麻黄湯(まおうとう)は、風邪のひきはじめに広く用いられ、インフルエンザや喘息、こどもの鼻閉塞などにも効果が期待できる漢方薬です。
しかし、服用する際には副作用や、服用の注意点について確認しておくことが大切です。
この記事では、麻黄湯の効果や副作用、よくある質問について薬剤師が詳しく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
麻黄湯とはどんな漢方薬?
まずは麻黄湯の成分や、効果が出る仕組みについて解説します。
麻黄湯の成分
麻黄湯に含まれる成分は以下のとおりです。[1]
・麻黄(まおう):強い発汗・発散作用のほか、鎮咳作用などがあります。
・桂皮(けいひ):体を温めて発汗させる作用や抗炎症作用などがあります。
・杏仁(きょうにん):鎮咳作用や消化管運動促進作用などがあります。
・甘草(かんぞう):抗炎症作用などのほか、上記の生薬の調和をはかる作用があります。
発汗作用のある麻黄と桂皮が組み合わさることで、より強い発汗効果が期待できます。
麻黄湯が効く仕組み
麻黄湯は、普段から体力の充実している方が、風邪をひいたときの初期段階に服用する漢方薬です。人の体では、風邪のウイルスが体内に侵入すると発熱物質が生じて体温が上がり、さらに一定以上まで発熱するとウイルスを死滅させます。[1]
しかし、人の力で体温を上げるのには限界があります。そこで有用なのが麻黄湯です。麻黄湯を服用することで一時的に体温の上昇を促し、発汗につなげるため、その後自然と熱が下がります。[1]
麻黄湯の効果とは
麻黄湯を服用すると、以下の効果が期待できます。
風邪のひきはじめ
麻黄湯は、風邪のひきはじめで悪寒や発熱、身体のふしぶしの痛み、鼻づまりや咳などの症状がある場合に効果があります。[2]
麻黄湯は風邪の初期に活用することで効果が期待できるため、風邪をひいたらできるだけ早く服用しましょう。
風邪は、服用者の症状や体質、進行度合いによって選択するべき漢方薬が異なります。さらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
初期のインフルエンザ
麻黄湯は、初期のインフルエンザにも効果の期待できる漢方薬です。
麻黄湯がインフルエンザに効く作用機序についてはまだ完全には明らかにされていませんが、配合生薬の麻黄に含まれるタンニンや、桂皮に含まれるケイアルデヒドがインフルエンザウイルスの増殖を抑制すると考えられています。 [2]
迅速検査キットでインフルエンザと診断された患者さまを対象とし、麻黄湯を服用したグループと他の処方薬を服用したグループに分けた研究によると、麻黄湯を服用したグループのほうが解熱時間が有意に短縮したという研究報告もあります。[3]
麻黄湯以外でインフルエンザ治療の効果が期待できる漢方薬とその選び方についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
こどもの鼻閉塞
麻黄湯は、上述のとおり感冒の鼻づまりに効果がありますが、こどもの鼻閉塞の治療にも広く用いられます。
鼻症状を訴えて受診した男児・女児を対象とした研究によれば、麻黄湯の服用で鼻閉塞の客観的指標である鼻腔最小断面積と鼻腔容積が有意に増加したことが報告されています。[2]
さらに別の研究では、生後3~6ヶ月の乳児56例を対象に麻黄湯を投与することで、48例に鼻閉塞の改善傾向が認められたとの報告もあります。[4]
鼻水・鼻づまりに効く漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
喘息
麻黄湯は、喘息の発作を抑える効果もあります。麻黄に含まれるエフェドリンには、気管支を拡げて呼吸を楽にする作用があるためです。[5]
喘息動物モデルを研究対象とした麻黄湯の評価によるとマウス気道炎症に対して、麻黄湯が有効だったことがわかっています。[6]
気管支喘息に効く漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
漢方薬の服用や選び方について、お悩みの方はYOJOの薬剤師にお気軽にご相談ください。
麻黄湯の飲み方のポイント
麻黄湯の服用を検討する際は、飲むタイミングや、自分に向いているかを確認したうえで判断しましょう。
麻黄湯を飲む回数とタイミング
麻黄湯は定められた量を1日2~3回に分けて、水または白湯で服用します。
ただし、用法用量は商品や服用者の症状、年齢・体重などによっても異なるため、必ず医師の指導や添付文書の指示に従って服用しましょう。
また服用するタイミングは食前または食間です。食前とは食事の20~30分前、食間とは食事と食事の間2時間くらいの空腹時を指します。
麻黄湯の服用が向いている人・向いていない人
麻黄湯は、普段から体が丈夫で、体力が充実した人に向いています。とくに、
・風邪などで発熱した場合の初期状態で、頭痛・発熱・寒気・腰痛・四肢の関節痛などがあり、自然発汗がない場合
