後鼻漏の漢方治療とは?症状・体質別の選び方を解説

鼻をつまむ女性

後鼻漏(こうびろう)は、鼻からのどにかけて鼻水が流れることで、不快感が続く病気です。

漢方薬で後鼻漏を治療するには、のどに落ちている鼻水の状態や、鼻づまり・咳はあるかなどを考慮して処方を選択します。主な漢方薬としては、以下のようなものがあります。

・小青竜湯(しょうせいりゅうとう):サラサラした鼻水がのどに落ちる方に効果
・葛根湯(かっこんとう):鼻づまりがつらい方に効果
・辛夷清肺湯(しんいせいはいとう):熱感や鼻の乾燥を伴う鼻づまりがある方に効果
・荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう):粘っこい鼻水がのどにたまって吐き出せない方に効果
・麦門冬湯(ばくもんどうとう):のどが乾燥して空咳が出る方に効果

この記事では、後鼻漏に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。なかなか改善しない症状に悩んでいる方はYOJOの薬剤師にも相談できます。

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後鼻漏と漢方の処方とは

漢方生薬

後鼻漏は一般に西洋薬を中心として治療を行いますが、漢方薬を併用することで治療効果を高められる場合もあります。
ここでは、後鼻漏と漢方の処方について解説していきます。

後鼻漏とはどんな病気?

鼻とのどの構造について

私たちの体では、図のように鼻の後方はのどへとつながっています。
後鼻漏は鼻の中で過剰に分泌された鼻水が、鼻腔(鼻の穴)から排出されずにのどの方へと流れ込んでしまう病気です。

鼻水はサラサラしていたり、粘っこかったり、膿のような状態であったりと様々ですが、患者さんは鼻水がのどの奥に流れ込む時にひっかかるような違和感を覚えます。鼻をいくらかんでも鼻水が外に出ず、口から吐き出すか飲み込むしかないために不快感がとても大きい病気です。

鼻水の症状以外には、のどの違和感や咳・痰、頭重感、口臭などがあります。
また、悪化すると人によっては食事や睡眠にも支障をきたし、QOL(生活の質)が下がることから早めの治療が推奨されます。

後鼻漏が起こる原因とは

後鼻漏が起こる原因には大きく3つあります。

副鼻腔炎・蓄膿症

副鼻腔炎は、副鼻腔と呼ばれる鼻の周囲にある空洞の粘膜に炎症が起こる病気です。発症から4週間以内の場合は「急性副鼻腔炎」、症状が3か月以上続く場合は「慢性副鼻腔炎」と診断されます。一般に慢性副鼻腔炎は「蓄膿症」と呼ばれることもあります。
副鼻腔炎では炎症を起こして発生した膿が鼻の中にたまり、多量の粘っこい鼻水となります。それがのどの奥へと流れ込むことで後鼻漏の主な原因となります。

副鼻腔炎と漢方治療についてさらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎は、アレルゲンが鼻粘膜から侵入して免疫反応が起こることで、鼻水や鼻づまり・くしゃみなどの症状を引き起こす病気です。
基本的にサラサラした鼻水が出ますが、鼻粘膜の炎症が悪化した場合には、副鼻腔炎や蓄膿症を発症して粘っこい鼻水が出ます。

アレルギー反応が強く出て鼻粘膜が腫れることで鼻づまりが起こった結果、分泌された鼻水が鼻腔から排出されずにのどの奥へと流れ込み、後鼻漏になることがあります。

アレルギー性鼻炎と漢方治療についてさらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

風邪

風邪やインフルエンザのような感染症では、鼻の奥やのどの粘膜に細菌やウイルスが付着して炎症を引き起こすことがあります(上咽頭炎)。

その際に、上咽頭の粘膜が腫れたり粘調性のある分泌物が付着したりして、のどの奥へと流れ込むことで後鼻漏になる場合もあります。

風邪と漢方治療についてさらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

後鼻漏と漢方治療の考え方

漢方医学では、後鼻漏を「痰飲(たんいん)」の状態であると考えます。痰飲とは、体の中の水代謝が滞って余分な水分がたまっている状態です。後鼻漏の漢方治療では、水の巡りを整えることで痰飲の状態を改善していきます。

さらには、鼻水の色や状態(サラサラ・ネバネバなど)、服用する方の体質も加味して処方が決定されます。

例えば、サラサラとした透明な鼻水が出る、体の冷えがある「寒痰(かんたん)タイプの方には、「麻黄(まおう)」や「乾姜(かんきょう)・生姜(しょうきょう)」のような温める作用をもつ生薬が配合された漢方薬を選びます。

