使用される漢方薬の例
抗うつ薬の効果が発現するまでには数週間程度かかるため、効果を実感するより先に副作用が発現して治療を途中で断念してしまう方もいらっしゃいます。
治療の効果を正しく判定するためにも抗うつ薬の開始後はきちんと服用を継続することが大切です。
そのためのサポートとして、吐き気止めや便秘薬、睡眠導入剤などの薬剤が抗うつ薬と一緒に処方される場合がありますが、時に漢方薬が処方されることもあります。
たとえば以下のような漢方薬が使用されています。[9][11]
症状 | 具体的な漢方薬の例 |
---|---|
食欲不振 消化不良 |
補中益気湯(+倦怠感)、加味帰脾湯(+不眠)、六君子湯など |
めまい 立ち眩み |
苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯など |
口渇 | 五苓散、白虎加人参湯、麦門冬湯など |
便秘 | 大建中湯、桃核承気湯、体重増加を伴う場合は防風通聖散など |
詳しくは、こちら▼の記事をご参照ください。
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よくある質問
うつや気分の落ち込みに対して漢方薬が効かない場合は?
体質や状態に合っていない漢方薬を選択してしまうと、効果が出ないだけでなく症状の悪化や副作用が発現してしまう可能性もあります。1か月程度服用して改善が見られない場合は服用を中止し、医療機関に相談しましょう。
また、うつの状態が進行している場合は、心療内科・精神科の専門医による抗うつ薬での治療が必要です。早期に治療することで回復も早くなります。
うつや気分の落ち込みに効く市販薬はあるの?
抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などの向精神薬は、医療用医薬品のみにしかなく、市販薬にはありません。
漢方薬は市販でも販売されていますが、不特定多数の方が購入しても問題のないように配合量が少ない場合もあります。
気になる症状が続く場合は医療機関に早めに相談を
人間関係のトラブルや職場・家庭での役割の変化(結婚・妊娠・昇格など)をきっかけに、メンタルの状態を崩してしまう方は多いです。また、本人の性格や季節の変わり目、ホルモンバランスの乱れが影響して気分が落ち込みやすくなることもあります。
気になる症状が続く場合は、1人で抱え込まずに早めに医療機関に相談しましょう。
辛い気分の落ち込みに悩まれている方はYOJO薬剤師にも相談することができますよ。
【参考文献】
[1]恵紙英昭,小川恵子(2018)精神科領域における漢方治療の可能性,Phil漢方No.70
[2]大阪府薬剤師会 軽いうつ病
[3]厚生労働省 うつ病チェック
[4]坂本真士ら(2014) 臨床社会心理学における“自己”:「新型うつ」への考察を通して, 心理学評論,Vol. 57,No. 3 .
[5]千々岩武陽,須藤信行(2016) 心身医学療法としての漢方治療, 日本心療内科学会誌Vol. 56 No. 11.
[6]千々岩武陽 ,伊藤隆(2009)心身症およびストレス関連疾患に対する漢方治療のエビデンス,日本東洋心身医学研究第24号
[7]塚田愛ら(2021) ストレスに対する漢方薬の有用性 ~基礎研究からの検討,Equilibrium Research 80 (4), 296-302
[8] 日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016
[9]岡孝和(2007)向精神薬と漢方薬の併用療法の現状に関するアンケート調査報告‐日本東洋心身医学研究会EBM作業チーム報告-,日本東洋心身医学研究第22巻97-102
[10]NHK 抗うつ薬の種類や効果、副作用、正しい使用法について
[11]奥平智之(2009)精神科領域における漢方 Phil漢方No.25