漢方薬を用いて減量の手助けをしたい時に、「防已黄耆湯」と「防風通聖散」のどちらを選べば良いか迷っている方も多いと思います。これらの漢方薬は、それぞれ異なる特性を持っていますので、自分の体質に合ったものを選ぶことが大切です。
この記事では、防已黄耆湯と防風通聖散について、それぞれの特徴や効果、注意点を薬剤師が詳しく解説します。どちらの漢方薬が自分に合っているかを知るための参考にしてみてください。
肥満症でお悩みの方はぜひ一度YOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
防已黄耆湯と防風通聖散の違いは?
肥満症の治療に効果があるとされる防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)と防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)ですが、どのような違いがあるのでしょうか。どっちを選べば良いか迷っている人のために、まずは両者の漢方薬の違いをご紹介いたします。
防已黄耆湯の構成生薬、効能・効果
防已黄耆湯は、体力があまりなく、水太りタイプの人に適した漢方薬です。ブヨブヨした肥満体型や、下半身がむくみやすい人、汗っかきで疲れやすい人に向いています。
漢方では「気虚(気が不足した状態)」が原因で、水分代謝や循環が低下し、むくみやすくなると考えます。気虚は毛穴が緩んでいる状態を意味し、汗をかきやすく、汗と一緒に元気も体外に流れ出てしまいます。そのため、さらに気虚が進行し、疲れやだるさが取れない体質になりやすいのです。防已黄耆湯は、このような体質の人に特に効果的です。
防已黄耆湯が合う人のイメージ
・汗がすごく出て困る
・すぐに疲れて、動くのがつらい
・足がむくんで困る
・お小水が少ない
構成生薬
黄耆(おうぎ)、防已(ぼうい)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)
水分代謝を促進する防已・黄耆、消化器を元気にする白朮(あるいは蒼朮)・生姜・大棗・甘草で構成されています。
効能・効果
色白で筋肉が柔らかく水太りの体質で疲れやすく、汗が多く、尿が出にくく、下半身がむくみがちな人で膝関節の痛みがある人の次の諸症:腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、陰嚢水腫、肥満症、癰、癤、筋炎、浮腫、皮膚病、多汗症、月経不順
防風通聖散の構成生薬、効能・効果
防風通聖散は、体力があり、がっちりした体格の太鼓腹タイプの肥満症の人に適した漢方薬です。便秘がちで暑がりな人にも向いており、高血圧の随伴症状(動悸、肩こり、のぼせ)などにも効果があります。
この薬は、体力のある肥満体型の人に対して、体脂肪の減少や基礎代謝量の増加を促します。その結果、インスリン抵抗性の改善にも役立ちます。
防風通聖散が合う人のイメージ
・のどが渇く
・ほてったり寒気がしたり、一定しない
・みぞおちが張るし、太鼓腹
・便秘
・血圧が高め(のぼせや頭痛がある)
・蕁麻疹や湿疹が出やすい
・耳鳴りや肩こりがある
構成生薬
滑石(かっせき)、黄芩(おうごん)、甘草(かんぞう)、桔梗(ききょう)、石膏(せっこう)、白朮(びゃくじゅつ)、大黄(だいおう)、荊芥(けいがい)、山梔子(さんしし)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)、薄荷(はっか)、防風(ぼうふう)、麻黄(まおう)、連翹(れんぎょう)、生姜(しょうきょう)、芒硝(ぼうしょう)
体に負担をかけずに体内に蓄積された熱を排出し、皮下脂肪を取り除く働きもあります。
効能・効果
腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(動悸、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘
肥満症に用いられる漢方薬には、その他に大柴胡湯もあります。こちら▼の記事では、肥満症や3種類の漢方薬について詳しく解説しています。
自分に合った漢方薬の選び方ー防已黄耆湯と防風通聖散どっちが合う?
