半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、胃腸の不調全般に幅広く使われる漢方薬で、特にストレスによる症状に効果的です。また、口内炎や二日酔い、みぞおちのつかえ感、下痢などにも効果が期待できます。
しかし、服用する際には副作用や、服用の注意点について確認しておくことが大切です。
この記事では、半夏瀉心湯の効果や副作用、よくある質問について薬剤師が詳しく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
半夏瀉心湯とは
半夏瀉心湯がどのような漢方薬なのかをお伝えするために、まずは漢方医学の考え方と半夏瀉心湯の働きについて解説します。
漢方医学の「気・血・水」の考え方と半夏瀉心湯の働き
漢方医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」の3つが体内をバランスよく巡り、十分に保たれていることで健康が維持できると考えられています。
気(き)…体や心を動かすエネルギーのことです。
血(けつ)…血液や血液に含まれる栄養をさします。
水(すい)…リンパ液、汗、涙、だ液など、血液以外の体液をさします。
漢方医学では、気の巡りが悪くなると腸にガスが溜まりやすくなったり、げっぷが出やすくなると考えられています。また、ストレスの影響を受けやすくなり、精神的な不調も感じやすくなります。さらに、水の巡りが悪くなると胃腸の働きが低下し、みぞおちに重さやつかえ感を感じやすくなります。
半夏瀉心湯は、みぞおちのつかえ感や重さを、気や水の巡りを良くすることで改善します。さらに、胃腸の熱を冷ます作用があり、胃炎や胸焼けの症状を和らげます。
半夏瀉心湯の成分、効能・効果
半夏瀉心湯は胃腸の炎症を取る働きがある成分や、吐き気を止めたり胃の中の水分を取る働きのある成分など、7種類の生薬で構成されています。
構成生薬
半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、黄連(おうれん)、乾姜(かんきょう)
効能・効果 [1]
みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるものの次の諸症状:急・慢性胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症
半夏瀉心湯の効果
半夏瀉心湯を服用することで、具体的には以下のような効果が期待できます。
胃炎、げっぷ、胸焼け、食欲不振などの胃腸症状
半夏瀉心湯には、悪心や嘔吐、胃の膨満感、みぞおちのつかえ感や重さを和らげる効果があります。
「瀉心」とは、みぞおちのつかえを解消することを意味します。含まれている「黄連」や「黄芩」は、熱を冷まし炎症を鎮める作用があり、みぞおちの不快感や吐き気、嘔吐などの症状を改善します。また、「乾姜」「甘草」「人参」「大棗」には、胃腸を元気にし、消化機能を整える働きがあるため、慢性的に胃もたれが起こりやすい方にも適しています。
食欲不振に使用される漢方薬についてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
不安、不眠、神経過敏などの精神的な症状
半夏瀉心湯の「瀉心」には、胸のあたりのつかえ感を取る意味以外に、「心気(しんき)」(心の働き)のうっ滞を解消するという意味もあります。そのため、ストレス性の症状に特に効果的とされています。
不安、不眠、神経過敏などの症状や、ストレス性の胃炎、過敏性腸症候群などにも使用されます。
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二日酔い
二日酔いの症状には、頭痛や吐き気、嘔吐が含まれます。胃腸の水分バランスが乱れると、吐き気や嘔吐などの胃腸の不調が起こりやすくなります。半夏瀉心湯は、この胃腸の水分バランスを整える働きがあるため、二日酔いによる吐き気や嘔吐の改善にも効果が期待できます。
二日酔いの症状に使用される漢方薬についてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
口内炎
抗がん剤の副作用には口内炎が報告されており、発症頻度は30〜40%と言われてます。さらには抗がん剤により起こる口内炎は広範囲で痛みが強く、飲食や話すことにも影響が出る場合が多くあります。基礎研究において半夏瀉心湯には抗炎症作用と抗菌作用があることが報告されており、様々な薬理作用から口内炎を抑制する可能性が考えられています。[2]
口内炎に対する半夏瀉心湯の服用の仕方 [3]
・1回量を50mlの水またはお湯に溶かし、1日3回うがいまたは綿棒で直接口内炎の患部に塗布する。うがいの際には口の中で10秒おいた後に吐き出す。
また、以下のような報告もあります。
1回量をお湯20mlに溶かし、はちみつなどで甘さを調節した液でのうがいを3回行い、吐き出す。口内炎の患部には、はちみつなどを加えて粘性を上げてから塗る。うがい、塗布に関しては食前、食後の計6回行うと口内炎発症早期には有効であった。(参照:松浦一郎 他, 痛みと漢方, 2013,23,81-85.)
