倦怠感や疲れに効く漢方薬は、主に気(エネルギー)や血(血液や栄養素)を補ったり、胃腸の働きを高めたりするような処方が用いられます。代表的な漢方薬としては、以下のようなものがあります。
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう):倦怠感や無気力が顕著な方に効果
・十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):体力や気力が低下し貧血・肌の乾燥もある方に効果
・人参養栄湯(にんじんようえいとう):体力が低下し息切れや咳、精神症状を伴う方に効果
・六君子湯(りっくんしとう):胃腸虚弱で食欲不振や疲労感がある方に効果
・加味逍遙散(かみしょうようさん):血を補い更年期の疲れに効果
この記事では、倦怠感や疲れに効果の期待できる漢方薬やその選び方について、薬剤師が詳しく解説します。体質や症状に合った漢方薬の選択に悩まれている方はYOJOの薬剤師にも相談できますよ。
Contents
漢方で考える倦怠感・疲れとは?
肉体的および精神的に過度な負担がかかると、私たちは「疲れ」を感じて活動量が低下します。さらに慢性的に疲労が続くと身体が重だるく通常の生活が送りにくいと感じるような「倦怠感」をおぼえます。
疲労は、肉体的・精神的な休息を求める体からのサインです。なかなか取れない疲れや倦怠感があるときは、ご自身の心身の状態ときちんと向き合うことが大切です。
疲れを感じる原因
私たちが疲れを感じる原因には以下のようなものがあります。
睡眠不足や偏った食生活などの生活習慣
十分な睡眠や休息の時間を確保しなければ、体力が回復せずに疲労が蓄積されてしまいます。また栄養バランスの偏った食生活が続くと、エネルギー不足や体に必要な栄養素が不足して倦怠感やだるさを感じるようになります。
風邪やインフルエンザなどの病後の回復期
風邪やインフルエンザといった感染症の罹患中はもちろん、回復期にも倦怠感が取れないことがあります。これは、体の中から細菌やウイルスを撃退するために免疫機能が活性化されることで通常よりもエネルギーを消費するためです。また急性期に食欲や消化機能が落ちたまま回復しておらず、エネルギー摂取不足で疲労感を感じることもあります。
精神的なストレスやプレッシャー
肉体的な原因だけでなく、強いストレスやプレッシャーを感じることでも疲れを引き起こします。精神的な負荷がかかり続けることで自律神経のバランスが乱れ、交感神経が優位になり血流の低下を招きます。すると、全身に十分な栄養物質を行き渡らせることができなくなったり、不要な老廃物を体外へと排出できなくなったりするために疲労が蓄積しやすくなります。
更年期や月経周期でのホルモンバランスの乱れ
女性の場合は、更年期や月経周期のホルモンバランスの乱れから倦怠感やだるさを感じることがあります。ホルモンバランスの乱れから自律神経が変調をきたしたり、代謝が低下してエネルギー不足になったりするためです。
更年期の不調といえばホットフラッシュやイライラなどの精神症状を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、厚生労働省の調査結果から「疲れやすさ」の症状を訴える方が多いことが分かります。[1]
YOJOでも40~50代の女性50名に更年期症状の悩みについてアンケートを行ったところ、「疲れやすい」と回答された方が非常に多かったです。
更年期の不定愁訴には漢方薬が有効な治療の選択肢の一つとして、多く用いられています。更年期の症状に効果の期待できる漢方薬についてさらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
漢方では倦怠感や疲れは主に気・血の不足と考える
漢方医学では、気血水の3要素がバランス良く体を巡ることが大事とされており、「気」は生命活動のエネルギー源、「血」は全身を巡る血液やその栄養、「水」は血液以外の体液をさします。
摂取した食物が脾(胃腸)できちんと消化吸収され、気(エネルギー)や血(栄養)が作られることで、私たちは元気に活動することができます。
逆に、胃腸の機能が低下したり、気・血が不足したりすることで疲れや倦怠感が生じてしまうのです。
そこで、漢方では個々の体質に応じて、胃腸機能を改善したり、気・血を補ったりするような処方を選択することで、疲れやすさ・倦怠感の改善に導きます。
食欲が出ずに活力がわかない方にも漢方薬は効果的です。
体質や症状に合った漢方薬の選択が不安な方は、YOJOの薬剤師にも相談できます。
倦怠感や疲れに効く具体的な漢方薬と使い分け
ここでは、倦怠感や疲れに効果の期待できる具体的な漢方薬と、体質や症状別の使い分け、服用の注意点についてお伝えします。
