半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)には、精神を安定させて、不安感や不眠、吐き気、のどの詰まりなどを改善する効果があります。
そのため、自律神経の乱れが原因で起こる心身の不調に対しても半夏厚朴湯は多く用いられます。しかし、服用をする際には体質・症状に合っているかや、正しい飲み方・副作用についてきちんと理解して取り入れることが大切です。
この記事では、半夏厚朴湯の効果や即効性の有無、服用のポイントについて薬剤師がくわしく解説します。漢方薬の服用や体質に合った選び方について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
半夏厚朴湯はどんな漢方薬?
まずは半夏厚朴湯はどのような漢方薬なのか、そしてどのような方に適した漢方薬なのかについて解説します。
半夏厚朴湯とは
半夏厚朴湯は、以下の5種類の生薬から構成される漢方処方です。[1]
・半夏(はんげ)…精神を安定させたり、吐き気を抑えたりする作用がある。
・茯苓(ぶくりょう)…不要な水分を取り除いたり、精神を安定させたりする作用がある。
・厚朴(こうぼく)…のど・胸のつかえを和らげ、また精神を安定させる作用がある。
・蘇葉(そよう)…芳香により気持ちをリラックスさせる作用がある。
・生姜(しょうきょう)…体を温めたり、胃腸の働きを良くしたりする作用がある。
これらの生薬が組み合わされることで相乗的に効果を発揮し、精神的なストレスからくる不安感や不眠、吐き気、胃に水が溜まることで起こる不快感(胃内停水)、のど・胸のつかえ感などの症状に効果が期待できます。
半夏厚朴湯はすぐに効く?効果が出るまでの期間とは
半夏厚朴湯を服用して効果が出るまでの期間は、服用の目的や症状の程度によって個人差がありますが、多くの場合、即効性は期待できません。
一般的には、効果を感じるまでに数週間から1か月程度は継続して服用する必要があるでしょう。
半夏厚朴湯の投与期間で参考になる臨床試験としては、以下のような報告があります。
難治性の胃食道逆流症で、通常の西洋医学的療法で消化器症状は改善されるが、咳、痰、咽喉頭部違和感、軽度呼吸困難などの呼吸器症状が改善されない19名を対象に、一方の群は西洋医学的治療に加えて半夏厚朴湯を投与、もう一方の群は半夏厚朴湯非投与の群に分けて実験をしました。半夏厚朴湯投与の群は半夏厚朴湯を6ヶ月投与後に中止し合計12ヶ月間、非投与群と呼吸器症状の推移を観察しました。
結果は、半夏厚朴湯投与群は投与 1 ヶ月後には、コントロール群に比べて有意に呼吸器症状の改善が得られました。この効果は投与 6 ヶ月後まで継続し、さらに半夏厚朴湯投与中止後も、呼吸器症状に対する改善効果は 6ヶ月間継続しました。
半夏厚朴湯の服用が向いている人、向いていない場合の対処法とは
半夏厚朴湯は、体力中等度以下を目安にし、顔色が悪く、神経質な傾向があり、のどの異物感・閉塞感がある方に向く漢方薬です。とくに以下のような症状を訴える場合に用いられます。[2]
・気分がふさぎ、不眠、動悸、精神不安を訴える場合
・呼吸困難、咳、胸痛などを伴う場合
・胃の辺りをたたくと、ポチャポチャと振水音がする場合
このように、漢方薬は体質や症状に合わせて処方が選択されるため、中には半夏厚朴湯が合わない、服用を続けても効果が得られにくいといった方もいらっしゃいます。
そのような場合は、他の漢方薬を検討してみるのも一つです。
たとえば・・・
・胃のつかえ感だけがあり、のどの異物感はない
⇒半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
・自律神経の乱れに伴う不定愁訴は多く見られるものの、のどの異物感は少ない
⇒加味逍遙散(かみしょうようさん)
・動悸やめまい、胃内停水が主な症状である
⇒苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
といった漢方薬が合う場合もあります。 [1]
ご自身の体質や症状に合った漢方薬の選び方に悩まれている方は、YOJOの薬剤師に相談することもできます。
半夏厚朴湯は自律神経の乱れを整える?~漢方の考え方とは~
漢方医学では「気・血・水」がバランス良く巡ることで、健康を維持できると考えます。