一方で、鼻をかむと黄色いネバネバした鼻水が出る、鼻がつまって頭がぼうっとするというような「熱痰(ねったん)」タイプの方には、「石膏(せっこう)」や「黄芩(おうごん)」のような熱を冷ます作用をもつ生薬が配合された漢方薬を選ぶと良いでしょう。

後鼻漏に効果のある漢方薬とは

漢方薬

では、後鼻漏の治療に使用される漢方薬には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは5種類の漢方薬についてご紹介します。 [1] [2]

サラサラした鼻水がのどに落ちる方に】 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

小青竜湯は、体を温めながら水の巡りを整える作用のある漢方薬です。主薬の「麻黄」には体を温めて発汗を促す作用や咳を鎮める作用があります。さらに体を温め痰飲を改善する「乾姜(かんきょう)」や、抗炎症・諸薬を調和する作用をもつ「甘草(かんぞう)」など8種類の生薬から構成されています。
後鼻漏でサラサラした鼻水や痰、咳が出る方に用いられます。

服用がおすすめの人
体力は中等度からやや虚弱体質
で、水様の痰を伴う鼻水や咳の症状がある人におすすめの漢方薬です。風邪や花粉症、アレルギー性鼻炎などの治療にも広く用いられます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの重大な副作用が起こりやすくなる可能性があります。
心臓や血管系に病気や既往歴のある方は注意しましょう
「麻黄」の交感神経刺激作用で、副作用として不眠発汗過多、全身脱力感、動機・頻脈、精神興奮などを引き起こす可能性があります。また、一部の咳止めには麻黄と似た作用をもつお薬があるため、併用する場合には注意しましょう。
間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
麻黄、桂枝、細辛、半夏、五味子、芍薬 、乾姜、甘草

小青竜湯の他の薬との飲み合わせについて気になる方はこちら▼の記事もお読みください。

【 鼻づまりがつらい方に 】葛根湯(かっこんとう)

葛根湯は、体を温めることで免疫力を高めたり、血行を良くして冷えを改善したりする作用のある漢方薬です。
漢方では体が冷えて余分な水がたまると、その余った水が鼻におよんで血行が滞り、鼻の通りが悪くなると考えます。

葛根湯は、後鼻漏で鼻づまりや冷えの症状がある方に用いられます。また、鼻づまりに有効な「辛夷(しんい)」や頭痛を抑える効果をもつ「川芎(せんきゅう)」が配合された葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」も後鼻漏の治療には多く用いられます。

服用がおすすめな人
自然発汗のない体力が中等度以上の人
におすすめの漢方薬です。風邪や鼻かぜ、副鼻腔炎などにも広く使用されます。

服用の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
不眠、発汗、動悸、精神興奮などの副作用が起こる可能性があります
配合生薬の「麻黄」には交感神経作用をもつエフェドリン類が含まれるために心臓や血管に負担をかける可能性があります。高血圧、心臓病、腎臓病、甲状腺機能障害のある人は服用前に医師・薬剤師に相談しましょう。また、一部の咳止めや甲状腺の機能を補う薬などには麻黄と似た作用をもつお薬があるため、併用する場合には注意しましょう。
肝機能障害に注意しましょう
肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
葛根・麻黄・桂枝・芍薬・甘草・大棗・生姜

葛根湯と他の薬との飲み合わせについて気になる方はこちら▼の記事もお読みください。

【熱感や鼻の乾燥を伴う鼻づまりがある方に】辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

辛夷清肺湯は、こもった熱を発散させる作用や呼吸器を潤す作用をもつ漢方薬です。熱を冷ます作用のある「黄芩・石膏」、鼻の通りを良くする「辛夷」など9種類の生薬が配合されています。
炎症による熱感があり、膿粘性の鼻水や鼻づまり、頭重感を伴うような場合の後鼻漏に用いられます。

服用がおすすめの人
体力中等度以上で、熱感を伴うようなドロッとした黄色い鼻水が出る人
鼻づまりがつらい人におすすめの漢方薬です。蓄膿症や慢性鼻炎にも用いられます。

服用上の注意
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。
間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
辛夷、枇杷葉、升麻、知母、麦門冬、百合、石膏、黄芩、山梔子

【粘っこい鼻水がのどにたまって吐き出せない方に】荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)

荊芥連翹湯は、余分な熱を冷まして粘膜の炎症を抑え、鼻の通りを良くする作用のある漢方薬です。熱を冷ます作用の強い「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」と、血液を補い血の巡りを良くする「四物湯(しもつとう)」を主軸に作られた漢方薬です。
後鼻漏で、ネバネバした鼻水が出て、皮膚炎やニキビなどを併発している場合に用いられます。 

服用がおすすめな人
体力は中等度以上で皮膚の色は浅黒く、手足の裏に脂汗をかきやすい人におすすめの漢方薬です。炎症を起こしやすく慢性化しやすい人に向きます。副鼻腔炎や慢性鼻炎、ニキビの治療などにも広く用いられます。

