補中益気湯はすごい漢方薬?多様な効果や合う人、副作用についても解説

ガッツポーズをする女性

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)には、気力を補い、体力や消化機能の低下を改善する作用があります。漢方独特の概念である補気剤の中でも最も使用されている処方の一つです。

食欲不振、病後の体力消耗や疲労感、風邪、多汗症…など様々な症状に効果が期待できる補中益気湯ですが、服用する際には、体質・症状に合っているかや、服用の注意点についてきちんと確認して取り入れることが大切です。

この記事では、補中益気湯の効果や副作用、よくある質問について薬剤師がくわしく解説します。漢方薬の服用について不安な方はYOJOの薬剤師にご相談ください。

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補中益気湯とは

漢方生薬

補中益気湯がどのような漢方薬なのかをお伝えするために、まずは漢方医学の考え方と補中益気湯の働きについて解説します。

漢方医学の「気・血・水」の考え方と補中益気湯の働き

気血水

漢方医学では、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」がバランス良く体内を巡ることで健康を維持できると考えられています。

気(き)…体や心を動かすエネルギーのことです。
血(けつ)…血液や血液に含まれる栄養をさします。
水(すい)…リンパ液、汗、涙、だ液など、血液以外の体液をさします。

このうち「気」が不足して元気がない状態を漢方医学では「気虚(ききょ)」と呼び、以下のような症状が現れます。

【気虚で起こりうる症状】
疲労感、食欲不振・消化不良、下痢・軟便、体力の低下、免疫力の低下、気分の落ち込み、日中の眠気、冷えなど

補中益気湯は気の不足を補い、低下した消化機能を改善し、健康な状態へと導く代表的な補気剤です。
補中益気湯の「中」は胃腸を指し、「益気」には「気」を増すという意味があります。補中益気湯は補気剤の中でも最も広く使われる処方であり、別名「医王湯(いおうとう)」とも呼ばれるほどです。

補中益気湯の成分

補中益気湯は10種類の生薬から構成されており、配合生薬と各生薬の主な作用は以下のとおりです。

・黄耆(おうぎ)…滋養・強壮作用や汗腺の締まりを良くする作用がある。
・人参(にんじん)…胃腸の働きを高める作用や滋養・強壮作用がある。
・甘草(かんぞう)…抗炎症作用や健胃作用などがある。
・当帰(とうき)…補血作用や体を温める作用がある。
・白朮(びゃくじゅつ)または蒼朮(そうじゅつ)…利水作用や胃腸の働きを高める作用がある。
・柴胡(さいこ)…精神安定作用や解熱作用がある。
・升麻(しょうま)…落ち込んだ気を上昇させる作用や清熱解毒作用がある。
・陳皮(ちんぴ)
…胃腸の働きを高める作用や、補った気を巡らせる作用がある。
・大棗(たいそう)…
胃腸の働きを高める作用や滋養・強壮作用がある。
・生姜(しょうきょう)…体を温める作用や胃腸の働きを高める作用がある。

補中益気湯が合う人は?

補中益気湯が合う人は、虚弱体質で元気がない人です。具体的には、

  • 体力がなく、胃腸が弱い人(食後に眠気が出やすい人)
  • 病後や術後、産後などで衰弱している人
  • 手足が重だるい感じがある人
  • 食欲不振で、食べ物の味がしない人
  • 目や声に力がない人

に向いています。

体質や症状に合った漢方薬の選択についてはYOJOの薬剤師に相談することもできます。

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補中益気湯の効果

医師と薬

補中益気湯は以下のような疾患・症状に効能効果が認められています。

食欲不振の改善

食欲不振とは、食べていないにもかかわらず食欲が出ない状態のことをいいます。消化器の疾患や心身の疲労、薬の副作用、ストレス、生活習慣の乱れなどが原因で起こりやすくなります。
補中益気湯には、「人参」「陳皮」「大棗」など胃腸の消化・吸収機能を整える複数の生薬が配合されており、食欲を高めて食欲不振を改善する効果が期待できます。

補中益気湯のほかにも、食欲不振に効果の期待できる漢方薬とその選び方についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