下痢
半夏瀉心湯には「乾姜」「人参」が含まれており、「黄連」「黄芩」による熱を冷ます作用を緩和して下痢に効果があります。
また、抗がん剤治療の副作用の下痢に対しても効果があると報告されています。イリノテカンという抗がん剤の副作用では急性下痢と遅発性下痢が起こりますが、遅発性下痢の治療は難しいと言われています。半夏瀉心湯はこの遅発性下痢に効果があることがわかっています。
下痢に効果のある漢方薬については、こちら▼の記事でも解説しています。
半夏瀉心湯が合う人・合わない人
半夏瀉心湯が適しているのは、日常生活を問題なく送れる程度の体力があり、みぞおちにつかえ感がある方です。具体的な症状としては、以下のものが挙げられます。
- 吐き気・嘔吐・胃の膨満感がある
- げっぷが多い・胸焼けがある
- お腹がゴロゴロ鳴って下痢をしがち、軟便
- 胸からみぞおちの辺りにつかえ感がある
- 口内炎がある
- 不安、不眠、神経過敏
一方で、半夏瀉心湯が合わない方には、以下の特徴があります。
- 寒がりで、体力がなく疲れやすい方
- もともと胃が弱い方
- 「甘草」によってむくみや高血圧、低カリウム血症などの副作用が出たことがある方
半夏瀉心湯の類似処方との違い
胃腸症状には半夏瀉心湯以外にも体質や体格、症状に合わせて、以下の漢方薬が使用される場合があります。
・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)…体力があって暑がり傾向の人で、のぼせの症状がある人に向いています。胃部不快感やみぞおち辺りのつかえ感がある場合に使用されます。
黄連解毒湯についてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
関連記事:黄連解毒湯の効果とは?飲み方のポイントや注意点も解説
・六君子湯(りっくんしとう)…もともと胃腸が弱くて、胃に水が溜まっていてポチャポチャと音がするような人に向いています。胃もたれ、食欲低下がある場合に使用されます。
六君子湯についてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
関連記事:六君子湯の効果とは?副作用や合わない人、類似処方との違いも解説!
関連記事:六君子湯の飲み合わせで禁忌のものは?10種の医薬品との併用についても解説
ご自身に合った漢方薬がわからない方は、YOJOの薬剤師に相談することができます。
半夏瀉心湯を使う際の注意点
半夏瀉心湯を服用する際は、以下の点に注意して服用しましょう。
半夏瀉心湯のおすすめの飲み方
基本的には成人は1日量を2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与します。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する必要があります。
食前や食間に服用するのが難しい場合は、食後に服用しても構いません。1日量をきちんと服用することがまずは大切です。
服用方法は、エキス剤などの顆粒のものは白湯に溶かして温かい状態で服用するのがおすすめです。
飲みにくい場合は以下の記事を参考に工夫してみてください。
半夏瀉心湯の副作用
黄芩という生薬が含まれているため、間質性肺炎、薬剤性肝炎などの副作用が報告されています。また、甘草による偽アルドステロン症にも注意が必要です。いずれも頻度不明なので稀にしか起こりませんが、以下のような症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し医療機関を受診しましょう。
重大な副作用
間質性肺炎…空咳、発熱、呼吸困難、息切れなど
偽アルドステロン症…低カリウム血症、血圧上昇、むくみ、体重増加、尿量減少、
ミオパチー…脱力感、手足の痙攣、麻痺など
肝機能障害、黄疸…血液検査でAST、ALT、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸など
その他の副作用
過敏症…発疹やじんましんなど
半夏瀉心湯の飲み合わせ
半夏瀉心湯には他の医薬品との飲み合わせで禁忌となるものはありません。しかし、他の漢方薬と併用する際には生薬が重複しないように注意しましょう。
妊娠中・授乳中の服用について
妊娠中の漢方薬の服用については、催奇形性(赤ちゃんに奇形が生じるリスク)に関して不明な点も多いため、器官形成期(妊娠4~5週頃)はできるだけ服薬を避けるのが無難です。半夏瀉心湯には「半夏(はんげ)」や「乾姜(かんきょう)」が含まれており、妊娠中には注意が必要な生薬が含まれています。[4] そのため、自己判断での服用は避け、主治医に相談することが大切です。
授乳中の服用については問題となる成分は含まれていないため、基本的に服用は可能です。ただし、赤ちゃんの様子を観察しながら使用し、母乳への影響が気になる場合は授乳直後に服用するなど工夫しましょう。
半夏瀉心湯のおすすめの市販薬