・息を吸うときや吐くときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音がなる状態(喘鳴:ぜいめい)のある場合
・乳幼児で風邪や鼻閉塞の症状がある場合
に向いているでしょう。
一方で、虚弱体質の方やすでに汗をしっかりかいている方は、麻黄湯の服用で症状が悪化したり、発汗過多で脱水症状を引き起こしたりする可能性があるため注意しましょう。
麻黄湯の類似処方とその違い
麻黄湯とよく似た処方の例として、葛根湯と麻黄附子細辛湯違いがあります。ここでは、これらの類似処方との違いについて解説します。
麻黄湯と葛根湯の違い
葛根湯は、麻黄湯と同じく初期の風邪に広く用いられる漢方薬です。
葛根湯と比較すると、麻黄湯は体を温める作用がより強いとされています。
風邪などの症状が強く出ており、筋肉痛や関節痛がある場合には、麻黄湯の服用がおすすめです。
葛根湯の飲み方や副作用などについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もお読みください。
麻黄湯と麻黄附子細辛湯の違い
麻黄附子細辛湯は、麻黄湯と同じく、風邪や鼻炎、気管支喘息などの症状に用いられる漢方薬です。
麻黄湯は上述のとおり、体力が充実している人や、すぐに体を温めて発汗できるこどもに向いている漢方薬です。
一方で、麻黄附子細辛湯は、体を温める力がない虚弱体質の人に向く処方です。普段の日常生活に支障のない、十分な体力のある方は、麻黄湯の服用をおすすめします。
麻黄湯を服用する際の注意点
麻黄湯には、服用する際に確認すべき副作用や注意点があります。服用する前に以下のポイントを押さえておきましょう。
麻黄湯の副作用
麻黄湯の服用により、以下の副作用が報告されています。これらは頻度が不明のため発生は稀ですが、気になる異常を感じた場合は、服用を一旦中止し、医療機関を受診してください。
・偽アルドステロン症
手足のだるさやしびれ、つっぱり感、こわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなるような症状が現れることがあります。
・ミオパチー
脱力感、筋力低下、筋肉痛、手足のけいれん・麻痺、赤褐色の尿が現れることがあります。
・その他の副作用
種類 | 症状 |
泌尿器 | 排尿障害など |
消化器 | 胃部不快感・食欲不振・嘔吐・悪心など |
自律神経系 | 動悸・頻脈・不眠・発汗過多・精神興奮・全身脱力感など |
過敏症 | 発疹・掻痒・発赤など |
麻黄湯の注意すべき飲み合わせ
麻黄湯と飲み合わせが悪い(禁忌)医薬品はありません。
しかし、麻黄湯には「甘草」が含まれているため、他の漢方薬と併用する場合は「甘草」の量が増えないように、重複に注意しましょう。
例えば、甘草や類似成分が含まれる薬には、以下のようなものがあります。
・甘草含有製剤
(例)芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散など
・グリチルリチン酸およびその塩類を含有する製剤
(例)グリチルリチン酸一アンモニウム、グリシン、L-システイン、DL-メチオニン配合錠など
また、以下の薬と併用する場合、交感神経が刺激されやすくなり、頻脈や発汗過多、不眠、全身脱力感、動悸などが起こる場合があります。
併用する場合は、一度医師や薬剤師に相談しましょう。[7]
・麻黄含有製剤
(例)小青竜湯、葛根湯、麻黄附子細辛湯など
・エフェドリン含有製剤
(例)エフェドリン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩など
・モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤
(例)セレギリン塩酸塩、ラサギリンメシル酸塩など
・甲状腺治療薬
(例)チロキシン、リオチロニンなど
・キサンチン系製剤
(例)テオフィリン、ジプロフィリンなど
麻黄湯の飲み合わせについてさらに具体的に知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
妊娠や授乳中の麻黄湯の服用について
麻黄湯には発汗を促す「麻黄」が含まれており、胎盤への血流を妨げる可能性があるため、妊娠中の服用は避けましょう。[8]
また、授乳中の服用についても、乳汁中に麻黄の成分が移行する可能性が考えられることから、有益性を考慮して慎重に判断することが大切です。授乳中に服用する場合には、ほてりや興奮などの症状はないか赤ちゃんの様子を慎重に観察しながら、かかりつけ医の指示に従って取り入れるようにしましょう。
こどもや高齢者の麻黄湯の服用について
麻黄湯に限らず漢方薬をこどもが服用する場合は、年齢や体重、症状などによって、成人の1/4以下~2/3で用いられることが多いです。[9]
また、高齢の方についても、加齢にともない体の機能が低下している場合が多いため、効果が強く出てしまう可能性があります。とくに麻黄には、血管や心臓に負担をかけるエフェドリンが含まれているため、体力が低下した高齢者の服用には注意が必要です。