しかし精神的なストレスや疲労が重なると、エネルギーである「気」が不足したり(気虚)、巡りが悪くなったり(気滞)するために、心身の不調をきたしてしまうのです。例えば、のどの辺りで「気」が滞ると、のどに異物感を覚えたり詰まったような感じがしたりします。(これを漢方では梅核気と呼びます)
漢方薬の半夏厚朴湯には「気」の巡りを良くする作用があり、のどの異物感(咽喉頭異常感症)という西洋医学ではなかなか対処しにくい症状を改善することが特徴です。
さらに、精神を安定させる作用があることから、ストレスを緩和し自律神経のバランスを整えてくれる働きがあります。
自律神経の乱れを整える働きのある、他の漢方薬についても詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
半夏厚朴湯が処方される場合がある疾患・症状とは
半夏厚朴湯に期待できる効果から、以下のような疾患・症状に対して処方される場合があります。
自律神経失調症
自律神経失調症とは、自律神経のバランスが崩れることで起こる、心身のさまざまな症状をいいます。具体的には、以下のような症状がみられます。
・身体的な症状
慢性的な疲労感、だるさ、めまい、動悸、不眠、耳鳴り、便秘・下痢、微熱など
・精神的な症状
不安感、気持ちの落ち込み、やる気のなさ、イライラ、疎外感など
自律神経失調症の主な原因は、身体的・精神的なストレスや生活習慣の乱れ、冷え症などがあげられます。
例えば、新年度になる4月に周りの環境が目まぐるしく変化して緊張状態が続いたことから、5月になって心身の不調が出てくる「五月病」も、ストレスにより自律神経のバランスが崩れたことが原因の一つであると考えられています。[4]
半夏厚朴湯は「気」の巡りを良くすることで、ストレスを緩和して自律神経の乱れを整え、心身の不調を緩和する効果が期待できます。
不眠症
不眠症とは、眠りたいという意思があるにもかかわらず、睡眠時間が短く、眠りが浅くなり心身に不調をきたす睡眠障害です。
不眠の原因は人によってさまざまですが、その一つがストレスなどにより自律神経のバランスが崩れたことが原因で起こるとされています。
半夏厚朴湯は、ストレスが原因でのどのつかえ感や息苦しさがあるときの不眠に効果が期待できます。
不眠症に効果の期待できる、他の漢方薬についても詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
うつ病
うつ病は、ストレスなどが原因で、精神を安定させたりやる気を起こさせたりする脳内の神経伝達物質が減ってしまっている状態です。
そのため、意欲の低下や気分の落ち込み、不眠、食欲不振、息苦しさなどの症状が見られます。
半夏厚朴湯は、「気」の巡りを良くすることで精神を安定させ、これらの症状を緩和する効果が期待できます。
うつに効果の期待できる、他の漢方薬についても詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
咳・しわがれ声
ストレス・疲労から自律神経に不調が起こると、のどや食道の筋肉が緊張し、のどの詰まりや息苦しさから咳が出たり、しわがれ声になったりすることがあります。
半夏厚朴湯は、脳の大脳基底核に作用して咳反射を改善する効果が報告されています。[2]
つわり
つわりは、妊娠初期に多くの女性が感じる吐き気や嘔吐、食欲不振などの消化器症状をいいます。
半夏厚朴湯には、制吐作用とともに、つわりの吐気に伴う不安神経症、神経性胃炎、湿性の咳、のどの詰まり感にも効果が期待できます。
ただし、妊娠中は自己判断で薬を使用することは避け、必ずかかりつけ医に相談してから服用するようにしましょう。
半夏厚朴湯の飲み方のポイントや注意点
ここでは、半夏厚朴湯の飲み方や注意点について、Q&A形式でお伝えします。
1日何回服用するの?
半夏厚朴湯は1日7.5gを2~3回に分けて、水または白湯で服用します。[3]
ただし、用法用量は商品や服用者の症状、年齢・体重などによっても異なるため、必ず医師の指導や添付文書の指示に従って服用しましょう。
また服用するタイミングは食前または食間です。食前とは食事の20~30分前、食間とは食事と食事の間2時間くらいの空腹時を指します。
半夏厚朴湯に副作用はある?