防已黄耆湯の効果
肥満症
防已黄耆湯が効果的な肥満のイメージは、色白で水太りしやすく、汗をかきやすいタイプです。下半身がむくみやすく、女性に多いブヨブヨとした肥満体型が特徴です。体が重だるく、疲れやすい人にも適しています。
防已黄耆湯は、漢方でいう「水毒体質」(体の水分バランスが乱れ、余分な水が溜まっている状態)を改善し、むくみを取り除いて水太りに効果を発揮します。また、内臓脂肪の減少も期待できると報告されています。
「肥満を伴う非インスリン依存性糖尿病患者を対象とした。疾患のため十分な運動療法の実施が困難な状況にある症例11例に対し、防己黄耆湯を6か月間投与した。防己黄耆湯投与群では、コレステロール値や内臓脂肪面積と皮下脂肪面積の比が有意に改善された。(参照)吉田麻美ら(1998) 内臓肥満型糖尿病患者に対する防已黄者湯の効果,日本東洋医学雑誌第49(2), 249-256」
変形性膝関節症の水腫・炎症
防已黄耆湯は、膝関節痛だけでなく、関節液の貯留や熱感にも効果があります。単独での使用はもちろん、NSAIDS(解熱鎮痛剤)との併用でも効果が期待できます。
また、防已黄耆湯は漢方薬なので、変形性膝関節症だけでなく、肥満症・関節炎・むくみなどの背景にある問題を総合的に改善することで、関節痛にも効果があります。そのため、多くの疾患を抱える高齢者に特に効果が出やすいと言えます。[1]
以下のような症例報告もあります。
137例の変形性膝関節症患者(男性20例、女性117例)も防已黄耆湯を単独投与し、6ヶ月間の経過観察を行った。膝痛の程度をVASを、用いて5段階の評価した結果、、4週後に45例(32.8%)、6ヵ月後に59例(43.1%)で痛みの改善がみられ、男性より女性の改善が多かったと述べている。また、NSAIDの併用でも使用量は常用量の1/2以下であったという。(参照)phil漢方 No.26 2009 処方紹介・臨床のポイント防已黄耆湯(金匱要略)
多汗症などの皮膚疾患
防已黄耆湯には、体表面の気を補う「黄耆(おうぎ)」が含まれているため、汗を止める効果が期待できます。そのため、多汗症の治療にも用いられます。異常発汗に対して効果があったとの報告もあります。発汗部位は全身にわたることが多いですが、精神性の発汗には効果が感じられにくいと言われています。[2]
防已黄耆湯の関連記事はこちら▼市販薬についてもご紹介しています。
防已黄耆湯で痩せる?効果や向いている人、服用のポイントについて解説
防風通聖散の効果
肥満症
防風通聖散は、体力がありがっちりとした体型で、おへそを中心に盛り上がる太鼓腹や便秘がある肥満に効果的です。この漢方薬は、体内の悪い毒素を「発汗、下痢、利尿」を通じて体外に排出する働きがあります。過剰に摂取した栄養が毒素となり病気を引き起こすと考えられて作られており、特に脂肪太りや中年太りの人の体に溜まった毒素を発散・排泄するために用いられます。
便秘
防風通聖散は便通を促す大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)が含まれているため便秘症に対しても効果があります。
以下のようなエビデンスが報告されています。
全大腸内視鏡検査において大腸メラノーシスを認めた常習性便秘症(A群)97例と大腸メラノーシスを認めなかった常習性便秘症(B群)90例、計187例を対象とした。防風通聖散2週間投与後の排便状況を、著効・有効・無効の3段階に分類して効果を判定した。A群に対する防風通聖散の効果は、著効は39例(37%)、有効は32例(33%)で、著効と有効をあわせて71例(70%)であった。一方、無効は29例(30%)であった。B群に対する防風通聖散の効果は、著効は66例(73%)、有効は13例(15%)で、著効と有効を合わせて79例(88%)であった。一方、無効は11例(12%)であった。A群とB群を著効と有効を合わせた有効以上で比較すると、A群はB群に比較して改善効果が有意(p<0.01)に低いことが認められた。(参照:松生恒夫 他,薬事新報,1997 1029-1031)[3]
こちら▼の記事でも防風通聖散のその他の効果(むくみ、高血圧の随伴症状、睡眠時無呼吸症候群)や飲み合わせについて詳しく解説しています。
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体質による防已黄耆湯・防風通聖散の選び方のまとめ