【倦怠感が強く無気力な方に】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯は、気の不足を改善してくれる代表的な補気剤です。胃腸機能を高めて全身の気力を補う働きがあります。
配合生薬の「人参(にんじん)・生姜(しょうきょう)」がからだを温めて全身の新陳代謝を活性化し、胃腸機能の働きを助けます。さらに「柴胡(さいこ)」がストレスを改善して自律神経の働きを整えます。
配合生薬
人参、柴胡、黄耆、白朮、当帰、升麻、生姜、陳皮、大棗、甘草
服用がおすすめな人
虚弱体質で胃腸の働きが衰えている人におすすめの漢方薬です。
からだの新陳代謝が低下して元気が無く、特に四肢の倦怠感や無気力が顕著である場合に向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
重大な副作用として、間質性肺炎や肝機能障害に注意しましょう
間質性肺炎の症状(たとえば発熱、咳、呼吸困難など)や、肝機能障害の症状(たとえば発熱、全身倦怠感、嘔気嘔吐、黄疸など)があらわれた場合は、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
補中益気湯の他の薬との飲み合わせについて、詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【体力や気力が低下し貧血・肌の乾燥がある方に】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
十全大補湯は、病後や術後に体力・気力ともに衰弱した人の気・血を補う働きがあります。滋養強壮作用のほか血行や水分代謝を改善する10種類の生薬が配合されています。貧血や食欲不振も改善するため、抗がん剤の副作用対策としても用いられることのある漢方薬です。[2]
配合生薬
黄耆、桂皮、地黄、芍薬、白朮、川芎、当帰、人参、茯苓、甘草
服用がおすすめの人
貧血で顔色が悪く、皮膚が乾燥し、倦怠感が顕著な人におすすめの漢方薬です。病後・術後で全身消耗し、手足の冷えを訴える場合にも向きます。
使用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
胃腸の弱い人は注意ましょう
「地黄(じおう)・当帰(とうき)」が配合されているため胃腸に負担をかけて胃もたれや胸やけなどの副作用が起こる場合があります。
【体力が低下し息切れや咳を伴う方に】人参養栄湯(にんじんようえいとう)
人参養栄湯は、十全大補湯と同様に気・血の不足を補い体力を回復させる作用があります。
十全大補湯から「川芎(せんきゅう)」が除かれ、「遠志(おんじ)・五味子(ごみし)・陳皮(ちんぴ)」が加えられた処方です。特に遠志には、精神を安らかにする作用があり不安感や健忘などの精神症状に用いられます。[3]
配合生薬
人参、地黄、当帰、白朮、茯苓、桂皮、芍薬、黄耆、甘草、遠志、陳皮、五味子
服用がおすすめの人
衰弱して顔色が悪く、疲れて息切れや咳症状も伴う人におすすめの漢方薬です。精神症状が合併している場合にも向きます。
使用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
胃腸の弱い人は注意ましょう
「地黄(じおう)・当帰(とうき)」が配合されているため胃腸に負担をかけて胃もたれや胸やけなどの副作用が起こる場合があります。
【胃腸虚弱で食欲不振や疲労感がある方に】六君子湯(りっくんしとう)
六君子湯は、気を補って巡りを良くすることで胃腸の働きを高める漢方薬です。
漢方医学では全身的な気虚(=気の不足)を改善するには、脾(胃腸)を元気にすることが大切であるとされています。六君子湯は、漢方で気を補う基本処方である「四君子湯」に鎮吐作用をもつ「半夏(はんげ)」と消化機能改善作用をもつ「陳皮(ちんぴ)」を追加した処方です。
配合生薬
半夏、人参、白朮、茯苓、陳皮、大棗、甘草、生姜
服用がおすすめな人
体力が中等度以下で胃腸が弱く、食欲不振や手足の冷えがある人におすすめの漢方薬です。悪心・嘔吐や下痢傾向の症状を伴う場合に向きます。
服用上の注意
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
肝機能障害の副作用に注意しましょう
無症状も多いですが、発熱、全身の倦怠感、吐き気・嘔吐、黄疸などが出た場合には、服用を中止しすみやかに受診するようにしましょう。
食欲不振に効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。
【更年期などのホルモンバランスの乱れからくる疲れやすさに】加味逍遥散(かみしょうようさん)
