男性の更年期症状には、腎の機能を高める処方や気力を補う補気剤、気の巡りをを整える理気剤などの処方が用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。
・八味地黄丸(はちみじおうがん):疲労感や下半身機能の衰えが気になる方に
・牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):下半身機能の衰えや夜間頻尿が気になる方に
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):食欲不振で疲れがとれず元気がない方に
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):気持ちがふさいでのどの詰まりがある方に
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):イライラや精神不安でよく眠れない方に
この記事では、男性更年期障害に効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
Contents
男性更年期障害とは
男性更年期障害とは、男性ホルモン(テストステロン)の減少により起こる加齢現象で、加齢性腺機能低下症やLOH症候群とも呼ばれます。
女性の更年期障害が閉経前後のおよそ10年間に起こるのに対して、男性の更年期障害の発症しやすい時期はとくに決まっておらず、40代以降になると誰にでも起こり得る疾患です。[1]これは加齢による性ホルモンの減少が、女性と比較して男性の方が穏やかであることが原因であると考えられています。
女性の更年期障害についてさらに知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
男性更年期障害の症状とは
更年期には不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれる不快な症状が現れやすくなります。男性更年期障害で起こりうる不定愁訴には、以下のような身体症状や精神症状、性機能症状があげられます。[2]
身体症状 | 疲労感、頻尿、脱毛、発汗やのぼせ(ホットフラッシュ)、肥満やメタボリックシンドローム、関節痛や筋肉痛など |
精神症状 | イライラ、気分の落ち込み、不安、神経過敏、意欲の低下、集中力・記憶力の低下など |
性機能症状 | ED、性欲低下など |
女性の更年期障害と比較すると、男性の場合はホットフラッシュなどの血管運動神経症状で悩む例は少なく、性機能症状や抑うつなどの精神症状として発現する場合が多いです。[3]女性のように閉経がないため、男性の更年期は見逃されがちですが、この時期にはうつ病を発症してしまう男性も多いため、心身の健康管理には注意が必要です。
男性更年期障害のセルフチェックと治療法とは
日本内分泌学会によると、男性更年期は以下の簡単なセルフチェックで、更年期の可能性があるかを確認することができます。
【男性更年期のセルフチェック】
□1.最近、元気がなくなってきた
□2.体力あるいは持久力の低下がある
□3.身長が低くなってきた
□4.「日々の楽しみ」が少なくなったと感じる
□5.もの悲しい、または怒りっぽい
□6.運動する能力が低下した
□7.夕食後にうたた寝をすることがある
□8.作業の能力が低下した
□9.勃起力が弱くなった
□10.性欲の低下がある
9と10にチェックした、または3つ以上にチェックが入った場合には、男性更年期の可能性があります。症状が悪化する前に早めに医療機関を受診しましょう。
また、体調が明らかに悪く、血液検査で男性ホルモンの低下が認められた場合には、男性ホルモン補充法(筋肉注射)のほか、症状に合わせて抗うつ薬や骨粗鬆症治療薬、ED治療薬などが処方されることがあります。
男性更年期障害と漢方治療
検査の結果、男性ホルモン値があまり低くなく、更年期症状の軽い場合には生活習慣の改善とともに漢方薬で治療が行われる場合もあります。
漢方医学では、女性の体が7年の周期で変化していくのに対し、男性は8年の周期で変化すると考えられています。生命エネルギーを貯蔵するとされる「腎」の働きが加齢とともに衰えて「腎虚(じんきょ)」の状態へと陥ります。
そのため男性の更年期障害には、腎虚を補い精力や下半身機能の衰えに効果の期待できる処方や、体力や気力を補う処方が多く用いられます。また男性の更年期障害に多い精神症状には、気の滞りや気うつを改善してイライラや気分の落ち込みを緩和する処方が用いられます。
男性更年期に効果の期待できる漢方薬5選
ここでは、男性更年期障害に効果の期待できる具体的な漢方薬5選と、体質や症状に応じた選び方や服用の注意点についてお伝えします。
【疲労感や下半身機能の衰えが気になる方に】八味地黄丸(はちみじおうがん)
八味地黄丸は、腎虚の代表的処方であり、加齢などで腎の働きが低下することで起こる症状に多く用いられる漢方薬です。
補血・強壮作用や利尿作用のある生薬など8種類の生薬から構成されています。中年以降から高齢者に頻用される処方で、性機能障害や男性不妊症、頻尿や残尿感、脱毛症、腰痛などの男性更年期で起こる症状に効果が期待できます。[4]
服用がおすすめの方
体力中等度以下で、下肢の冷えや疲れやすさ、尿量減少または頻尿があり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
附子の副作用に注意しましょう
配合生薬の「附子(ぶし)」は、過剰に摂取すると中毒症状(ほてり・熱感・悪心嘔吐・しびれ・不整脈・めまい)を起こす可能性があるため、注意が必要です。
胃腸症状に注意しましょう
配合生薬の「地黄(じおう)」が食欲不振を現しやすいため、胃腸虚弱な方は注意しましょう。