半夏瀉心湯は市販でも購入できる漢方薬です。薬局やドラッグストアで販売されている半夏瀉心湯の商品には、例えば以下のようなものがあります。
ツムラ漢方半夏瀉心湯エキス顆粒
1日2回服用の顆粒タイプ
半夏瀉心湯エキスを有効成分とした漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の1/2量の半夏瀉心湯エキスを配合しています。2歳以上から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便又は下痢の傾向のあるものの次の諸症:急・慢性胃腸炎、下痢・軟便、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 10包 |
半夏瀉心湯エキスEX錠クラシエ
1日3回服用の錠剤タイプ
半夏瀉心湯エキスを有効成分とした漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の4/5量の半夏瀉心湯エキスを配合しています。5歳以上から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便又は下痢の傾向のあるものの次の諸症:急・慢性胃腸炎、下痢・軟便、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前又は食間に水又は白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 7歳未満5歳以上:1回2錠 |
内容量 | 36錠 |
半夏瀉心湯に関するよくある質問
こちらでは半夏瀉心湯に関する質問に対してお答えしています。
半夏瀉心湯は効果が出るまでどのくらいかかる?
症状によって効果が現れるまでの時間には個人差がありますが、急性胃炎や二日酔い、げっぷ、胸やけなどの胃腸症状には、数回の服用で効果が見られることがあります。一方で、ストレスによる症状には、効果が現れるまでに時間がかかる傾向があります。
半夏瀉心湯は長期服用して問題ない?
症状に応じて長期服用しても問題ない漢方薬ですが、「黄芩」や「甘草」が含まれているため、咳や発熱の症状、むくみや急な体重増加などがないか確認しながら服用する必要があります。
1ヵ月位(急性胃腸炎、二日酔、げっぷ、胸やけに服用する場合には 5〜6回)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売者に相談してください。[5]
半夏瀉心湯と半夏厚朴湯の違いは?
両者とも体力が中くらいで胃腸が弱い人に向いている漢方薬ですが、半夏瀉心湯はみぞおちにつかえ感がある人、半夏厚朴湯は喉につかえ感や異物感がある人に使用されます。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)…胃腸の不調に広く用いられ、特にストレスによる症状に効果的です。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)…喉の違和感がある人に用いられ、自律神経失調症や不安が招く胃腸の不調にも効果があります。
半夏厚朴湯についてはこちら▼の記事で詳しく解説しています。
関連記事:半夏厚朴湯はすぐに効く?自律神経の乱れを整える効果と服用の注意点について解説
関連記事:半夏厚朴湯の飲み合わせで禁忌のものはある?他の薬やサプリとの飲み合わせも解説
半夏瀉心湯はニキビにも効果がある?
半夏瀉心湯は主に胃腸症状に対する漢方薬として知られていますが、胃腸の状態とニキビの関連性から、特定のタイプのニキビに効果を示す可能性があります。ただし、ニキビの原因は多様であるため、半夏瀉心湯が全てのニキビに効果があるわけではありません。適切な使用方法については、医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
ニキビ治療によく使用される漢方薬やニキビについての関連記事はこちら▼
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半夏瀉心湯の効果や注意点を知って正しく使おう
半夏瀉心湯は、胃腸の不調全般、特にストレスによる症状に効果が期待できる漢方薬です。ただし、「甘草」や「黄芩」といった生薬が含まれているため、副作用に注意しながら服用しましょう。
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【参考文献】
[1]ツムラ半夏瀉心湯エキス顆粒(医療用)添付文書
[2]日薬理誌 146.76〜80(2015)宮野加奈子他,抗がん剤治療による口内炎に対する半夏瀉心湯の効果
[3]伊藤 美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版
[4]公益社団法人福岡県薬剤師会 妊婦への投与に注意が必要な漢方薬
[5]日本漢方生薬製剤協会 半夏瀉心湯の確認票