麻黄湯を服用する際には、医師や添付文書の指示に従って服用しましょう。
麻黄湯の市販薬
麻黄湯は市販で購入できる漢方薬です。病院を受診する時間が取れない方や、まずは麻黄湯が自分に合うか市販で試してみたい方に向けて、商品をご紹介します。
ツムラ漢方麻黄湯エキス顆粒
1日2回服用の顆粒タイプ
麻黄湯エキスを有効成分とした顆粒剤タイプの漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の1/2量の麻黄湯エキスを配合しています。2歳以上の方から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力充実して、風邪のひきはじめで寒気がして頭痛・発熱があり、咳が出て身体のふしぶしが痛く、汗が出ていないものの次の諸症:感冒・鼻かぜ・気管支炎・鼻づまり |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 20包 |
麻黄湯エキスEX錠クラシエ
1日3回服用の錠剤タイプ
麻黄湯エキスを有効成分とした錠剤タイプの漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の2/3量の麻黄湯エキスを配合しています。5歳以上の方から服用できます。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力充実して、風邪のひきはじめで寒気がして頭痛・発熱があり、咳が出て身体のふしぶしが痛く、汗が出ていないものの次の諸症:感冒・鼻かぜ・気管支炎・鼻づまり |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水またはお湯にて服用。 成人(15歳以上):1回2錠 15歳未満5歳以上:1回1錠 |
内容量 | 36錠 |
麻黄湯の服用でよくある質問
これから麻黄湯の服用を検討する方に向けて、麻黄湯に関するよくある質問・回答をご紹介します。
麻黄湯はコロナに効きますか?
麻黄湯は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して適応はありません。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高熱に麻黄湯が有効であった症例が報告されていますが、あくまで一例であり、麻黄湯の効果メカニズムに関しては今後も調査が必要とされています。[10]
麻黄湯は喉の痛みに効きますか?
麻黄湯を発症初期に服用することで、喉の痛みを改善する効果も期待できます。
発症後数日経過したのちの喉の痛みには、消炎鎮痛薬やトラネキサム酸などを用いると良いでしょう。
麻黄湯で体温はどれくらい上がるのですか?
体温がどれくらい上がるかについては、個人差があります。ただし、発汗に伴って自然と下がっていくため、過度に心配する必要はありません。
また、解熱剤と一緒に飲んでしまうと麻黄湯の効果が減弱する可能性も考えられるため、併用する場合は医師や薬剤師に一度確認しましょう。
風邪やインフルエンザの初期には麻黄湯を正しく服用しよう
これから冬に向けて、風邪やインフルエンザが流行します。
麻黄湯は、体力が充実している方が、感染の初期段階で服用した場合に効果を発揮する漢方薬であるため、適切なタイミングで服用することが大切です。また、麻黄湯を飲む際は、副作用や注意点をふまえ、用法用量に従って服用しましょう。
YOJOでは、体質や症状に合った漢方薬の選び方について、薬剤師からアドバイスが受けられます。なかなか改善されない不調に悩んでいる方は、YOJOの薬剤師に相談するのも良いでしょう。
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【参考文献】
[1]岡山大学病院薬剤部 薬の窓口
[2]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版
[3]鍋島 茂樹(2013)インフルエンザにおける麻黄湯の臨床効果とその作用機序
[4] 公益社団法人 福岡県薬剤師会,事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2005年1月)
[5] 北里大学 気管支ぜんそくは発作に麻黄を処方
[6] 麻黄含有漢方方剤の気管支ぜん息治療効果に対する免疫学的な機序解明およびその活性物質の探索
[7]医薬品情報 医療用医薬品 : 麻黄湯
[8]公益社団法人福岡県薬剤師会,妊婦への投与に注意が必要な漢方薬
[9]株式会社ツムラ 小児の漢方薬服用
[10]鍋島茂樹ら(2021),新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高熱に麻黄湯が有効であった一例,日東医誌72.No2.207-207