食欲不振に効果の期待できる漢方薬5選!おすすめの養生法も解説

病後・術後の体力消耗や倦怠感の回復

病後や術後は、体に加わった侵襲(ダメージ)により体力が大きく消耗されている状態です。例えばがん治療では、抗がん剤による貧血や食事量の減少、術後の長時間安静、がんによる影響などにより体力が著しく低下します。
補中益気湯は、がんの術後や化学療法・放射線療法に伴う倦怠感に対して、ランダム化比較試験(RCT) で高い有効性が証明されています。[1]

また、補中益気湯には免疫細胞の一種であるNK細胞や気道・腸管免疫系を活性化させる働きが報告されており、がんの再発予防や免疫力の維持にも用いられる場合があります。[1][2]

倦怠感や疲れに効果の期待できる漢方薬についてさらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事もお読みください。

倦怠感や疲れに効く漢方薬とは

慢性感冒(風邪)の改善

風邪の症状が進行すると病邪がからだの深部まで達し、食欲不振や吐き気などの胃腸障害や全身倦怠感などの症状を引き起こすことがあります。
補中益気湯は、風邪の初期症状ではなく、長引いて慢性化した状態の倦怠感や微熱、食欲不振などに対して効果が期待できます。

また補中益気湯には、栄養状態を高める作用に加えて、免疫系を高める作用や炎症反応を抑える作用があることから、COPD(慢性閉塞性肺疾患)における栄養障害の改善や、感冒およびその他の二次感染を予防する効果があります。 [1]

風邪に適した漢方薬は進行状態や体質によっても異なります。さらに詳しく知りたい方は、こちら▼の記事で詳しく解説しています。

風邪に効く漢方薬の選び方とは?咳のど鼻の症状に合わせた使い分けも解説

多汗症・寝汗の症状緩和

検査で異常が確認できないような原因不明の多汗症の場合には、漢方薬が使用されることがあります。漢方医学では、発汗量の異常な増加は気虚が原因とされています。

上述のとおり、気虚は胃腸機能が虚弱で生命エネルギーが低下した状態であり、補中益気湯で「気」を補うことで改善される場合があります。
また、補中益気湯に含まれる生薬「黄耆」には、汗腺の締まりを良くする作用があります。

多汗症の治療に効果の期待できる漢方薬について、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

補中益気湯のその他の臨床応用

二日酔いの女性

ここでは、直接の保険適用はないものの補中益気湯の特長から臨床応用される例についてお伝えします。

更年期症状の疲れや気力の低下に

補中益気湯は更年期障害に保険適用はありませんが、更年期症状に伴う疲労感や食欲不振、多汗症、気力の低下などの症状改善に補中益気湯が用いられる場合が多くあります。
女性の場合、更年期は女性ホルモンの減少と同時に、仕事や介護、育児などの社会環境の変化が起こりやすい時期ともいえます。心身の不調を隠してつい頑張り過ぎてしまい、疲労感や気力の低下を感じている場合に、補気剤と一つとして補中益気湯が処方される場合があります。[3]

抑うつや自律神経の乱れから起こる疲れ・食欲不振の改善に

抑うつ状態や自律神経が乱れたときに起こりやすい身体症状として、主に疲労・倦怠感や食欲不振があげられます。また、「目に力がない」「声に力がない」「食後に眠たくなる」といったうつ様症状は、漢方医学では「気虚」ととらえ、補中益気湯の使用目標でもあります。
補気剤である補中益気湯は、気力を補うとともに、食欲の改善を図り、病状の回復に必要な栄養摂取を促す効果が期待できます。[4]

うつや自律神経の乱れに効果の期待できる漢方薬についてはコチラ▼
【関連記事】うつ・気分の落ち込みに使用される漢方薬とは
【関連記事】自律神経を整える漢方を体質・症状別に紹介!おすすめケアも解説

アトピー性皮膚炎の症状改善に

アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、長い闘病により気虚に陥っていたり、もともと気虚体質であったり、甘いものの取りすぎや食生活の不摂生などで気虚を合併している方が少なくありません。[5]気虚の状態はアトピー症状を慢性化させる一因となるため、気虚を改善する処方として補中益気湯が用いられる場合があります。