配合生薬
地黄、山茱萸、山薬、茯苓、沢瀉、牡丹皮、桂皮、附子
八味地黄丸の効果や他の薬との併用について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【下半身機能の衰えや夜間頻尿が気になる方に】牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
牛車腎気丸は、八味地黄丸に腎の働きを補う「牛膝(ごしつ)」と利水作用のある「車前子(しゃぜんし)」を加え、「附子(ぶし)」を増量した処方です。
そのため、八味地黄丸と効果が似ていますが、腎虚に伴う尿トラブル(とくに夜間頻尿)やむくみの症状がより強い場合に、牛車腎気丸がよく選択されます。 [4]
服用がおすすめの方
体力中等度以下で、足腰や泌尿生殖機能などの下半身機能の衰えや冷え、尿量減少、下肢の強いむくみがあり、ときに口渇がある方におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
附子の副作用に注意しましょう
配合生薬の「附子」は、過剰に摂取すると中毒症状(ほてり・熱感・悪心嘔吐・しびれ・不整脈・めまい)を起こす可能性があるため、注意が必要です。
胃腸症状に注意しましょう
配合生薬の「地黄(じおう)」が食欲不振を現しやすいため、胃腸虚弱な方は注意しましょう。
配合生薬
地黄、山茱萸、山薬、牛膝、車前子、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子
【食欲不振で疲れがとれず元気がない方に】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は、胃腸機能を高めながら全身の気力を補う作用があります。
体力や消化器機能が低下した方に用いられる代表的な補気剤です。更年期に見られる食欲不振や全身倦怠感、ED、多汗症などの症状に効果が期待できます。[4]
服用がおすすめの方
虚弱体質で元気が無く、胃腸の働きが衰えている方におすすめの漢方薬です。
特に手足の倦怠感や、無気力が顕著である場合に向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
配合生薬
人参、柴胡、黄耆、白朮または蒼朮、当帰、升麻、生姜、陳皮、大棗、甘草
補中益気湯の効果や他の薬との併用について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【気持ちがふさいでのどの詰まりがある方に】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
半夏厚朴湯には、気の巡りを良くして、不安や気持ちの落ち込みを緩和する作用があります。
気持ちがふさいで精神不安や睡眠障害など、更年期の精神症状を訴える場合に効果が期待できます。また、精神的なストレスにより自律神経に不調が起こると、のどや食道の筋肉が緊張し、のどの詰まりやお腹の張りを感じることがありますが、このような症状にも半夏厚朴湯は効果的です。
服用がおすすめな方
体力中程度で咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸やめまい、吐き気を伴う方におすすめの漢方薬です。
配合生薬
半夏、厚朴、茯苓、蘇葉、生姜
半夏厚朴湯の効果や他の薬との併用について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【イライラや精神不安でよく眠れない方に】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
柴胡加竜骨牡蠣湯は、気の巡りを整えて心を落ち着かせる作用のある漢方薬です。
精神安定や鎮静作用などのある10種類(メーカーによっては11種類)の生薬から構成されています。そのため、更年期の精神症状や、緊張などの脳の興奮からくる不眠症状に効果が期待できます。また、高血圧や動脈硬化に伴う諸症状や、精神面に関わる動悸や性機能障害にも柴胡加竜骨牡蛎湯は用いられます。
服用がおすすめな方
体力が比較的あり、イライラやストレス、精神不安で眠れない方、肋骨下部に張りがあり胸が苦しい方におすすめの漢方薬です。頭痛や頭重、肩こりなどを伴う場合にも向きます。
服用上の注意
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
下痢・軟便傾向のある方は注意しましょう
製品によっては「大黄(だいおう)」が配合されています。下痢・軟便症状の悪化する可能性があるため注意しましょう。
配合生薬
柴胡、半夏、桂皮、茯苓、黄芩、大棗、人参、牡蛎、竜骨、生姜、(大黄)
不眠に効果の期待できる漢方薬について、他にも知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
ご自身の症状や体質に合った漢方薬の選択について悩まれている方は、YOJOの薬剤師に相談することもできます。
漢方薬の飲み方
漢方薬は、食前(食事の約30分前)か食間(食事と食事の間)の空腹時に服用するのが基本です。ただし、空腹で飲むと胃もたれなどを感じる場合や、食前・食間に飲み忘れた場合には食後に飲んでも構いません。
漢方薬の服用が苦手な方は、オブラートに包んだり、漢方薬専用の服薬ゼリーを利用したりすると良いでしょう。
漢方薬の飲み方について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事をお読みください。
市販で購入できる男性の更年期症状におすすめの漢方商品とは
ここでは、まずは手軽に漢方薬を試してみたい方や病院を受診する時間のない方向けに、市販で購入できる漢方商品をご紹介します。