加味逍遥散は、血の不足を補うことで気の巡りを改善する働きがあります。そのため更年期のつらい疲れや倦怠感のほか、イライラ・不眠といった神経症状にも効果的です。
配合生薬の「柴胡(さいこ)・薄荷(はっか)」には、気を静めてイライラや緊張をほぐす作用があります。「当帰(とうき)・芍薬(しゃくやく)・牡丹皮(ぼたんぴ)」といった生薬が血行を促進します。
配合生薬
柴胡、芍薬、当帰、茯苓、白朮、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷
服用がおすすめな人
虚弱体質で肩がこり疲れやすく、精神症状やときに便秘傾向のある人におすすめの漢方薬です。
服用上の注意
妊娠中の人は服用を避けましょう
血行を強く促進する作用のある「牡丹皮」は、妊娠中に服用すると流早産のリスクが高まります。
複数の漢方薬を服用する場合は注意ましょう
配合生薬の「甘草(かんぞう)」が重複し、偽アルドステロン症などの副作用が起こりやすくなる可能性があります。
長期服用に注意しましょう
「山梔子(さんしし)」が含まれており、長期服用(多くは5年以上)で大腸粘膜に異常が生じる例が報告されています。
漢方薬以外に倦怠感・疲れにおすすめの養生法とは
倦怠感や疲れを感じる時には、漢方薬の服用だけでなく、生活習慣の改善も非常に大切です。ここでは、おすすめの養生法をご紹介します。
栄養バランスの整った食事を取る
からだの疲れを取るためには、まずは栄養バランスの整った食事を3食きちんと取ることが大切です。
特にビタミンB1やパントテン酸、クエン酸などを積極的に摂取することで疲労回復に必要なエネルギーを効率的に作り出すことができます。また、運動性疲労や精神性疲労に関わらず、疲労には活性酸素が深く関与するとされています。そのため、疲労軽減効果が多く報告されているイミダゾールジペプチドなどの抗酸化作用のある物質を積極的に摂取するのも良いでしょう。 [4]
栄養素 | 多く含まれる食材例 |
---|---|
ビタミンB1 | 豚ヒレ肉、生ハム、うなぎ、たらこ、大豆など |
パントテン酸 | 鶏レバー、豚レバー、牛レバー、納豆、牛乳、ししゃも、アボカドなど |
クエン酸 | レモン、みかん・グレープフルーツ、イチゴ、キウイ、梅干しなど |
イミダゾールジペプチド | 鶏胸肉、かつお、まぐろ、かじきまぐろ、豚ロース肉など |
良質な睡眠を取ってゆっくり休む
良質な睡眠を取って体をゆっくりと休めることは、疲労の回復に大変有効です。
睡眠不足による疲労の蓄積を防ぐためには、まずは必要な睡眠時間を毎日きちんと確保しましょう。個人差はあるものの、睡眠時間は 6 ~8 時間は必要であるとされています。また就寝前 3~4 時間以内のカフェイン摂取は、入眠を妨げたり、眠りを浅くして睡眠の質を妨げたりする可能性があるため、控えます。
さらに睡眠と体温の変化は密接に関係しており、就寝30分~6 時間前の入浴は、入眠や深睡眠の増加を促す効果が報告されています。入浴は40℃程度の熱すぎないお湯で行うことで、精神的なリラックス効果に加え、末梢血管が拡張して、その後の放熱が活発になるために、寝ついてから 90 分前後における深い睡眠を増加させます。一方で、就寝直前に 42℃以上の高温浴を行うと、体温を上昇させすぎてかえって入眠が妨げられることがあるため注意しましょう。[5]
倦怠感や疲れがなかなか取れない場合は、医療機関に早めに相談を
きちんと食事を取って休んでも倦怠感や疲労がなかなか改善しない場合は、他の病気が隠れている場合や、併用薬の副作用の可能性も考えられるため、早めに医療機関に相談するようにしましょう。
例えば、更年期障害や貧血、うつ病、甲状腺疾患、慢性腎臓病などでは体のだるさや倦怠感の症状が見られます。また、薬の重篤な副作用として起こる肝障害では初期症状として全身倦怠感が見られる場合があります。市販薬を含めて起こりうるため、気になる方は早めの検査が大切です。[6]
YOJOでは倦怠感や疲れの症状に効果的な漢方薬の相談だけでなく、生活習慣上のアドバイスなども受けることができます。なかなか改善しない症状に悩まれている方は、一度YOJOの薬剤師に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
[1]厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」基本集計結果(2022 年7月)
[2] 利野靖ら(2013) 胃癌抗癌剤治療中の有害事象に対する十全大補湯投与の経験, 日外科系連会誌 38(1)62–66
[3]人参養栄湯,Phil漢方
[4]渡辺恭良,疲労回復に役立つ栄養、食事
[5]厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014
[6]消費者庁