防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、肥満症やむくみ、多汗症などに効果を発揮する漢方薬です。また、関節リウマチや変形性膝関節症の治療に活用されることもあります。
この記事では、防已黄耆湯の効果や副作用、よくある質問について薬剤師が詳しく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。
Contents
防已黄耆湯とはどんな漢方薬?
防已黄耆湯が効く仕組みや、成分について解説します。
防已黄耆湯が効く仕組み
漢方医学では「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」がバランスよく体内を巡ると、健康維持につながるとされています。
・気:心や体を動かすエネルギー。
・血:血液そのもの・血液に含まれる栄養。
・水:汗や涙、だ液やリンパ液などの血液以外の体液。体全体にうるおいを運ぶもの。
防已黄耆湯を服用すると「水」の巡りが整い、体内の余分な水分が排出されるため、むくみや水ぶとりの改善に効果的です。
また、胃腸機能を高めて「気」(エネルギー)を補うことで、代謝が活性化して肥満症の改善にも役立ちます。
防已黄耆湯の成分
防已黄耆湯の構成生薬は、以下のとおりです。[1]
・黄耆(おうぎ):汗を止める作用がある。
・防已(ぼうい):むくみを取り除く作用がある。
・蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ):胃腸の働きを整えたり体内の余分な水分を取り除いたりする作用がある。
・大棗(たいそう):緊張を和らげたり胃腸の働きを整えたりする作用がある。
・甘草(かんぞう):鎮痛作用や胃腸の働きを整える作用がある。
・生姜(しょうきょう):体を温めたり胃腸の働きを整えたりする作用がある。
防已黄耆湯の効果
防已黄耆湯を服用すると、以下の不調に対する効果が期待できます。該当する方は、防已黄耆湯の服用を検討してみてください。
肥満症
防已黄耆湯には、水分代謝をサポートする効果があるため、肥満症や水ぶとりを改善する効果が期待できます。[2]
運動や食事制限をしてもダイエット効果が得られない場合、体の代謝能力が低下している可能性があります。このような場合に防已黄耆湯を服用することで、水分代謝や胃腸機能が向上し、代謝が上がって痩せやすい体に近づけるでしょう。
防已黄耆湯以外にも、肥満症治療の効果が期待できる漢方薬やその選び方についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
むくみ
防已黄耆湯には、体内の余分な水分を排出させる作用があるため、体全体の「水」の巡りが良くなり、むくみの改善が期待できます。
むくみがある女性を対象にした臨床試験では、防已黄耆湯の投与により、むくみの症状が軽減した例も報告されています。[3]
防已黄耆湯以外でむくみを解消できる漢方薬と、その選び方についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。
多汗症
防已黄耆湯には汗を止める作用をもつ黄耆が含まれており、白朮と組み合わせることで止汗作用が強まるため、多汗症の治療にも用いられます。[1][2]
ただし、発汗の中でも精神性の発汗には効果が得られにくいことがわかっています。[4]
こちら▼の記事では、ストレスや緊張などに起因する発汗が気になる方におすすめな漢方薬をご紹介しているため、ぜひお読みください。
関節リウマチ
関節リウマチとは、関節内の「滑膜」と呼ばれる組織が増え、炎症が起こる疾患です。症状としては、関節の痛みに加え、微熱や貧血、全身のだるさなどが挙げられます。
防已黄耆湯には、関節の炎症を緩和する防已が含まれており、関節リウマチの改善にも効果が期待できます。[2]
変形性膝関節症
変形性膝関節症とは、主に加齢が原因で膝関節の軟骨がすり減り、膝に水が溜まったり痛みが出たりする疾患です。症状が進行すると、膝がまっすぐに伸ばせず歩行が困難になるリスクもあります。
防已黄耆湯を服用することで、利尿作用によって膝に溜まった水を排出したり、抗炎症作用により膝の炎症を改善したりする効果が期待できます。
変形性膝関節症の患者さま17例を対象にした臨床試験によると、76.5%の方に中等度以上の疼痛(痛み)の改善効果が見られ、軽度改善を含めると88.2%の方に効果が認められたという症例報告もあります。[5]
防已黄耆湯の服用が向いている人
防已黄耆湯が向いている人の特徴は、主に以下のとおりです。[2]
・体力があまりない
・色白で筋肉がやわらかい
・水ぶとり体質である
・汗をかきやすい
・全身のだるさが気になる
・むくみやすい
・関節の腫れや痛みがある
漢方薬を服用する際は、医師や薬剤師に相談し、自分の体質や症状に合っているかどうか確認することが大切です。
以下の体質チェックからも、確認できます。
防已黄耆湯の飲み方
防已黄耆湯を服用する際は、用法用量を正確に把握し、適切なタイミングで飲むことが大切です。
防已黄耆湯を飲む際は、1日7.5gを3回に分けて服用してください。
服用するタイミングは、食前(食事の20〜30分前)もしくは食間(食事と食事の間2時間程度の空腹時)です。