「クラシエ」漢方八味地黄丸料エキス錠
疲れやすく、下半身の痛みや冷え、尿トラブルが気になる方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿で、ときに 口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、 排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、 頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 |
内容量 | 540錠 |
「クラシエ」漢方牛車腎気丸料エキス錠
下半身の痛み・しびれや尿トラブルが気になる方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少し、むくみがあり、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り) |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 7歳未満5歳以上:1回2錠 |
内容量 | 96錠 |
補中益気湯エキス錠クラシエ
全身の疲労倦怠感が強く食べられない方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒 |
形状 | 錠剤 |
用法・用量 | 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。 成人(15歳以上):1回4錠 15歳未満7歳以上:1回3錠 7歳未満5歳以上:1回2錠 |
内容量 | 48錠 |
ツムラ漢方16半夏厚朴湯エキス顆粒
気持ちがふさいで、のどのつかえ感がある方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、のどのつかえ感 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前に水またはお湯で服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 |
内容量 | 20包/48包 |
ツムラ漢方12柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒
ストレスや不安感で眠れない方に
分類 | 第2類医薬品 |
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効能効果 | 体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴う次の諸症: 高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜泣き、便秘 |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 1日2回食前に水またはお湯で服用。 成人(15歳以上):1回1包 15歳未満7歳以上:1回2/3包 7歳未満4歳以上:1回1/2包 4歳未満2歳以上:1回1/3包 2歳未満:1回1/4包 |
内容量 | 20包/48包 |
男性の更年期障害を改善するために取り入れたい生活養生法とは
最後に、男性の更年期障害の予防や症状緩和に対して、薬の服用以外にできるおすすめ養生法についてお伝えします。
バランスの良い食事を摂る
男性ホルモンの減少により、エネルギーや脂質、骨の代謝なども変化します。40代以降は健康に必要な栄養素をさらに意識して、食事をバランス良く摂取することが大切です。肉よりも魚料理を意識して取り入れ、緑黄色野菜を使った副菜や汁ものを1品ずつ加えることで、バランスも良くなります。飲み物には牛乳などの乳製品を選ぶことでカルシウムが補給できます。外食は多くて1日1回までに控えましょう。
過度の飲酒や塩分の摂取は控える
適量の飲酒であれば問題ありませんが、厚生労働省によると、長期間にわたる多量の飲酒は男性ホルモンの分泌を障害することが分かっています。[5]1日の摂取量はビールであれば中瓶1本、ワインは1/4本程度の量におさえましょう。
また、過剰な塩分の摂取は、高血圧などのメタボリックシンドロームを引き起こす原因になります。1日の食塩摂取量は7.5g未満を目標に、塩分の摂り過ぎには注意しましょう。[6]
ストレスを自覚し疲労をためない
ストレスや疲労も男性ホルモンの分泌を減少させる原因の一つです。
心身に過剰なストレスをかけていないか振り返り、趣味やウォーキングなどの軽い有酸素運動を取り入れることで気分転換をしましょう。また、湯船に浸かってゆっくり体を温めたり、十分な睡眠時間をとることも心がけましょう。
毎朝太陽の光を浴びる
朝日を浴びて体内リズムを整えることで、自律神経のバランスを整えたり、うつ病を予防したりする効果につながります。また1日20分程度の日光浴はビタミンDの合成を促進します。ビタミンDは骨を強くしたり、ステロイドホルモンとして働き男性の性機能に関わったりすることが分かっています。
目が覚めたらカーテンを開け、朝日を浴びる習慣をつけましょう。
YOJOでは症状や体質に合った漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]一般社団法人 日本内分泌学会HP
[2]一般社団法人 北海道薬剤師会 男性更年期
[3]全国健康保険協会 男性更年期障害
[4]伊藤美千穂編著,エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド
[5]厚生労働省e-ヘルスネット アルコールの作用
[6]厚生労働省e-ヘルスネット 栄養・食生活と高血圧