例えば以下のような臨床報告があります。[6]

アトピー性皮膚炎に伴い気虚を呈した患者84例を二重盲検法により、無作為に補中益気湯40例とプラセボ群44例に割り付け、24週間投与した。7例の脱落を除いた補中益気湯群37例、プラセボ群40例で評価した結果、皮疹評価点数について補中益気湯群はプラセボ群に比較して改善傾向にあった。
外用剤の量は24週間後に有意に補中益気湯群で減少していた。

(参照)Kobayashi H et al.Evid.Based Complement.Alternat.Med,2010,367-373

男性不妊の補助的治療に

男性不妊に保険適用のある漢方薬はありませんが、生活習慣や食生活の改善に加えて漢方薬が補助的治療として用いられることがあります。その中でも、補中益気湯は、精子の運動率の低下を抑制したり、運動速度や直進性を改善したりする作用がin vitro試験で報告されています。[7]
また、以下の臨床研究では乏精子症・精子無力症に対して、精子濃度や精子運動率を改善する可能性が報告されています。[6]

「乏精子症または精子無力症のいずれかを認めた59例を無作為に投与群(補中益気湯3ヶ月以上投与)20例と対照群(非投与)39例に割り付けた。3ヶ月以降、投与群が対照群に対して精子運動率のみ有意に高かった。また、投与群では、精子濃度と精子運動率が有意に改善された。乏精子・精子無力症14例について、平均精子濃度、平均精子運動率、平均総精子数、平均総運動性精子数が有意に改善された。重症乏精子症9例では、平均精子濃度、平均精子運動率、平均総精子数が有意に改善された。」
(参照:李泙 他, 男性不妊における補中益気湯の臨床効果について,産婦の進歩,1996,48,406-410

補中益気湯の効果を正しく引き出すためには、体質や症状に合っていることが大切です。漢方薬の選び方に悩まれている場合は、YOJOの薬剤師にも相談できます。

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補中益気湯の飲み方のポイント

薬を飲む女性

補中益気湯は定められた量を1日2~3回に分けて、水または白湯で服用します。
ただし、用法用量は商品や服用者の症状、年齢・体重などによっても異なるため、必ず医師の指導や添付文書の指示に従って服用しましょう。

また服用するタイミングは食前または食間です。食前とは食事の20~30分前、食間とは食事と食事の間2時間くらいの空腹時を指します。

補中益気湯の副作用と飲む時の注意点

注意

ここでは、補中益気湯を飲む際の注意点についてお伝えします。

補中益気湯の注意すべき副作用

補中益気湯の副作用には、以下のものが報告されています。 [7]
ただし、全て頻度不明なので、起こりにくい副作用と考えられます。

過敏症 皮膚のかゆみ、発疹・発赤など
消化器症状 吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感

過敏症の副作用が出た場合は、すぐに漢方薬の服用を中止し医療機関を受診しましょう。消化器症状が出た場合には、服用のタイミングを食前から食後に変更して様子を見る、それでも症状が変わらない場合は漢方薬が合っていない可能性が考えられるため、服用を中止して医療機関を受診しましょう。

また、重大な副作用としては以下のような症状も報告されています。

間質性肺炎 軽い運動をするだけで、息切れ、空咳、発熱などの症状がみられる。さらに、症状は急にあらわれたり、持続したりする。
偽アルドステロン症・ミオパチー 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
肝機能障害 発赤、かゆみ、皮膚・白目が黄色くなる黄疸、褐色尿、全身倦怠感、食欲不振、血液検査でASTやALTγ-GTPなどの著しい上昇などがみられる場合がある。

気になる症状があれば、すぐに医療機関を受診して検査をすることが大切です。

補中益気湯の飲み合わせについて

補中益気湯は他の医薬品との飲み合わせで、禁忌となる医薬品はありません。
ただし、補中益気湯には「甘草」の生薬が含まれており、他の漢方薬と長期併用する場合には注意が必要です。