用法用量は服用する方の症状や年齢、体重などによって変わるため、必ず医師の指示や添付文書に従って飲みましょう。[6]
防已黄耆湯の類似処方とその違い
防已黄耆湯と類似処方には異なる特徴があります。漢方薬の服用を検討している方は、以下の処方薬との相違点を把握し、上手に使い分けましょう。
防己黄耆湯と防風通聖散の違い
防已黄耆湯と防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、どちらも肥満症に効果があるとされる漢方薬ですが、体質や症状によって使い分けられます。
防己黄耆湯は、あまり体力がなく、色白でむくみがちな方に適している漢方薬です。一方の防風通聖散は、体力があり、太鼓腹(太鼓のように丸く膨らんだ腹)や高血圧、便秘などにお悩みの方に向いています。[1]
防風通聖散の効果や他の薬との併用についてさらに詳しく知りたい方は、コチラ▼の記事もお読みください。
防己黄耆湯と五苓散の違い
防己黄耆湯と五苓散(ごれいさん)はどちらもむくみの改善に用いられる漢方薬ですが、体質や症状によって使い分けられます。
五苓散は、体の水分代謝の異常を整えてくれる代表的な利水剤で、体力に関わらず服用できる漢方薬です。とくに全身にむくみがある方や、喉が渇いて尿量が少ない方、低気圧で頭痛やめまいが起こりやすい方に向いています。
五苓散の効果や他の薬との併用についてさらに詳しく知りたい方は、コチラ▼の記事もお読みください。
防己黄耆湯と越婢加朮湯の違い
防已黄耆湯と越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は、いずれも関節炎や皮膚炎などの改善が期待できる漢方薬ですが、体力の程度や症状によって使い分けられます。[2]
越婢加朮湯は比較的体力があり、筋肉の締まりが良く、口の乾きや尿量減少などの症状が強く出る方に向いています。[1]
防己黄耆湯と桂枝加朮附湯の違い
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)は、手足が冷えてこわばる方の関節痛や、神経痛に用いられる漢方薬です。
防已黄耆湯も関節痛の治療に用いられることがありますが、桂枝加朮附湯の場合は手足の冷えが強く、水ぶとりがない場合に適しています。[1]
防已黄耆湯の副作用や注意点
防已黄耆湯には、服用する際に知っておくべき副作用・注意点があります。薬を飲む前に以下の内容を押さえておきましょう。
防已黄耆湯を服用する際に注意すべき副作用
防已黄耆湯を服用すると、皮膚の赤みや発疹、かゆみなどが副作用であらわれる場合があります。[2]また、頻度不明で生じにくいとされているものの、以下の副作用についても把握しておくことが大切です。
服用後にいつもと異なる症状が出た場合は、医師の指示に従い、適切な処置を受けましょう。
間質性肺炎
発熱や咳、息苦しさをともなう呼吸困難や肺音の異常などがあらわれる場合があります。[2]
偽アルドステロン症・ミオパチー
手足の脱力感や痙れん、血圧上昇やむくみなどの症状があらわれる場合があります。[2]
肝機能障害・黄疸
血液検査でAST(GOT)・ALT(GPT)・AI-P・γ-GTPなどの項目の数値上昇をともなう肝機能障害や、皮膚や目の白い部分が黄色くなる黄疸があらわれる場合があります。[2]
防已黄耆湯の飲み合わせについて
防已黄耆湯を服用する際は、以下のような薬との併用に注意が必要です。[6]
・甘草が含まれる漢方製剤
(例)芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散など
・グリチルリチン酸を含む製剤
(例)グリチロン配合錠、強力ネオミノファーゲンシーなど
上記の薬と併用すると、甘草の摂取量が多くなることで、むくみや手足の脱力感、血圧上昇などが生じやすくなる可能性があります。
防已黄耆湯の服用について注意すべき人
以下に該当する方は、防已黄耆湯を服用する前にリスクや副作用を把握しておきましょう。
妊娠している女性
医師の診断のもと、治療効果がリスクを上回ると判断される場合にのみ服用してください。[6]
授乳中の女性
授乳中の方は、治療上の有益性や、母乳に薬の成分が移行する可能性などを考慮し、継続または中止を検討する必要があります。[6]
子どもや高齢者
防已黄耆湯を含む漢方薬を子どもが服用する際は、年齢や体重、症状などによって服用する量が変わる場合があることを知っておきましょう。
また、高齢者が服用する場合は、生理機能が低下しているため、効果が強めに出てしまうこともあります。防已黄耆湯を服用する場合は、添付文書や医師の指示に従って服用してください。[6]
防已黄耆湯の市販薬
ここからは、薬局やドラッグストアなどで購入できる、 防已黄耆湯の市販薬について紹介します。防已黄耆湯を試してみたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
ツムラ漢方20防已黄耆湯エキス顆粒
むくみや水ぶとり、関節の腫れや痛みを感じる方に