防已黄耆湯は、色白でぽっちゃりした体型で、特に下半身にむくみがある水太りタイプの人に適しています。一方、防風通聖散は、中年以降の男性に多い、お腹が出た太鼓腹タイプの人に適しています。
防已黄耆湯 | 防風通聖散 | |
体力 | 体力ない、疲れやすい | 体力ある |
体格 | 色白、ブヨブヨした水太り | がっちりしている、お腹の周りに脂肪がついた太鼓腹 |
その他の症状 | 下半身がむくみやすい、汗っかき | 便秘、高血圧傾向 |
自分だけではどちらの漢方薬が合っているか不安な方は、YOJOの薬剤師にご相談ください。体質チェックをもとに、さまざまなアドバイスをいたします。
防已黄耆湯と防風通聖散の副作用や禁忌事項の確認
こちらでは、防已黄耆湯・防風通聖散それぞれの副作用や服用できない人について解説いたします。
防已黄耆湯の注意すべき副作用
間質性肺炎 | 咳、呼吸困難、発熱など |
ミオパチー | 脱力感、手足の痙攣、麻痺など |
肝機能障害・黄疸 | 検査値の異常、黄疸 |
過敏症 | 発疹、湿疹など |
防風通聖散の注意すべき副作用
山梔子(さんしし)を含む漢方薬を長期間服用(多くは5年以上)することで、大腸の色調異常や潰瘍を生じ、腸間膜静脈硬化症を発症することがあります。漫然と服用し続けることは避け、きちんと医師や薬剤師に相談した上で服用しましょう。
その他の副作用には以下が報告されています。これらの異常が現れた際にはすぐに服用を中止し、医療機関を受診しましょう。
間質性肺炎 | 咳、呼吸困難、発熱など |
偽アルドステロン症 | むくみ、血圧上昇など |
ミオパチー | 脱力感、手足の痙攣、麻痺など |
肝機能障害・黄疸 | 検査値の異常、黄疸 |
過敏症 | 発疹、湿疹など |
自律神経症状 | 不眠、動悸、発汗など |
消化器症状 | 食欲不振、悪心・嘔吐、下痢など |
泌尿器症状 | 排尿障害など |
防風通聖散が合わない人
麻黄、当帰、滑石、石膏が含まれているため、胃腸が弱い人には適していません。また、大黄や芒硝が含まれているため、妊娠中の方は早流産の危険性があるため服用できません。以下の疾患をお持ちの方も症状が悪化する恐れがあるため、服用する前に医師や薬剤師に相談することが大切です。
・妊婦(早流産の危険性)
・下痢・軟便がある、胃腸が弱い人
・狭心症・心筋梗塞などの循環器系疾患の人
・重症高血圧の人
・排尿障害のある人
・甲状腺機能亢進症の人
・腎機能障害のある人
防已黄耆湯と防風通聖散以外のダイエットに効果のある漢方薬
防已黄耆湯と防風通聖散以外で肥満症の治療に用いられることがあるのは「大柴胡湯(だいさいことう)」という漢方薬です。
大柴胡湯は以下のようなタイプに向いています。
・がっちりとした体格
・ストレスを感じることが多く、胸につかえ感がある
ダイエットに用いられる漢方薬については、こちら▼の記事で詳しく解説しています。
防已黄耆湯と防風通聖散に関してよくある質問
こちらではよくある質問に関してお答えいたします。
防已黄耆湯と防風通聖散は効果が出るまでどのくらいかかる?
個人の体質や症状によって効果が出るまでの期間は異なりますが、減量の目的であれば少なくとも1ヶ月は服用を継続して様子をみましょう。[4][5]
この薬は、飲むだけで痩せるものではありません。痩せるためには、食事内容の改善や運動習慣の見直しを行った上で服用することが大切です。
防已黄耆湯と防風通聖散は一緒に飲んでもいいですか?
防已黄耆湯と防風通聖散は、それぞれ異なる体質に適した漢方薬です。両方を一緒に服用すると、効果が得られないだけでなく、思わぬ副作用が出る可能性があります。
自分の体質をしっかり見極めた上で、どちらか一種類を選んで服用することをおすすめします。
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【参考文献】
[1]漢方スクエア 私の好きな漢方処方「変形性膝関節症に使ってみよう
[2]phil漢方 No.26 2009 処方紹介・臨床のポイント防已黄耆湯(金匱要略)
[3]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド 第2版
[4]国立医薬品食品衛生研究所「一般用漢方製剤の安全性確保に関する研究 安全に使うための防已黄耆湯の確認票」
[5]国立医薬品食品衛生研究所「一般用漢方製剤の安全性確保に関する研究 安全に使うための防風通聖散の確認票」