半夏厚朴湯の副作用としては、頻度不明で起こりにくいものの、以下のような症状が報告されています。
過敏症 | 発疹、発赤、掻痒など |
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肝臓 | 肝機能異常(AST・ALTなどの上昇) |
気になる症状があれば、服用を止めてすぐに医療機関を受診するようにしましょう。
半夏厚朴湯に飲み合わせの悪い薬はある?
半夏厚朴湯の飲み合わせで禁忌とされている薬はありません。
ただし、治療中の疾患がある方で他の医薬品と半夏厚朴湯を併用する場合は、主治医や薬剤師に必ず伝えるようしにましょう。
半夏厚朴湯の飲み合わせについて、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
半夏厚朴湯を服用したときのやめどきは?
上述のとおり、半夏厚朴湯を1か月程度継続して効果がみられない場合は服用を中止し、医療機関に相談しましょう。
何らかの効果がみられる場合は、症状が改善されるまで継続して問題ありません。
半夏厚朴湯は妊娠中に服用していいの?
上述のとおり、半夏厚朴湯は妊娠中のつわりに処方される場合もあります。
しかし、つわりが起こりやすい妊娠2か月前後(妊娠4~7週目)は、胎児の器官形成期であり、薬物に対して感受性が高い時期でもあります。
漢方薬に限らず、妊娠中に薬を服用する場合は、まずはかかりつけ医に相談してから服用するようにしましょう。
妊娠中のつわりと、漢方薬の効果や飲み方の注意点について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
半夏厚朴湯の服用について、不安や質問がある場合はYOJOの薬剤師に相談することもできます。
半夏厚朴湯の服用と共に、自律神経の乱れを整えるために大切なこと
自律神経の乱れを整えるためには、漢方薬の服用だけでなく、生活習慣を改善していくことも大切です。
ストレスを発散する工夫をする
人間関係や仕事のプレッシャーなどで感じる精神的なストレスは、自律神経の乱れを引き起こす大きな原因となります。自分なりのストレス発散法を見つけて適度に気分転換をしましょう。趣味などの好きなことに没頭したり、気を使わない親しい友人や家族とのんびり過ごしたりするのもストレス解消にはおすすめです。
適度に運動・ストレッチをする
適度な運動やストレッチは、ストレスの軽減に効果的です。とくに、ストレスケアにはウォーキングやサイクリング、ヨガなどの体に空気を取り込みながら行う「有酸素運動」を行うのが良いとされています。体が温まって軽く汗ばむ程度の運動強度で、1日20分程度を目安に行うと良いでしょう。[5]近所を散歩したり、緑の多い公園でアクティブに過ごすだけでも構いません。終わった後に「スッキリした!」とご自身が思えるくらいの軽さで継続して行うことが大切です。
翌朝に疲れを残さないよう十分な睡眠をとる
睡眠時間が不足すると、疲れが溜まってストレスを感じやすくなります。
脳や体の疲れを次の日に持ち越さないためにも睡眠時間は毎日しっかり確保しましょう。また、睡眠の質を高めるためには、寝室の環境を整えることも大切です。寝室の照明は30ルクス以下の赤みを帯びたやわらかい低照度のものにすることでスムーズな入眠を促します。また、個人差や季節によっても異なりますが、寝床内の温度は33℃、湿度は50%の状態が良いとされています。[6]
YOJOでは、体質や症状に合った漢方薬の選び方だけでなく、生活習慣を改善するための具体的なアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのも良いでしょう。
【参考文献】
[1]高山宏世編著 漢方常用処方解説
[2]伊藤美千穂編著 エビデンス・ベース 漢方薬活用ガイド
[3]ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用)添付文書
[4]全国健康保険協会 働く人の心の健康づくり
[5]厚生労働省 こころもメンテしよう
[6]厚生労働省e-ヘルスネット 快眠のためのテクニック -よく眠るために必要な寝具の条件と寝相・寝返りとの関係