加味逍遥散(かみしょうようさん)には、血行を促進して体を温めたり、気の巡りを良くして精神症状を改善したりする作用があります。
更年期障害、月経異常、冷え性、便秘…など様々な疾患・症状に効果が期待できる加味逍遥散ですが、服用する際には、体質・症状に合っているかや、服用の注意点についてきちんと確認して取り入れることが大切です。
この記事では、加味逍遥散の効果や副作用、よくある質問について薬剤師がくわしく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
加味逍遥散とは
まずは、加味逍遥散を正しく取り入れるために、漢方医学の考え方と加味逍遥散の服用が向いている方についてご説明します。
漢方医学の「気・血・水」の考え方と加味逍遥散の働き
漢方医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」がバランス良く体内を巡ることで健康を維持できると考えられています。
加味逍遥散は、「血」の不足を補って巡りを促し、さらに滞っている「気」の巡りを良くする働きがある漢方薬です。
桂枝茯苓丸・当帰芍薬散と共に「女性の三大漢方薬」の一つとして数えられ、更年期障害や月経異常などの婦人科疾患の治療に多く用いられています。
加味逍遥散に含まれる生薬
加味逍遥散は10種類の生薬から構成されており、配合生薬と各生薬の作用は以下のとおりです。[1]
・柴胡(さいこ)…精神安定作用や解熱作用がある。
・茯苓(ぶくりょう)…利水作用や精神安定作用がある。
・芍薬(しゃくやく)…補血作用がある。
・当帰(とうき)…補血作用や体を温める作用がある。
・白朮(びゃくじゅつ)または蒼朮(そうじゅつ)…利水作用や胃腸の働きを高める作用がある。
・甘草(かんぞう)…諸薬を調和する作用がある。
・生姜(しょうきょう)…体を温める作用や胃腸の働きを高める作用がある。
・薄荷(はっか)…炎症を抑えて熱を発散させる作用や、精神安定作用などがある。
・山梔子(さんしし)…精神安定作用などがある。
・牡丹皮(ぼたんぴ)…血行促進作用や熱を冷ます作用がある。
加味逍遥散の服用が向く人・向かない人とは
加味逍遥散は、虚弱体質で疲れやすく、精神不安や不眠、イライラなどの精神神経症状がある人で、以下のような症状がある場合に向きます。[2]
・肩こりやめまい、頭痛、下半身のほてり、突発的な発汗がある場合
・わき腹からみぞおち付近にかけて、苦しい・押すと痛いといった症状(胸脇苦満:きょうきょくくまん)がある場合
・性周期に連動して、精神神経症状が強くなる場合
一方で、加味逍遥散が向いていない人は、著しく胃腸が弱く、下痢や嘔吐を起こしやすい人です。配合生薬の「当帰」が胃に負担をかけたり「牡丹皮」が下痢を誘発したりする可能性があるため、注意が必要です。
体質や症状に合う漢方薬の選択についてお悩みの方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。
加味逍遥散で効果が期待できる疾患・症状
加味逍遥散の服用で効果が期待できるのは、具体的には以下のような疾患・症状です。
更年期障害
更年期とは、閉経をはさんだ45歳~55歳頃の約10年間を指します。この時期に女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少に伴って起こる身体的・精神的な不調を更年期障害と呼びます。
更年期障害で起こりやすい症状としては、以下のようなものがあります。
血管運動系の症状 | ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ・発汗)、寝汗、手足の冷え、動悸、息切れ、高血圧 |
---|---|
精神神経系の症状 | 気分の落ち込み、イライラ、情緒不安定、抑うつ、不眠、頭痛、倦怠感、集中力の低下、物忘れ、めまい、耳鳴り |
その他 | 肩こり、腰痛、食欲不振、胃もたれ、便秘、下痢、頻尿、肌の乾燥・シミなど |
加味逍遥散は、血行を促進してホルモンバランスの乱れを整えたり、精神を安定させたりする作用があることから、更年期障害の症状改善に効果が期待できます。
加味逍遥散とホルモン剤の違いとは?