服用上の注意
複数の漢方を服用する場合は注意しましょう

「甘草」が含まれており、複数の漢方を服用している場合は重複して副作用が起こりやすくなります。
間質性肺炎や肝機能障害の副作用に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
長期服用に注意しましょう
「山梔子」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。

配合生薬
黄芩、黄柏、黄連、桔梗、枳実、荊芥、柴胡、山梔子、地黄、芍薬、川芎、当帰、薄荷、白芷、防風、連翹、甘草

【痰が切れにくく、のどが乾燥して空咳が出る方に】麦門冬湯(ばくもんどうとう)

高齢になると鼻や上咽頭の粘膜が乾燥しやすくなって、後鼻漏感が起こることがあります。
麦門冬湯は、のどを潤して咳を鎮める漢方薬です。痰の少ない咳や切れにくい粘稠な痰を伴う咳にも効果が期待できます。

配合生薬の「麦門冬」は、代表的な潤性薬の一つで、胃と肺の気を補うと共に津液(水)を生じさせる作用があります。「半夏(はんげ)」は胃気を開通し、こみ上げる咳や吐き気を鎮めます。

服用がおすすめの人
体力中等度以下で、痰が切れにくく咳込んでしまう人やのどの乾燥感がある人におすすめの漢方薬です。気管支炎や喘息、咽頭炎、しわがれ声の治療にも用いられます。

服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症・ミオパチーなどの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。

配合生薬
麦門冬湯、半夏、人参、大棗、甘草、粳米

麦門冬湯と他の薬との飲み合わせについても気になる方はこちら▼の記事もお読みください。

体質や症状に合った漢方薬の選び方に悩まれている方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。

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市販の漢方薬と医療用漢方薬の違いはあるの?

ドラッグストアで薬を選ぶ女性

後鼻漏に効果の期待できる漢方薬には、薬局やドラッグストアで販売されている市販薬も多くあります。
漢方薬に配合されている成分の種類は、「市販薬」と「医療用医薬品」で基本的に違いはありません。ただし、市販薬は不特定多数の方が服用することから、安全性が考慮されて生薬エキスの配合量が医療用医薬品よりも少ない場合があります。また、症状や体質に合わない漢方薬を選んでしまうと、効果が現れなかったり、症状が悪化してしまったりする可能性もあるため注意が必要です。

上述のとおり、後鼻漏は重症化すると、その不快感から食欲不振や不眠を引き起こしたり、咳や痰、口臭などが気になって人に会うのが億劫になる、仕事や勉強に集中できなくなったりするなど、生活の質(QOL)が著しく低下してしまいます。
後鼻漏の症状がなかなか改善しない場合は、早めに医療機関を受診・相談しましょう。

後鼻漏におすすめの養生法

息を吸い込む女性

ここでは薬の服用以外でできる後鼻漏の養生法についてお伝えします。

風邪などの感染症にかからないように注意する

マスクを着用

後鼻漏は、副鼻腔炎や風邪などがきっかけで起こる場合が多いです。そのため、免疫力の維持が結果的に、後鼻漏を予防することにつながります。
日頃から栄養バランスのとれた食事や適度な運動を意識することで、免疫力を低下させないようにしましょう。また、マスクの着用も感染予防・アレルギー対策に効果的です。

鼻うがいをする

鼻うがいをする人

鼻うがい(鼻洗浄)とは、鼻から生理食塩水を注入して鼻の中の鼻水や膿、細菌・ウイルスや花粉などの異物を取り除く方法です。
鼻うがいを正しく行うことで、後鼻漏の原因となる副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、風邪などに対して予防や症状緩和の効果が期待できるとされています。

鼻うがいのPoint!
鼻うがいは水道水で行うと、鼻に水が入った時にツーンとした痛みを感じます。
鼻うがいは水道水ではなく、体液と同じ浸透圧である0.9%の生理食塩水や専用の洗浄液を用いて行いましょう!

鼻うがいのやり方
①前かがみの状態で「あー」と声を出しながら、洗浄液を鼻に流し込む。
②流し込んだ洗浄液を、反対の鼻の穴から出す。

③洗浄後は片方ずつ鼻をやさしくかんで、残った洗浄液を出す。

YOJOでは、体質に合った漢方薬の選び方や生活習慣を改善するためのアドバイスなども薬剤師から受けることができます。なかなか改善されない不調に悩んでいる方は、YOJOの薬剤師に相談するのも良いでしょう。

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【参考文献】
[1]高山宏世編著 漢方常用処方解説
[2]後鼻漏情報サイト 後鼻漏ナビ