補中益気湯の飲み合わせについて、さらに詳しく知りたい方はこちら▼の記事もお読みください。

補中益気湯の飲み合わせで禁忌は?6つの医薬品との飲み合わせや効果についても解説

妊娠・授乳中の服用について

補中益気湯には、妊娠中に慎重投与となる生薬は含まれていません。[8
そのため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ、主治医の指示のもとで妊娠中に服用することは可能です。
授乳中に関しても特に問題なく服用できますが、母乳への移行が心配な場合は、授乳直後に漢方薬を服用するようにしましょう。

補中益気湯の市販薬

ドラッグストアの薬剤師

補中益気湯は市販でも購入できる漢方薬です。薬局やドラッグストアで販売されている補中益気湯の商品には、例えば以下のようなものがあります。

ツムラ漢方41補中益気湯エキス顆粒

ツムラ漢方41補中益気湯エキス顆粒

補中益気湯エキスを有効成分とした漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の1/2量の補中益気湯エキスを配合しています。2歳以上から服用できます。

分類 第2類医薬品
効能効果 体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
形状 顆粒剤
用法・用量 1日2回食前または食間に水またはお湯にて服用。
成人(15歳以上):1回1包
15歳未満7歳以上:1回2/3包
7歳未満4歳以上:1回1/2包
4歳未満2歳以上:1回1/3包
内容量 10包/48包

補中益気湯エキス顆粒クラシエ [45包]

補中益気湯エキス顆粒クラシエ

補中益気湯エキスを有効成分とした漢方商品です。1日量として医療用漢方薬の約1/2量の補中益気湯エキスを配合しています。4歳以上から服用できます。

分類 第2類医薬品
効能効果 体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
形状 顆粒剤
用法・用量 1日3回食前または食間に水または白湯にて服用。
成人(15歳以上):1回1包
15歳未満7歳以上:1回2/3包
7歳未満4歳以上:1回1/2包
内容量 45包

補中益気湯の服用でよくある質問

Q&A

ここでは、補中益気湯の服用でよくある質問とその回答について、まとめてお伝えします。

補中益気湯はどれくらいで効くの?

補中益気湯は、症状によっても効果の感じ方が異なります。
感冒症状の倦怠感や食欲不振に対しては服用して数日から1週間程度で効果を確認できる場合もあります。一方で、虚弱体質などの体質改善効果を期待する場合には、1か月から数か月間、長期的に継続して服用する必要があるでしょう。

補中益気湯は長期で服用しても問題ない?

補中益気湯は基本的に長期服用しても問題ありません。
ただし、服用後に気になる症状が発現した場合には、医師や薬剤師に早めに相談しましょう。

補中益気湯が合わない・効果がない場合は?

1か月以上服用しても症状改善の兆しが見られない場合は、体質や症状に合っていない可能性があります。いったん服用を中止して、主治医や薬剤師または登録販売者に相談しましょう。

補中益気湯が合わない場合、例えば以下のように、体質や症状に合わせて他の漢方薬が検討されることもあります。 

・虚弱体質であるが、とくに頭部の寝汗や不眠、動悸などの症状が気になる場合
⇒柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
・疲れや発汗異常などの症状があるが、とくに不安やイライラなどの精神症状が気になる場合
加味逍遥散(かみしょうようさん)
・虚弱体質で汗が多く、水太り・むくみ傾向がある場合
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)

漢方薬の服用や、体質・症状に合った漢方薬の選び方について悩まれている方は、YOJOの薬剤師に相談することもできます。

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【参考文献】
[1]新井一郎著 元雄良治監修 漢方薬ストロング・エビデンス
[2]山田陽城, 漢方と化学療法, 日本化学療法学会雑誌第52巻第10号
[3]漢方スクエアVol20.No14 漢方処方の使い分け 更年期障害
[4]北島潤一郎(2011), 過重労働により発症したうつ病患者に対する補中益気湯の使用経験,Phil漢方No34,16-17
[5]柳原茂人(2014),補中益気湯が医王湯たる由縁,Phil漢方 No.47
[6]伊藤美千穂編著 エビデンス・ベース 漢方薬活用ガイド
[7]ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用)
[8]公益社団法人福岡県薬剤師会 妊婦への投与に注意が必要な漢方薬