一般に更年期障害の治療においては、エストロゲンを補うホルモン剤が多く用いられます。ホルモン剤は、ホットフラッシュや動悸などの血管運動系の症状に有効ですが、気分の落ち込みなどの精神症状には効果が十分に出ない場合があります。[3]
加味逍遥散は、ホルモン剤と比較して精神神経系の症状により有効であるとされ、とくに「イライラ」「不安」「めまい」「不眠」などの緩和に高い効果が期待できます。[4]
更年期障害や、効果の期待できる他の漢方薬についてさらに詳しく知りたい方はコチラ▼
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月経異常・月経前症候群(PMS)
月経異常とは、生理の周期が不安定な場合や、月経血が多すぎたり少なすぎたりする場合をいいます。また、月経前症候群(PMS)とは、生理前の3~10日間に発生し生理開始とともに消失する精神的・身体的症状のことです。生理前になるとイライラしたり気分の落ち込みが強くなったりする場合は、PMSの症状である可能性があります。
月経異常やPMSは、血行不良やホルモンバランスの乱れにより起こりやすくなりるとされています。
加味逍遥散には血行を促進してホルモンバランスの乱れを整える作用があるため、月経周期に伴って起こる症状を改善する効果が期待できます。
月経異常・PMSに効果の期待できる他の漢方薬についても知りたい方はコチラ▼
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冷え性
冷え性とは、通常は人が寒さを感じない程度でも、手足や腰、下半身などの体の一部、あるいは全身が冷えて、それが苦痛になっている状態を指します。
冷え性は、運動不足や食生活の乱れ、喫煙、ホルモンバランスの乱れなどから、血液循環が悪くなることで起こりやすくなります。
加味逍遥散は血行を促進することで、体を温めて冷え性を改善する効果が期待できます。
冷え性に効果の期待できる他の漢方薬や温活についても知りたい方はコチラ▼
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便秘
便秘とは、便が硬くなり、排便回数が週3回未満と少ない状態です。
食事量が少ないことや運動不足、性周期、生活習慣、ストレスなどが原因で起こりやすくなります。
一般に便秘にはアントラキノン系下剤である「大黄(だいおう)」の生薬を含む漢方薬が多く処方されますが、「大黄」で下痢や腹痛の副作用を起こす場合には、加味逍遥散を代わりに用いることで便秘が改善されることもあります。[5]
のぼせやイライラ、不眠などの不定愁訴があり、いつも排便を苦痛に感じ、残便感があり、大黄含有の漢方薬が合わない方は試してみても良いでしょう。
便秘に効果の期待できる他の漢方薬についても知りたい方はコチラ▼
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加味逍遥散の服用ポイントと注意点
加味逍遥散の効果をきちんと引き出すためには、正しい服用方法で取り入れることが大切です。
ここでは、加味逍遥散を服用する際のポイントや注意点について詳しく解説します。
加味逍遥散の用法・用量
加味逍遥散は定められた量を1日を2~3回に分けて、水または白湯で服用します。
ただし、用法用量は商品や服用者の症状、年齢・体重などによっても異なるため、必ず医師の指導や添付文書の指示に従って服用しましょう。
また服用するタイミングは、通常は食前または食間です。食前とは食事の20~30分前、食間とは食事と食事の間2時間くらいの空腹時を指します。しかし、食前に服用して胃もたれや吐き気を感じる場合は、食後に服用することで症状が軽減されることもあります。
加味逍遥散の注意すべき副作用
加味逍遥散の副作用には、以下のものが報告されています。全て頻度不明なので、起こりにくい副作用と考えられます。[6]
過敏症 | 皮膚のかゆみ、発疹・発赤など |
---|---|
消化器症状 | 吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感 |
過敏症の副作用が出た場合は、すぐに漢方薬の服用を中止し医療機関を受診しましょう。消化器症状が出た場合には、服用のタイミングを食前から食後に変更して様子を見る、それでも症状が変わらない場合は漢方薬が合っていない可能性が考えられるため、服用を中止して医療機関を受診しましょう。
また、重大な副作用としては以下のような症状も報告されています。
偽アルドステロン症・ミオパチー | 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。 |
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肝機能障害 | 発赤、かゆみ、皮膚・白目が黄色くなる黄疸、褐色尿、全身倦怠感、食欲不振、血液検査でASTやALTγ-GTPなどの著しい上昇などがみられる場合がある。 |
腸間膜静脈硬化症 | 多くは5年以上の長期服用により、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感などの症状がくり返し現れる。 |
気になる症状があれば、すぐに医療機関を受診して検査をすることが大切です。
加味逍遥散の妊娠・授乳中の服用について
「牡丹皮」には血行を強く促進する作用があり、妊婦が服用すると流早産のリスクが高まるため、妊娠中の方は服用を避けましょう。授乳中の方は服用前に一度かかりつけ医に相談しましょう。
加味逍遥散の飲み合わせについて
加味逍遥散は他の医薬品との飲み合わせで、禁忌となる医薬品はありません。
ただし、加味逍遥散には「甘草」や「山梔子」の生薬が含まれており、他の漢方薬と長期併用する場合には注意が必要です。
加味逍遥散の飲み合わせについて、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
加味逍遥散の市販薬について
加味逍遥散は市販でも購入できる漢方薬です。ドラッグストアや薬局で販売されている加味逍遥散の商品には、例えば以下のようなものがあります。
ツムラ漢方24加味逍遙散エキス顆粒
加味逍遥散エキスを有効成分とした漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の1/2量の加味逍遥散エキスを配合しています。2歳以上から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 20包/48包 |
「クラシエ」漢方加味逍遙散料エキス顆粒 [45包]
加味逍遥散エキスを有効成分とした漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の約1/2量の加味逍遥散エキスを配合しています。15歳以上から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 |
内容量 | 45包 |
加味逍遥散の服用でよくある質問
ここでは、加味逍遥散の服用でよくある質問とその回答について、まとめてお伝えします。
加味逍遥散の効果が出るまでどれくらいかかる?効かない・合わない場合は?