1日量として医療用漢方薬の1/2量の防已黄耆湯エキスを配合しており、2歳以上から服用できます。10日分から販売されているため、漢方薬を試しに使ってみたい方にもおすすめです。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度以下で、疲れやすく、汗のかきやすい傾向があるものの次の諸症:肥満にともなう関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症( 筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとり) |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 次の1回量を、1日2回食前に水もしくはお湯にて服用。
成人(15歳以上):1包 15歳未満7歳以上:2/3包 7歳未満4歳以上:1/2包 4歳未満2歳以上:1/3包 2歳未満:服用不可 |
内容量 | 20包/48包 |
防已黄耆湯エキス顆粒「クラシエ」
肥満や汗っかきで疲れやすい方に
1日量として医療用漢方薬の約1/2量の防已黄耆湯エキスを配合しており、2歳以上から服用可能です。
同じくクラシエからは、顆粒タイプが苦手な方でも飲みやすい錠剤タイプの「コッコアポ」シリーズも販売されています。
分類 | 第2類医薬品 |
---|---|
効能効果 | 体力中等度以下で、疲れやすく、汗のかきやすい傾向があるものの次の諸症:肥満にともなう関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症(筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとり) |
形状 | 顆粒剤 |
用法・用量 | 次の1回量を、1日3回食前または食間に水もしくは白湯にて服用。
成人(15歳以上):1包 15歳未満7歳以上:2/3包 7歳未満4歳以上:1/2包 4歳未満2歳以上:1/3包 2歳未満:服用不可 |
内容量 | 90包 |
防已黄耆湯の服用でよくある質問
これから防已黄耆湯の服用を検討する方に向けて、防已黄耆湯に関するよくある質問・回答をご紹介します。
防已黄耆湯の効果が出るまでどのくらいかかりますか?
医薬品の効果が出るまでの期間は、体質や症状によって異なります。
用法用量を守って1ヶ月程度服用しても症状が改善しない場合は中止し、医師や薬剤師、登録販売者に相談しましょう。
防已黄耆湯を飲んで痩せた人がいると聞きましたが本当ですか?
防已黄耆湯は、水ぶとり体質の方の肥満症に対してよく用いられる漢方薬です。体内の水分代謝を改善することで、むくみが取れてスッキリし、結果的に痩せる場合があります。
また、胃腸機能が高まることで食べたものがエネルギーに変換されやすくなり、代謝が上がって痩せやすくなる効果も期待できます。
防已黄耆湯の効果について詳しく知りたい場合は、以下の記事もお読みください。
防已黄耆湯は更年期に効きますか?
防已黄耆湯は更年期に対する効果は認められていません。
ただし、更年期にともなう肥満症を改善する可能性が報告されています。[7]
なお、更年期の治療に用いられる漢方薬としては、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などが挙げられます。
更年期症状に効果の期待できる漢方薬やその選び方について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
防已黄耆湯で血圧は下がりますか?
防己黄耆湯には、血圧を下げる効果はありません。
一方で、構成生薬のひとつである「甘草」に含まれる成分により、副作用として偽アルドステロン症を引き起こし、血圧が上がる可能性はあります。
上記のような副作用を防ぐためにも、医師の指示に従って正しく服用しましょう。
防已黄耆湯と防風通聖散はどちらが肥満症に効果がありますか?
どちらも肥満症に効果が期待できますが、向いている方の特徴が異なります。
体力が低下し、筋肉がやわらかく、水ぶとり体質で疲れやすい方には防已黄耆湯が適しているでしょう。一方で体力があり、皮下脂肪が多く便秘がちな方の場合は、防風通聖散のほうが適していると考えられます。[2]
用法用量を守って防已黄耆湯を服用しよう
防已黄耆湯は、比較的体力が低下し、色白で筋肉がやわらかく、水ぶとり体質の方に向いている漢方薬です。服用すると、肥満症やむくみ、多汗症や関節リウマチなどを改善する効果が期待できます。
防已黄耆湯を飲む際は医師や薬剤師の指示のもと、副作用や注意事項を踏まえ、用法用量に従って服用しましょう。
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【参考文献】
[1]高山宏世 編著 腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]
[2]伊藤美千穂 編著 エビデンス・ベース漢方薬活用ガイド第2版
[3]木村容子(2023)急激な体重増加や浮腫を目標に処方した防已黄耆湯が有用だった3例-肥満体型を認めない月経不順の女性-,日東雑誌Kampo MedVol.74No2,156-162
[4]phil漢方 No.26 2009 処方紹介・臨床のポイント防已黄耆湯(金匱要略)[5]山田ら(1994)変形性膝関節症に対する防巳黄耆湯の効果-「かえる腹」腹証の検討-,日本東洋医学雑誌第49巻第2号,423-429
[6]KEGG MEDICUS 医薬品情報 医療用医薬品:防已黄耆湯
[7]小林製薬ニュースリリース