効果が出るまでの期間は個人差がありますが、まずは1か月程度、服用を続けたのちに効果を確認することが多いです。1か月以上服用しても症状の改善を感じられない場合は、体質や症状に合っていない可能性もあるため、主治医や薬剤師または登録販売者に相談しましょう。
なお加味逍遥散が合わない場合、例えば以下のように、体質や症状に合わせて他の漢方薬が検討されることもあります。 [1]
・体力消耗が激しく、下半身のだるさや下痢、寝汗の症状があるものの、精神不安はない場合
⇒補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
・神経の高ぶりが激しく、動悸の症状も気になる場合
⇒抑肝散(よくかんさん)
・痩せ型で顔色が悪く、下腹部に圧痛があるが、肋骨下の部分にはそのような痛みはない場合
⇒当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
体質や症状に合う漢方薬の選択についてお悩みの方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。
加味逍遥散を生理前だけ飲んでも効果がある?
加味逍遥散は即効性の期待できる薬ではありません。症状のある生理前後だけでなく一定期間継続して服用することで効果が期待できます。
加味逍遥散のやめどきは?
加味逍遥散を一定期間飲み続け、症状が落ち着いたり、なくなったりした場合にはやめどきと言えます。
加味逍遥散は男性でも服用できる?
「女性の三大漢方薬」の一つとして広く知られる加味逍遥散ですが、男性でも服用できます。実際に自律神経失調症の男性に処方された症例報告もあり、体質に合えば抑うつなどの症状の改善に効果が期待できます。
加味逍遥散を男性に使用する目安の一例として、以下のように紹介されています。
加味逍遥散を男子に用いる目標は、女子に於けると異る所は無いが、性格は大人しく、女性的で、腹証は、たとえ体格がよくても腹壁の緊張弱く、女性のようにふわふわした感じがする
また、日本泌尿器科学会によると、加味逍遥散は男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)の治療に用いられる場合もあります。[7]
男性更年期に効果の期待できる漢方薬について、他にも知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
加味逍遥散を服用すると太るって本当?
一般に、加味逍遥散の服用で太ることはありません。
ただし服用によってイライラや緊張によるストレスが緩和されたり、胃腸の働きが高まって食欲不振が改善したりすることで、元の健康な体重に戻る可能性などは考えられます。
加味逍遥散の肌への効果は?ニキビに効くの?
加味逍遥散は、血行を改善する作用があり、ホルモンバランスの乱れからくるニキビ・肌荒れに対して有効な場合があります。
とくに、冷えのぼせやイライラ、肩こりなどがある方の、生理前に増悪するニキビ・肌荒れに対して効果が期待できます。[8]
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【参考文献】
[1]高山宏世編著 漢方常用処方解説
[2]伊藤美千穂編著 エビデンス・ベース 漢方薬活用ガイド
[3]公益社団法人 日本産婦人科医会
[4]厚生労働科学研究費「更年期障害に対する加味逍遙散のプラセボ対照二重盲検群間比較試験」
[5]萬谷直樹ら(1999)加味逍遥散が奏功した慢性便秘の四例,日本東洋医学雑誌,50(2)275-280
[6]厚生労働科研究費「漢方製剤の安全性確保に関する研究」加味逍遥散の確認票
[7]日本泌尿器学会 LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き
[8]尋常性ざ瘡に対する漢方治療の有用性,Phil漢方(2009)No28,3-7